ナタリー PowerPush - 72

聴き手にクエスチョンを投げかける 噂の才能、ついにメジャーデビュー

自分をあきらめることが一番の罪なんだって

──そして具体的には2008年末、現在のプロデューサーに持ち込んだ1本のデモテープがデビューのきっかけになったと。

はい。やっぱり、それまでは本当の意味で自分に正直ではなかったんだと思います。やりたいことがあっても抑えたり遠慮したり、なんとなく周囲に合わせてたり。でも、そうやって自分を一番置いてけぼりにしてるのってどうなんだろう、と。そのときちょうど、とあるお仕事で撮影をしてたんですね。劇中で私はノドを撃って死ぬ役だったんですが、そのシーンの前夜、すごくツラくなってしまって。精神的に入り込んでたから、こんなに自分を出し惜しみして死んでいくなんて後悔しか残らない……って、きっとストーリーと自分の人生がリンクしたんだと思います。そういう死生観が研ぎ澄まされた状態でいろいろ考えたときに、「もう自分の思ったことしかやらない!」って決めて。やっぱり好きな音楽をやるしかない、と改心したんです。

──そこからものの1年でメジャーデビューが決まって。お話を聞いていると、今が72さんにとって最も自分に無理なく正直に生きられているという感じがします。

それはうれしいですね。歌を歌うということを仕事にさせていただいて、今は本当に楽しいなって思っていますから。自分をあきらめることが一番の罪なんだって、すごく感じましたね。

──その言葉、きっと多くの人の心にズシンと響くものがあると思います。夢に向かって思い通りに進んでいける人のほうが、絶対的に少ないと思いますもん。

私の場合、何事も突きつめてしまうところがあるんですよね。7歳か8歳くらいのときに鬼ごっこをしていて迷子になったんです。そのとき「私は本当にこの世に存在しているのか?」と、ハッ! と考えたことがあって。でも、疑問に思っている自分は間違いなく存在している! って思って。それって今思えばデカルトの「我思う、故に我あり」みたいですけど(笑)、いろんなことを探りたがりな性格みたいです。

──そういった部分が、少なからず作品を生み出す源になっているんでしょうか?

そうかもしれないですね。でも、興味がないものはまったくダメです!

人の思考をスタートさせるボタンのような存在に

──今後、アーティスト「72」はどんなことを表現していくのでしょうか?

メッセージを伝えるというよりは、自分も含め聴いてくれる人に対してクエスチョンを投げかけたいというのがあって。今回リリースする1stシングル「ここにいるよ/こわくない」でも描いていますが、私が誰より自分自身をわかっていなかった人間で。自分の存在にも疑問を持っていたし、何に対しても怖いと思っていたところがあるので。でも、疑問を持つのは大事なこと。自分の心のままをカタチにして、そこに触れた人が何か思考をスタートさせるボタンのような存在になれたらいいなって思います。

──72さんの歌詞って、ひらがなを重視したやわらかい表現が多いですよね。

ひらがな、好きなんです(笑)。日本語にはひらがなとカタカナ、漢字ってあるけど、それぞれ見たときの印象が違いますよね。なるべく簡単な言葉で書いてるつもりなので、小さいお子さんにもわかりやすいかもしれないですね。

垣根のない集まりを増やしていきたい

──「こわくない」は、今年「つみきのいえ」でアカデミー賞を受賞した作家・平田研也さんが、楽曲にインスパイアを受けてミュージックビデオの脚本を手がけたとか。

はい。私の曲にインスパイアを受けて……って、そんなことがあっていいのか!? と、信じられない気持ちでいっぱいでした(笑)。本当に素敵な作品に仕上げていただいて、チェックのときに思わず感動して泣いてしまいました!

──ジャケット写真の絵も著名な画家さんによる作品だそうで。72さんが発するものがいろんな方とのコラボレーションを呼んでいきそうですね。

そうなれば本当にうれしいです。1人でできることは限られているし、いろんな人の人生に私が少しずつ介入していけたらうれしいです。いい化学反応を起こすべく、垣根のない集まりを増やしていけたら素敵だと思います。

1stシングル『ここにいるよ / こわくない』 / 2009年12月9日発売 / Sony Music Associated Records

  • 初回限定盤[CD+DVD] 1400円(税込) / AICL-2075~2076 / Amazon.co.jpへ
  • 通常盤[CD] 1223円(税込) / AICL-2077 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. ここにいるよ
  2. こわくない
  3. 風に訊く
  4. ここにいるよ (instrumental)
初回盤DVD収録内容
  • こわくない (music video)
72(なつ)

作詞作曲、歌はもちろん絵画やイラストまでも手がけるマルチシンガーソングライター。2009年8月にはCD付き絵本「こわくない」をSHIBUYA TSUTAYA限定で発表。そのクリエイティビティに感銘を受けた脚本家・平田研也がミュージックビデオの脚本制作に名乗りを上げる。2009年12月9日、「ここにいるよ/こわくない」でソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズからメジャーデビュー。「ここにいるよ」はABC・テレビ朝日系ドラマ「アンタッチャブル」挿入歌にも抜擢された。