ナタリー PowerPush - やなぎなぎ

裏と表の気持ちをつなぐ 1stアルバム「エウアル」完成

「なんか気に入らない曲」と「なんか気に入った曲」

──ご自身がアルバム用に書き下ろしたのは「本当」と「嘘」と「euaru」と「クオリア」と……。

一応「helvetica」も。「Zoetrope」を買ってくれた方向けの特典としてWEBではデモを公開していたんですけどCDに収録するのは初めてですね。

──先ほどスムーズに作れた曲もあれば、難渋した曲もあるっておっしゃってましたけど、スムーズにできたのは?

「嘘」は3月頃にはできあがっていたんですけど、あとの曲は、デモ自体はだいぶん前から作ってたもののそのあとけっこう作り直しをしたので、完成したのは5月って感じですね。

──7月頭発売なのに(笑)。なぜ作り直しを?

ちゃんと答えられなくて申し訳ないんですけど、なんか気に入らなかったんですよね(笑)。「エウアル」っていうテーマにどこかそぐわなかったというか。なので特に「クオリア」と「euaru」なんかは本当に最後の最後までコードを変えてみたり、ギターを入れたり抜いたり、いろんなことを試してました。

──逆にアルバムに収録されているトラックをOKにした理由は……。

なんか気に入ったんですよね(笑)。

肉体と魂、どっちがその人なんだろう?

──一方、詞のほうは? 全曲作詞していますけどスムーズでした?

基本的にはいつも通りというか、特にスムーズだったというわけでもないんだけど「euaru」は曲よりも詞が先にできてました。「アルバムの真ん中に置いて、アナログ盤でいうA面とB面、裏と表の境目にしよう」「アルバムのテーマを扱う曲にしよう」ってことで作り始めたので、比較的早く書けて。逆に「クオリア」はけっこう時間をかけましたね。

──「クオリア」についてはぜひ話を聞きたかったんですよ。クオリアって要は「リンゴが赤いと感じる」といった体験のことですよね?

そうですね。

──でも所詮は感覚の話。あまりにも主観的すぎる体験だから、自分が見ている赤と他人の見ている赤が本当に同じ赤であるかは誰にも観察・確認できないっていう話で。だからビックリしたんですよ。この人、すごいことを歌い始めたなって(笑)。

あはははは(笑)。裏と表の話と同じで、そういう、人の考えていることや人の気持ちってやっぱり気になるんですよ。ただ、クオリアについて考えることって、どんどんどんどん自分の中に入り込むことなので、だんだんわけがわからなくなってきて(笑)。それで友達に相談してみたりして。

──「私の見ている赤とあなたの見ている赤は、ホントに同じ赤なのかな?」って? 正直、お友達は困ったと思うんですけど……。

「……うん、まあ」みたいな感じでした(笑)。しかも最終的には逆。感じられる側の話になっちゃって。もしも人が死んでも魂みたいなものが分離してその場に残ったとしたら、ほかの人たちは肉体と魂、どっちをその人って認識するんだろうね?って話を言葉にまとめようとしたら時間がかかっちゃったんです。

私と他者の違いが不思議でしかたのない私

──「クオリア」を聴くとやなぎさんは体験や目に見えるものをあまり信じてないように感じます。

そうなんですよ。特に視覚ってあいまいな気がしていて。それは「トランスルーセント」でも歌っていることではあるんですけど。

──「トランスルーセント」って日本語的な意味での「スケルトン」。電化製品の透けて見えるボディなんかのことですよね。中身が透けて見えているのに信用できない?

やっぱりわかんないんですよね、人っていうものは(笑)。たとえその人の形やデザインが見えていても、その中身、気持ちは見えないものなので。もちろんたくさん話をして理解を深めれば、だんだんその人のこともわかってはくるんですけど、パッと見だと当然その人が何を考えているかは全然わからないじゃないですか。でも自分もそうなんですけど、普段生活しているときにはそんなことは誰も気にしていない。だから「トランスルーセント」では「周りの人って思ったほど私のことを気にしてないよな」っていうことをテーマにしてみていて。例えば私としては半透明的なことというか、あけすけなことをして、そのことを気にしたり後悔したりしているんだけど、実は周りの人には全然見られてなかったってことってあると思うんですよ。

──気を遣ったつもりなのに華麗にスルーされてみたり、「あの人に失礼なことをしちゃった」って頭を抱えていたら、実は相手はなんにも気にしてなかったりってことはままありますよね。その周りが自分を気にしていない状況ってムカついたりします?

ちょっと寂しくはなりますけど、ムカつきはしませんね(笑)。どちらかというと不思議だな、みたいな感じかなあ。

誰かの声が聴きたくて歌を歌う

──ただ「ユキトキ」で、どうしてもあと一歩を踏み出せない自分を連れ出して、と歌っているように、やなぎさんは他人のことを不思議な観察対象として突き放してはいない。もっと人に期待しているし、対話は求めていますよね。

ええ。「クオリア」や「トランスルーセント」も「私はこう思うんだけど、私は今こんなことを不思議に思ってるんだけど、今こういう感情を自分の中に見つけたんだけど、皆さんはどうですか?」っていう投げかけをしている曲ですから。

──「クオリア」の詞についてお友達に相談するような感覚で。

そうですね。クオリア的なことや、人はそれほど他人のことを気にかけていないことに興味があるんだけど、自分自身その疑問に対するハッキリとした答えにはたどり着けていなくて。けど、その状態をそのまま曲にしてみたら、曲を聴いた100人の人が100通りの答えを返してくれるかもしれない。その答えを聞いてみたいっていう気持ちはありますね。その声を耳にしたら自分の中にもハッキリとした答えが生まれるかもしれないから。

ニューアルバム「エウアル」 / 2013年7月3日発売 / ジェネオン・ユニバーサル
初回限定盤 [CD2枚組+Blu-ray] 4410円 GNCA-1376
初回限定盤 [CD2枚組+DVD] 4200円 / GNCA-1377
通常盤 [CD] 3150円 / GNCA-1378
CD収録曲
  1. 本当
  2. ユキトキ
  3. 青のパレード
  4. concent
  5. helvetica
  6. Ambivalentidea
  7. euaru
  8. Zoetrope
  9. ラテラリティ
  10. ストレンジアトラクター
  11. クオリア
  12. トランスルーセント
  13. ビードロ模様
初回限定盤ボーナスCD収録内容
  1. Agape(メロキュア)
  2. 1/2(川本真琴)
  3. 恋愛サーキュレーション(千石撫子[花澤香菜])
  4. light prayer(School Food Punishment)
  5. アンインストール(石川智晶)
  6. Swallowtail Butterfly ~あいのうた~(YEN TOWN BAND)
  7. カゼノトオリミチ(堀下さゆり)

※カッコ内はオリジナルアーティスト

初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  • これまでのシングル表題曲の為に制作したグラフィックによるプロモーション映像
やなぎなぎ

関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンCDシングル週間ランキング11位にランクインした。以来、アニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」、「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のエンディング曲「ラテラリティ」、「AMNESIA」のオープニングテーマ「Zoetrope」、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」のオープニングテーマ「ユキトキ」を立て続けに発表。そして2013年7月、1stアルバム「エウアル」をリリースする。