第5話の告白シーンは、実は1日延期してもらったんです
──小林さんは、太一の移りゆく心を演じるうえで、中沢さんのこのお芝居がキーになったというところはありますか。
小林 いいなと思ったお芝居はたくさんあるんですけど、いちばん痺れたのは第1話冒頭の高架下のシーンかな。2人で雨宿りをするあそこのお芝居は、「うわ、こいつすごいな」と思って。負けないようにがんばらないとなと気合いも入ったし、ちょっとやばいなって劣等感も感じました。
中沢 僕の中でも「ひだまりが聴こえる」の中で一番集中したシーンでした。第1話の冒頭ということで、視聴者の皆さんを引き込むものにしなきゃいけないというプレッシャーもあったし。カット割りもけっこう多かったんですよね。だから、何回も繰り返し撮っていて。つながりがあるから、そのたびに同じ表情をしないといけないというのもあって、あそこはけっこうがんばったシーンのひとつです。
──航平の心情としても、聴力を失うかもしれないという恐怖と、心の中で芽生えた太一への特別な思いがせめぎ合っている、非常に繊細なシーンですよね。
中沢 本当、難しかったです。台本上ではその前に耳がどんどん悪化しているという様子が描かれているんですけど、そのシーンを撮る前に高架下のシーンの撮影だったので、余計に心のつながりを自分の中でつくるのが難しくて。とにかく台本を読んで自分なりに考えるのと、あとは(クランク)インの前に実際に難聴の方のお話を聞いたときのエピソードを思い出して、気持ちをつくっていきました。
──難聴の方からどんなお話を聞いたんですか。
中沢 いろんなお話を伺ったんですけど、中でもすごく印象的だったのが、大切な家族と一緒にいるときですら、周りが話している声が聞き取れなくて、仲間外れみたいな感覚になることがあるとおっしゃっていたんですね。耳が聞こえなくなるって、それだけ孤独なことなんだって。自分では体験し得ないことだからこそ、その怖さをできる限り想像して。そこに太一への気持ちをプラスして、心の中がぐちゃぐちゃになっている状態を感じながら本番に入りました。
──小林さんはメイキングに収録されているクランクアップの挨拶で「落ち込む日もあった」ということをおっしゃっていましたね。
小林 たぶん第5話の階段で航平からキスをされるシーンのことだと思うんですけど、そこまですごいバーッと撮っていたというのもあって、まだ自分の中で気持ちの準備ができていなくて。その日の昼も、監督とお昼ご飯を食べながらずっとそのシーンについて話していたんですね。で、夕方になって、さあ撮ろうってなったときに、果たして余裕のないまま妥協して撮影に臨んで本当にいいんだろうかと思ったんです。それで、監督と話し合った結果、次の日の朝に延期してもらったんですけど、スケジュールとか迷惑をかけたこともそうですし、何より自分自身の演技力不足にけっこう落ち込みましたね。
中沢 でも、あのシーンは急いで撮るシーンじゃなかったと思う。完成したシーンを観ても、視聴者の皆さんの反応を見ても、次の日の朝に持ち越して、じっくり考える時間を取ったのは正解だったなって思うし。
小林 撮影の延期が決まった後、2時間くらいだったかな、監督と話して、なんならちょっとテストみたいな形でお芝居もさせてもらって。それだけ時間をかけてもらったことも申し訳なかったので、次の朝、撮影に入る前に皆さんにすみませんでしたって謝ったんですよ。そしたら、監督が「僕たちもいい作品をつくるためにやっているから、こだわるところはこだわりたい。だから謝らなくていい」と言ってくれて、その一言に救われたというか。「ひだまりが聴こえる」のスタッフさんは普段映画を撮っている方たちというのもあって、すごくこだわりがあって。皆さんのこだわりと僕のお芝居に対するこだわりがマッチしたことが救いだったし、何よりそういうときもそっと隣にいてくれた元紀に対してもありがたく思っています。
中沢 突きつめてよかったと思う。おかげですごくいいシーンになりました。
小林 この間、監督と偶然会ったんですよ。で、そのまま飲みに行ったんですけど、そのときも第5話のそのシーンの話になって。監督が「あのシーンが今回の撮影の一番の肝だった」と言ってくれて。次の日に持ち越しになったのは僕の反省ですけど、そんなふうに次の日に撮って大正解だったとみんなが共通認識として思ってくれていることはありがたかったですね。
元紀は戦友であり仲間です
──あとはやはりなんと言っても最終話(第12話)に登場する夏祭りでの告白シーンです。物語の最後の山場であり、おふたりにとってもこのシーンを持ってオールアップという非常に大切な場面となりました。
中沢 あの夏祭りのシーンは1日がかりで撮影したんですけど、告白のシーンはナイトシーンだったので、日が落ちるのを待つために、ちょっと時間が空いたんですね。おかげでじっくり集中できる時間をとれたことは、僕としても助かりました。
小林 確か夕食は2人で弁当を食べて、そこからちょっと時間が空いたんだよね。お互い集中する時間も大事だし、「よし、じゃあ最後だし、ちょっと最高の芝居をしてくっか」みたいな感じで1回バイバイして。僕たちは2人ともやるぜみたいなことを口に出すタイプではないので、気合いはもちろん入っていたけど、あえておちゃらけた感じで別れたのを覚えてる。
中沢 そこから僕は坂のあたりを1人でぶらぶら歩きながら気持ちを準備して。
小林 たぶんそこから撮影まで会ってなかったよね。
中沢 会ってなかったと思う。僕にとってはもう芝居のことを考えているようで考えていない時間で。走って階段のところに来るというシーンだったから体を温めておかなきゃとか、そんなことは頭にあったけど、逆に言うと考えていたのはそれくらいで。どうやって気持ちをつくろうとか、そういうことを深く考えるというより、ただただ集中していた、という感じでした。
小林 僕もずっと階段のところにいました。
──ドラマ本編ではわかりづらいのですが、メイキングを観ると、太一に抱きしめられるシーンで航平は涙を流しているんですよね。
中沢 そうですね。力ずくで泣こうとしたわけではなく、(芝居を)やってたら自然と涙が出てきました。
小林 あそこはみんなにとって最後のシーンだから、監督も気合いが入っていて、「こういう思いだったらどうなる?」っていろんなパターンを何回も試していたんですよ。本編に使われたのはそのうちのワンカットで。元紀には何回もやってもらって申し訳ないなと思いつつ、僕も監督の演出に乗ってお芝居をしていました。
──このBlu-ray / DVDの発売を持って、一旦「ひだまりが聴こえる」はひと区切りを迎える形となります。W主演として一緒に走り抜いた相手に伝えたい言葉はありますか。
中沢 「ひだまりが聴こえる」が終わってからも虎の活躍はテレビで見ているので、すごく刺激を受けています。ここからお互い頑張ってもっと力をつけた状態で、10年後、20年後、また共演できたら面白くなるんじゃないかなと思っています。その日まで僕もがんばります!
小林 元紀も朝ドラ(連続テレビ小説「あんぱん」)が決まってるしね。それもだいぶ素敵な役だと聞いてるので、これで元紀が数段上の世界に行っちゃうのかなと思いつつ(笑)。でも僕も負けていられないので。元紀に置いていかれないように一生懸命がんばりたいと思います。
──おふたりの関係性に名前をつけるとしたら、どんな言葉になりますか。
中沢 えー! (考えて)虎之介くんからお願いしていいですか?(笑)
小林 逃げたな、お前!(笑) 言葉にすると、か。難しいなあ……。でも、ありきたりな言葉かもしれないですけど、戦友であり仲間です。それは元紀に限らず、(2人が2023年に共演した)「下剋上球児」のチームはみんなそうなんですけど。同世代の男として、1人の若手俳優として、仲間意識はすごく強いです。
中沢 そうだね。「下剋上球児」で一緒にやってきたメンバーは、みんな仲間って感じがする。虎もまた仲間であり、ライバルであり、友達であり、唯一無二の人ですね。
プロフィール
中沢元紀(ナカザワモトキ)
2000年2月20日生まれ、茨城県出身。2022年配信のWebドラマ「メゾンハーゲンダッツ ~8つのしあわせストーリー~」で俳優デビュー。以降、出演作としてフジテレビ系ドラマ「ナンバMG5」、TBS日曜劇場「下剋上球児」、フジテレビ系月9ドラマ「366日」、映画「沈黙の艦隊」など。「下剋上球児」ではバッテリー役で小林と共演。2024年11月公開の「ファストブレイク」では映画初主演を務めた。待機作としてNHK2025年度前期のNHK連続テレビ小説「あんぱん」への出演を控えている。
中沢元紀 (@motoki.nakazawa_) | Instagram
小林虎之介(コバヤシトラノスケ)
1998年2月12日生まれ、岡山県出身。中沢と共演した「下剋上球児」で連続ドラマ初レギュラーの座を掴む。以降、フジテレビ系「PICU 小児集中治療室 スペシャル 2024」、日本テレビ系「花咲舞が黙ってない」、テレ東系「ダブルチート 偽りの警官 Season1」、読売テレビ・日本テレビ系「約束~16年目の真実~」に連続出演。NHKのドラマ「宙わたる教室」では柳田岳人役を演じ話題に。2024年6月にオフィシャルファンサイトを設立した。