オメガバースには“本能的な愛”がベースにある
──ここからはバース系の特殊設定作品が続きますよね。バース系で最初にオススメしたのは?
信子 オメガバース作品の「アンタは俺のオメガだろ」です!
──生徒と先生のオメガバース作品ですね。YouTubeチャンネルで以前、信子さんがおふたりにオメガバースの説明をされていましたよね。
すがちゃん 事前説明ありましたね。正直に言うと、説明を受けているときは「口に合わないだろうな」と思っていたんですよ。だけど、読んでみたら設定としていいなと。通常の恋愛に特殊な能力が設定として加わって、しかも、その能力が恋愛に深く関わっているのが面白い。バース系はどれも非常にいいと思いますね。
信子 YouTubeでは、オメガの首筋をアルファが噛むことで成立する“番(つがい)”や発情期のオメガがアルファの匂いがついたものを集めて巣を作る“巣作り(すづくり)”とかを説明できなかったから、オメガバースの基本的な設定が一通りわかる「アンタは俺のオメガだろ」を挙げました。
すがちゃん アルファとオメガが番になったら妊娠ができる世界なんだよね。
信子 そうだね! だけど、作品によって細かい設定が違うから、面白いのよ。この作品は王道なオメガバースの設定って感じかな。
きょんちぃ “運命の番”とか、いろんな設定が入り組んでたよね。
すがちゃん 確かに、男性だけアルファ、ベータ、オメガの性別があると思っていたら、女性にもアルファ、ベータ、オメガがいたしね。いろんな矢印が交差していた。
きょんちぃ あとは、シンプルにオメガに対して「発情期、大変そうだな」と思ったよ。
信子 この作品はTHE オメガの設定が盛り盛りだよね。発情期の症状が家から出られないくらいきつかったり、本能が働いて巣作りをしたり。作品によっては、そういう描写が描かれないこともあるよ。
──「アンタは俺のオメガだろ」はかなり王道のオメガバース作品ですよね。アルファとオメガではなく、アルファとアルファ、ベータとオメガのカップルが描かれる作品もありますし。
信子 そうそう。作品によって、設定が大きく変わることもあるから、それがオメガバース作品の面白さでもある。
すがちゃん でもオメガバースの世界って、心などなくともフェロモンで惹かれてしまうってことだよね。「アンタは俺のオメガだろ」でもオメガの先生が婚活パーティに行ったら、トイレでアルファの男に襲われそうになる。それもフェロモンのせいなわけでしょ? 「手軽にオメガを襲えると思ってたぜえ。ワイルドだろお?」みたいな感じで。
信子 急にスギちゃん(笑)。
すがちゃん (笑)。主人公も第二性の本能に振り回されたくないって言ってたし。
信子 純粋な恋愛感情なのか、本能で求めているのか、みたいなね。オメガバースの設定も本能的な愛がベースにあるから、BLと親和性があると思っていて。だから、うちはオメガバースがすごく好きなのよ。
すがちゃん その美しさも非常にわかるし、この2人の恋愛感情もまあわかりますよ。だけどさ、アルファの子が同棲している家に大学の同級生のオメガの女の子を連れてきたとき、パートナーがオメガの本能的な部分ですごく不安になっちゃうところとか見ると、しんどいですやん……。彼氏のほうは、そのオメガの女の子のこと何も思っていないのに。
信子 それはオメガバース関係なく、友達の女子を家に連れてこられたら、みんな嫌だよ。女子の多くはそういうこと思っているの。
きょんちぃ あんたなんもわかっていない。
すがちゃん 女性の心理を表面化してくれていたわけか……。
──今の議論で、すがちゃんさんがすごく読み込んでいらっしゃることが伝わってきました(笑)。また、「アンタは俺のオメガだろ」は、ほかの作品に比べると登場人物が多いかと思います。気になるキャラクターはいますか?
きょんちぃ あのアルファの先生(城ヶ崎)好き。すごく面倒見てくれるよね。
すがちゃん 確かに、あいつはいい男だと思った。オメガの先生(伊月)が婚活パーティに行っちゃったときに、「追いかけろ」とアルファの生徒の背中を押すシーンは特によかったな。あのシーンは先生と生徒の関係性じゃなくて、恋する1人の人間として接してくれているのが垣間見えた。
きょんちぃ オメガの先生が妊娠したとき、先生の不安を気にせずにアルファ(氷室)のほうがめっちゃ喜んでいて「世間が見えていないガキだな……」と思ったんですけど、そのあと話し合って高校時代のアルファの先生(城ヶ崎)に相談しに行く展開はすごくいいなと思いました。アルファの先生が自分のパートナーと一緒にいろいろ教えてくれて、教師の鑑って感じがした。
すがちゃん でもやっぱり、主人公のアルファはイケてるよ。「俺が先生を絶対に守る!」というやつが好き。男気があった。
Dom/Subは難しい設定かと思いきや最高だった
──バース作品の中でも一番数が多いオメガバース。その次に作品数が多いのはDom/Subユニバースかと思うのですが、信子さんが紹介された順番的に4番目は「Doctorぼくは恋する犬 ~Dom/Subユニバース~」ですかね。
信子 はい! いろんな設定のBL作品を読んでほしいと思ったので、Dom/Subなら設定的にも理解しやすいかなと、4番目に入れました。あと絵が美しいのもオススメした理由としてありますね。
すがちゃん これ、最高だった。先にきょんちぃが読んでいて、設定を軽く聞いたときは、「勘弁してくれよ……」と思ったんですよ。だけど、読んでみたらめっちゃ好きだった。人がDomとSubという2種類に振り分けられて、さらにその中にランクがあって、合法的にエロいことをしていい場所がある世界って最高じゃん!
信子 でも、特別区域が設定にある作品は珍しいかも。DomとSubにランクがない作品も多いよ。
すがちゃん・きょんちぃ そうなんだ……!
すがちゃん 「診察」とか言って急にエロいことするのがまたいいよね。「よし、診察です。エロいことします!」っていう潔さがいい!
──男女性とは異なる“支配したいDom”と“支配されたいSub”の性別があるという設定自体はそこまで躓くことなく読めましたか?
きょんちぃ ムズくはあったけど、オメガバースよりは簡単だなと思いました。「Doctor」は男性キャラクターしか登場しないし、第2の性別も基本的には支配する側のDomと支配される側のSubがメインだからわかりやすかった。
すがちゃん “同じランクのほうが相性がいい”みたいな設定もわかりやすいよな。
きょんちぃ そうそう。主人公の南本くんと(蘭)先生のランクは合っていないんだけど、先生のランクに合わせていこうとするところがかわいかった。「がんばれ! でも、無理しちゃダメなんだよ!」と思った(笑)。しかも、南本くんにとって蘭先生は中学生時代からの憧れでしょ? めっちゃピュア。純愛だなって思った。
信子 そうだね! ストーリーはかなり純愛だね。Dom/Subもいろんな作風のものがあるけど、恋愛に特化している作品を選んだのよ。
すがちゃん コマンド(DomがSubに出す命令のこと)だっけ。ああいう設定も面白い。俺もプライベートで女の子とそういうことをするときに言ってみようかな。「Come(来い)」って。
信子 普通に帰られるからね? 「Doctor」はコマンドがわかりやすいかも。「Come」はどの作品にも出てくるコマンドだけど、作品によってけっこう違うから。
きょんちぃ 南本くんと先生のプレイを止めるときの合言葉(セーフワード)が、「ありがとう」だったのがめっちゃいいよな。
信子 あんた、いいね! わかってる! そうなんだよ。
──作品によってはセーフワードも違いますよね。「嫌い」とかネガティブな言葉を設定することもありますし。
信子 全然違いますね! 「ありがとう」とかは珍しいと思う。
きょんちぃ マジか……! ネガティブなワードは嫌だな……。
すがちゃん 俺さ、この作品に出てくる蘭先生、めっちゃ好きだったね。最初、Sランクだと思って読み進めていったら、まさかのその上だったのは衝撃的だった(笑)。
きょんちぃ カリスマキャラ好きよな。
すがちゃん そうなのよ。普段からマンガを読んでいても、強いやつが好きなんですよ。「Doctor」の世界に至っては、蘭先生のDomランクがエグすぎて、どんなSubも相手ができないのがめっちゃよかった。自分の力が強すぎるあまり相手をつくってこなかったのに、「南本くんなら自分の相手ができるのではないか」とポテンシャルを感じているわけでしょ? それは果たして、南本くんのSubとしてのポテンシャルなのか、はたまた南本くんを人として好きだからポテンシャルを感じているのか……。どんな理由で南本くんを選んだのかを表面には出さずに、優しさのみで彼に接しているのがまたいいですね。
信子 いいね! わかってんじゃん。
きょんちぃ 私は眼帯の人(百目鬼)が好き。
信子 あーね!(笑)
すがちゃん あいつ、DomにもSubにもなれる両刀だろ? うらやましいよね……。
信子 Switchね! 人生お得系よね!
すがちゃん いやあ、「Doctor」すごくよかったですね。
ケーキバースは「食欲」「性欲」が「恋愛」で補われる
──最後は、ケーキバース作品の「舌先から恋」ですね。
信子 まずはケーキバースを知ってもらおうと思って選びました! オメガバースやDom/Sub以上に作品数はまだまだ少ないのですが、この作品がケーキバースの入門にはちょうどいいかなと。
きょんちぃ 最初に「ケーキバース作品です」と言われたときに、ケーキバースのことをまったく知らなかったから、「擬人化なの?」って聞いたら、何も教えてくれなくて。「とりあえず読んでみてくれ」と言われたんですよね(笑)。
──捕食者のフォーク、被食者のケーキという特殊設定を持ったキャラクターが登場するケーキバースですが、読んでみていかがでしたか?
きょんちぃ 「なるほど」と理解はしました。
すがちゃん 俺、ケーキバースの設定、すごくいいと思いました、三大欲求の味覚を感じられなくなったフォークの人間が、唯一味覚を感じられるのはケーキの人間だけという設定、よく思いつきましたよね。
きょんちぃ 後輩くん(久遠稔世)も心配していたけど、「先輩(桐谷達成)がフォークじゃなかったとき、本当に後輩くんのことが好きなのか?」というのはめっちゃ思っちゃった……。
すがちゃん なるほど、きょんちぃは不安に思うわけね? それこそが心の揺れ動きなわけじゃない。本心は相手にわからない。例えば、ケーキの後輩くんがフォーク先輩に舐められたとき、先輩は自分に対して興奮しているのかと最初は思っているわけだよね。でも実際には、ケーキの体質で強制的に興奮してしまっていただけだと知ってしまう。それまでは後輩くんのほうから先輩に対して矢印が向けられていたのに、そこから矢印が逆転する。「これこれ!」と思いましたよ。これこそワビサビと言いたい。
──心の揺れ動きに奥深さを感じたわけですね。
きょんちぃ ワビサビってそういうことなのか……。でも、どんな理由であれ、「先輩が自分を頼ってくれるならなんでもいい」と先輩を受け入れる後輩くんの健気さに「わかる、わかるよ……」と共感した。
すがちゃん 欲を言えば、フォークの先輩にもっと茶目っ気があったほうが俺は好きだな。「甘い! 美味しい! エッチ!」くらいのアホな描写がほしかった……。ペロペロしているときくらい、もう少し楽しもうぜ。
きょんちぃ 立場が先輩だからじゃん。フォークが後輩側だったらまた違ったんじゃないかな。
すがちゃん なるほどね。ちなみに、フォークがケーキを食べたら、我々の暮らす世界と同じように罰せられるわけでしょ?
信子 罰せられますよ。
すがちゃん めっちゃ危険だよね。フォークは味覚を感じたいと思うだろうから、興奮して噛みついちゃうことがあるわけじゃん。要は結ばれたとしても、死と隣り合わせなわけでしょ。俺は悲しいのが嫌なのよ……。悲しい結末にならないとは限らないと思うとつらくなる。
──確かに、ケーキバースはカニバリズム的な要素があるので、今後どうなってしまうのか不安はありますよね。
きょんちぃ 私、「東京喰種トーキョーグール」が好きなので、ケーキバースのそういうところは好きかも。
信子 ケーキバースのすごいところって、三大欲求(「睡眠欲」「食欲」「性欲」)のうち、「食欲」と「性欲」を「恋愛」で補うところだと思うのよ。いろんな欲が入り混じっているところが、人間的で私は好きなんだよね。
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ようこそ、BLの世界へ!