アニメ「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」の配信が10月4日にスタートした。「デュエル・マスターズ」シリーズを連載してきた松本しげのぶが原作を務め、金林洋が作画を担当する同名マンガのアニメ化作品だ。“大人に向けたデュエマ”をコンセプトに、記憶を失った「デュエル・マスターズ WIN」の主人公・斬札ウィンを軸にした新たな「デュエル・マスターズ」の世界が描かれる。
コミックナタリーではアニメ、そして主題歌「ナラティブ」の配信を記念し、原作者の松本、ウィン役の鵜澤正太郎、ニイカ役の菱川花菜、主題歌を担当した月詠みのユリイ・カノンによる座談会を実施。過去シリーズと比較して「まったく違うもの」と鵜澤、菱川、ユリイが口を揃える新作に松本が込めた思いや、「世界観を的確に表現」と松本が驚く主題歌についてたっぷり語ってもらった。
なおアニメ第2話でエンディングテーマ「カンターレ」が解禁されたことに合わせて、インタビュー後編を追加で公開。菱川演じるニイカが歌う「カンターレ」の制作秘話や、菱川が「ハートマークを3つ付けて歌いました」という楽曲への思いも明かしている。
取材・文 / はるのおと撮影 / 武田真和
「Duel Masters LOST ~追憶の水晶~」とは
松本しげのぶが原作、金林洋が作画を務め小学館のWebマンガサイト・週刊コロコロコミックにて連載されている作品。「デュエル・マスターズ WIN」の主人公・斬札ウィンが記憶を失っているという衝撃の展開から物語がスタートする。これまでの「デュエル・マスターズ」とは作風が大きく異なり、一般人がクリーチャーに真っ二つにされるなど、サスペンス要素も多分に含んだダークな物語が展開される。
イキイキとしたクリーチャーを描きたいだけ(松本)
──鵜澤さんは「デュエル・マスターズ WIN」シリーズから引き続き斬札ウィン役を担当されますが、本作の第一印象はいかがでしたか?
鵜澤正太郎 確か半年くらい前に原作マンガを読んだんですけど、別物だなって(笑)。初っ端から血が出たり人が死んだりしていて、「これ、本当に『デュエル・マスターズ』なの?」と驚かされたし、新作だと聞いて想像していたものと全然違っていて。そもそも僕は、超熱心にというわけではないけど小学校の頃に当たり前にアニメやカードで「デュエル・マスターズ」に触れていて、ホビーやギャグというイメージが強かったので、それと違い過ぎて……。でも、違うからこそ「この先、どうなるんだろう?」と気になってもいます。
ユリイ・カノン(月詠み) わかります。「LOST」はこれまでのシリーズとはまったく違うものというか。ダークだけど王道だし……言い方は悪いかもしれませんが、これまでの「デュエル・マスターズ」をぶち壊して、新しい方向性を切り開くものになっていると自分も感じました。
菱川花菜 私もお兄ちゃんがいて、「デュエル・マスターズ」は小学校の頃から月刊コロコロコミック(小学館)で楽しんでいました。でも最初にオーディションの資料が来たときに「あ、私が知ってるあの『デュエル・マスターズ』?」と思ったら、なんか人が真っ二つになっていて(笑)。その衝撃がすごかったし、これまでの作品とは全然違うので今は別の作品として楽しんでいる感覚です。
鵜澤 本当にこれまでと違っていて、チャレンジングだよね。
松本しげのぶ でも僕としてはチャレンジという意識はあまりないんです。連載を始めるにあたってリスクも考えなかったし。次の新作マンガを週刊コロコロコミックで、アニメをYouTubeでやるという話をいただいたとき、今までのキャラクターが全部出てきて戦うようなものも考えていたけど、それだとありきたりだし、既存のファンだけのものになっちゃうなって。もっと新しい人にも喜んでもらえるものを考えて、自分が今まであまり見せていない部分を表現しようと思い、それをストレートに描いたら編集さんが喜んでくれて。ただ読んだ人からは「殺伐としてひどい作品だ」という反応も届いているんですけど(笑)。
鵜澤 でも、イチ男の子としてはすごくぶっ刺さりますよ。男の子ってこういうダークな感じがすごく好きな時期が絶対にあるし、すごくテンション上がります。
松本 そう言われるのはうれしいんですけど、殺伐とした部分をメインに描いているわけでもないんですよね。今回はクリーチャーが力強く生きているのを描きたいんです。月刊コロコロコミックのホビーものだと子供が主人公なので、クリーチャーは友達にしなければいけないんです。それはそれで美しいけど、クリーチャーの個性は消えている部分がある。そんな思いを「LOST」で発散したらああなっちゃったという(笑)。たまたま怖いクリーチャーが最初に出たけど、あくまでイキイキとしたクリーチャーを描きたいだけなんです。
鵜澤 今後はいろんなクリーチャーの様子が描かれるんですね。
松本 そう。また違う一面も出てくるので、それも楽しんでほしいです。
前は「今日は『デュエマさいこークラブ』の日だ!」くらいのテンションだったけど今は……(鵜澤)
──鵜澤さんは「WIN」後に「LOST」でウィンを演じていて難しさを感じていますか?
鵜澤 楽しい世界に生きる天真爛漫なウィンから、180度違う世界で記憶をなくしたウィンを演じさせていただくことになって。今は第4話まで録っていますが、もちろん収録現場には「LOST」のウィンとして気持ちを作って行くんですけど、面白いことに「WIN」のウィンが出てくるんですよ(笑)。「LOST」のウィンは記憶をなくしているけど体は「デュエル・マスターズ」を覚えている状態なので、前のウィンが出てきてもいいときもあるけど駄目なときもあって。
菱川 そこにだいぶ苦労されてましたよね。前から引き継いでいる要素が出てきたからと、前のウィンのニュアンスも演技に入れると音響監督から「抑えてください」と言われたりして。
鵜澤 自分のMAXを出せないというか(笑)。6~7割に抑えなきゃいけない。ただ「LOST」のウィンは等身大に近いというイメージで役作りさせてもらっています。「WIN」のウィンはコロコロ感というか、2次元の世界に飛び込んでお芝居をするイメージでしたが、「LOST」の世界観は現実に近いから3次元のままというか。だから僕が人生で増やしてきた引き出しから近い感情などを使えています。あと「LOST」は「WIN」が終わってからしばらく時間が空いてからの収録だったのもよかったです。ウィンのことを完全に忘れたわけではない状態で、声帯的にも気持ち的にもちょうどよく再スタートできました。
松本 わかるなあ。僕は逆にアニメが終わってから月刊コロコロコミックで「WIN」のマンガを描くのが少し難しくなって。今はどうしても「LOST」のほうに引っ張られて、「WIN」のウィンが大人っぽくなることもあったり。
鵜澤 先生は2つも連載を持って、アニメにも関わって全部同時進行だからもっと大変でしょうね。
──アフレコの様子も「WIN」とは変わっていますか?
鵜澤 はい。「WIN」のときはお仕事ではあるけど、「今日は『デュエマさいこークラブ』の日だ!」くらいのテンションで行ってたんですよ。「部活動を楽しむぞ!」みたいなノリで。でも「LOST」はダークな部分があるのでそうではないし、お芝居面でも「過呼吸を起こすんじゃないか?」と思うくらい叫ぶこともあります。
菱川 私も泣くお芝居があるときは前日から情緒を乱れさせたりしています。ただ、こういう場だから言うわけではないですけど、鵜澤さんは現場でキャストみんながわかるような話題を投げかけたり、初めて来るような人がいたら積極的に話しかけにいったりして、さすが座長を2年間やっていた人は空気作りがうまいなと(笑)。
鵜澤 いやいや、それはみんなが優しいからできることです。
楽曲でも「LOST」はこれまでと別物だと表現したかった(ユリイ)
──松本先生やユリイさんも、制作する対象によって自分のメンタルが変わったり変えたりされますか?
ユリイ メンタル面というより、作るものがタイアップ先に強く引っ張られることはあります。例えば「デュエル・マスターズ Special Movie」用の楽曲を作るときは自分が「デュエル・マスターズ」に抱いていた熱いものを、ナイーブさも取り入れつつ割とストレートに出して「導火」という曲を作らせていただきました。今回作った「ナラティブ」は、「導火」があったうえで別のものを作ることになったので、もう前回のイメージをぶち壊すようなものを作ろうと思いました。
鵜澤 確かに「導火」を聴いてから「ナラティブ」を聴くと「え? 同じ方が作られたの?」って思うくらい印象が違いました。
ユリイ 楽器から何から、本当に同じアーティストかというくらい違う(笑)。そんなふうに楽曲でも「LOST」はこれまでと別物だと表現しようと思って作りました。
松本 僕はメンタル面への影響はめちゃくちゃありますね。今は経験を重ねてだいぶコントロールできるようになりましたけど、若い頃は大変でした。主人公がつらいときは本当にボロボロになるし。(切札)勝舞を主人公にした最初のシリーズが最終回に近づいたタイミングでは、編集さんから主人公と一緒に燃え尽きないよう、ネームを直すときにまたマンガが描けるようにちょっとストップをかけてくれました。
鵜澤 それくらい世界に入り込むんですね。
松本 うん。月刊コロコロコミックだから大変だったのもあるかもしれない。週刊の雑誌だとその世界に入り続けて描けるけど、月刊だと1カ月空くので、一度現実の世界に戻っちゃうんです。だからネームを描く時にまた過酷な世界に入らないといけなくて、それがすごくしんどかったです。
菱川 ちなみに先生にお伺いしたかったんですけど、絵を描く人って例えば怒った表情を描くときは自分も怒った表情になると聞いたんですけど、あれは本当なんですか?
松本 僕は少し違って。泣くときや笑うときは顔が似るみたいだけど、怒るときは逆に真顔になっているそうです(笑)。
オープニングテーマは天才の仕事(鵜澤)
──続いて、ユリイさんのプロジェクト・月詠みによるオープニングテーマ「ナラティブ」を聴かれての感想を伺わせてください。
鵜澤 笑っちゃうくらいカッコいい! 世界観に合っている……とかそういう話の前にまずカッコよかったです。僕は少し音楽が好きなので、曲を聴くとベースラインとか打ち込みとかそういうのを気にしながら聴いちゃうんですけど、そんなこと気にならないくらいド頭からバーンっときて、あらゆる角度からグイグイ引っ張られる楽曲で。こんなにアップテンポでピアノがガンガン鳴るんだ……とまず驚いたし、「LOST」の世界観をこう表現するなんて、ドンピシャで天才の仕事だと思わされました。
菱川 すごい、言いたいことを全部言ってくれた(笑)。これから「LOST」が始まるぞって感じでテンションをバッと上げてくれる感じがすごくよくって。
鵜澤 これがオープニングなのがまたいいよね!
ユリイ これもだいぶ作品が引っ張ってくれて、「LOST」らしさを音で書き起こして、そこに自分が花を添えるような感覚でした。もちろんマンガに音楽はないので、あくまで自分の想像ではあるけど「『LOST』はこういうカッコよさかな?」というふうに音を選んでいったり、夜の街の雰囲気みたいなものを入れてみたりして。
──以前の対談で松本先生はデモを聴かれて「圧倒された」とおっしゃっていましたが、完成版を聴いていかがでしたか?
松本 コロコロ作品って、アニメの歌とかも含めて丸い感じなんですよ。でも「ナラティブ」は見たこともない形が見えてくるというか、しかもその見え方がさまざまで発見がいっぱいあって、そこにすごく感動しました。これまでのシリーズで使われていたような直球な曲は、それはそれで好きなんですけど、「LOST」には違うと思ったので、この曲を作る前に「子供向けのものとして作らないでほしい」「単純な言葉で表現しないでほしい」とリクエストしました。ただ、それを言った後に「変に難解なものになってもな」と思ったりもしたし、できあがってみると見たことがない言葉もいっぱいありました。でも、それが「LOST」の世界観を的確に表現していて、本当にすごいです。
──タイトルの「ナラティブ」なんて難解な言葉の代表的なものですよね。「誰かの視点を通して語られるストーリー」といった意味合いですが、あまり一般的な言葉ではありません。
ユリイ それは制作前に、松本先生に「LOST」がどういう作品かを伺った際、まずキャラクターができて、とりあえず物騒なところから始めたけど、どう展開するかは自分でもわからないとおっしゃっていて。それに今回先生が初めて原作だけ担当し、作画をほかの方に委ねる。そんなふうに「LOST」は先生から少し離れたところである種自由に紡がれていくものだと感じて、それを簡潔に一言で表すなら「ナラティブ」だと感じたんです。ほかの歌詞もそんな感じで「LOST」に没入して素直に出てきた言葉を選んでいった感じだったので、意外と苦労せずにできました。
松本 僕はそこまで説明していないんですけど、確かにそういう気持ちで作っていたんです。だからそれを言い当てられたような歌詞を読んだときは「ほんま、こういうことや!」とびっくりしました。