「Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-」“ラブソングを聴かない”舞台版ロマニ・井出卓也にも刺さった愛と希望の物語

鈴村健一演じるロマニは「淡々としている」

──井出さんは舞台への出演が決まって以来、原作ゲームもプレイされていますよね。「Fate/Grand Order」は今年でリリースから6年目を迎え、メディアミックスやリアルイベントでの展開も盛んですが、これだけ支持されている理由はなんだと思いますか。

井出卓也

スマートフォン向けゲームのシナリオで、ここまで深いものはなかなかないと思うんですよ。細かい設定がしっかり詰まっていて、そのうえでストーリーやキャラクターのセリフが描かれている。そして、最初に奈須(きのこ)さんが発案したストーリーや設定を、ゲーム開発チームの皆さんが理解されていることも素晴らしい。外野から見ていても、1つのプロジェクトチームとして完成されているなと思います。それが理由でしょうか。

──そんな「FGO」第1部の最終章にあたる「冠位時間神殿ソロモン」ですが、アニメ化することを知ったときのお気持ちはいかがでしたか。

シンプルに「どうやって作るんだろう」と思いました。実は「冠位時間神殿ソロモン」はアニメでも舞台でもやらないと思っていたんですよ。もしアニメ化するとしたら「絶対魔獣戦線バビロニア」とセットにすると思っていて。それぞれ1つの作品として作ると思っていなかったんです。

──単独ではメディアミックスが難しいと。

はい。例えば「神聖円卓領域キャメロット」は物語として非常に明確じゃないですか。ベディヴィエールが王に聖剣を返すためサーヴァントのふりをしていて、それを成し遂げることで長年の贖罪の旅を終える。また「バビロニア」も最後にティアマトという大きな敵を倒して終わるというお話です。でも最終章はそういう独立したストーリーではなくて、これまでのロマニのことを踏まえて初めて成り立つ物語だと思うんです。そこをどう描くんだろうと思っていました。

──舞台化のときも、同じようなことを考えましたか。

そうですね。あと「冠位時間神殿ソロモン」では魔神柱と戦わなければならなくなったときに、これまでの旅で出会ったサーヴァントたちが集まってきて助けてくれる胸アツな展開があるじゃないですか。「舞台ではあそこで何人サーヴァントを出すんだろう?」と思ったり。サーヴァントたちが出てくるシーンは序盤だから、サーヴァント役のキャストに対して「みんなすごい前半で出番を終えちゃうけど大丈夫?」みたいなことも考えました(笑)。でも実際に舞台をやってみたら「なるほどこういうふうにするのか」と思える形になったので、舞台でこれだけのことができるならアニメにもアニメならではの見せ方があるんだろうなと思いました。

──舞台はこれまでの旅をダイジェストで描いてから最終決戦に突入するストーリーだったので、原作ゲームを知らない人でも、これまでの舞台を観ていなかった人でも、単独の物語として理解できるように構成されていたかと思います。一方アニメ「FGOソロモン」はダイジェストなどを挟まず、原作シナリオの流れをなぞって映像化することに注力していると感じました。井出さんはアニメについてどのような印象をお持ちですか。

アニメはいい意味で強気というか、「『FGO』を愛してくれるファンの皆さんが納得すればそれでいいんだ」という制作陣の潔い覚悟を感じました。「初めて観た人にもわかってもらって、感動してほしい」というコンセプトで作ると、やはり描ききれないところ、浅くなってしまうところがどうしても生まれてしまうと思うんです。それは劇場上映の場合、舞台に比べて時間の制約が厳しいからですね。だから僕はこの制作の姿勢はカッコいいなと思いました。

──「FGO」ファン向けといえば、アニメではダ・ヴィンチが開発した車両や藤丸の新礼装などのオリジナル要素もあって、原作シナリオを知っていると興味深いですよね。

「ダ・ヴィンチちゃんの発明にはいつも助けられているねえ」って思いましたね。原作シナリオをプレイしているときは「やっぱガンドが使えるカルデア戦闘服以外ありえないっしょ」と思ってプレイしていましたけど(笑)、「FGOソロモン」で登場した新礼装もいいですね。

──特に霊脈や触媒なしでサーヴァントを召喚できるというのは驚きました。アニメではロマニ役を鈴村さんが演じていらっしゃいますが、同じロマニを演じた井出さんとしてはいかがでしたか。

井出卓也

鈴村さんのロマニは、淡々としているなという印象でしたね。舞台のロマニとは違うんですけど、彼の一面を表しているなと思いました。正体を隠す意味でも、マシュに変な同情をしたりしないという意味でも、ああいうしゃべり方はロマニらしいですよね。あと、逆にロマニが気持ちを込めてしゃべっている場面は大変だろうなと。あの速度でしゃべりながら気持ちを込めることができるのは、素晴らしいなと思いました。

──セリフが速いということでしょうか。

速いというより、間の取り方ですね。終盤になってくるとロマニのセリフはどれも簡単には言えないんです。例えば「これを、愛と希望の物語と云う」と言うには、ソロモンだった頃からのロマニの歴史を背負って、すべての人類史を表して言わなければいけない。だから僕がロマニを演じたときはなかなか言い出すことができなくて、どうしても間が必要だったんです。それをあの限られた間で言える鈴村さんは、やはりすごいです。

人類史は「愛と希望の物語」だと感じられる作品

──アニメをご覧になって、改めて劇場のスクリーンで観たいと思ったシーンはありましたか。

僕はオープニングが気になっていますね。例えば上映時間ギリギリに駆け込んできたばかりで、落ち着いて作品を観る気持ちになれていない観客でも、オープニングさえしっかりしていれば、一気に日常の生活から離れてその世界に入り込むことができると思うんです。それを踏まえると、やっぱりアニメ「FGOソロモン」の素晴らしいところは、タイトルがバンと出て始まる冒頭の場面。タイトルを出すということは舞台ではできないことだったので、改めて劇場で見てどんな印象になるのかということは気になりますね。

──ほかにも見どころの1つとして、これまでの特異点で出会ってきたサーヴァントたちが大集合するシーンがありますよね。登場して特にうれしかったサーヴァントはいらっしゃいましたか。

オジマンディアスですね。大好きなんですよ。まずライダーとして強かったですし(笑)。

──原作ゲームでともに旅をしていたのでしょうか?

そうです。宝具も強いし、実は最初にスキルレベルをマックスにしたサーヴァントでした。聖杯も捧げています。至高のファラオですよ? 自分のことを「至高のファラオ」と呼ぶなんて、普通の人はできないですからね(笑)。

──オジマンディアス以外言えないですね(笑)。

あとはギルガメッシュが好きですね。

──我が道を往くキャラクターがお好きということでしょうか?

キングが好きなんです。だから舞台でも、ソロモンになったときはノリノリで演じていました(笑)。

──(笑)。ほかにアニメで好きな場面はありますか。

エンディングが終わってダ・ヴィンチの回想が入るところも好きですね。

──ダ・ヴィンチがロマニとの思い出を振り返りながら、「君の願いは叶ったよ」と独白する場面ですね。原作シナリオでも、すべてが終わった後にあの場面が描かれます。

ここはいいシーンなんですよね……。アニメで観たときも「やっぱりこのシーンはエンディングが終わった後に入れるよね」と思いました。

──原作ファンとして「わかってるな」と。

アニメ「Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン」より、魔神柱。

はい。あとは魔神柱が本当にゲソで気持ち悪かった(笑)。

──(笑)。

素晴らしい動きをしていました(笑)。ほかにも「レフ・ライノールってこういう姿になるんだ」とか、そういう細かいところも見応えがあります。

──「FGO」ファンは細部まで見逃せないですね。これから作品を観る方もいらっしゃるかと思いますが、そういった方に向けて、最後にメッセージをいただけますでしょうか。

今はインターネットで簡単にいろんなことを調べられる時代ですが、話題になるのはどうしても明るいニュースより暗いニュースのほうが多くて、その傾向が今の命に敏感なご時世と相まって強くなっている気がします。でも僕が思うのは、人類史とは「愛と希望の物語」だということで、「FGOソロモン」はそれを言ってくれているアニメだということ。簡単に「ポジティブな気持ちになろうね」と言いたいわけではなくて、本当に僕たちが生きているこの人類史の中で、過去からつながってきたもの、そして我々がこれから未来につなげていくものが、愛と希望であればいいなと思える作品になっているんです。僕は普段、愛や希望を歌っている歌は聴かないような人間ですが、そんな僕でもそう感じるくらい。だから「はいはい、そういうアニメね」と思っている人がいたら、まあ観てみろと(笑)。「あなたのおかげで人類史を続けようと思えました」と観客の皆さんに言ってもらえればロマニも救われるし、彼という人間が戦った意味はそこにあると思うので、皆さんも騙されたと思って「愛と希望の物語」を観に行ってみてはいかがでしょうか。

井出卓也(イデタクヤ)
2歳の頃にスカウトされて芸能界入りし、主に俳優、アーティストとして活動中。2017年の「Fate/Grand Order THE STAGE -神聖円卓領域キャメロット-」、2019年の「Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア-」、2020年の「Fate/Grand Order THE STAGE -冠位時間神殿ソロモン-」でロマニ・アーキマン役を演じた。ほか出演作に映画「図書館戦争」「闇金ウシジマくん」「ホタルノヒカリ」、ミュージカル「黒執事 The Most Beautiful DEATH in the World 〜千の魂と堕ちた死神」、音楽劇「最高はひとつじゃない」など。