コミックナタリー PowerPush - ウィングス
老舗少女誌・ウィングスがリニューアル!初登場の売野機子が、新連載に込めた思いとは
スクリーントーンを1種に絞った
──“自分らしく”というキーワードが出てきましたが、新作「かんぺきな街」はどういったところから出発した作品ですか?
どんな作品でもそうなんですけど、ぼんやりと私の頭の中で浮かぶところからです。五感で浮かんでくる感じ。
──五感というと。
音とか匂いとか温度とか……。そこからだんだんキャラクターが見えてくる。今回もそうでした。「男の人を主人公に」っていうリクエストをもらってたんですけど、そこから夜が長い街、なんだか汚い街に住んでるっていうのが浮かんできた。
──枠外がすべてベタ塗りなのが特徴的ですね。
全部夜のシーンなのでそうしました。別の作品でも、回想シーンで全部ベタにしたことがあったんですけど。
──スクリーントーンの種類も絞っていますよね?
1種類です。今回はこれだけでやってみようと思って。もともとトーンは整理したかったんですよ。普通は何百種類とか使うと思うんですけど、以前20種類くらいでやってみた作品が、読者の方に「白い」って言われて。
──ええー。
手抜きと思われてしまったようだったから、そう見えるんじゃ意味ないなと思って、じゃあ逆に完全に1個に絞ってみちゃおうと。そしたらアシさんの間では結構評判が良かったです。
──スタイリッシュな画面になっていると思いました。
うれしい。まとまって見えるし、我ながら私のペンのタッチに合ってると思いました。
──1種類で構成するのは大変でしたか?
全然! すごく楽しかったです。ここ2年以上、ずっと背景をアシスタントさんに描いてもらってて、できあがってきた背景はとても美しくて尊敬してるんですけど、なんだか自分が赤ちゃんみたいな、何もできない人のように思えて悲しかったから。
──今回は全部ご自身で。
トーン以外は全部自分です。近い将来は、トーンも含めて全部自分でやりたいなと思ってます。「ちょっとトーンズラして貼ってほしいな」とか「もうちょっと背景ガタガタでいいですよ」とかっていうのも、お願いするのってなかなか難しいから。
──整いすぎてる画面よりも、ちょっと歪んでいるようなものに惹かれる?
うーん。一応、風景ではなく情景を描いているので……。「MAMA」が次巻で完結ということもあるんですが、今回は、自分の理想のマンガに近づきたいなと思いながら描いてますね。
女子を描くほうが100万倍好き
──今回の「かんぺきな街」はパーマ頭にメガネの男性と、大きなリボンを着けたセーラー服の少女が軸になっていますね。売野先生の作品にはメガネの男性がよく登場する気がするんですが……。
そう、そうなんです! 気付いてくれてすごくうれしい。私、パーマメガネ男子が大好きなんです(笑)。今まで別の作品で、担当さんに「ちょっと古いからもっと今っぽいイケメンにして」って何回も言われたんですけど……今回は自分の好きなものを描きたいと思って、貫いてしまいました。
──対して少女が頭に着けている大きなリボン。これは少女マンガ的な記号にも感じました。
まさに記号です。このリボン、制服なので、2話目以降に出てくる女の子も着けてるんです。基本的に男の子より、女の子を描くほうが100万倍好きなんですよ。
──女の子を描いてて楽しいのはどういうところ?
まつ毛と唇と眉毛。でも近年の依頼はほぼ100%「男主人公で」って言われて……。女の子もっと描かせてって思ってます(笑)。「MAMA」もね、女の子バージョンも考えてたんです。
──真逆の、女の園になっていた可能性も。
ありました。けどなんか、重いねって話に編集さんとなって……。それに、女の子は殺せない。女の子がひどい仕打ちを受けるとすごくつらいんです。男の子はつらい仕打ちを受ければ受けるほど楽しいのに。
──あははは(笑)。
読者層も若い女の子だったらいいな、若い女の子に読んでほしいな、と常々思ってます。いつか少女誌に描くのが夢なんです。少女誌というか幼年誌かな。小学生か女子中高生が読んでる雑誌。
──それはどうして?
うーん……難しいんですけど……。大人は汲み取ってくれちゃうので。みんな優しいから、行間とか埋めてくれちゃう。もっと素のまま受け取ってほしいなって思うんです。若い人はそのまま受け取ってくれるから。
──売野さんの少女誌連載、ぜひ読んでみたいです。
今はありがたいことに待ってくれている編集部さんがいらっしゃるので、営業や売り込みとかは考えてないですけど、それが途切れたらいつかやってみたいですね。
ラインナップ
- 売野機子「かんぺきな街」
- 尚月地「艶漢」
- 私屋カヲル「猫とごはんと装丁家」
- 松本花(原案:毛利亘宏[劇団「少年社中」]、原作:井原西鶴)「贋作・好色一代男」
- チノク「一炊の三馬鹿」
- 荒川弘「百姓貴族」
- 篠原烏童「ファサード カリカチュア」
- 碧也ぴんく「天下一!! 番外篇・君と我とは」
- なるしまゆり「少年魔法士」
- 草間さかえ「魔法のつかいかた」
- りさり「子はかすがい」
- 獸木野生「〈PALMシリーズ〉TASK」
- 箱知子「ブレーメンの音楽隊」
- 池田乾「戦う! セバスチャン♯」
- 池田乾「少年セバスチャンの執事修行」
- 金色スイス「佐藤君の柔軟生活」
- 御手洗直子「31歳ゲームプログラマーが婚活するとこうなる」
- 街子マドカ「かわうそは僕の嫁」
- カラスヤサトシ「VS孫子」
- ミキマキ「少年よ耽美を描け」
- 花園あずき(原案・キャラクターデザイン:ぼへ 協力:CROWN WORKS)「魔法☆中年 おじまじょ5」
- 堀江蟹子「ご先祖様とアタシ」
- 西谷ミツマル「ド真ん中ストレート!」
- 菅野彰 (カット:南野ましろ)「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく」
特別付録
尚月地「艶漢」描き下ろしタトゥーシール
売野機子(ウリノキコ)
1985年9月9日生まれ。O型乙女座。2009年に楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)に掲載された「薔薇だって書けるよ」でデビューを果たす。楽園 Le Paradis [ル パラディ](白泉社)、フィール・ヤング(祥伝社)、BE・LOVE(講談社)などさまざまな雑誌で執筆し、現在は月刊コミック@バンチ(新潮社)にて「MAMA」を連載中。「かんぺきな街」でウィングス(新書館)初登場。ほか著作に「薔薇だって書けるよー売野機子作品集ー」「同窓生代行ー売野機子作品集2ー」「しあわせになりたいー売野機子作品集3ー」「ロンリープラネット」など。