相沢梨紗|喜びと不安を胸に、憧れていたアニソンの世界へ

でんぱ組.incの相沢梨紗が、初のソロシングル「新月のダ・カーポ」をリリースした。シングルには草野華余子が作詞作曲、中山真斗が編曲を手がけた表題曲と、畑亜貴が作詞、伊藤真澄が作曲、村カワ基成が編曲を担当したカップリング曲「運命論アイドリング」を収録。表題曲「新月のダ・カーポ」は、テレビアニメ「白い砂のアクアトープ」2クール目のエンディングテーマとして使用されている。

生粋のアニメオタクで、アニメソングや声優ソングに絶大なる影響を受けてきた相沢。そんな彼女がついにアニソンシンガーとしてソロデビューを果たすのは、長年彼女の活動を追いかけてきたファンにとっても感慨ひとしおな出来事だ。しかし、当の本人の胸のうちには、喜びやうれしさだけではなく、アニメソングに憧れ続けてきたがゆえの不安と戸惑いがあったという。音楽ナタリーは相沢にインタビューを行い、そんな万感の思いが込められたソロデビュー曲についてたっぷり語ってもらった。

取材 / 臼杵成晃文 / 石井佑来撮影 / 山口真由子

アニソンシンガーへの憧れと不安

──まずは、長年憧れていたアニソンシンガーとしてのデビュー、おめでとうございます。

ありがとうございます。私の活動を長年見てくださっているファンの方からも「おめでとう」とたくさん言っていただけて。とてもうれしいです。

──アニソンシンガーとしてデビューすることになった、今の率直な心境をお聞かせいただけますか?

相沢梨紗

それが、レコーディングが終わったあとも「私は本当にアニソンシンガーとしてデビューするのか……?」という気持ちがあって。いまだに半信半疑というか(笑)、実感が湧かないんですよね。もちろんすごくうれしいんですけど、「私がアニソンを歌っていいのかな」という気持ちもどこかにあって。それくらいアニメソングというものにリスペクトを持ち続けてきたし、アニラジや声優さんのラジオを聴いていなかったら、そもそも秋葉原という土地にも縁がなく、でんぱ組.incとして活動することもなかっただろうし。本当にアニメのおかげでここまで来れたので、「生きててよかったね」って、声優さんのラジオを聴いていた当時の自分に言ってあげたいです。

──改めてアニソンやアニメにまつわる相沢さんのルーツを紐解きたいのですが、そもそもアニメオタクになったのはどういうきっかけがあったんですか?

母親の教育方針で、子供の頃はドラマやバラエティを観させてもらえなかったんですよ。テレビで流れてるのはアニメと教育番組ばかりだったので、アニメ自体には馴染みがあったんです。あとはオタクの幼馴染がいたので、一緒に近所の古本屋さんで昔の少女マンガを読んだりしていて、だんだんマンガやアニメにハマっていきました。それから声優さんがパーソナリティをやっているラジオ番組を聴くようになるんですけど、そこで坂本真綾さんの「指輪」という曲を聴いたときに、泣いちゃったんです。音楽を聴いて涙が出てくるというのは初めてで、その体験があまりに衝撃的で。そのときに初めて「こういう人に近付ける仕事がしたい」と思うようになりました。

──声優がパーソナリティを務めている番組というと、具体的にはどのような番組を?

特に好きだったのはやまとなでしこ(田村ゆかりと堀江由衣によるユニット)さんの番組ですね。ゆかりんとほっちゃんは、私の中ではもう神様みたいな存在です(笑)。その2人の番組では、よくアニソンが流れていて。ALI PROJECTさんやKalafinaさん、FictionJunction YUUKAさん……当時そういった方々の曲を聴いていると、音楽的なジャンルとかは全然わからないけど、とにかく心が熱くなったんです。あとはmeg rockさんも大好きだったので、でんぱ組.incとして一緒にお仕事できたときは本当に感動しました。

──アニメだと、特に思い入れの強い作品はなんですか?

「少女革命ウテナ」かな。「私はなんでこんなに『ウテナ』が好きなんだろう」と考えたときに、「私は幾原(邦彦)監督の作る世界観が好きなんだ」と気付いたんですよ。小さい頃に「(美少女戦士)セーラームーン」が好きだったんですけど、中でも幾原さんが演出を手がけた、ウラヌスやネプチューンが出てくる「セーラームーンS」の頃が特に大好きで。そういうことに大人になってから気付けるのも楽しいです。

──先ほど「私がアニソンを歌っていいのかな」という気持ちがあったとおっしゃっていましたけど、そういうふうに長年自分が親しみ憧れ続けていた世界だからこそ、不安があったのかもしれないですね。

そうだと思います。私はもともとアニメや2次元をきっかけに秋葉原にたどり着いたので、アイドルになるときもすごく抵抗があったんですよ。3次元で輝いている人たちにずっと劣等感を抱いてきたから、アイドルとしての自分にも自信が持てなくて。今回も初めのうちは、それと似た心境だったのかもしれないです。「普段はアイドルとして活動している人間がアニソンを歌っていいのだろうか」という気持ちが、どうしても拭いきれなかったというか。でも、「白い砂のアクアトープ」を観てくださった皆さんが、私の曲をナチュラルに受け入れてくれているのを見て、「あ、私の考え方は古かったんだな」と思いました。アニメを通じて音楽を好きになることに、アイドルとかアニソン歌手とかは関係ないんだなって。

相沢梨紗

今の相沢梨紗にしか歌えない曲

──「新月のダ・カーポ」は作詞作曲を草野華余子さん、編曲を中山真斗さんが手がけ、さらにはカップリング曲「運命論アイドリング」の作詞を畑亜貴さん、作曲を伊藤真澄さん、編曲を村カワ基成さんが担当されています。これ、アニソンファンならクレジットだけでも高まりますよね。

もう、名前を見るたびに息ができなくなりそうです(笑)。さっきも言った通り、自分がアニソンを歌うことに対して不安や恐れがあったんですけど、草野さんの歌詞が聴く人の背中を押してくれるような内容だったので、自分の心境とリンクする部分があって泣きそうになっちゃったんですよ。しかも、歌入れが終わったあとに草野さんから「こうして新たなスタートを切る、今の梨紗ちゃんにしか歌えない歌詞にしたかった」という言葉をいただいて。私のことを考えて歌詞を書いてくださったなんて、これはもう私からしてみればラブレターのようなものなので(笑)、本当にうれしかったし感動しました。

──アニメの世界観に寄り添いつつ、アーティストの心境も踏まえて作られた曲だったんですね。

そうなんですよ。ただ、自分が励まされるだけではなくて「私がその気持ちをみんなに伝えないといけないんだ」という使命感も、今は感じていて。自分が草野さんの歌詞に背中を押してもらったように、この曲をきっかけに、1人でも多くの人が苦しい世界から抜け出せるといいなと思ってます。

相沢梨紗

──「白い砂のアクアトープ」は第1期から観ていたんですか?

もちろん観てました! (宮沢)風花ちゃんがアイドルという夢に破れたところからスタートするので、すごく感情移入しちゃって。アイドルを辞めてセカンドキャリアを見つけるのは、とても大変なことだと思うんです。私自身も、でんぱ組.incにすべてを懸けているので、「自分は歌を歌う仕事しかできないんだろうな」という誇りと不安があって。そんな中で活動が思うようにできない時期もあったので、風花ちゃんの気持ちが痛いほどわかるんですよね。だから1話目から「がんばれ」という気持ちと「苦しい」という気持ちが入り混じった状態でずっと観てました(笑)。

──エンディングテーマを担当することが決定した際にコメントを出されてましたけど(参照:でんぱ組.inc相沢梨紗がソロシングルリリース、アニメ「白い砂のアクアトープ」2期ED担当)、相沢さんは母方の故郷が沖縄なんですね。「白い砂のアクアトープ」も沖縄を舞台にしたアニメということで、そういった部分も親近感があったのではないでしょうか。

ありましたね。私は、沖縄のおばあちゃんのことが大好きで。最後に会ったときに「彼氏はできた? 結婚はまだなの?」と聞かれたんですけど、「今は仕事がすごく楽しいんだ」という話をしたら、「歌を歌ったり、人を喜ばせる仕事は、やりたくてもできない人がたくさんいるんだから、できるんだったらがんばりなさい」と言ってくれたんです。すごく厳しい人だったので、そのときに初めて私の仕事を認めてくれたというか。その言葉を思い出しましたね。

──この1曲の中にいろんな思いが入り混じっているんですね。そんな自分にとって思い入れの深い曲が、アニメのエンディングテーマとして流れるのを実際に観たときはどんな感覚でしたか?

それが、初めて私の曲がエンディングとして流れた回が、私がこの曲に抱いていた思いと完璧にシンクロしていたんですよ。ヒロインの(海咲野)くくるがちょっと落ち込んでいて、そのときに風花が……という場面でこの曲が流れたので、「この曲で伝えたいことが完璧に伝わっている!」と感動しちゃって。家で1人で「わああ」って言いました(笑)。その瞬間に「自分がこの歌に込めた思いは間違っていなかったんだ」と思えましたね。