八代亜紀×小西康陽|構想5年で生まれた「夜のアルバム」の続き

八代亜紀が10月11日にジャズアルバム「夜のつづき」をリリースした。

「夜のつづき」は2012年に発売された八代にとって初めての本格的なジャズアルバム「夜のアルバム」の続編にあたる作品で、前作同様に小西康陽がプロデュースを担当。世界初のジャズレコードが録音されてから100周年の記念すべき年に発売される本作には、八代が尊敬するジャズ歌手のヘレン・メリルの代表曲「帰ってくれたら嬉しいわ(You'd Be So Nice To Come Home To)」のカバーなど全13曲が収められる。

音楽ナタリーでは「夜のアルバム」のインタビューに続き八代と小西の対談を企画(参照:八代亜紀×小西康陽「夜のアルバム」対談)。前作のリリースを経て、小西の「もしかして八代さんがやりたかったのはこういうことかもしれない」という閃きから生まれたという「夜のつづき」について、2人に話を聞いた。

取材・文 / 松永良平 撮影 / 小原泰広

あのとき八代さんはもっと違うことがやりたかったんじゃないか?

──「夜のつづき」は、八代さんと小西さんのコンビで制作された前作「夜のアルバム」からちょうど5年ぶりのジャズアルバムです。

八代亜紀 私はこの間もいろいろと小西さんの情報をチェックしてましたよ。

小西康陽 本当ですか(笑)。

八代 でも今回「夜のつづき」を制作するにあたってびっくりしたのは、この5年の間、小西さんが「この曲は八代さんに合う」とか「この曲を八代さんに歌わせたい」とかって思ってらっしゃったということでした。

小西 そうなんですよ。

──小西さんがレコードを聴かれたり、DJをしたりするときに、そういうストックをされていたということですか?

左から八代亜紀、小西康陽。

小西 「夜のアルバム」のときは自分なりにベストを尽くしたので満足してたんですが、そのあとだんだん「あのとき八代さんはもっと違うことがやりたかったんじゃないか? 八代さんが考えてるジャズにはこういうのもあったんじゃないか?」みたいなことをモヤモヤ考えてたんですよ。八代さんの思いを消化しきれなかったんじゃないかと思っていて。そしたらある日、神保町のレコード屋さんで淡谷のり子さんの「灰色のリズム&ブルース」というシングル盤を見つけたんです。いずみたくさんが作ったレコードで、ジャズと言えばジャズ、リズム&ブルースと言えばそうとも言える曲で、これを聴いた途端に、「もしかして八代さんがやりたかったのはこういうことかもしれない」と閃いたんです。

八代 そうなんですか。

小西 ジャズと言う以上に、ベルギーで言うところの“ポップコーン”的な音楽と言うか。

──1960年代にリズム&ブルースから派生してロックと融合したようなダンスミュージックのことですね。

小西 そういうものを八代さんはやりたかったんじゃないかと気付いたんですよ。それでペギー・リーの「フィーヴァー」とか、レイ・チャールズの「旅立てジャック」とか、八代さんに合いそうな曲をリストアップしたんです。そのリストを、僕がPIZZICATO ONEの2ndアルバム(2015年リリースの「わたくしの二十世紀」)を作ったときにユニバーサルのディレクターに見せたら面白がってくれて。しばらくしたらそのディレクターから連絡があって、「八代さんとまたジャズアルバムを作りませんか?」とお話をいただいたので、そのリストをもとにやることになりました。

八代 「第2弾をやります」というお話を聞いて、選曲を見せていただいた時点で「もう間違いない!」と思いました(笑)。

──アップテンポな曲、ポップス系の曲も多い選曲ですよね。

八代 前回はブルース系、スローな曲が多かったですけど、今回はロックふうも多くて、「このノリでいいでしょうか?」みたいな感じでやりました。面白かったです。

“17歳の亜紀ちゃん”で1つお願いします

──前回の取材でお二人の対談を実施した際も、八代さんの受け答えがとてもチャーミングだし、音楽に対する姿勢も柔軟でアクティブだったのが印象的でした(参照:八代亜紀×小西康陽「夜のアルバム」対談)。小西さんがレコーディングを一緒にされた中で、「もっとアクティブな曲もやれたのでは?」と思われたのもわかります。今作は選曲もアレンジも、ロックふうあり、ビッグバンドありで、さらにバラエティに富んでます。

左から八代亜紀、小西康陽。

八代 私が「小西さん、ビッグバンドも欲しい」ってお願いしたんです。ビッグバンドって、かつてのよき時代の音楽ですからね。1つ2つビッグバンドがあると、ぜいたくして作った印象がありますよね? それに今って、打ち込み音楽の時代でしょ? あんまりビッグバンドのレコーディングってないじゃないですか。

小西 ビッグバンド編成でレコーディングできるスタジオも少なくなっていたんで、スタジオを探すのも大変でしたね。

──お二人のコラボレーションの幅がまた広がったと感じました。

八代 小西さんが最終的にトラックダウンした音源を聴いたときに「モノラルっぽいな」と感じたのが何曲かありました。つまり、小西さんは耳元で私が歌ってる感じを出してるんですよ。実は、小西さんに内緒でエンジニアさんに「ちょっと歌にリバーブかけてください」って私からお願いした曲があるんですけど、最終的に小西さんはそれをスパッと取ってるんです(笑)。

小西 「夜が明けたら」とかですよね。

八代 「黒い花びら」とかもそうでした。1つレコーディングのときに面白かった話があるんです。「赤と青のブルース」の歌入れで、小西さんからこう言われたんです。「八代さん、“17歳の亜紀ちゃん”で1つお願いします」って(笑)。

──若い頃の歌唱法とは違うものなのでしょうか?

八代 はい、初めてでしたね。私はああいう歌唱法はまずやらないんです。

八代亜紀「夜のつづき」
2017年10月11日発売 / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
八代亜紀「夜のつづき」CD

[CD]
3240円 / UCCJ-2146

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収録曲(タイトル / オリジナルもしくは代表歌唱アーティスト)
  1. 帰ってくれたら嬉しいわ / ヘレン・メリル
  2. フィーヴァー / ペギー・リー
  3. 黒い花びら / 水原弘
  4. 涙の太陽 / エミー・ジャクソン
  5. 旅立てジャック / レイ・チャールズ
  6. ワーク・ソング / オスカー・ブラウン・ジュニア
  7. カモナ・マイ・ハウス / ローズ・マリー・クルーニー
  8. にくい貴方 / ナンシー・シナトラ
  9. 恋の特効薬 / The Searchers
  10. 夜のつづき(※インストゥルメンタル)
  11. 赤と青のブルース / マリー・ラフォレ
  12. 男と女のお話 / 日吉ミミ
  13. 夜が明けたら / 浅川マキ
八代亜紀「夜のつづき」アナログ

[アナログ]
3888円 / UCJJ-9010
2017年11月1日発売

Amazon.co.jp

SIDE A
  1. 夜のつづき #1
  2. フィーヴァー
  3. 黒い花びら
  4. 涙の太陽
  5. 夜のつづき #2(赤と青のブルース)
  6. 赤と青のブルース
  7. 男と女のお話
SIDE B
  1. 帰ってくれたら嬉しいわ
  2. 旅立てジャック
  3. ワーク・ソング
  4. カモナ・マイ・ハウス
  5. にくい貴方
  6. 恋の特効薬
  7. 夜が明けたら

ライブ情報

An Evening with AKI YASHIRO
  • 2017年11月13日(月)東京都 ブルーノート東京
  • 2018年1月17日(水)愛知県 名古屋ブルーノート
A Christmas Evening with AKI YASHIRO
  • 2017年12月25日(月)大阪府 Billboard Live OSAKA
八代亜紀(ヤシロアキ)
八代亜紀
熊本県八代市出身。15歳で歌手を目指して上京し、銀座でクラブ歌手として活動を始める。1971年にシングル「愛は死んでも」でデビューを果たし、1973年には出世作となった「なみだ恋」を発表。1979年発売の「舟唄」が大ヒットを記録し、1980年には「雨の慕情」で「第22回日本レコード大賞」大賞を受賞した。演歌歌手として確固たる地位を築きながら、一方で画家としても才能を発揮。フランス「ル・サロン展」に5年連続で入選し、永久会員となった。2012年10月には小西康陽プロデュースによる初の本格的なジャズアルバム「夜のアルバム」をリリースし、翌2013年3月にはニューヨークの老舗ジャズクラブ「Birdland」でライブを行う。2015年10月、寺岡呼人プロデュースによる初のブルースアルバム「哀歌-aiuta-」を発売。2016年5月にはモンゴル文化大使に任命され、10月にモンゴルの国民的な歌謡曲のカバー「JAMAAS 真実はふたつ」をシングルリリースした。2017年10月には小西と制作したジャズアルバム第2弾「夜のつづき」が発売された。
小西康陽(コニシヤスハル)
小西康陽
1959年、北海道札幌生まれ。1985年にピチカート・ファイヴでデビュー。豊富な知識と独特の美学から作り出される作品群は世界各国で高い評価を集め、1990年代のムーブメント“渋谷系”を代表する1人となった。2001年3月31日のピチカート・ファイヴ解散後は、作詞・作曲家、アレンジャー、プロデューサー、DJとして多方面で活躍。2009年にはアメリカ・ニューヨークのオフ・ブロードウェイで上演されたミュージカル「TALK LIKE SINGING」の作曲および音楽監督を務めた。2011年5月に「PIZZICATO ONE」名義による初のソロプロジェクトとして、アルバム「11のとても悲しい歌」を発表。2015年6月には2ndアルバム「わたくしの二十世紀」をリリースした。2016年8月にはピチカート・ファイヴの初期作品「couples」と「Bellissima!」のリマスター盤を、CD、アナログ、配信の3パターンで復刻リリース。2017年10月発売された八代亜紀のジャズアルバム第2弾「夜のつづき」では、前作に続きプロデュースを担当した。