ドラマ「ひだまりが聴こえる」中沢元紀×小林虎之介インタビュー|ゾンビの撮影、告白シーン…“戦友で仲間”の2人が今だから話せること

人と距離を置くことが当たり前になってしまった難聴の大学生・杉原航平と、明るくまっすぐな性格の同級生・佐川太一が織りなすヒューマンラブストーリー「ひだまりが聴こえる」。一見接点のないように見える正反対な2人を、聴覚に障害のある生徒に講義内容をリアルタイムで伝えるボランティア“ノートテイク”がつなぐ。

文乃ゆきによる原作は、シリーズ累計発行部数210万部を突破。2017年に実写映画化され、2024年にはドラマ化を果たした。ドラマは、2人がノートテイクを通じて心を通わせていく繊細で温かいストーリーが感動を呼び、2024年7月度のマイベストTV賞月間ノミネートで得票数第1位を獲得するなど、高い評価を得ている。

そんなドラマ「ひだまりが聴こえる」のBlu-ray / DVD BOXが、1月29日にリリースされる。コミックナタリーではこれを記念し、杉原航平役の中沢元紀と佐川太一役の小林虎之介の独占インタビューを実現。ここでしか観られない特典映像に関する思い出から、今だから話せる撮影時の心境までたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 横川良明

ゾンビの撮影は疲れて本当のゾンビみたいになってた(笑)

──Blu-ray / DVD BOXには特典映像として、八重樫風雅監督、牧野将監督とのビジュアルコメンタリーが収録されています。

中沢元紀 自分のお芝居を何回も見ることがないので、ちょっと恥ずかしかったですね(笑)。監督と一緒にということもあって緊張したんですけど、監督が裏で考えていたことを知ることができて楽しかったです。

小林虎之介 ビジュアルコメンタリーを撮ったのがオールアップの2~3週間後だったんですよ。みんなと会うのがちょっと久しぶりだったので、同窓会みたいな感じでした。

──ビジュアルコメンタリーによると、ドラマ本編でもけっこうアドリブが使われていたみたいですね。

小林 だいぶアドリブは入れていたような記憶があります。でも、実際に入れている量を考えたら、本編で使われているのはちょっとじゃない?

中沢 だね。セリフが終わってからカットがかかるまでの間がけっこう長いんですよ。たぶん監督がそこで僕らが何をやるのか楽しんで、あえて伸ばしていたと思うんですけど。だから僕らもその間を埋めるためにひたすら2人で何かやっていましたね。

中沢元紀演じる杉原航平。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

中沢元紀演じる杉原航平。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

小林虎之介演じる佐川太一。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

小林虎之介演じる佐川太一。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

──さらに特典映像には劇中で航平と太一がゾンビ役で参加した映画「D/Z~ディアゾンビ~」完全版も収録されています。

中沢 初めてのゾンビ役だったので、撮っていてすごく楽しかったです。航平としてどこまでやっていいのかというのは最初考えたんですけど、航平はやると決めたら一生懸命がんばる人。だから、もうゾンビになりきって思い切り発散しようと(笑)。

小林 僕も太一は役者ではないので、そこまで突きつめて考えなくてもいいのかなと。僕自身がもともと韓国のゾンビ映画が好きなので、そのオマージュのつもりで楽しんでやっていました。

中沢 首の筋をいかに出すかみたいな話をして。

小林 したした(笑)。でもけっこう疲れたよね?

中沢 その日は1日中ゾンビの撮影で。前半は2人とも楽しんでやっていたんですけど、後半は疲れて本当にゾンビみたいになってた(笑)。

劇中に登場するホラー映画「D/Z~ディアゾンビ~」の収録風景。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

劇中に登場するホラー映画「D/Z~ディアゾンビ~」の収録風景。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

──メイキングも拝見しましたが、思ったより短期間の撮影だったのでびっくりしました。航平のお母さん役を演じた西田尚美さんは3日間、太一のおじいちゃん役を演じたでんでんさんは2日間の撮影だったんですね。短い間で家族感を出すのは大変だったのではないでしょうか。

中沢 時系列がわからなくなるし、その前のシーンの心情も考えてやらないといけなかったので難しかったんですけど、お芝居の面では西田さんに助けていただいたなと思います。本当に柔らかくてかわいらしいお母さんという感じで。おかげで航平としても静かにツッコんだり、ちょっと呆れたり、すごくやりやすくお芝居をさせていただきました。

小林 短い撮影日数の中で家族のような関係性になるのはなかなか難しいところがあるんですけど、僕も元紀と同じで、でんでんさんが本当に素晴らしい役者さんなので、でんでんさんのお芝居に乗っかる形で楽しんでやらせてもらいました。

──西田さんとの撮影が3日間ということは、第11話の玉ねぎを切りながら泣くシーンも3日のうちに撮ったということですよね。なかなか気持ちが入るのが難しかったんじゃないかと思いますが。

中沢 あのシーンはもともと泣くつもりではなかったんです。航平としても親の前で泣きたくないという気持ちはあると思うので。でも泣きたくないと思うほど、それに反発して涙が出てきたというか。西田さんが隣にいるだけで安心するお母さんとしていてくれたおかげで、今までのことを思い出して自然と涙が出てきました。西田さんにはもう感謝しかないですね。

中沢演じる航平と西田尚美演じる航平の母。自宅で料理教室を開いている母から、航平は太一が好きなハンバーグの作り方を習う。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

中沢演じる航平と西田尚美演じる航平の母。自宅で料理教室を開いている母から、航平は太一が好きなハンバーグの作り方を習う。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

──太一とじいちゃんで言えば、回想でじいちゃんの前で泣くシーンが印象的です。

小林 あのシーンは、でんでんさんの持ってる新聞が逆さなんですよね。それもでんでんさんがテストで撮影しているときに「新聞を逆さにして読むふりをしたらどうか」って監督に提案してそうなったんですけど。新聞が逆さというお芝居がちょっと昭和チックだねという話で、監督とでんでんさんが盛り上がっていたのが思い出に残っています。

小林演じる中学生時代の太一と、でんでん演じる太一の祖父。太一は両親の離婚を機に、祖父と一緒に暮らすこととなる。そんな太一の誕生日に、祖父はハンバーグを振る舞う。ハンバーグは真っ黒に焦げていたが、太一は泣きながらそれを味わうのだった。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

小林演じる中学生時代の太一と、でんでん演じる太一の祖父。太一は両親の離婚を機に、祖父と一緒に暮らすこととなる。そんな太一の誕生日に、祖父はハンバーグを振る舞う。ハンバーグは真っ黒に焦げていたが、太一は泣きながらそれを味わうのだった。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

足をクロスしてる振り返り方が太一だって感じがした

──では、ここからはおふたりがどんなふうに「ひだまりが聴こえる」という作品に臨んだのかを振り返らせてください。改めてになりますが、原作のどんなところに魅力を感じましたか。

中沢 原作を読んだときに、本当にひだまりみたいな作品だなと思ったんですね。読んでいて心が温かくなるこの感じを映像でも表現したくて。航平に関しても、太一と出会うまでの殻に閉じこもっている孤独感とか儚さかとか、そういうところをビジュアル含めて出していかないといけないなと思いました。

小林 原作を読んだときに、ラブよりもヒューマンドラマとしての印象がすごく残って。難聴の男の子とノートテイカーの男の子が、友情から始まって、その延長線上としてラブになっていく心理描写が丁寧で、僕が知っているBL作品とはまた全然違ったんですね。そこがすごく面白くて、今、いろんなBLドラマが放送されているけど、また違った角度の作品になるんじゃないかと思ってお受けしました。

中沢 航平が太一を好きになっていく心の動きをどう表現するか、台本を読んでいるときはすごく考えていたんですよ。けど、いざ現場に入ってみると虎(小林)が心の殻をこじ開けるような芝居をしてくれたので、あんまり考えすぎなくても虎の芝居に反応していれば大丈夫だなと安心できたというか。あとはもうやるだけだなって。

お弁当と引き換えに、太一にノートテイクをしてもらうことになった航平。講義中、太一は教授が話している内容をノートに書いていき、航平はその内容を確認する。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

お弁当と引き換えに、太一にノートテイクをしてもらうことになった航平。講義中、太一は教授が話している内容をノートに書いていき、航平はその内容を確認する。©「ひだまりが聴こえる」製作委員会

──中沢さんの中で、小林さんの演じる太一のまっすぐさを感じた瞬間はありましたか。

中沢 第4話の、テストが終わって学校で2人が別れるシーンがあるんですけど、太一が振り返って「夏休み楽しんでな」って言うんですよ。そこで、足をクロスして上半身だけこっちに向ける振り返り方が太一だって感じがして。あの虎のお芝居が好きで、あの後の僕の表情は、自然と虎のお芝居を受けての表情になっていたと思います。

小林 段取り(カメラを使用せずに行うリハーサルのこと)のときは普通に振り返っていたんですよ。けど、(足を)クロスした方が太一らしいかなと思って、ああいう形になりました。