A.B.C-Z「Graceful Runner」特集|草野華余子が“10周年の同志”とともにつづった、あの日の夢とまだ見ぬ未来 (3/3)

100%の熱意で、嘘なく書けた

──Dメロでは今、現在の地点から“あの日描いた夢”を振り返りながらも、さらにまだ見ぬ未来を夢見る様子が描かれていますね。

A.B.C-Zの皆さんが10年後に向かって、新しいスタートラインを切って走り出したい、駆け抜けたいという気持ちのバトンを受け取って制作したんですが、私自身も来年で作家キャリア10年目ということで思うところがあって。今の私自身、10年前に思い描いていた将来の自分の姿とは違うんです。アコースティックギター1本で武道館に立ちたいと思っていたのでそれは実現していないけど、今、この瞬間は本当に夢みたいに最高の毎日を過ごせてる。仕事で疲れたりしんどいときとか、思うようにいかなくて悔しくて泣くときとかいまだに日々ありますけど、「音楽ができなくなるかも」と思っていた10年前のことを考えると、こうしていろんな方に楽曲提供をさせていただけて、自分の声も戻ってきて歌えている。今、この瞬間すべてが夢みたいだなと感じることがすごく多くて。「紅蓮華」の大ヒットもそう。いろんな方のバトンを受け取りながら、ここまできたということをどういうふうに表現したらいいかなと思い、“Now on Dream”をキーワードとして、いろんなところにちりばめさせてもらいました。それがこの曲の裏テーマですね。

──ご自身の心境とも重なってるんですね。

そうですね。実は近年、スケジュール的にどうしても自分の歌がちょっとおざなりになってしまっていて。300人や400人くらいではありますけど、少なからずずっとライブに来てくれていたファンの方の中には、私が作家になっちゃってすごく悲しんでる人もいますし。ライブハウスで一緒にお酒を飲んだり、恋愛相談を受けたりもしてたから。

草野華余子

──カタカナの“カヨコ”を返せ、という人もいそうです。

たまにホントに言ってくる方もいるんですよ。その人には直接「あなたが私の生活を養ってくれるのか?」って言いますけど(笑)。そうやって面と向かって話せる環境にずっといたからこその信頼関係もあったので、ちょっと寂しくなっちゃったファンの方もいるだろうし、離れちゃった方もいるんですけど、やっぱり自分の歌って人生の居場所でもあるので、がんばらないといけないなと思っていて。二足の草鞋と謳っているからには、楽曲提供と同じくらい自分の歌をしっかり届けないと、と思っているタイミングでいただいたお話でもあったんですね。今の自分の心境とシンクロする部分があったからこそ、自分を出しすぎず、ホントに100%の熱意で、嘘なく書けました。光の三原色じゃないけど、タイアップと、アーティストさんと、私の3つが重なって輝く部分を探すというか。今回で言うと、A.B.C-Zさんというアーティスト、「10周年で新たなリスタート」というテーマ、そして私自身の共通点をうまく探せば、嘘が1行もない歌詞が書けるなと思ったので。今回はメロディやオケより歌詞にすごい時間をかけて、締め切りも2日ほど遅らせていただいて。皆さんが待ってくださったおかげで、すごく納得のいくものができました。

──コーラスでは一緒に歌ってますしね。

これ、絶対に書いてほしいんですけど、私は「コーラスは(ボリュームを)小さめに鳴らしてください」って言ったんですよ。でも、アウトロでめっちゃ草野が出てくる! どうしようって思って(笑)。A.B.C-Zさんのレギュラーラジオでオンエアしてくださったときには、ファンの方が「声が合ってる、カッコいい」とおっしゃってくださったので、緊張のハイライトが解けましたけど。これを読んでるファンの方にはお伝えしたいです。「私は下げてって言うたんや」って(笑)。

──あはははは。あのパートはいつかライブで一緒に歌えそうですよね。

そうですね。あそこの掛け合いの部分、アウトロに入れた“スタートライン”はまさに、ライブのときにファンのみんなが歌っていて、そこの隙間で橋本さんがフェイクのようにトップラインを歌ってる様子をイメージしていて。ファンの声と手拍子とメンバーの声で成立させたかったので、それがいつか叶う日はぜひ会場で目撃したいと思います。

A.B.C-Zの魅力的をもっと伝えたい

──ちなみに完成した曲を聴いた感想は?

これを言うのは今日2回目なんですけど「めっちゃ歌うまいな」って。

──あはははは。再認識しましたか。

正直、「火花アディクション」で「これだけ挑戦的で難しい曲でも歌いこなしてくれるんだ」と思ったので、さらにビートを難しくしてしまいました(笑)。こっちの曲のほうがAメロは難しいし、なかなか歌えないと思うんですよ。女性も歌えるキーなので、皆さんもカラオケで挑戦してみてほしいです。メンバーの皆さんがこの10年間で培ってきたスキルというか、力量を感じましたね。

──MVも観てますか?

もう100回くらいぶん回してます!(笑) そういえば、五関さんとラジオで共演させていただいたときにお聞きしたんですが、五関さんも「火花アディクション」のときは歌いやすいように振り付けを間引きして作られていたらしいんです。でも今回は気にせずに「俺がやりたい振り付けはこれだ、ってめちゃくちゃ詰め込んだ」とおっしゃっていて。私も今回は“草野パワー100%”で、誰のことも気にすることなく私を詰め込んで作ったので「同じだ!」と思いました。振り付けを受け取ったメンバーの皆さんはヒーヒー言いながら練習されたらしいです。

──みんながそれぞれのクリエイティビティを、手加減なしの全力でぶつけ合ってできた曲なんですね。

そうですね。これより濃いのはないんじゃないか、っていうくらいグツグツ煮詰まった感じではあります。

──2曲の制作を経て、同じ表現者としてのA.B.C-Zにはどんな思いを抱きましたか?

言い方が難しいんですけど、ビックコンテンツや何かの力を借りずに、着実に自分たちができることを愚直なまでに丁寧に愛を持って1つずつやってきたからこそ、ここまで来たグループなんだと感じています。しかもみんなめちゃくちゃいい人たちなんですよ。忙しくて疲れてるだろうに、私がラジオに出演させていただいたときは、スタジオに入ってから出るまでずっと気を遣って話しかけてくださってたし。塚ちゃんなんて、マジックペンの手書きでうちの事務所に年賀状を送ってくださって。ホントに感動したし「次にA.B.C-Zさんのお仕事を頼まれたときは、この人たちのために命を削ってでも死ぬ気でやろう」って思えたんですね。あと、ラジオの収録中以外も、みんなでずっと仲よく話されてるんですよね。10年一緒にいて、今でも高校生みたいに仲がいいことは逆にびっくりというか、すごいなと思います。グループ内、スタッフ、裏方、ファンの皆さんへの感謝の気持ちを忘れないし、本当に真摯に人として向き合いながら10年やってきたんだと、全然ゴマスリじゃなく伝わってくることに衝撃を受けて。そのチームの端っこにでも入れてもらえたことがうれしかったです。そんなA.B.C-Zチームの皆さんに2回も呼んでいただいたということは、私もこの10年、失敗することもありながらも、真摯に、真面目に、愚直に、猪突猛進で音楽をやってきた結果かなと感じられたことも喜びでした。

──ちなみに今後、A.B.C-Zと何か一緒にやりたいことはありますか?

バラエティで顔面パイ投げされたり、熱湯風呂に突き落とされたりしたいです(笑)。

──あはははは。音楽制作じゃなかった!

まだ“作家先生”として気を遣ってくれる瞬間もあるんですよね。五関さんとはお互いに大好きなL'Arc-en-Cielの話をしたときに、一瞬で壁を5枚くらいぶち破って話してくださったんですけど、メンバーの皆さんのよりファニーなところとかを知ってるとさらに曲を書きやすくなると思って。普段、皆さんが裏方の私たちにこういう対応してくれるんだと感じたあとだと、また書ける歌詞が変わってくる。A.B.C-Zの魅力的なところをファンの皆さんにたくさん伝えられるように、家政婦のように陰から見守りつつ、その愚直さに感動しながら、また1人のオタクとして書かせていただけたらなと思っております。

プロフィール

A.B.C-Z(エービーシーズィー)

2008年8月に五関晃一、戸塚祥太、塚田僚一、河合郁人、橋本良亮により結成された、ジャニーズ事務所所属の5人組グループ。2012年2月にDVD「Za ABC~5stars~」でメジャーデビューを果たす。2013年3月から初の全国ツアーを開催。2014年3月には初のオリジナルアルバム「from ABC to Z」を、2015年9月には初のCDシングル「Moonlight walker」をリリースした。2022年2月にはベストアルバム「BEST OF A.B.C-Z」をリリース。舞台やドラマ、バラエティでも活躍しており、2012年からは座長公演「ABC座」を開催している。2022年8月からは全国ツアー「A.B.C-Z 10th Anniversary Tour 2022 ABCXYZ」を行う。

草野華余子(クサノカヨコ)

大阪府出身のシンガーソングライター / 作詞・作曲家。3歳からピアノと声楽を、5歳で作曲を始める。18歳からバンド活動を行い、2007年にカヨコ名義でソロ活動をスタート。2013年10月にリリースされたLiSAのアルバム「LANDSPACE」の収録曲「DOCTOR」で作家活動を開始し、数多くのアーティストに楽曲を提供する。2019年2月に名義を本名の草野華余子に改名。同年7月リリースのLiSAへの提供曲「紅蓮華」が大ヒットを記録し、一躍その名を世間に知らしめた。2021年1月には改名後初のフルアルバム「Life is like a rolling stone」を発表。2022年5月には最新曲「断線」をリリースしている。

草野華余子 ライブ情報

草野華余子 Acoustic Live 2022「カメレオンの憂鬱」

  • 2022年8月10日(水)東京都 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
    OPEN 18:00 / START 19:00
  • 2022年8月26日(金)大阪府 BananaHall
    OPEN 18:00 / START 19:00

指定席 4500円(※税込 / ドリンク代別)