GIGATOON Studio代表取締役・太田淳一郎とCOO・五十嵐悠インタビュー|“次のマンガ”ではなく、“マンガの次”を作る あのDMMがWebtoon事業に参入、本気の資本と戦略ではじまるGIGATOON

「全裸監督」プロデューサーと組んで、タテ読みと映像系との相性を検証

五十嵐 先ほど分業制の話をしましたが、GIGATOON Studioはタテ読みの制作に対してかなり柔軟に取り組んでいます。例を挙げると、分業制で作る作品もあり、個人の作家さんによる作品もあり、既存のライトノベルをタテ読みマンガ化する作品もあります。それから「全裸監督」プロデューサーのたちばなやすひとさんと組んで、彼が取りまとめる若手のライターさんたちにチームライティング制で原作を書いてもらったりもしています。

──黎明期だからこそ、さまざまなやり方を試行錯誤している?

五十嵐悠氏

五十嵐 その通りです。たちばなさんに入っていただいたのも、「タテ読みは映像系と相性がいいのではないか」という仮説に基づいていて。従来のヨコ読みのマンガはコマ割りが複雑で、ネームを描くときに“逆Z字”で読まれるという視点誘導を意識したり、次のページに行かせる“めくり”の技術とかが必要になってくる。でもタテ読みは映像分野の絵コンテに近いんです。

──確かにタテ読みは縦にスクロールするものだから視点誘導はシンプルですし、映像の絵コンテも4コママンガのように縦に並んだ四角の枠に描いていきますね。

五十嵐 ええ。これは異論があるかもしれないんですが、タテ読みは従来のマンガより受動的にインプットしていくものじゃないかと思っていて。スクロールはしますが、どちらかというと映像系のメディアに近い視聴体験、受け取り方というか。なので、“マンガの作法”みたいな従来の常識を考えないほうがタテ読みに合致するのでは、という可能性を検証しているところです。DMMはこれまでオリジナル作品を作ってこなかったので、マンガ系じゃないクリエイターとつながって、その方々に作ってもらうことに抵抗がない。要はしがらみがないんです。

──映像系プロデューサーのたちばなさんを起用されたと聞いて、この1月に映画監督の堤幸彦さんたちが「SUPER SAPIENSS」というプロジェクトをスタートさせたことを思い出しました。原作作りから映像化までの全プロセスを一気通貫で行うというプロジェクトで、その第1弾としてWebtoonを制作するそうです。Webtoonは映画の絵コンテのようにダイナミックで明快な場面展開が表現できるから、映像コンテンツの足がかりになると。

太田 考えていることは近いかもしれません。GIGATOON Studioでも映像化はかなり意識しています。タテ読みが原作となる映像作品は、今後かなりのビジネスチャンスだと考えていて。それに、DMMにはアニメレーベルのDMM picturesを展開するアニメーション事業部という生産ラインがある。DMMブックスというプラットフォームだけでなく、DMMグループとしての巨大なプラットフォームのアセットを活かした戦い方ができるのは僕たちの強みだと思っています。

──プラットフォームを持っている制作スタジオ、というのは確かに強みですね。

太田 DMMは3545万人以上の会員を擁している……つまりその規模の売り場を持っています。そこから得られるデータも、僕たちは積極的にGIGATOON作りに活かしていきたいと思っていて。きちんとWeb広告も出せますし、そこでクリック率の高いカットの情報をクリエイターにフィードバックしてGIGATOONを作っていける。

GIGATOON Studioオリジナル作品「平成★リテイク」より。「復讐の赤線~恥辱にまみれた少女の運命~」で知られるユーナ株式会社が原作を担当している。

五十嵐 一緒に作品を作る仲間になってくれるクリエイターには、手厚いインセンティブを用意しています。そしてプラットフォームを持っているからこそ、作品人気が出てよりインセンティブが上がるような情報のフィードバックもできる。そういう環境を整えています。

太田 まだ国内で作られたタテ読みは数少ないので、GIGATOON Studioではタテ読みの制作実績のある会社と提携して、作り方に関するレクチャー会を開くといったサポートも行います。

五十嵐 本当にタテ読みに対して本気度高くやっていきますので、クリエイターさんを絶賛募集中です。少しでも興味を持ってくれたクリエイターの方にはチャンスを提供できるので、個人・企業を問わず連絡をお待ちしています。

太田 クリエイターさんだけじゃなく、GIGATOON Studioの従業員も募集しています。編集者、事業開発できる人も応募してくれたらうれしいですね。

タテ読みを、従来のマンガのロジックで作ると通用しない

──Webtoonの大手は大型の予算を最初から投入するブロックバスター戦略を展開していて、例えばLINEマンガはBTSと組んでオリジナルWebtoon作品をスタートさせました。DMMでもブロックバスター戦略は検討していますか?

太田五十嵐 やります。

五十嵐 まだ詳細は明かせないのですが、かなり踏み込んでコストをかけて展開する予定です。天井がないわけではないのですが、「いくらまでに抑えよう」みたいな前提では考えていません。

──日本でブロックバスター戦略ができるとしたら、DMMはその1つだろうと思っていました。もうひとつ、Webtoon大手はグローバル戦略、世界展開に力を入れています。そちらはいかがでしょう?

えびさわまよによるGIGATOON作品のキャラクターデザイン画。

太田 もちろん国内外で戦略を考えています。むしろグローバルは積極的に展開していきたい。出版の場合、日本の配送網は優秀なので本が発売日に一斉に並びますが、海外だとそれが難しいことが多いんです。なので“配送”がネックになるんですが、タテ読みはWebコンテンツなのでそれがない。さまざまな言語圏での、発展途上国も含めたスマホの普及率の拡大を考えれば海外市場は絶対無視できません。

五十嵐 紙での海外展開だと、日本国内で単行本がすごく売れて、それを現地の出版社がローカライズして発売して広がっていくという段階を踏むんです。それでも世界に広まっていく日本のマンガは本当にすごいんですが、やはりフローが多い。タテ読みの場合、なんなら「最初から北米で展開しちゃおう」も全然ありだと思っていて。極端な話、「日本で人気が出たから北米にも」じゃなくて「日本で人気が出なかったから北米で展開してみよう」みたいな選択も考えられます。

太田 翻訳コストも我々が負担するイメージでいます。

──成長著しいタテ読みマンガですが、その面白さっておふたりはどこだと思いますか?

太田 僕はインスタントに楽しめるところだと思っていて。

──忙しい現代人に合ってる?

太田 そうです。僕は今、30分のアニメを観るのがギリギリで……。それ以上長いエンタメは気合いが必要になる(笑)。タテ読みは1話を2、3分で読めて、しかもヒキがしっかりしてるので次も読みたくなるんです。

五十嵐 実は最初はタテ読みを少し甘く見ていました。と言うのも、僕はもともと日本の伝統的なヨコ読みマンガに親しんできて、マンガ編集の仕事もしてきました。ヨコ読みマンガの楽しみ方は現在どんどん高度化している印象です。雑誌で作品を読み、好きになったらより深く知るために単行本を購入し、感想や考察をSNSなどで共有するところまでが楽しみ方になっています。でもWebtoonはそれとは真逆の成長をしているエンタメコンテンツだと思っています。Webtoonって、いわゆる考察スレみたいな存在はほぼないんです。いい意味でインスタントにスナック感覚で消費するコンテンツ中心という特徴があるかと思います。それこそ作品への感想はアプリ上のコメント欄で完結しているという側面もありますね。単行本化を前提としていないのも関係しているかもしれませんが、あまり読み返さないため、伏線は早く回収しないと忘れられてしまう(笑)。

──確かに「1日待てば無料」みたいなチケットを使って読んでいる場合、あまり読み返せないですね。過去のエピソードを読むのにもチケットが必要になるので。

五十嵐 そう、“その回で最高の面白さを提供する”ことに全力投球しているんです。ジェットコースター的な展開が好まれるのも、その回を読んだときに得られるカタルシスや読後の心地よさを重視してるんだと思います。なので現代人にすごく合っているし、その場その場で消費されるというタテ読みの前提を考えずにヨコ読みのロジックで作ると通用しないと思います。でも、これからタテ読みのクオリティはどんどん上がっていく。消費的な楽しみと考察的な楽しみ、両立できるような作品もGIGATOON Studioでは手がけていきたいです。

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E-MAIL:gs-info@gigatoon.com

太田淳一郎(オオタジュンイチロウ)
携帯電話キャリアの運用企画、JINSのSCM改革、ラクスルの事業部長を経て、DMMのCOO室として入社、2022年1月から現職。
五十嵐悠(イガラシハルキ)
新卒で小学館へ入社。マンガ編集部の編集、Webサイトの立ち上げを経てDMMに入社。現在はGIGATOON Studio でCOO兼マンガ編集。

「全裸監督」のプロデューサー・たちばなやすひと氏もGIGATOON Studioに参画! どう関わってる? 縦読みと映像は相性がいい? 将来性は?6つのQ&A

1GIGATOON Studio作品にどのように関わっているのでしょうか?
たちばなやすひと

現状は、GIGATOON Studioのオリジナル作品の10作品ほどに関わっております。GIGATOON Studioさんは立ち上げ当初から、オリジナル作品をたくさん量産するという指針を掲げていました。私は、企画からシナリオまでの工程を中心に、スタジオの体制作りにも協力させてもらっています。

具体的には、普段ドラマや映画などを書いているシナリオライターを集めて、彼らにGIGATOONの原作を書いてもらっています。まずはネーム前のシナリオまでのものを彼らと一緒に作り上げている形です。この仕組みがうまくいけば、よりスピーディに大量にオリジナル作品をスタジオ主導で作ることが可能になりますので、私にとってもこれは成功させたい挑戦として取り組んでいます。

2GIGATOON Studioの魅力はどういったところにありますか?
たちばなやすひと

挑戦する姿勢に共感しています。意思決定も早いので、一緒に作っていてストレスがありません。タテ読みマンガは、日本での成功例はまだ少ないのが現状です。ストーリーや作画の型みたいなものが、まだ成熟していないのでトライアンドエラーが続きますが、過去の流儀にとらわれず、新しいことをなんでも試していこうというスタイルと実行力が魅力だと思います。

また、作家などクリエイターへのリスペクトが高いと思います。実際、クリエイターへの還元が厚いですし、そういった姿勢に今後集まってくるクリエイターがたくさんの面白い作品を生み出していく予感をひしひしと感じます。

3今後、GIGATOON Studioではどういった作品を手がけていく予定でしょうか?
たちばなやすひと

代表取締役の太田さんやCOOの五十嵐さんと話し、まずは10作品を作ろうということになりました。おふたりの方針としてこんなタイプの作品を作っていきたいというテーマが出されたのち、私が集めたライターチームがそれぞれのテーマに合う企画を数百個は考え、そこから絞り込まれていった形です。

ジャンルなども比較的ポートフォリオ的に分散させて、まずはいろいろなタイプの作品を世に送り出してみるという形になっています。私に期待されていることとして、その後の実写化を狙える作品作りという意図もありまして、その辺りを意識したラインアップになっていると思います。

4「物語の作り方」などを指導されているたちばなさんから見て、見開きで見るタイプのマンガとタテ読みマンガの、ストーリーの作り方における一番の違いはなんだと思いますか?
たちばなやすひと

やはり、コマとコマの間の演出の違いじゃないでしょうか。どれくらいスペースを作るのか、あるいはそのスペースにセリフやモノローグを入れたりして、見開きマンガより時間を演出する感じが強い気がします。もちろん見開きマンガでも、コマの大きさやページめくりによって体験を演出する手法はあります。ただタテ読みマンガの場合、映像的な演出感覚に近いので、私にはより馴染みやすいものでもあります。そのほか、縦長な分、横長に比べて、複数の人を同時に描きにくいというのはありますので、情報量を少なくスピーディに読めるという意味でも、主体に没入したようなストーリー作りが相性がいいのだろうと考えています。

5タテ読みマンガと相性のいいジャンルはなんだと思いますか?
たちばなやすひと

先ほど書いた没入度合いが高いという意味でも、やはり「俺TUEEE」系は相性がいいとは思います。ただ私は、まだ多く作られていないジャンルとしてサスペンス性の強い作品に期待しています

毎話駆け上がるように成し遂げることが続くだけではなく、少し情報量が多く、より緊迫感のある人間ドラマというものが、もっと多くの人に読まれるようになってほしいと思っているのです。

作画能力が上がり、読み手のリテラシーも上がってくる中で、海外ドラマ的な作品が増えてくる可能性に期待しています。

6タテ読みマンガが日本でも盛り上がりを見せています。Netflixドラマ「全裸監督」、朗読劇「クローバーに愛をこめて」など、多くのジャンルの作品をプロデュースしてきたたちばなさんから見て、タテ読みマンガの面白さ、将来性、魅力などを教えてください。
たちばなやすひと

映像業界よりの話になりますが、韓国では人気タテ読みマンガ作品がNetflixなどで映像化されるケースが増えています。GIGATOON(タテ読みマンガ)には、アニメ、実写、ゲームなど、作品として他メディアに展開しやすいポテンシャルがあると思います。開発コストの高騰したアニメやゲームなどのテストマーケティング的に作られるケースも増えると思いますし、プラス作品単体でもマネタイズできる可能性がある今が、あらゆる意味でチャンスと言えるのではないでしょうか。

また、マンガ業界だけでなく、アニメ業界やゲーム業界、あるいは私のような映像業界にもチャンスがあるという意味では、ここを起点に韓国や海外に勝てるような作品の卵を作っていく土壌としても可能性が高いと思います。

たちばなやすひと
プロデュース会社Nemeton代表。東京大学卒業後、有線ブロードネットワークス(現USEN)を経て、2004年にドリマックス・テレビジョン(現TBSスパークル)入社。2018年に独立。主なプロデュース作品はドラマ「オー・マイ・ジャンプ!~少年ジャンプが地球を救う~」(テレビ東京)、ドラマ「全裸監督」(Netflix)、朗読劇「クローバーに愛をこめて」など。