alcott|貴田宰司が描く“あまのじゃくし”の奮闘記

カッコ付けるのをやめた

──なぜ今作は、自分たちにフィーチャーした作品にしようと思ったのですか?

「LOVE LETTERS」では自分たちの曲は広まったけど、ストーリーの力を借りた発信だったので、実際には自分たち自身を知ってもらえていない感覚があって。映像にも僕らはあんまり出てこないし。だからとにかくみんなにもっとalcottというバンドを知ってもらいたいと思って。

──実際にアルバムの収録曲からは以前の作品にも増して人間らしさが感じられると思いました。

貴田宰司(Vo, G)

カッコ付けるのをやめたんです。以前は「モテたい」とか「みんなに知ってもらうためにカッコいい自分でいないといけない」とかそういう考え方があったんですけど、それってただの背伸びだったんですよね。自分自身をさらけ出したほうが人と人はわかり合えるんじゃないかと思って、ありのままを見せたいと思って作った11曲な気がします。

──タイトルも「あまのじゃく」ではなくて「あまのじゃくし」とするところが貴田さんらしいですね。

ただの「天邪鬼」じゃ面白くないなと思って。おたまじゃくしみたいに、何かの子供であって、成長していく姿を歌えたらと思って「あまのじゃくし」にしました。

──アルバムの発売決定時に発表したコメントでは、ご自身を「あまのじゃくし」とおっしゃっていましたね(参照:alcott、何度だって恋したくなるニューアルバム「あまのじゃくし」発売)。

はい、カッコ付けたいのにカッコ付けられないとか、不器用が先行してしまって素直になれないとか、そういう自分は本当に天邪鬼だなと思って。男女関係で言うと会いたいのに「会いたい」って言えないとか。

──まさに「告白記」に出てくる男の子のような。

ああ確かに、勇気がないから素直になれないというのもあるのかもしれないですね。

──タイトル曲の「あまのじゃくし」では歌詞でダメな自分を歌っているんですけど、曲調はエッジが効いていて、そのギャップが面白いですよね。

そうなんですよ。基本的に僕たちはそこでなんとか帳尻を合わせているんです(笑)。「スーパーノヴァ」とかもそうで。この曲も歌詞だけ読むとすごく悲しくて憂鬱なんですけど、メロディや鳴ってる音がキラキラしてる。僕たちは音楽で、自分や聴いてる人の背中を押したいという気持ちが根底にあるから、いい方向に向かせたいんです。おたまじゃくしがカエルになるように、今のままでは終わりたくない。だから曲を作るときにも、どこかに光を感じられる要素を入れるようにしているんです。

──あまのじゃくしが奮闘する姿に、自身を重ねるリスナーも多いと思います。

誰しも日々、つらいことが多いと思うんです。そこは僕もみんなと変わらないから、寄り添える部分だと思っていて。自分自身を出したくてこの作品を作りましたけど、それはメンバーもチームもみんなそうで、僕らは不器用なやつらの集まりなんですよね。だから同じような人がalcottを聴いて、共通点を見つけて好きになってくれたらいいなと思います。

貴田宰司(Vo, G)
貴田宰司(Vo, G)

ファンがリード曲に選んだ「FUN」

──また今作でalcottは、既発曲を除いた新曲6曲の試聴音源を公開して、ファンにリード曲を決めてもらうというクラウドファンディングの企画を実施していました。

自分で言うのもアレですけど、いい曲がそろいすぎてリード曲が本当に決まらなかったんです。メンバーやスタッフはもちろん、家族や事務所のお偉いさんにも意見を聞いたんですが、見事にバラバラで。「じゃあ僕たちのことを一番知ってる人に聞こうよ」ということでファンに聞くことになったんです。

──その結果、10曲目の「FUN」がリード曲に決まりました。

自分たちの発想になかったぶん、やってよかったなと思いましたね。応援してくれるみんなを信じようと思いました。

──この曲ができた背景を教えてください。

女性同士の友情をテーマに書きました。僕のイメージだと、女性ってうわべでも人と付き合えることが多いような気がしていて、そのぶん友情が芽生えるとそれは本物の友情なんじゃないかなと思うんです。だから本当の意味で仲良くなれた2人の友情を描きたかった。「周りの人がなんと言おうと私がそばにいるよ」「どんなに非難を浴びせられていたとしても、その人の役に立ちたい」という気持ち。それは結局、自分が親友へ向けた気持ちでもあるし、メンバーへ向けた気持ちでもあるなと。そしてファンにとっては僕らがそういう存在であれたらすごくいいし、ファンに力をもらっているという意味では僕らにとってファンがそういう存在なのかもしれない。

──そう考えると、この曲をファンがリード曲に選んだことにグッときますね。

すごいですよね。今考えるとこの曲じゃなかったら嫌だった。ライブで最後に歌いたいなー。

──シンガロングパートがあるからか、ライブでの景色が目に浮かびます。

「FRIENDS」のパートはみんなの声を借りたいですね。そう考えると本当にファンに向けた曲でもありますね。

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「与太郎」は悪ガキ