売れそうな曲かは考えなくていい

──AKASHIC GROOVEとして打ち出していく音楽性については、どのように方針を固めていったんでしょう？

UD　そもそも“1人ユニット”という形態でいくことにしたのは、イメージを固定せずにいろんなアプローチがしやすい状態にしたかったからなんです。もちろん、ゆん名義でのライバー活動と明確に差別化を図る意味もあるんですけども。ユニットとして方向性をある程度統一するやり方もあると思うんですが、悪い言い方をすると、何が世間に引っかかるかわからないですから（笑）、あらゆる方向へ打球を飛ばせる準備は常にしておこうという話はしました。

──「UNIVERSE」だけを聴いた人はおそらく「スタイリッシュでジャジーな音にソウル系ボーカルが乗った歌モノをやる人たち」という認識でいると思うんですけど、必ずしもそれだけを志向しているユニットではないということですね。

YUN　はい、いろんな楽曲を今後も作っていくと思います。

UD　「UNIVERSE」はかなりマニアックな方向性になっているんですけど、次以降にリリースしていく楽曲に関しては、もっとポピュラリティを意識したものになっていまして。

YUN　AKASHIC GROOVEとして目指したいのは、ほかにないもの。今、巷で人気のアーティストさんたちが表現していないものをやっていきたいですね。ひと言で言うと、「宇宙」みたいな。

──すみません、よくわかりません（笑）。

YUN　あはは（笑）。「UNIVERSE」のミュージックビデオでは私がシャーマンに扮しているんですけど、シャーマンって宇宙からのメッセージを降ろして人々に伝えるみたいな役割で。そのメッセージによってたくさんの人の背中を押せる応援歌みたいになればいいなと思って歌詞を作っていったので、ああいう映像になったんです。

──なるほど、「UNIVERSE」は大いなる宇宙からのメッセージなんですね。

UD　その言い方だと、ちょっとオカルト集団みたいですけど（笑）。歌詞のテーマとしては「UNIVERSE」に限らず、基本的にどの曲も宇宙というものをベースに切り口を変えて肉付けしていく感じで作っていますね。AKASHIC GROOVEというユニット名がそもそもアカシックレコードを語源にしていまして、「全宇宙の全記録をもとに音楽で伝えていく」というのがベースの考え方としてあるんです。

──作曲を担当したSPANOVAさんには、どういう発注を？

UD　基本的にはお任せです。「BPMはこれくらい」とか「ここで転調する感じ」とか、ある程度の骨子になるプロット的なものはお渡ししているんですけども、細かいところは完全にお任せしていて。「売れそうな曲かどうかも考えなくていい」「壊れててもいい」とお伝えして。「わかりやすくまとまった歌ものではなく、一部の人に深く刺さるものを」というのはコンセプトとして持っていました。

──とはいえ、「UNIVERSE」は歌モノとして聴くにも十分耐えうる、しっかりした作りになっていますよね。

UD　デモ段階では、もっとしっかりしていたんですよ。特に歌メロに関しては、人間が歌うというより鍵盤で弾くような機械的なテイストがあって……もちろんそれがSPANOVAの持ち味ではあるんですけど、そのままだとAKASHIC GROOVEにはハマらなかった。彼女のボーカルは、どちらかというとエモーショナルな系統なので。

YUN　確かに、デモを聴かせてもらったときは「ちょっと難しそうだな」と思いました。それを、人間味のある歌い方がハマるようにアレンジを調整してもらって、結果すごく歌いやすい曲になりましたね。

ファン考案のフレーズが盛り込まれた楽曲

──歌詞については、クラウドファンディングのリターンとしてファンが考えたフレーズを盛り込んでいるとのことですが。

YUN　そうなんです。全6曲分の制作費をクラウドファンディングで募ったんですけど、支援いただいた額の多い順に、1曲につき最大で6人の方に歌詞の一部を考えていただきました。

──6曲で6人ではなく、1曲につき6人？ けっこう多いんですね。

YUN　そうですね。最初に私が「今回の曲はこんな感じで」とある程度テーマがわかるような見本の歌詞を提示して、「ここにハマりそうなフレーズを考えてください」という感じで進めました。だいたい1人につき20文字くらいまでで考えてもらって……中には「ポエムかな？」っていうくらい長い文章を送ってくださる方もいらしたんですけど（笑）、それを全部使うのではなく、うまく収まるように部分的に使わせてもらったり。

──めちゃくちゃ難しそうな作業ですね……。

YUN　いや本当に（笑）。すごく難しかったです。

──「UNIVERSE」で言うと、どの部分がそれに当たるんですか？ 全部じゃなくていいので、1つ教えてください。

YUN　例えば、「空にアフレテル！」というフレーズがそうですね。これ、実はあるリスナーさんのコメントがもとになっているんですよ。ライブ配信アプリではリスナーさんが配信中にコメントを打ち込むことができて、それがリアルタイムで画面に表示されるんですね。あるとき、あるリスナーさんが「愛にアフレテル！」とコメントをしてくださったんですけど、「なんや、その変換」みたいに一斉にイジられ始めて（笑）、私の配信内でしばらくの間すごい流行フレーズになったことがあったんです。この歌詞を考えてくださったのはそのコメントをしたご本人ではないんですけど、「愛」を「空」に変えて提案してくださって。私も関西人の血が騒いで「これは絶対に入れなければ！」と。

──なるほど、ある種の内輪ネタなんですね。

YUN　そうなんです。配信を観に来てくださっている人ならわかるネタで。

──しかも、それと知らずに聴いたら普通にカッコいいフレーズだというのが素晴らしいですね。どっちでも成立するというのは、作詞術としてかなりテクニカルだと思います。

YUN　ありがとうございます！ リスナーさんも喜んでくださると思います。

歌詞はシンプルに書くほうが難しい

──そして7月29日には、第2弾音源として「未来」が配信リリースされました。

UD　1曲目の「UNIVERSE」とは打って変わって、夏っぽいラテン系ハウスサウンドでストレートなメッセージを歌った、わかりやすい楽曲になっています。

YUN　「切り開け未来」というフレーズがあったり、かなり前向きでストレートな歌詞なので、レコーディングではまっすぐ聴く人の心に届くような歌い方を意識しました。曲自体がストレートな感じだったので、歌詞を書くときも自然とその意識になったような気がします。

UD　「UNIVERSE」は曲調も歌詞の世界観もマニアックだったので、次に出す曲は曲調、歌詞ともにストレートなほうがいいなと思ったんです。マニアック、ストレート、マニアック、ストレート……という順番で出していけたら、ユニットのイメージを限定しない意味でも、飽きずに聴けるという意味でもいいかなと。

──YUNさんとしては、歌詞のテイストについても音楽性のお話と同じように「一方向に限定するのではなく、いろんな世界を歌いこなしていきたい」というスタンス？

YUN　そうですね。マニアックな世界観を歌ってもストレートな応援歌を歌っても、しっかり自分のものとして表現できるシンガーでありたいです。

UD　歌詞って、小難しい言葉を並べるほうが逆に簡単というか、それっぽくはなりやすいんですよね。シンプルに書くほうが難しい。AKASHIC GROOVEとしては小難しいほうへ安易に逃げないように、「鼻につかないところを模索して、ギリギリまで考えるようにしよう」という話はしていますね。そんなに深い話じゃなくてもいいから、ボーッと聴いていても何かが引っかかってくるような感じが理想です。

──そういう意味では、けっこう作詞面でのハードルが高めのユニットなんですね。人の言葉も入れなきゃならないし。

YUN　確かに（笑）。

──ちなみに、今後の目標みたいなものはどんな感じで考えていますか？ 例えば、ベタなところでは「日本武道館に立ちたい」であったりとか……。

YUN　それです！

一同　あははは（笑）。

YUN　やっぱり、アーティストとして武道館には立ちたいですね。最終目標としてではなく、そこから羽ばたいていくためのステップというか、近い将来の目標として。

UD　ただライブパフォーマンスについては、そもそもユニットの発足がコロナ禍真っただ中だったこともあって、考えることを先延ばしにしていた部分はあるんですよね。それでまずは制作のほうに集中していたわけなんですが、それももうすぐひと段落しそうなので、来年の春以降くらいを目処にパフォーマンスも行う準備をしたいなと考えています。それによってライブパフォーマーとしての地盤を固めるのが、まずは先決ですかね。リアルな話をするなら、武道館云々について考えるのはその先の話かなと（笑）。

──個人的には、AKASHIC GROOVEはフェス向きなんじゃないかという気もしています。ああいう場には「ヤバい演奏が聴こえる！」で集まってくる人が少なからずいるものですし。

YUN　なるほど……！

UD　レコーディングに携わっていただいたプレイヤーの皆さんは、演奏レベルで言えば国内トップクラスですからね。彼らの演奏が生で観られるとなれば、フェスでは強いんじゃないかと私も思います。

──音楽好き度合いが高い人にほど刺さりやすい音楽のように思いますし、そこをピンポイントに狙って刺していっていただきたいですね。

YUN　うれしい。ありがとうございます！