奥浩哉「いぬやしき」
「GANTZ」作者がイブニングで新連載 山本直樹×奥浩哉の師弟対談
デジタルだけど、原稿は一点モノ
──デジタル作画の作業手順は、どういう感じなんですか?
山本 僕は全部ペンタブレットだよ。しかも解像度300dpiと低め(笑)。奥くんはまだ紙を使ってるんだよね?
奥 使ってます。人物の線は全部手描きです。まず紙に手描きで描いて、スキャンして、3Dで描いた背景と合わせて、それに影とかを入れて人物と背景を馴染ませて、最終的に原稿にプリントアウトして、そこにまた僕が手を加えてます。
山本 え、さらに描き足してるんだ?
奥 はい。足してます。
山本 じゃあ結局一点モノなんだ、原稿は。
奥 そうですね。
山本 手描きの作業はミリペン? つけペン?
奥 ミリペンもつけペンもたまに使ってますけど、今僕はだいたい筆ペンですね。
山本 筆!? ぺんてるとかそういうやつ?
奥 そうですそうです。普通のベタ用の筆ですね。
山本 スポンジのやつ? 毛のやつ?
奥 毛のやつですね。ずっとGペンだったんですけど、だんだん品質が悪くなってきて、すごくイライラするようになっちゃって。試しに髪の毛を塗る用の筆ペンで描いてみたら快適で。良い画材に辿り着いたなと。それからは細かいところも全部筆ペンでやってますね。
──全然筆ペンで描いている感じがしないですね。
奥 筆ペンだと、太い線から細い線まで自由自在に描けるんですよ。僕は元々筆圧が弱くて、紙に押し付けて描くんじゃなくて浮かせて描いていたんです。筆ペンも同じ感覚で使うと、割とどんな線でも描けますよ。太い線でも、細い線でも。
背景もベタも全部自分1人でやりたいと思って(山本)
──そもそも、おふたりがデジタルで描こうと思ったきっかけは何だったんですか?
山本 僕は1人でやりたいから。背景もベタも全部自分1人でやりたいと思って、デジタルにしたの。
奥 いつ頃からですか?
山本 Macを導入したのは92年くらいかな。最初はワープロが壊れたからワープロ代わりにと思って買ったんだけど、「キッドピクス」っていうペイントソフトで遊んでたら、これマンガに使えるかもなと気付いて。そろそろ人を雇うのをやめて1人でやりたいなって気持ちもあったんで、本格的にやろうかなと。
奥 そっか。僕は作業量的にも、アシスタントを雇わないとやっていけないです、絶対。1人でやるとか、1回も考えたことない。
山本 それでストレスがそんなにないんだったら、いいよね。
奥 ストレス、全然ないですよ。僕はアシさんとも仲が良いし。
山本 いや、僕も仲が悪かったわけじゃないし、アシスタントに来る人は奥くんをはじめ大体まともな人ばっかりなんだよ。でも修羅場になると隣に誰かいるだけでイラッとしてきちゃうからさ、できれば1人でやりたいなとずっと思ってたんだよね。
奥 僕はまったく逆で、仕事がなくてもアシさんとずーっと喋ってたりしますね。うちの仕事場は自宅の地下階にあるんですけど、上の階が僕の住居部分でしっかり分かれているので、仕事が終わっても居られるんですよ。
山本 寝泊まりできるんだね。
奥 そうそう。だから特に用事がなくても地下に降りて行ってずっとしゃべってたりとか。アシさんはアシさんで、自分ちよりもでっかいテレビもあるし快適みたいで。
山本 隣に人がいても集中できる?
奥 うちではアナログ作業をしている期間と、デジタル作業をしている期間が分かれていて、僕がペン入れをしている間は、デジタルのスタッフたちは休みなんです。やることがないので。
──ずらしてるんですね。
奥 ただペン入れしているときにも、ペン入れスタッフという、部分的にペン入れをしてもらうアシさんが1人いて。ずっと2人っきりで作業してますけど、喋りながらやってる感じです。それがすごい楽しいんですよ。
山本 ああ、だったら全然問題ないね。
奥 もう十数年の付き合いになるアシさんなので、ほとんど友達みたいな感じではあるんですけど。全然苦じゃない感じですね。
山本 僕は完全に1人になってから、自分で背景を描くのが楽しくなったんだよね。結構若いときから友達に手伝ってもらったりアシスタント入れたりしてたから、それまで自分でまともに背景を描いたことがなくて。エロマンガでいきなり忙しくなって、その後すぐスピリッツだったけど、ここ十数年でやっと自分で背景描くようになった。「背景楽しいー」って。
奥 あ、楽しいですか。
山本 楽しい。背景ってこう描くんだなって思って。あと、この歳になってからわりと自分の絵が好きになったんだよ。全部自分で描くようになったからかもしれないね。マンガ描くの楽しいよ。
奥 それはいいですね。
1人じゃやってらんないですよ(奥)
──アナログからデジタルに移行するのってやっぱり大変なんですか?
山本 そりゃね、奥くんもそうだったと思うけど、マンガっぽく落ち着くまでに結構な試行錯誤が必要だよね?
奥 大変です。自分の技術だけじゃなくて下準備にも結構時間やお金がかかるし、実験しながらやる感じなので。
山本 1人1流派みたいな感じだもんね。それぞれやり方が違うから。
奥 そうですね。山本先生と同じように、全部1人でやりたいっていうマンガ家さん多いですよ、僕の周り。デジタルにすれば全部自分1人でできるって思うみたいで。でも僕は自分の経験上、デジタル化したとしても、全部1人でやるのはかなり大変だと思うので、「無理ですよ」って言うんですけど、みんなあんまり聞いてくれなくて。
山本 信じてくれない(笑)。
奥 僕が何人雇ってると思ってるんですか?って話ですよ。結構なお金をかけてあの画面を作っているので。
山本 何人雇ってるの?
奥 今、外注入れて5人雇ってます。それで目いっぱいなので、あれを1人でやるっていうのはちょっと無理だと思うんですよね。ホント気が遠くなる作業なので、1人じゃやってらんないですよ。
山本 俺みたいなマンガにすりゃいいのに。
奥 白い感じに(笑)。
山本 うん。あと同じ背景を何回も使いまわしたり。
奥 ずっと学校しか出てこないとか。
山本 山ん中とかいいんだよね。木とかたいして変わんねーから(笑)。この木はこの山の木だ、とかないから。
奥 (笑)。
山本 時々左右逆に、反転させたりしてね(笑)。
「いぬやしき」連載開始直前企画!トリビュートイラスト「わたしのいぬやしき」収録
参加作家
雨隠ギド、上条明峰、木多康昭、久保保久、鈴木央、濱田浩輔、Boichi、真島ヒロ、山本直樹、山本英夫、よしながふみ
「イブニング 2014年4号」 2014年1月28日発売 / 講談社 / 350円
奥浩哉(おくひろや)
1967年9月16日福岡県福岡市生まれ。山本直樹のアシスタントを経て、1988年に久遠矢広(くおんやひろ)名義で投稿した「変」が第19回青年漫画大賞に準入選、週刊ヤングジャンプ(集英社)に掲載されデビューとなった。以降、同誌にて不定期連載を行い、1992年よりタイトルを「変 ~鈴木くんと佐藤くん~」と変え連載スタート。同性愛を題材とした同作は道徳観念を問う深い内容で反響を呼び、1996年にはTVドラマ化されるヒットを記録。マンガの背景にデジタル処理を用いた草分け的存在として知られ、2000年より同誌にて連載中の「GANTZ」はスリルある展開で好評を博し、アニメ、ゲーム、実写映画化などさまざまなメディアミックスがなされた。 2014年よりイブニング(講談社)にて「いぬやしき」の連載を開始する。
山本直樹(やまもとなおき)
1960年2月北海道生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。大学4年生の時に小池一夫主宰の劇画村塾に3期生として入門しマンガ家を志す。1984年に森山塔の名義で自販機本ピンクハウス(日本出版社)にて「ほらこんなに赤くなってる」でデビュー。同年、山本直樹名義でもジャストコミック(光文社)にて「私の青空」でデビューした。森山塔のほか塔山森の名義でも成人向け雑誌や青年誌などで活躍。1991年には山本直樹名義で発表した「Blue」の過激な性描写が問題となり、東京都条例で有害コミック指定され論争になった。1992年、石ノ森章太郎が発起人となり結成された「コミック表現の自由を守る会」の中核として活発な言論活動を行いマンガの表現をめぐる規制に反対。その後も作風を変えることなく「YOUNG&FINE」「ありがとう」「フラグメンツ」など数々の問題作を発表した。早くから作画にコンピュータを取り入れ、生々しさをともなわない硬質な筆致から女性ファンも多い。その他の代表作にカルト教団の心理を題材にした「ビリーバーズ」、連合赤軍の革命ドラマ「レッド」など。またマンガ・エロティクス・エフ(太田出版)のスーパーバイザーを務めている。