音楽ナタリー PowerPush - 安倍なつみ

ソロデビュー10周年で迎えた新たなチャレンジ

曲の主人公が自分に重なって歌う

──今作にはミュージカルの楽曲だけじゃなくて、ポップス寄りの曲もあれば誰もが一度は聴いたことがあるようなスタンダードナンバーもある。そういう意味では非常に幅広い選曲ですよね。しかもそういった楽曲を、安倍さんが今までとは違った歌い方で表現しているところも新鮮でした。

ありがとうございます。クラシカルな世界観というテーマはあったんですけど、曲によって歌のアプローチは変えていて。ミュージカルの楽曲は感情ありきで歌うものが多くて、歌っているというよりもお芝居しているような感覚でレコーディングしました。あと椎名林檎さんの曲(「カーネーション」)は歌の持つ世界観がすごく素敵で、今回のアルバムの中に入ったときにすごく映えるんじゃないかと思って、私がリクエストさせてもらったんです。

──そうだったんですね。それにしても今回セレクトしたミュージカル楽曲って、どれも安倍さんが演じたことのない舞台のものばかりですよね。

安倍なつみ

そうなんです(笑)。でも、どれも好きなものばかりで。「私だけに」は去年、本田美奈子.さんのメモリアルコンサートに出演させていただいた際に自分が選んだ曲なんです。この曲は「エリザベート」という物語の中で自由を愛する王妃がすごく大きな決断をする際に歌われるナンバーなんですけど、その世界観や曲が持つ力にすごく惹かれて。後半に向かってどんどん感情が高まっていくところが素晴らしくて、また歌いたいと思ったんです。あと「レ・ミゼラブル」は作品も曲もすごく好きなので今回選んでみました。

──ポップス作品とはまた違った躍動感があるアルバムだと思いました。安倍さんの歌で起伏を作っていくというか。

舞台のナンバーは特にそうなんです。曲の主人公が自分に重なって、まるで自分が経験してきたかのように歌ってるんですけど、1曲の中で心がすごく揺れ動くんですよ。うれしいとか楽しいとかだけじゃなくて、本当に心がかき乱されて苦しくなるし。「夢やぶれて」や「オン・マイ・オウン」を歌うとどこにいてどんな服を着てどんな表情をして、そこでどんな思いを抱いているか、その情景が明確に見えて、自分じゃない人の感情になってその瞬間を生きてる感じになるんです。

感情優先で歌う曲は本当に大変

──アルバムを聴いていると、等身大のポップナンバーを歌う安倍さんとは違って、別の人格が乗り移ったかのように感じられる瞬間がありました。

本当ですか? 普段の安倍なつみのライブでは使わない表現方法ですからね(笑)。

──安倍さんが楽曲ごとにいろんな役を演じている、ショートムービーのオムニバス作品みたいなアルバムだと思いました。

そういう感覚は確かに私にもありました。ジャンルはクラシカルなものかもしれないけど、曲ごとにいろんな色が散りばめられた作品だと思いますし。そのぶん、レコーディングでは感情のコントロールが大変でしたね。舞台ではちょうどいい具合の表現でも、いざレコーディングするときには押し付けがましくなってしまったり、感情が入り過ぎて自分をコントロールできずに涙が止まらなくなったこともあったり。感情優先で歌う曲は本当に大変でした。あとポップスを歌うときはパートごとに分けて録ることもあるんですけど、今回はどの曲も1曲通して歌い切ったので、そこは本当に集中して挑みましたね。

──だからこそ感情の起伏がストレートに表現できたのかもしれませんね。

そうですね。中でも「夢やぶれて」は一番大変で、ビデオクリップも本来は撮る予定じゃなかったんです。当初はオリジナルナンバーの「光へ」だけだったんですけど、レコーディングの感じから「夢やぶれて」も撮りましょうということになって。それで音と映像の同時収録を初めてやってみることになって、東京フィルハーモニー交響楽団の皆さんと一緒にものすごい緊張感の中でライブレコーディングしたんです。オーケストラの皆さんの気を背中で感じながら歌うのは初めての経験でしたね。収録した場所もクラシックのホールで、しかもハンドマイクじゃなかったので(笑)、すごいドキドキしました。本当にライブでしたね、あれは。

──メイキングのドキュメント映像にも収められていましたが、始まる前の安倍さんの緊張した様子はすごかったですもんね。

「今、息吸ったっけ?」とか呼吸の仕方も忘れるくらいで(笑)。目の前に広がる光景が現実離れしていて、自分を落ち着かせるのに精一杯でした。でも今思うと、本当によくやったなと思いますよ(笑)。

──ジャンルもそうですけど、レコーディング方法でも新しい挑戦をしたと。

そうですね。特に今回はオケ録りにも全部立ち会わせてもらって、どういうふうにバックトラックができていくのかを理解した上で歌入れをしたんです。

──オケ録りを見ながら、気持ちをどう作っていくかを考えたと。

安倍なつみ

はい。レコーディングを見たことで今まで自分が感じられてなかったような音までどんどん耳に入ってきて。それはきっといいことなんでしょうけど、そのぶん「どういうふうにアプローチしようかな?」っていうのは今まで以上に考えましたね。

──さらに今作には唯一のオリジナル曲として「光へ」が収録されています。

今の自分の気持ちを代弁してくれるかのような内容なんです。と同時に、夢や希望といった光がある方向へ進んでいく上で大切にすべきこと、見失っちゃいけないことをこの曲の中で教えてもらってるような感覚もあるんですね。芸能界に入って17年目になるんですけど、こんなに壮大なナンバーを歌うことができるのも、自分が年齢も経験も重ねてきた今だからなのかなって。そういう意味では今の自分ができるすべてをここで表現できたかなと思います。

ニューアルバム「光へ -classical & crossover-」 / 2014年10月22日発売 / 日本コロムビア
初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / COZQ-974~5
通常盤 [CD] / 3024円 / COCQ-85097
CD収録曲
  1. Stand Alone ~NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」より
  2. ローズ
  3. 夢やぶれて ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より
  4. カーネーション ~NHK連続テレビ小説「カーネーション」より
  5. サリー・ガーデン~風と少女~
  6. グリーンスリーヴス~永遠~
  7. 私だけに ~ミュージカル「エリザベート」より
  8. オン・マイ・オウン ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より
  9. この祈り~ザ・プレイヤー~with 望月哲也
  10. 夢はひそかに ~映画「シンデレラ」より
  11. 光へ
  12. 白のワルツ(BONUS TRACK for CHRISTMAS)
初回限定盤DVD収録内容
  • 「光へ」ミュージックビデオ
  • 「夢やぶれて」ミュージックビデオ
  • アルバム「光へ -classical&crossover-」制作ドキュメント映像
安倍なつみ(アベナツミ)

安倍なつみ

1981年生まれ、北海道出身の女性歌手、女優。1997年にモーニング娘。のメンバーに選ばれ、翌1998年にシングル「モーニングコーヒー」でメジャーデビュー。「なっち」の愛称で人気を博す。同グループ在籍中からCMやテレビドラマ出演など、ソロ活動を開始。2004年1月にモーニング娘。卒業を機に、本格的にソロデビューを果たした。ソロシンガーとして活動する傍ら、「祝祭音楽劇トゥーランドット」「三文オペラ」など数々のミュージカルや舞台でも活躍。ソロデビュー10周年を迎えた2014年10月、国内外の名曲カバーを中心としたアルバム「光へ -classical & crossover-」をリリースする。