Abu×池内ヨシカツ対談|eスポーツと音楽の世界の架け橋を目指して (2/2)

eスポーツと音楽の架け橋に

──楽曲を制作して感じたお互いの魅力についても教えてもらえるとうれしいです。

池内 危ちゃんは、シンプルに声が魅力的ですよね。トップラインを歌うときには色っぽい雰囲気があるし、一方でまだまだ年齢が若いこともあって、声がまだ完成しきっていない部分もあって、そういうところも含めていいなと思いました。往年のベテランシンガーのようではない、いい意味で若くて未完成な声だからこそ、彼のリスナーのメインでもある若い人たちも共感できるというか。そういうフレッシュさを感じました。

Abu 池内さんの曲は、最初に聴いたときから「さすがだなあ」と思って聴いていました。ただ、歌うのは難しくて、声が出ない部分もあったので、いろいろと変更してもらったりもして……。

池内 確かに、改めて振り返るとけっこういろいろ変えたよね(笑)。

Abu はい(笑)。

──最終的には、歌詞も曲も、Abuさんの日常を連想させるような雰囲気の曲になっていますね。そのうえで「自分らしくいること」や「新しく挑戦すること」がテーマになっているといいますか。

池内 そうですね。危ちゃんは最初、「荒野行動」のプレイヤーとして謎めいた印象を持たれていたと思うんですよ。顔も声も出していなくて、でもめちゃくちゃ強いプレイヤーで。ファンの人たちは「いったいどんな人なんだ?」と感じたはずです。そうしたら、このルックスの子が出てきたという。僕はそのときのことは知らないので、あとから話を聞いた形ではありますけど、そんなファンの人たちの目線や気持ちも想像しながら歌詞を考えていきました。

──今回のようにゲームのプレイヤー / ストリーマーがオリジナル曲を出すことは、まだそれほど多くはないことだと思います。そのあたりについては何か思うことがありましたか?

Abu 僕は聞き専から始めて、そこから徐々に声を出して、顔を出して、大会に出て優勝するようになって、YouTubeでチャンネルを作って、会社も設立して……という形でこれまでいろいろとやってきました。その中でずっと応援してくれる人たちに、いろんな新しいことに挑戦していく姿を見てもらいたいと思っていたんです。そういう部分も含めて「音楽にも挑戦してみたい」「また新しいことに挑戦するところを見てもらえたら」という思いがありました。

Abu

Abu

──なるほど。「やってみれば意外と不可能なことはないよ」と、誰かの背中を押すような。

Abu 僕は明るいタイプではなかったからこそ、自分の活動を通じて、同じような環境にいる人のことを多少なりとも勇気付けられたらいいなと思っているんです。それに、ゲームは最近でこそ徐々に認められつつありますけど、まだまだ理解されない部分も多いので、そういう人たちにも、音楽を通じてゲームの魅力を知ってもらったり、ゲームへの考え方を変えてもらうきっかけになったりしたらいいなと思っています。

池内 ゲームやeスポーツをやっている人たちがより積極的に音楽を聴くきっかけになってくれたらうれしいですし、音楽好きの人たちがゲームに興味を持ってくれて、eスポーツの大会や配信を観たり、自分でプレイしてくれるようになったりしてもうれしいですし。そういう架け橋になってくれたらいいですよね。eスポーツはまだまだ新しい文化ですし、日本でも大きい大会をやってはいるものの、まだまだ立ち位置としては海外のような規模にはなっていないと聞きます。そんな中で、プレイヤー / ストリーマーとして活躍してくれるのはもちろんのこと、ゲームと音楽とをつなぐような存在になってくれたらうれしいなと。

──またお二人でのコラボレーションがあるとしたら、次は何をしてみたいですか?

池内 次に曲を作るなら、ラブソングとかも作ってみたいですね。まだ恋愛の話を聞いていないので、そういう価値観を聞いたりして、2人で歌詞を書いたら面白くなりそうです。

池内ヨシカツ

池内ヨシカツ

Abu 1曲目の「叶夜」は自分の過去のことも踏まえた曲になりましたが、すでに2曲目も「こんなものがいいかもしれない」という提案をいただいていて。なのでまた池内さんにお願いしたいと思っているんですけど、音楽以外でも何かできたらいいなと思ってます(笑)。音楽活動では僕が池内さんに頼りきりなので、次は逆に池内さんをゲームの世界に……。

池内 そういえば一緒にごはんを食べに行ったときに「荒野行動」をやろうと、その場でダウンロードしたんですけど、すぐにごはんが来てそこではできなかったんですよ。なので、まだスマホには1回も開いたことのない「荒野行動」が入っているという……(笑)。今度、ぜひ危ちゃんに教えてもらってリベンジしたいです。

Abu ぜひやりましょう!

ずっと記憶に残り続けるもの

──最後に、改めて今回の「叶夜」はどんな曲になったと感じていますか?

池内 危ちゃんっぽい、彼の魅力や人柄が伝わるような曲にできたのかな、と思っていますし、危ちゃんのファンの方以外にも、例えばナタリーさんの記事を見ているような音楽リスナーの方にも聴いてもらえたらすごくうれしいです。僕は今MBSラジオで「池内ヨシカツ our sound」という番組をやっているんですけど、そこにもゲストに来てもらって、6月からはエンディングテーマを「叶夜」にする予定で。普段ゲームの動画や配信を観ている人とは違う層の、いろいろな人たちにも聴いてもらえたらなと思っています。

Abu 僕にとっては、忘れられない大切な1曲になりました。本格的に作った最初の曲でもありますし、今回のようにプロの方に本格的に携わっていただくことはなかなかないと思うので。一生モノの体験だったなと思います。

──AbuさんはABUUUを通じてオリジナルの香水の販売をしたりと、本当にゲームだけではなくさまざまなことに挑戦していますね。

Abu 香水も、もともと趣味で好きだったことに加えて、ファンの人たちからの「出してほしい」という声があって実現したものでした。とは言っても個人では出せないので、しっかりとしたものを出すためにABUUUという会社を立ち上げた部分もあって。それで1年半ほどかけて作ったんですけど、今回の音楽も同じで、そうやって作ったものはずっと記憶に残ってくれると思うんです。昔聴いた曲とか香りとか、そういうものが何年か経ったときでも当時の記憶をよみがえらせてくれたりする経験が僕自身もあるので。そういう意味でも香水や音楽を出せたらいいな、と思っていたんです。

──音楽も同じように、何年経っても残るものとして出している感覚なんですね。

Abu 僕のファンの人たちは僕と同じぐらいの年齢だったり、もっと若かったりする子も多いんですけど、例えば今自分のファンになってくれた子が、10年後に今回の「叶夜」を聴いたときに、「あのときはこうだったな」と、今の気持ちを思い出すこともあると思うんです。

池内 確かに、香水も歌も目には見えないけどずっと記憶に残るものですよね。若いときに好きになった曲は特にそう。僕も高校の頃に聴いた曲って、すごく心に残っていますから。

左からAbu、池内ヨシカツ。

左からAbu、池内ヨシカツ。

プロフィール

Abu(アブ)

2003年生まれ、福岡県久留米市出身のゲームプレイヤー / ストリーマー。世界的な人気を誇るバトルロイヤルゲーム「荒野行動」のクラン・芝刈り機〆の代表としても知られている。2019年に声のみで「荒野行動」の生配信を始め、徐々にファンを獲得。翌2020年に顔出しをし、大きな話題を集め、それ以降動画投稿に力を入れる。2021年7月にはABUUU株式会社を設立。2022年2月には池内ヨシカツとタッグを組み、オリジナル曲「叶夜」をリリースした。

池内ヨシカツ(イケウチヨシカツ)

作曲家 / 音楽プロデューサー。作曲家である叔父の影響で幼少期から音楽作りを始め、その後自身の名義で楽曲配信を行い、本格的にキャリアをスタートさせる。日本アカデミー賞を受賞した映画「怒り」の劇中歌をはじめ、ソフトバンクのCMソングなど数多くの作曲を担当。MBSラジオ「池内ヨシカツ our sound」のパーソナリティや地元・京都の観光大使を務めるなど幅広く活動を続けている。