日丸屋秀和「ヘタリア」シリーズは、世界をモチーフに描く“国民性コメディ”。これまでアニメ、ミュージカルと長きにわたりメディアミックス展開され、現在ジャンプ+で連載中の「ヘタリア World★Stars」を原作とした最新作ミュージカル「ヘタリア~The Fantastic World~」が、U-NEXTで独占配信されている。
今回U-NEXTでの独占配信を記念して、アニメ「ヘタリア」とミュージカル「ヘタリア」のコラボ企画が実現。アニメでイタリア役を演じる浪川大輔と、ミュージカルでイタリア役を演じる長江崚行の対談を行い、イタリアを演じるうえでの工夫や苦労、意識している点などを軸に、それぞれの活動への思いを語ってもらった。
取材・文 / 青柳美帆子
ミュージカル「ヘタリア~The Fantastic World~」ダイジェストPV公開中
イタリアを演じることの面白さと難しさ
──アニメ「ヘタリア」シリーズでずっとイタリアを演じている浪川さんと、ミュージカル「ヘタリア」シリーズで同じくずっとイタリアを演じている長江さん。お話するのは実は今回が初めてだそうですね。
長江崚行 浪川さんとずっとお話ししてみたかったので、本当にうれしいです! 「ヘタリア」が舞台化することになって、イタリア役として舞台に立ったのが、僕が17歳の頃。この業界でこんなに大きなお仕事をもらえたのは初めてで、アニメ版の「ヘタリア」を何度も何度も観て、「浪川さんが作り上げたイタリアを、どう舞台上で表現したらいいんだろう?」ということを考え続けていました。そんな浪川さんとお話できるのは、すごく緊張するし変な感覚で……なんだか、自分の中の1つの目標が叶ったような気持ちです(笑)。
浪川大輔 えー、うれしい。ありがとう。ただのおじさんですよ(笑)。原作やアニメがある作品の2.5次元舞台をやるというのは、本当にプレッシャーだと思うんです。僕も声優として、他の方が演じていた役を引き継いで“2代目”や“3代目”をやらせてもらうことがありますが、それってすごく大変な思いをするんです。「最初に見たものが好き」という気持ちを抱いているファンの方はやっぱり多い。形は違えど、ほかの人がすでに演じているキャラクターを今度は自分が演じるということ、元のキャラが好きな人たちを納得させることは、とても難しいことです。なので、舞台はきっとすごく大変ですよね。
長江 いやいやいや! 原作はもちろん、アニメで声を担当する皆さんがいてくださったから、舞台は成り立っていると思っています。浪川さんたちがある種「教科書」をやってくださっているからこそ、僕らは「舞台という場所でどう立体的にできるだろう」「人が実際の体でやったらどうなるだろう」とチャレンジできます。
浪川 原作やアニメを大切にしてくれる気持ちって、お客さんにもきっと伝わっていると思います。以前のメディアミックス展開をどれくらい参考にするかは役者さんごとに違って、「正解」はない世界だと思いますが、大切にしている気持ちがあると、お客さんは安心感を覚える。個人的には長江さんはじめ、舞台のキャストさんに対しては、「広げてくれてありがとう」という気持ちでいっぱいです。
──おふたりは、イタリアを演じる際、どういったことを意識していらっしゃいますか?
浪川 「ヘタリア」は最初ドラマCDから始まり、そこからアニメになりました。5分ほどの枠で、オープニングなどを抜くと本編は3分ほど。「この短い時間で、見落としてほしくないな、印象付けたいな」という気持ちがありました。そんな気持ちから出てきたのが、アニメでのイタリアのしゃべり方や声質なんです。原作のよさを失わずに、インパクトを残せるといいなと思ってのことでした。
──普段の浪川さんの声や役柄のイメージとはまた違う雰囲気ですよね。
浪川 そうですね、僕の地声とも全然違います。イタリアは、我が道を歩んでいますが、同時に周囲に振り回されるキャラクターでもある。我を出さなきゃいけないし、合わせなきゃいけないし、ボケてるところも天然なところもあったりして、1回の収録でもかなり精神力を使います! 舞台の本番は1時間以上、稽古だと1日中それをやっているんですよね。信じられない、できる人を見てみたい……と思ったら、ここにいた(笑)。
長江 うれしい言葉すぎて、どんどん緊張してきました(笑)。浪川さんがおっしゃっているように、イタリアはマイペースだし、自分の考えがはっきりあって、意外とブラックジョークもけっこう言う。でもなんだかんだで憎めない。そんなイタリアを演じるにあたっては、「嫌われないようにしよう」ということをずっと目指していました。「主人公らしくあろう」と思っているわけではないけど、なんだかんだ気付いたらみんなの中心にいて、その姿が嫌われないようなイタリアを演じたいと、いろんなことを考えました。もちろん、浪川さんのアニメのお芝居は、すごく参考にさせていただいています!
浪川 イタリア、けっこう皮肉っぽいことを言うんですよね。でもそれがあんまり皮肉に聞こえないようにしたい。僕が長江さんに対してすごいなと思うひとつは「表情」です。アニメは絵がありますが、舞台では役者さんたちがキャラクターの表情をしている。長江さんは、セリフもそうですが、セリフを言っていないときの表情もすごくイタリア。根っからの明るさによって、場の空気が変わる感じ。周りを引きつけて、照らしてあげるような、太陽のような感じを受けました。すごく研究されたんだろうなと。
長江 あ、ありがとうございます……!
──おふたりとも、キャラクターとして、お芝居だけでなくキャラクターソングやミュージカルなど歌も歌っています。イタリアとして歌うことは、どのような難しさがあるでしょうか?
浪川 キャラクターソングを歌わせてもらっていますが、すごく大変です。僕の地声とも違うし、歌の中でさっき言ったようなイタリアらしさを出すのは高いハードルがある。そこに加えて勢いで「ボーノボーノ」と言っているところもあって、なかなか難しい……。
長江 キャラクターを維持して歌うことは本当に難しいけど、楽しいです。ミュージカルだと、本来歌や踊りをしないであろうキャラクターがそうすることもある。ある意味、歌や踊りが新しいキャラクターの一面であり、新しいキャラクター解釈だと思うんです。「こういう新たな一面はどうでしょうか?」とお客さんに提示している部分があって。さらにそこに役者の素の部分も乗っかるというのが、舞台の面白いところだし、僕らの仕事じゃないかなと感じています。
浪川 声優がキャラクターソングを歌うときは、声優である自分……僕の場合は「浪川大輔」が見えないように歌いたいんです。でも役者さんの場合、自分の身を出しながら、キャラクターをまとって、しかもそれを維持しながら歌わなきゃいけない。ひとひねり、ふたひねりも苦労がありそうだなと思っています。
長江 先ほどのような「新しい解釈」を考えられるのも、アニメのキャストの皆さんが「ヘタリアのキャラクター」を作り上げてくださっているからだと思います。そこで作り上げられているキャラクター像を守りつつ、生身の人間が演じてお客さんの前に立体的に現れたときに、これまでには含まれていなかった解釈をお客さんに投げていくような挑戦ができるのかなと。それに対して好みが生まれるのは当然なので、いろいろな声が返ってくることも当たり前にあると思いますが、「これも面白いな」と思ってもらえることがあれば楽しいです。
「舞台に立つ」ということ
──長江さんは、この機会に浪川さんに質問してみたいことがあるそうですね。
長江 そうなんです! すごくいっぱいあるんですけど……浪川さんはストレートな芝居からコンサートまで、舞台に立つこともたくさんあるじゃないですか。マイクの前に立つときと、舞台では、感覚が違ったりするんでしょうか?
浪川 もう全然違いますよ! 身に染み付いているものがあって、それがまったく通用しない、もしくはマイナスな影響が出てしまうことがあるなと感じます。だから僕も、舞台に立つときは「舞台モード」ですね。特に原作ありの舞台に立つときは、所作や振り向き方、歩き方まで心がけなきゃいけないから、「やることが多いな……」とすごく思ってます。
長江 やっぱり浪川さんでもそうなんですね。僕は逆に、「ヘタリア」とは別作品でドラマCDに携わらせていただいた経験があって。そのときに「こんなにマイク前と舞台上の声の響き方って違うのか!」とびっくりしたんです。でも浪川さんは、いろいろな声優さんと舞台をやっていて、素敵なお芝居をされているじゃないですか。浪川さんならきっとシームレスに自分の感覚を合わせることができるんだろうと思っていました。
浪川 きっと、どういうレッスンを積んできたかによって、舞台に立つ感覚は違ってくるんだと思います。僕自身はもともと子役で、昔は身体を動かすほうが多かったんですよね。そういう意味では、舞台に立つことは「舞台の感覚を思い出す」だったんです。20年ぐらい立ってなくて、大人になってから舞台に立つのはめちゃめちゃしんどかったです。セリフも全然覚えられないし(笑)、舞台の歩き方も忘れていた。舞台って、ただ歩くだけでも技術がいる。本当に細かいところからやり直しました。
──浪川さんは声優以外にも番組「Uncle Bomb お笑い単独ライブへの道」などでお笑いや音楽活動に挑戦してらっしゃいますね。さまざまなことに挑戦することは、浪川さんにとってどんな意味合いがあるんでしょうか。
浪川 そうですね、本当にいろんなものに挑戦させてもらっています。僕は歌でデビューしたのも30代中盤だったりで、何歳になってからも挑戦することが大事だなと思っています。大好きなエンタテインメントで、みんなを喜ばせることができるのであれば、なんにでも挑戦させてもらいたいですし、逆に素晴らしい表現力を持っている人を見るのも大好きだし、そういう人を見てお客さんが盛り上がるのもうれしい。何かに挑戦して得られるものは、やってみなきゃわからない、だからやってみよう、というのはずっと思っています。
長江 やってみなきゃわからない……すごく刺さります。浪川さん、もう1つ質問してもいいでしょうか。舞台では、イタリアとロマーノは別の役者が演じているんですが、アニメはどちらも浪川さんが演じていますよね。どんなふうに違いを意識してらっしゃいますか?
浪川 企業秘密です(笑)。というのは冗談として、この記事を読んでくれる方に誤解なく伝わるといいな……。感覚的な表現になりますが、イタリアは2次元的に作り込んだイメージなんです。ロマーノはそこからもうちょっとナチュラルな感じ、3次元にいそうなしゃべり方に向けてアタックしているような気持ちで演じています。
長江 ありがとうございます、すごく勉強になります!
アニメとミュージカルでつないだバトン
──ミュージカル「ヘタリア~The Fantastic World~」は、千秋楽を終えたばかりです(取材は、東京千秋楽翌日4月24日に行われた)。
長江 走り抜けました! 本作は、「お客さんにどれだけ喜んでもらえるか」を突き詰めた作品になっていると思います。今、情勢的に、自覚できないモヤモヤがみんなそれぞれ溜まっている気がします。それを少しでも晴らせれば、僕らがやった意味があるのかな……と、考えながら1つひとつ公演をやらせてもらいました。配信で初めてご覧になる方には、何も考えずに楽しんでもらって、気に入っていただけたら次は劇場であの空気感を楽しんでいただけるとうれしいです。
──特に印象深いシーンはありますか?
長江 実は、さっき浪川さんの言葉に、勝手に運命を感じてしまったんですが……「やってみなきゃわからない」と、まさにイタリアが言うシーンが本作にあるんです。
浪川 おお!
長江 演じながらもすごく刺さったセリフでした。自分がちょっとでもやってみたいこと、挑戦しないといけないことは、逃げずにやらなきゃいけないな、と改めて思いました。本作は幸せやエンタメが詰まっているけど、心に刺さるシーンが必ずあると思うので、隅々まで楽しんでいただけるとうれしいです。
浪川 SNSやお手紙で、「舞台版のヘタリア、すごいですよ!」という声をすごくいただきます。「ヘタリア」という作品は僕にとってすごく大切な作品の1つです。まだアニメの世界に慣れていない中、座長をやらせてもらった作品ですし、初めて主題歌を歌わせてもらったり、初めて海外に呼んでもらったり……人気や盛り上がりもすごかった。ただ、どうしてもアニメって、放送期間が終わると落ち着いてしまうところがある。どんどん新しい作品が出てきますから。そんな中、ミュージカルが長い間、作品愛をもって展開してくれていたのは、「ヘタリア」にとってとてもいいことだったなと思っていて。
長江 すごくうれしいです! 今言ってくださったことは、僕だけじゃなくて、「ヘタリア」のミュージカルに携わるキャストとスタッフみんなにとって、うれしいことだと思います。今後ミュージカルが新しい展開を迎えることができるとすれば、今いただいた言葉を原動力にして、よりいろんな人に届くように走り続けたいです。
浪川 大切に1ステージ1ステージ続けてくれるのが本当にうれしい。こないだ3月にやったソロライブで、「地球まるごとハグしたいんだ」(アニメ「ヘタリア World★Stars」主題歌)を歌ったんですよ。自分のライブでキャラソンを歌ったのは初めて。超ロックなライブだったんですけど、あえて入れてみました(笑)。それくらい「ヘタリア」に思い入れがあるんですよね。舞台には、そんな「ヘタリア」という作品自体を広げて、新しい人たちに知ってもらうきっかけになった一面があると思っています。舞台に関わっている皆さんに、僕は感謝の気持ちでいっぱいです!
ミュージカル「ヘタリア」&アニメ「ヘタリア」シリーズはU-NEXTで配信中
U-NEXTではミュージカル最新作・ミュージカル「ヘタリア~The Fantastic World~」のほか、2015年上演のミュージカル「ヘタリア~Singin’in the World~」、2016年上演のミュージカル「ヘタリア~The Great World~」、2017年上演のミュージカル「ヘタリア~in the new world~」、2018年上演のミュージカル「『ヘタリア』 FINAL LIVE~A World in the Universe~」、新シリーズの幕開けとなった2021年12月上演のミュージカル「ヘタリア~The world is wonderful~」をそれぞれ配信中だ。なお、ミュージカル「ヘタリア~The Fantastic World~」の独占アーカイブ配信は、6月30日まで実施される。
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U-NEXT ミュージカル「ヘタリア~The Fantastic World~」
※6月30日まで独占アーカイブ配信
配信詳細
2023年4月9日(日)大阪公演(昼/夜)
2023年4月10日(月)大阪公演(昼)
2023年4月23日(日)東京公演(昼/夜)
※4月9日(日)昼公演のみ全景配信価格:全景2500円、スイッチング3700円 / 7日間
またアニメは2009年放送の「ヘタリア Axis Powers」、2010年放送の「ヘタリア World Series」、2013年放送の「ヘタリア The Beautiful World」、2015年放送の「ヘタリア The world twinkle」、2021年放送の「ヘタリア World★Stars」に加え、2010年に公開された初の劇場版「銀幕ヘタリア Axis Powers Paint it, White(白くぬれ!)」もラインナップされている。U-NEXTへの加入方法などは、公式サイトをチェックしよう。
浪川大輔出演!「Uncle Bombお笑い単独ライブへの道」、Uncle Bombが所属するKiramuneコンテンツもU-NEXTで!
「Uncle Bombお笑い単独ライブへの道」は、浪川と吉野裕行がユニット・Uncle Bombを結成し、彼らが声優初の「お笑い単独ライブ」を成功させるまでを追った、U-NEXTのオリジナルドキュメント番組。
Kiramuneは、Uncle Bombの浪川と吉野をはじめ、入野自由、神谷浩史、岡本信彦、柿原徹也、江口拓也らが所属する男性声優レーベル。浪川、柿原、吉野によるジョイントライブ「Joint Live 2018“VERSUS”」の2日目公演や、神谷、浪川、柿原、岡本、江口、SparQlewが集った音楽イベント「Fan×Fun Time 2021」のDAY.1、DAY.2、総勢12人で贈るレーベル10周年の記念ステージ「Kiramune Music Festival ~10th Anniversary~」がU-NEXTで楽しめる。
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U-NEXT「UncleBombお笑い単独ライブへの道」
U-NEXT「UncleBombお笑い単独ライブへの道」特設ページ
©︎Kiramune Project
プロフィール
浪川大輔(ナミカワダイスケ)
1976年4月2日生まれ、東京都出身。幼少期から子役として活動し、アニメへの出演や洋画の吹替など幅広く活躍。「BLACK LAGOON」「シグルイ」「君に届け」などのTVアニメでメインキャラクターを演じ、2010年には第4回声優アワードで助演男優賞を獲得した。その後「HUNTER×HUNTER」、「LUPIN the Third」シリーズ、「ハイキュー!!」シリーズ、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」などに出演する。
浪川大輔 (@namidai0329) | Instagram
長江崚行(ナガエリョウキ)
1998年8月26日生まれ、大阪府出身。2007年に9歳で芸能活動を始め、2009年から2012年までの4年間、NHK「天才てれびくんMAX / 大!天才てれびくん」にレギュラー出演。その後、ダンス&ボーカルグループの活動で歌唱とダンスの実力を身につけ、2015年にはミュージカル「ヘタリア」に17歳ながら主演に抜擢。近年の主な出演作に、ミュージカル「憂国のモリアーティ」(フレッド役)、舞台「文豪ストレイドッグス」シリーズ(江戸川乱歩役)、「虹色とうがらし」(主演・七味役)、LIVE STAGE「スケートリーディング☆スターズ」(主演・前島絢晴役)、「アーモンド」(主演・ユンジェ役 / ゴニ役)などがある。ラジオ&舞台の連動企画「青山オペレッタ」でも主演を務めたりと、演技力・歌唱力を備えた若手俳優として注目されている。