会話は成立してるけど、噛み合ってはいない
──一方の天国チームはいかがですか?
武内 キャラクター性で言うと、天国にいる子供たちって実年齢にしては心が幼いところがあって。普通ならもっと恋愛感情とかに目覚めていてもおかしくない年代のはずだけど、体の成熟に心の成熟が追いついていないんですよ。そういうチグハグな年齢感をどう作っていくかは、わりと考えながらやったところではありますね。
福圓 うんうん、そうだね。
武内 ちょっと大人っぽい視点の子もいれば天然な子もいるし、人一倍多感な子もいるんだけど、全体的にみんなどこか成熟度が低い。その微妙なズレ感をうまく表現できたらいいな、というのは思っていました。噛み合っているようで噛み合っていない感じ。
福圓 わかる! 特にミミヒメはより不思議な雰囲気の子でもあるし、とあるシロとのシーンでは「そんなに相手の言葉を受けないで」と言われたこともありました。相手の意図を汲み取って受けすぎると、あの環境で育ったにしては理解力が高すぎるというか……。
佐藤・千本木 へええー!
武内 そうそうそう。会話は成立しているんだけど、噛み合ってはいない感じというのが……。
福圓 難しいよねえ。
山村 その中でも、私が演じたトキオは比較的ニュートラルなキャラクターだなと思っていて。ほかの子供たちと同様に特殊な環境下で育った特殊なキャラクターではあるんですけど……。
武内 トキオはわりと普通の子ですよね。この中では。
山村 そうなんですよ。キャラクターについて原作に描かれていること以上の情報を伝えられてはいなかったので、わからないことはわからないままに、とにかく自分の中で「嘘のないお芝居を」ということだけ意識してやらせてもらいました。トキオの心に寄り添うお芝居さえできたらいいのかなと思って、「考えすぎず、丁寧に出していければ」という感覚でしたね。
佐藤 僕は最初、「トキオのお芝居は意識したほうがいいのかな?」と考えたりもしたんです。マルとトキオって、なんとなく顔が似てるじゃないですか。マルには「同じ顔をした人間を探す」という不思議な旅の目的もあることですし、たぶん何か関連性があるんだろうなと思って……でも、なんにも教えてもらえない(笑)。
山村 あははは(笑)。「天国チームのお芝居を全然聴かせてもらえなかった」って言ってましたよね。
千本木 そうなんですよー!
佐藤 第1話の映像ができあがってから、初めて聴きました。で、さっきおっしゃっていた「会話しているようでしていない」という感覚は、実際のお芝居を聴いてすごく感じましたね。
千本木 ちょっと冷たいイメージと言うんですかね。温度が一定に保たれている施設の感じ、“作り物感”をすごく感じて。
山村 確かにー!
福圓 感情の起伏もないもんね。天国サイドと魔境サイドで、劇構造が全然違う。
千本木 そうなんですよ。どっちかというと魔境サイドは人間くさいキャラクターたちの関係性を軸にお話が転がっていくのに対して、天国サイドはずーっと平坦なので。その違和感というか、対比には少しゾクッとしました。
佐藤 天国サイドって、会話はしているのにキャッチボールしないんですよね。お互いの投げた球が横をびゅーんと素通りしていくみたいな(笑)。そういうところにも精神年齢の幼さは感じました。マルとキルコはキャッチボールどころか、ボールのぶつけ合いをしているくらいの感覚なので……。
千本木 本当に世界が違うなって感じ。
佐藤 学園できちんと勉強している分、天国チームの子供たちって“知識”は相当あると思うんですよ。それは魔境チームにはないものだけど、生きるうえで必要な“知恵”に関しては圧倒的に魔境チーム側が身に付いている。そういう対比を見せられると、すごく変な感覚になるんですよね。「どちらがより頭がいいと言えるのか」「どちらがより幸せなのか」「幸せとはなんなのか」みたいな……たぶん賛否両論、観る人によって考え方の分かれるところになるんだろうなと。
──そのお話を聞いていると、もしコロナ禍以前のように役者さん全員で収録していた場合、お芝居が混乱していたかもしれないですね。
千本木 確かに……!
佐藤 天国チームと魔境チームがお互いの芝居に引っ張られて、微妙にテイストが混ざってしまう可能性はあったかもしれないです。
千本木 分けて録ることで、意識せずともスムーズに世界観を守れたというのは確かだと思うので。もし普通に録れる状況だったとしても、あえて別録りするべき作品だったのかなという感じはしますね。
山村 そう考えると、めちゃめちゃいい録り方だったのかも。
佐藤 このご時世を逆手に取ったかのような。
福圓 一緒に録れていた世界線か……そうだね、天国のシーンになった途端バタバタと大勢が立ち始めて……。
佐藤 俺ら、ビビりますよ(笑)。「うわ、急に人いっぱい来た!」みたいな。
福圓 今のアニメ化でちょうどよかったのかもね。
千本木 本当にそうですよね。それこそ天国チームは、これがもう少し前だったら、2人とか3人ずつの収録になっていたかもしれないので、大きなスタジオでみんなそろって録れたのもよかったんじゃないかなと思います。
福圓 ホントだね。それは大きいかも。
武内駿輔さんが演じる本気のシロが衝撃的すぎた
──アフレコで印象に残っているエピソードなどがあれば、ぜひお聞かせいただけたらと思います。
佐藤 魔境チームは「このパターンやってみてもらえませんか」というディレクションが多かったです。
千本木 確かに。「どう持っていこうか?」みたいな感じで、長考が多かった。
佐藤 スタッフさんもすごく悩んでいたみたいで。リテイクという意味ではなくて、別パターンをいくつも試してみたうえで「どれが画に合うのか、物語に合うのか」を長考する、みたいなのが多かったですね。その間、こっちは「あれでよかったのかなあ……」みたいに頭を抱えて待っていました。
山村 だんだん不安になってくるやつ(笑)。
佐藤 そこでどのパターンが選ばれるかによって、その次の芝居も変わってくるので。いくつか試したパターンのうち「これで行きます」と言われたものを必死で頭に叩き込んで、「なるほど、これで行くということは来週のこのシーンはこうで……で、でもそっちだとしたらこうなるしなあ……」みたいなことの繰り返しでした。
千本木 基本的には「シリアスにならず、もうちょっと軽くやったらどうなる?」という方向性が多かったような気はしますね。(クク役の)黒沢ともよちゃんと話した限りでは、天国チームは全然そんな長考とかなかったと聞きました。
武内 多少はありますけど、確かにみんなわりとスッとやっていた印象はありますね。
福圓 ちょっとの修正だけでしたよね。でも、トキオとコナとかシロとミミヒメとか、関係性の部分では時折ちょっと時間がかかったりもしました。
武内 大事なポイントはそうでしたね。
福圓 スタッフさん側に「これを作りたい」というものが明確にあるんだろうなと。例えば、細かいところで言うとロウソクの火を吹き消す音を何回もやり直したりとか。
千本木 そうですよね。音のこだわりが強い。
福圓 あと個人的にアフレコで一番印象的だったのは、シロがミミヒメに対して「ふ 服を脱がして触りたい……」っていう欲求を口にするシーンがあるんですが、武内さんは最初そのセリフをけっこうかわいらしく演じられていたんですね。そうしたら「もうちょっとリアルに生々しく、本気の衝動としてやっていただきたい」というディレクションが入って、本気の衝動をあらわにした武内さんが本当に衝撃的すぎて……。
武内 そうでしたっけ(笑)。
福圓 「こんなに芝居ひとつで笑えないレベルで本気な感じになるんだ?」とびっくりしちゃって。迫真の演技すぎて。
武内 誰が「素を出してる」ですか! 「これが武内の素なのかー」じゃないんですよ!(笑)
山村 そこまで言ってない(笑)。
武内 シロに関してはオーディションの段階から“リアル感”を指定されてはいたんですよ。ただ、その加減はやってみないとわからない部分もあるじゃないですか。
福圓 センシティブな話になってくるからね。やっぱり、情報を遮断された環境で体だけが成長してしまっているから、時としてものすごくピュアにとんでもないことを言っちゃったりもしますね。ただ、ミミヒメはそれを気持ち悪がってはいけないんですよ。受けちゃうと、発言の意味を理解していることになってしまうから。
山村 それを陰で聞いていたトキオだけが違和感を覚えるという(笑)。それが本来の人間らしいリアクションではあると思うんだけど……。
福圓 普通は引くよね。
武内 まあそうですよね(笑)。
千本木 でも、シロもミミヒメもそれがどういう衝動なのかがわかってないから。
福圓 そういう意味では、トキオは成熟が少し早かったんだよね。
山村 そんな感じがしますね。そういう意味でも普通の子に近いというか。
武内 お芝居に関してはどちらのチームもすごく集中しやすい環境だったと思いますね。疑問に感じたことをどんどん質問するのをよしとしてくれる現場でしたし、それがすごく楽しかったです。
福圓 うん、楽しかった。話数は全13話ですが、なんだかもっと長くやっていたような印象がすごくあります。
佐藤 2クールやっていたくらいの感覚はありますね。それくらい、役者にとってはカロリーの高い作品でした(笑)。
ありとあらゆるテーマが含まれた作品
──では最後にまとめとして、今後の見どころについて話せる範囲でお聞かせください。
佐藤 天国サイドと魔境サイドで見どころがすごく分かれてきますよね……。
武内 シロ的にはやっぱりミミヒメとの関係性に注目していただきたいですね。天国サイドはわりと2人1組のタッグに分かれているところがあるので、シロとミミヒメに限らずそれぞれの関係性がどう深まっていき、どう成長していくのかがすごく面白いところだと思います。
福圓 うんうん、確かに。
山村 トキオも、コナという子との関係性が少しずつ変化していきますし。
武内 最初は「この子たちは一体何を考えてるんだろう?」と不思議な気持ちで観るところから始まると思うんですが、観ていくとだんだんこの子たちなりの感情の機微が感じ取れるようにもなっていくと思います。そこをぜひ楽しんでいただけたらなと。
福圓 同じく。セリフとしてはハッキリ言われていないこととかも、細かく観ていくと汲み取れたりする部分もあったりするんですよ。ぜひそこを……アレがアレなこととか、現時点ではまだ言えないのよね(笑)。言えないから難しいですが、ミミヒメとシロがどうなるかはぜひ観ていてください。
山村 映像としても芝居としても、すごく丁寧に描かれている作品だなと感じます。武内さんもおっしゃったように最初の不思議な印象からだんだんとイメージが変わっていくんじゃないかなと思いますし、私自身も今日皆さんのお話を聞いて「ああ、トキオってそういう印象なんだ」と感じた部分もあったので、そんなふうにいろんなキャラクターの表情や心情の移り変わりを見届けていただけたらうれしいです。
千本木 第3話までの段階でキルコのバックグラウンドについてはけっこう明かされてきて、露敏というキャラクターの存在も明らかになりました。マルとキルコの関係性だけでなく、露敏とキルコの関係がどうなるのか、マルくんを無事に目的地まで連れて行けるのか、そういったところを注目していただけたら、キルコとしてはうれしいなと思います。
佐藤 キャラクターの人間的な成長はもちろんですが、天国と魔境の対比にも注目していただきたいですね。それと、大人と子供の対比も。ポストアポカリプス的な世界が描かれていますが、実は描かれている人間関係自体は皆さんの身の回りにも置き換えられるくらい普遍的なものだと思います。だからものすごく自分たちの未来について考えさせられるし、ずっと観ていくとだんだん他人事ではなくなってくる感覚にもなるんじゃないかと思います。そのうえで「人間ってなんだろう?」「命ってなんだろう?」「災害ってなんだろう?」「恋ってなんだろう?」みたいな、ありとあらゆるテーマ性が含まれる作品でもあります。いろんな見方で楽しんでいただきたいなと僕は思います。
──「こういうタイプの人にオススメですよ」ではなく、「全員観て」ということですね。
佐藤 そうです! 何度も観て、何度も楽しめる作品になっています。ぜひ楽しんでいただけたら!
プロフィール
佐藤元(サトウゲン)
3月22日生まれ、神奈川県出身。アイムエンタープライズ所属。主なアニメの出演作に「Dr.STONE」(クロム役)、「HIGH CARD」(フィン・オールドマン役)、「よふかしのうた」(夜守コウ役)、「君は放課後インソムニア」(中見丸太役)などがある。
佐藤元 (@genkinogen0322) | Twitter
千本木彩花(センボンギサヤカ)
11月24日生まれ、埼玉県出身。アイムエンタープライズ所属。主なアニメの出演作に「転生王女と天才令嬢の魔法革命」(アニスフィア・ウィン・パレッティア役)、「BEASTARS」(ハル役)、「ポケットモンスター」(キクナ / メッソン役)などがある。
千本木彩花 (@sayaka_sembon_) | Instagram
山村響(ヤマムラヒビク)
2月10日生まれ、福岡県出身。俳協所属。主なアニメの出演作に「Go!プリンセスプリキュア」(天ノ川きらら / キュアトゥインクル役)、「戦翼のシグルドリーヴァ」(クラウディア・ブラフォード役)、「うちの師匠はしっぽがない」(大黒亭文狐役)などがある。
山村響 (@hibiku_yamamura) | Twitter
福圓美里(フクエンミサト)
1月10日生まれ、東京都出身。StarCrew所属。主なアニメの出演作に「スマイルプリキュア!」(星空みゆき / キュアハッピー役)、「ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース」(イギー役)、「僕のヒーローアカデミア」(トガヒミコ役)、「美少女戦士セーラームーンCosmos」(ちびうさ役)などがある。
武内駿輔(タケウチシュンスケ)
9月12日生まれ、東京都出身。81プロデュース所属。主なアニメの出演作に「アイドルマスター シンデレラガールズ」(プロデューサー役)、「ダイヤのA」シリーズ(結城将司役)、「KING OF PRISM」シリーズ(大和アレクサンダー役)、「先輩がうざい後輩の話」(武田晴海役)、「ヴィンランド・サガ」(エイナル役)などがある。