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サカキナオ 命・命・命
又吉直樹の原作・脚本によるショートドラマの主題歌、精度と迫力がさらに向上した唯一無二のアレンジに注目
文 / 森朋之
現代的なファンク、ソウルと日本の古典の要素を組み合わせ、時代や世代を超越したポップミュージックへと結実させるスタイルで確実に注目度を高めているサカキナオ。数えて第6作目の配信シングルとなる「命・命・命」は彼にとって初めての本格的なタイアップ曲で、なんと又吉直樹の原作・脚本によるショートドラマ「死生の峠」のテーマ曲だ。
サカキは「今楽曲は、又吉さん脚本のドラマのプロットを読み『己の命なのだから己で決着をつけるべきだ』と感じたところから制作しました」と語り、又吉は「文化の記憶と身体感覚、音と言葉が精緻に響き合うサカキナオさんの楽曲に触れながら、物語を考えました」と言う。両者のコメントを総合すると、このコラボレーションは一方的なものではなく、2人の創造性、技術、思いが重なったりぶつかったりしながら、きわめて有機的なプロセスの中で生まれてきたのだと実感できる。
最初に聞こえてくるのは、唸るようなグルーヴをたたえた「授かった命の生を 『お役御免』と吐き捨てた」というフレーズ。濃密さとしなやかさを同時に放つスラップベース、まるで刀のような切れ味を光らせるギターのカッティング、どっしりした強さと軽快なステップ感を感じさせるドラムが絡み合い、リスナーの心と体を深い部分から揺り動かす。さらに鼓や笛などの和楽器的なテイストを織り交ぜつつ、圧倒的な解放感をたたえたサビのメロディへと突き進んでいく。アフリカン・アメリカン音楽からの影響と日本の伝統がひとつになったアレンジはサカキナオの基本軸だが、その精度と迫力はさらに向上。又吉が指摘する通り、「文化の記憶と身体感覚」が響き合うアレンジは完全に唯一無二だ。
歌詞のメッセージにおいて真ん中にあるのは、「滅入って生きるくらいなら せいぜい足掻いて生き晒せ」という一節だろう。つい滅入ってしまう出来事、なんだそりゃ?と呆れてしまうことばかりの世の中だが、「どうせ……」と斜に構えてみたり、「誰か何とかしてほしい」と期待するのではなく、ダメでもなんでもとにかく自分として生き抜く。その根底にあるのは自分への信頼や尊敬なのだ──そのことをサカキナオは「命・命・命」を通し、直感的、身体的にリスナーに共有しようと試みているのだろう。
ショートドラマ「死生の峠」は10月17日よりYouTubeで公開中。サカキと又吉の本気のコラボをぜひ体感してほしい。
サカキナオ「命・命・命」Official Music Video
サカキナオ
シンガーソングライター。eggmanとNTTドコモと吉本興業が立ち上げたNTTドコモ・スタジオ&ライブによる、次世代バンドおよびグローバルアーティストの発掘・育成を目的としたオーディション「Catching Wave Audition 2024」にて、2024年1月に初代グランプリを獲得。プロジェクト内で発足されたレーベル・Scrum Wave Musicより、第1弾シングル「神退治」を10月に配信リリースした。最新作は2025年10月にリリースされた第6弾シングル「命・命・命」。この曲は又吉直樹の原作・脚本によるショートドラマ「死生の峠」の主題歌に使用されている。
サカキナオ (@sakakinao_official) - TikTok
