課題曲のような「プレイメーカー」
──では、楽曲について聞かせてください。「プレイメーカー」は軽やかに聴ける曲ですが、リズムが独特で歌うのが難しそうですよね。
大野 鋭いですね。おっしゃる通り、けっこうサラッと聴けるけど、歌ってみて初めて難しいとわかるタイプの楽曲なんですよ。「Aメロ、カッコいいな」と思いながら聴いていると、Bメロで「あ、こう来るか!」みたいな。だから音楽の専門学校やボーカリストの養成所で課題曲としてぜひ使っていただきたいですね。
ITSUKI 確かに! 課題曲にいいですよね。
大野 いいですよ。子音をしっかり立てて、リズムでグルーヴを作って……。
NARITO レンジも広いですしね。曲をいただいたときに1人で一通り歌ってみたんですけど、そこで改めて「めっちゃムズいな」と思いました。いつもは僕とITSUKIの2人で歌っているので、曲を初めて聴くときに「こういう歌割りになるんだろうな」というビジョンがパッと頭の中に浮かぶんですよ。だけど今回は雄大くんと3人で歌うということでまったく想像できず、「俺はどこを歌うんだろう?」というところから始まって。
ITSUKI そう考えると僕たちにとっても課題曲のような作品だったし、新鮮な気持ちで歌っていたなと思います。
──歌詞の言葉数の多さも特徴的な曲ですよね。縦のラインを機械的にはめるのではなく、あえてレイドバック気味に歌っている箇所もあるので、R&B的なノリも感じられます。
ITSUKI 「こぼれた波が」からのブリッジはNARITOが主旋律を歌っているんですけど、レコーディングのとき、20回くらい噛んでたよね(笑)。
NARITO あれは噛むよ!(笑) 難しかった! ブリッジは最初、オンタイムで歌っていたんですよ。だけど「ちょっと忙しく聞こえるね」という話になって、レコーディングに立ち会ってくれたRa-Uさん(「プレイメーカー」の作詞作曲者)の提案で「君が見てさえいてくれれば」の部分だけリズムをちょっと遅めにとることにしたんです。僕自身これで正解なのか正直わからなかったんですけど、Ra-Uさんやプロデューサーさん、周りのスタッフさんやITSUKIによると、これがいいらしくて。そうだよね?
ITSUKI うん、そうだね。洋楽チックなノリになるというのもそうですけど、歌詞にメッセージが込められているので、言葉がしっかり聞こえるほうがいいかなということで、このテイクが採用されました。
──歌割りはどのように決めたんですか?
ITSUKI 実際に歌ってみて「ここはこの人がいいんじゃないか」というふうにすり合わせをしていきました。Bメロは難しかったので、雄大くんにお願いして。
大野 Bメロがダントツで難しいよね。2番Bメロなんて、700テイクくらいは録ったんじゃないかな?
NARITO 絶対嘘じゃないですか(笑)。
大野 (笑)。でも15テイクくらいは録った気がする。全部地声で引っ張ったり、ほとんどミックスで行ったり、ファルセットを多めに使ってみたり……いろいろなバージョンを試しましたね。テイク数を重ねていくとどんどんストレスが溜まっていくものなんですけど、ここはずっと楽しみながら歌えたし、「どっちがいいかな?」とワクワクしながら回数を重ねていった記憶があります。
ITSUKI 特に2番のBメロは、言葉が詰まっているだけではなくて歌詞のメッセージ性も強いんですけど、それをしっかり伝えるような声を出すのが、僕らにはどうしても難しくて……。それもあって雄大くんに歌ってもらったんですけど、音源を聴いたときは「さすがだな」「自分たちじゃできないな」と思いましたし、ここに3人でやる意味があるんだなとも思いましたね。
──2人で歌うのと3人で歌うのではやっぱり全然違いましたか。
NARITO 全然違いましたね。すごく当たり前のことですけど、今まで2人で歌ってきた中にとてつもなく大きくて新しい成分が入ってきたので……新鮮でしたし、歌っていてすごく楽しかったです。all at onceの新しい面を見せられる曲になったんじゃないかと、できあがった音源を聴いて思いました。all at onceでは普段ITSUKIにコーラスを任せることが多いんですよ。だけどこの曲では僕がちょっとおいしいところでコーラスをかけてもらっているし、しかも雄大くんにハモるという貴重な経験をさせてもらえたので面白かったですね。
ITSUKI この2人でずっと歌ってきたので、僕の体にはNARITOの癖や空気感、グルーヴが自然と染み付いちゃっているんですよ。そのうえで、雄大くんと声を合わせると「あ、全然違う」と感じるので、少しずつ調整していって。雄大くんのグルーヴ感やアタックの付け方、息の漏れ具合などをしっかり聴く必要があるんですが、その中で、技術の違いを改めて感じたというか。雄大くんは、きっと僕たちが考えている何倍ものことを緻密に練りながらレコーディングに臨んでいるんだろうなという気付きがありましたね。
気持ち悪いところを消しゴムで消すタイプ
──大野さんは、all at onceの楽曲に参加してみていかがでしたか?
大野 俺にとってもすごく新鮮な経験でした。もう10年近く相方の(花村)想太と一緒に歌ってますけど、普段とはまったく違う環境に入っていくことで、自分の声のバランスをより明確に見ることができたというか。できあがった音源を聴きながら感じたこともたくさんあって、勉強になりましたね。
ITSUKI 雄大くんは太い声でハイトーンを出すことができる。それは僕らには出せない声質だし、僕らと雄大くんの一番大きな違いなんだろうなと改めて思ったんです。こうやってしゃべっているときの声にしても、僕らと雄大くんでは胴の鳴り方が全然違うし、やっぱり土台が違うんだなと。
大野 確かに想太からも「このキーをこの太さで出せるのはあり得ない」と言われることがあるけど、自分ではそんなに声が太いと思わないんだよね。
ITSUKI え、そうなんですか?
大野 うん。まったく思ってないよ。
NARITO そうなんですね。ハイトーンを出しているときって、地声で出しているイメージですか? それともファルセットを出しているイメージですか?
大野 両方ある。でもミックスで声を作っているときのほうが、太いと言われることが多い気がするな。例えば「CITRUS」のサビはミックスなんだけど、ファルセットと同じくらい楽に出してる。ミックスって大きく分けると、スティーヴィー・ワンダーのようにめちゃくちゃ鳴るタイプと、EXILE ATSUSHIさんのように優しくてファルセットに近いタイプの2種類があると思うんだけど、俺はどちらかというとスティーヴィー・ワンダー寄りでATSUSHIさんのような声は出せない。それは声帯の作りもあるだろうし……あと、18歳くらいの頃にチェストと喉声だけで歌っていた時期があったから、チェストが自然と使えているというのもあるかもしれないな。
ITSUKI なるほど。
NARITO 今とは全然違う歌い方だったということですよね。
大野 そうそう。あの頃の俺はそれがカッコいいと思っていたんだろうね。今の俺からすると本当に気持ち悪い歌い方なんだけど(笑)。
──大野さんは、どんなふうに考えて歌い方を変えていったんですか? 例えば「自分のボーカリストとしての個性はこれだ」「ここを伸ばせばいいんだ」と気付いたタイミングがあったんでしょうか?
大野 俺はどちらかというと、いいところを伸ばすというよりも、気持ち悪いところを消しゴムで消していくという考え方なんですよね。自分の頭の中に「こういうふうに歌えたらカッコいいな」という理想があるんです。だけど、それと自分の歌を比べてみると「ここが気持ち悪いな」と思う部分がある。そういうものを1つひとつ消していくための作業をただ続けているという感覚です。そうすると、やがて気持ち悪さがなくなっていくんですよ。「なくなったな」と思えたのは、ほんの数年前のことなんですけどね。
ITSUKI 今、雄大くんの話を聴いて「なるほどな」と思いましたし、雄大くんの方法で身に付く技術もあるんだろうなと思いました。僕らはまだその領域までは行けていなくて、自分たちに足りないものがなんなのかを考えているところではありますけど。
NARITO そうだね。僕らの場合、今はとにかくインプットを通じて得られるものがすごく多いんですよ。先週ボイトレで新しい発声を学んで「へえ!」と感心したくらい、僕らにはまだ知らないことがたくさんあるので。たぶんしばらくはインプットの日々が続くんじゃないかと思います。今回のコラボもそのひとつになったし、雄大くんの背中を見て本当にたくさんのことを勉強させてもらいました。
10年後のall at onceが楽しみ
──大野さんから見て、all at onceの魅力はどんなところにあると思いますか?
大野 バランスが逆にいいのかなと思います。
──“逆に”ですか。
大野 はい。ITSUKIはド真面目で、NARITOはちょっとふざけてるじゃないですか。
NARITO ちょっとというか、だいぶふざけてるかもしれないです(笑)。
大野 そうだよね(笑)。そういうふうに性格も真逆だけど、2人とも真面目だと面白くないし、2人ともふざけていたら成り立たないし、真逆だからこそバランスのとれている2人なんだと思います。それが歌にも表れている気がしますね。
ITSUKI 「2人で一緒に歌ったときに一番バランスよく聞こえるのがベストだよね」という話はNARITOともよくしているので、そう言っていただけるのは本当にうれしいです。
──ではそのうえで、「もっとこうなっていったらさらにいいデュオになりそう」という観点で何か思うことはありますか?
大野 声質の違う2人だけどニュアンスは似ている部分があるから、今後そこが寄り添っていくのではなく、離れていったほうがもっと面白くなりそうだなとも思います。
──それぞれの個性がより際立っていくといいということでしょうか。
大野 そうですね。歌声が寄っていってしまうと2人組である意味がなくなってしまうので、誰が聴いても「このパートは絶対こっちでしょ」と明確にわかるくらいになってほしいなと。「相方の苦手なことを自分がどれだけ補えるか」とナチュラルに考えられるようになったら、よりよくなっていくんじゃないかと思います。
ITSUKI 勉強になります。
大野 まあ、それは無理に作るものではなく、自然に確立されていくものですけどね。例えばDa-iCEのライブのMCでは俺や想太がボケることが多くて、ツッコミは(工藤)大輝くんと想太、(和田)颯がそれを見守っていて、(岩岡)徹くんがたまにデッカいボケを入れる……という流れが確立されているんですけど、誰も何も意識せずそうなっているというか、染み付いちゃっているような感じなんですよ。同じように、2人の間でも自然とそういう役割が見つかっていくんじゃないかな。
NARITO 確かにそうですね。
大野 2人ってまだ若いんだよね? 俺、21歳のときに「ハモネプ」(アカペラバトル企画)に出てて。
NARITO 当時めっちゃ観てました!
大野 当時の自分はあの歌い方が正解だと思っていたんだけど、今はあの頃の歌い方を気持ち悪いと思うし、歌い方がまったく違うんですよ。俺はそのくらい10年間で変化したので、2人がここからの10年でどんなふうに変わっていくのか、10年後の2人がどんな歌を歌っているのか、すごく楽しみだなと思います。自分自身の正解に対してとにかくまっすぐに進んでいってほしいですね。
──最後に、ITSUKIさんとNARITOさん、大野さんに伝えたいことや聞いてみたいことはありますか?
NARITO めちゃくちゃありますけど、まずは「今回一緒に歌ってくださってありがとうございました。勉強させていただきました」と伝えたいです。聞いてみたいことは……「もう1度コラボがしたい」と言ったら引き受けてもらえますか?
大野 それはもちろん!
ITSUKI ありがとうございます! 僕たちがもっと売れて、大きいステージに立てるようになったらまた一緒にやらせてください。2度目のコラボを実現できるように、この曲をきっかけにどんどんがんばっていけたらと思います。
NARITO 僕からは「またごはんに連れて行ってください」と伝えたいなと。
大野 行こう、行こう!
NARITO 10月にイベントに出演したときに一緒にこの曲を披露させてもらって、11月3日もリリースイベントでご一緒できることになったんです。そういう機会の中で、雄大くんの雄姿を見て僕もがんばりたいなと思っています。大きい背中をこれからも追わせていただきます!
ITSUKI 雄大くんやDa-iCEさんの現状に納得せず、どんどん上を目指していく姿勢を見るともちろん勉強になるんですけど、同時に「自分たちはまだまだ甘いな」とも感じるんですよ。僕らはまだまだ足りていないことが多いし、やらなきゃいけないことが本当にたくさんある。だからこそこの「プレイメーカー」という曲は、今後ライブなどで歌っていく中でもっと磨いていけそうだなと思っています。
──大野さんの言っていた通り、ITSUKIさんは真面目ですね。
NARITO 僕ら本当に真逆なんですよ。「ごはん連れて行ってください」で締めるやつとは大違いですよね(笑)。
大野 じゃあ今度ごはんに行くときは、ITSUKIのことは誘わなくていいのかな?(笑)
ITSUKI それは嫌です!(笑) 3人で行きましょう!
all at onceライブ情報
all at once acoustic live tour 2022 ~プレイメーカー~
- 2022年11月5日(土)東京都 赤羽ReNY alpha
- 2022年11月12日(土)大阪府 BananaHall
プロフィール
all at once(オールアットワンス)
ITSUKIとNARITOによるボーカルデュオ。2020年に本格始動し、テレビアニメ「名探偵コナン」のオープニングテーマとエンディングテーマを同時に担当した。2021年10月に1stアルバム「ALL AT ONCE」を発表。2022年10月に大野雄大(Da-iCE)とコラボレーションした「名探偵コナン」のエンディングテーマ「プレイメーカー feat.大野雄大(from Da-iCE)」を配信し、11月にCDでリリース。同年11月に東京と大阪でアコースティックライブ「all at once acoustic live tour 2022 ~プレイメーカー~」を行う。
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大野雄大(オオノユウダイ)
Da-iCEのボーカル兼パフォーマー。2019年4月にアルバム「この道の先に」でソロデビューし、2020年11月に配信EP「UNPLUGGED EP」をリリースするなど個人活動も行っている。2022年10月からはテレビアニメ「名探偵コナン」のエンディングテーマ「プレイメーカー feat.大野雄大(from Da-iCE)」でall at onceとコラボレーションしている。
大野雄大 ゆーだい (Da-iCE )(腹筋学園) (@Da_iCE_UDAI) | Twitter