Amber'sが配信EP「AUTHENTIC」でメジャーデビューを果たした。
Amber'sは、ハイトーンボイスが特徴的なボーカリスト・豊島こうき(Vo, G)、ギタリスト兼トラックメイカーの福島拓人(G, Programming)による2人組ユニット。「Question」「Desire -欲情本能-」というドラマ主題歌2曲で脚光を浴びた彼らの1st EP「AUTHENTIC」は、生々しい感情を刻んだ歌、ジャンルレスな音楽性がたっぷり込められた作品となった。音楽ナタリーは、Amber'sの2人にインタビューし、ユニット結成の経緯やこれまでの活動、「AUTHENTIC」の制作秘話などについて聞いた。
取材・文 / 森朋之
歌を通して人生や価値観が表現されている
──まずはお二人で活動を始めた経緯を教えてもらえますか?
福島拓人(G, Programming) 僕が「バンドを組みたい」と思って、メンバーを探していた時期があったんですよ。そんなとき、たまたまSNSでこうきくんの弾き語り動画を見て、「すごくきれいな声だな」と思って。次の日にこうきくんのライブがあったので、渋谷のライブハウスに観に行ったんです。ステージを観たら、ものすごいオーラで、その場で「一緒にバンドやりましょう」と声をかけました。でも、しばらく連絡が戻ってこなくて(笑)。
豊島こうき(Vo, G) 返事をしたのは2カ月後くらいですね(笑)。その頃は人生最大のモテ期というか、いろんなバンドに誘ってもらっていたんですよ。声をかけてくれた人と会って、スタジオに入っているうちに2カ月経ってしまって。
──豊島さんもバンドで歌いたかったんですか?
豊島 そうなんですよね。それまでは1人でSNSにカバー動画などをアップしていました。それも好きだったんですけど、人と一緒に音楽をやってみたい、表現してみたいという気持ちもあったんですよ。そんな中、声をかけてくれた人で一番フィーリングが合ったのが拓人だったんです。
福島 なんとか勝ち抜きました(笑)。僕としては、やっぱりライブを観たことが大きくて。その後、こうきくんといろんな話をする中で、歌を通して人生や価値観が表現されているんだとわかってきたんです。
──2人でかなり深い話もした?
豊島 そうですね。ただ、初めてスタジオに入ったときはひたすら映画の話をしてたんですよ。拓人はもちろんギターを持ってきてたんですけど、結局一度もケースを開けず(笑)。2時間ずっとしゃべって、「じゃあ、一緒にやりましょう」ということになりました。
福島 その頃、2人ともSF映画にハマってて。
豊島 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」について熱く語り合ったり(笑)。
福島 あとは「インターステラー」とか。現実では起こり得ない話が好きなんですよね、2人とも。そこで気が合ったのもよかったのかな、と。
──なるほど。音楽的なルーツに関しては共通する部分もあるんですか?
豊島 けっこう違いますね。僕はばあちゃんの影響で、小さい頃から昭和の歌謡曲やフォークを聴きながら育ってきて。一番好きなのはグレープ(さだまさし、吉田正美によるフォークデュオ)ですね。弾き語りしていたときも古い曲が多くて、ザ・フォーク・クルセダーズ(加藤和彦、北山修を中心としたフォークグループ)とかをカバーしてました。
──それは渋いですね。
豊島 その頃のカバー動画はもう消しちゃったんですけどね。暗い表情で、歌いたい曲を歌っていただけなので(笑)。ただ、好きなことを愚直にやるというのは、その頃から変わってないかもしれないです。拓人はまったく逆で、洋楽をよく聴いていたみたいです。
福島 父の影響で、1980年代に流行った洋楽を車の中で聴いていたんですよ。Earth, Wind & Fireとか、レイ・パーカー・ジュニアとか。ギターを始めてからも、周りがハードロックやメロコアをやっている中、「クリーントーンの音が一番でしょ!」みたいな感じで(笑)。最近はそういう音が流行ってますけどね。今でもメタルっぽい速弾きよりも、クリーンな音でカッティングするほうが好きです。一番好きなギタリストは、スティーヴィー・レイ・ヴォーンですね。
「こういう曲を作りたい」というビジョンがいつも一致している
──Amber'sとして最初に取り組んだのは、オリジナル楽曲の制作ですか?
豊島 そうですね。一緒にやり始めた当初、拓人は大学生で。僕はひたすらバイトしてたんですけど、空き時間に僕の家に来てもらって、ひたすら曲を作って。
福島 うん。浅草のこうきくんの家や朝までやってる喫茶店で「こういう曲を作ろうよ」と話して、デモ音源を作ってました。そのまま僕は大学、こうきくんはバイトに行って、終わったらまた集まって。
豊島 「学生街の喫茶店」(フォークグループ・ガロの楽曲)の世界ですね(笑)。
──ホントですね(笑)。最近はデータのやりとりをして曲を作る人も多いですが、2人は実際に顔を合わせて、話しながら作っていたんですね。
豊島 はい。打ち込みで作っていたんですけど、なぜか直接データの交換をしてました。最近ですね、「会わなくてもやれるんだ」って気付いたのは(笑)。
福島 いい期間だったし、必要だったと思いますけどね。集まって話すことで、お互いのやりたいことや意図をしっかり理解できたので。
──曲作りの際には、豊島さんの歌声を生かすことを意識していますか?
福島 そうですね。あとは自分の好きな要素を入れることも意識しています。前にやっていたバンドは80年代の要素をうまく落とし込めなかったので、Amber'sではそこもしっかりやりたいし、そういったことに挑戦することで、こうきくんの歌との化学反応も起こると思っているので。最初はかなり試行錯誤してましたけどね。
豊島 最初は人に聞かせられないようなとんでもない曲もありました(笑)。ただ、うまくいかないこともあったけど、「こういう曲を作りたい」というビジョンはいつも一致していて。
福島 うん。2人で作ったデモ音源は500本くらいあるんですけど、1から100番台くらいまでは、「今は聴けないな」というものもあって。でも、それでいいと思うんですよ。例えばこれからデモ音源がもっと増えたときに「200番台、300番台は聴いてられないな」となるだろうし。そうやって更新し続けるのが大事だと思います。
こういう人たちがAmber'sの音楽を聴いてくれてるんだな
──2020年3月に初のオリジナルアルバム「VOSTOK」をタワーレコード限定でリリースされましたが、今振り返ってみてお二人にとってどんなアルバムですか?
福島 自分たちが好きな楽曲を詰め込んだ作品ですね。ジャンルを決めずに、とにかく「これがカッコいい」「これが好きだ」というものをどんどん作って、レコーディングして。盤を作るのが初めてだったので、その分自分たちの思いも入ってます。「好きなようにやって、どれだけ評価してもらえるか?」ということを考えて作りました。
豊島 実際、聴いてくれた人によって好きな曲がかなりバラバラだったんですよ。
福島 ただ、せっかく初めてのCDを出したのに、それと同時にコロナが流行り始めたから、直接リスナーとコミュニケーションを取る機会がなくて。
豊島 アルバムをリリースしたあとに全国ツアーを予定していたんですけど、中止になってしまったんです。世の中的にもどうなるかまったくわからなかったし、ライブができない中、自分たちの曲をどう届けようかいろいろ考えて。SNSで発信しつつ、制作を続けていました。
──2021年に「カラフラブル~ジェンダーレス男子に愛されています。~」の主題歌「Question」、今年は「明日、私は誰かのカノジョ」の主題歌「Desire -欲情本能-」と、2作のドラマ主題歌が話題を集めました。リスナーが増えるきっかけにもなったのでは?
豊島 それはすごく感じましたね。2020年の春以降は基本的にSNSでしかリスナーとコミュニケーションを取れなかったし、どんな人が自分たちの曲を聴いてくれているかもわからなかったんですけど、「Desire -欲情本能-」のインストアイベントをタワーレコードでやらせてもらったとき、「こういう人たちがAmber'sの音楽を聴いてくれてるんだな」って初めて実感できたというか。
福島 「Desire -欲情本能-」をきっかけに自分たちのことを知ってくれて、ほかの曲を好きになってもらえることも多くて。
豊島 うん。「明日カノ」は新宿の歌舞伎町が舞台の1つなんですけど、僕は新宿に行ったことがほとんどなくて。どういう場所か知りたいと思って、2021年の大みそかに行ってみたんです。リリースしたあとに歌舞伎町で路上ライブもやりました。
福島 夜中にね。
豊島 「『明日カノ』の主題歌を歌ってます」と言ったら、人が集まってくれたんですよ。ホストの皆さんも観ている中、歌わせてもらいました。
──それは貴重な体験ですね。SNSなどでは「最初は女の子が歌ってるのかと思った」という声もあります。
福島 それ、よく言われるんですよ(笑)。TikTokやTwitterでも、こうきくんを女性だと思い込んでコメントしている方がいて。僕がロン毛なので、女の子2人組だと思われることもあります。全然嫌ではないんですけどね。
豊島 まずは曲を聴いてもらえるだけでうれしいので。僕らも楽しみながら皆さんのコメントを読ませてもらってます。
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ただのイイ子では絶対に負ける