ナタリー PowerPush - やなぎなぎ
ディープなサウンドで攻める2ndシングル完成
2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビューを飾ったやなぎなぎ。6月6日には現在放送中のアニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマ「Ambivalentidea」をシングルリリースする。
本作は、青春ポップ「ビードロ模様」から一転、内省的でアブストラクトな1曲に仕上がっている。実はこの作風はインディ時代の彼女が志向していたもの。大胆とも言える原点回帰の裏には、どんな思いが潜んでいるのか、大いに語ってもらった。
取材・文 / 成松哲
「ビードロ模様」から作風を変えるのは勇気が必要だった
──2月のメジャーデビューから3カ月が経ちました。状況や心境に何か変化はありました?
「ビードロ模様」やアニメ「なつまち(あの夏で待ってる)」がきっかけで私のことを知ってくださった方もたくさんいたみたいで。これまで私の曲を聴いてくださる方って20代の男性が多かったんですけど、「なつまち」って若い男の子と女の子の群像劇だったじゃないですか。だからなんでしょうけど、最近10代の女の子からたくさんお手紙をいただくようになったんですよ。なので最近は「受験勉強のときに聴いてます」なんて書いてある中学生からの手紙を読んでは「ああっ!」って感激したりしてます(笑)。
──アニメのストーリーもそうですけど、前回のインタビューで「『ビードロ模様』自体、夏のキラキラ感、青春のキラキラ感を意識して制作した」って言っていただけに、目論見はひとまず成功って感じですね。
ですね。幅広い方に聴いてもらえるようになったのは、やっぱりすごくうれしかったです。
──ところがニューシングルの「Ambivalentidea」は……。
かなり冒険しちゃってますよね(笑)。
──ええ(笑)。「Ambivalentidea」の作編曲はbermei.inazawaさんですが、「ビードロ模様」のカップリングで自ら作詞作曲を手がけた「concent」や、インディーズ時代のやなぎさんの作品に近いテイストで。ストリングスの複雑な和音とアンサンブルで聴かせる、音響系を思わせる1曲ですよね。「ビードロ模様」からのファンはきっと驚くかと思います。
おっしゃるとおり、これまで自分がやってきたのはこういうジャンルなので「自分はどういう音楽をやっている人間なのか」っていうことを知ってもらいたいっていう気持ちがあったんです。それに「ビードロ模様」からここまで作風を変えるのにはちょっと勇気がいりましたけど、私自身がinazawaさんのファンなので「『Ambivalentidea』は絶対にいいものになる」っていう確信がありました。
いつもより言葉選びや辞書を引くのに時間をかけた
──確かに「Ambivalentidea」はガッツリ聴き込めるカッコいいトラックなんですけど、一方でアニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマでもある。やなぎさんの作品として楽しめるものでありながら、アニメの物語を紹介する内容でもなければならないわけですよね。
もちろんそうなんですけど、幸せなことに原作マンガを読んでいるときに、ふとinazawaさんの曲が頭の中に流れてきたんですよ。「ヨルムンガンド」って基本的には武器商人を中心に戦争や紛争を描いた殺伐とした物語なんですけど、それぞれのエピソードの終わりにはたいていちょっとホッとさせてくれる場面があるし、ギャグも少なくないお話だから。その張り詰めていた空気が一瞬溶けていく感じが、暗い美しさの中にどこかコミカルな部分もあるinazawaさんの楽曲のイメージに合っている気がして。inazawaさんは作曲家やアレンジャーだけじゃなくてエンジニアでもあるから、「お忙しいかな」と思いつつダメ元で頼んでみたら3日くらいで曲が上がってきました(笑)。
──それは今度リリースされるバージョンとほとんど同じアレンジのもの?
はい。かなり最終形に近いものでした。オケについてのやり取りはスムーズだったんですけど、作詞には少し時間がかかっちゃって。
──それはなぜ?
いただいた楽曲が幻想的だったので「『ビードロ模様』のときのようなストレートな詞では、曲の魅力を伝えきれないだろうな」「もっと文学寄りというか、ちょっと難解な言葉や比喩を使ったほうが曲に合うだろうな」っていう思いがあって。なので、いつもより言葉選びにこだわって、辞書を引くのに時間をかけてみました(笑)。
ambivalent+idea=矛盾した存在を視覚化する
──「Ambivalentidea」の歌詞に出てくる「光横たえる海神」「水壁を貫く鼓動」といったフレーズはとても抽象的で、最後には主人公がそれらを乗り越えて「この世界を全て食らい尽くそうとした」とあります。この歌詞の世界観やモチーフはどこから?
「ヨルムンガンド」からですね。ヒロインのココたちは「武器を売ることで世界を平和にしたい」という矛盾した思いを抱えているんだけど、それでも自分の思うとおりに世界を変えていきたいと願っている。その矛盾した姿が、人がどんどん神様のような存在を目指しているように見えたので「この世界を全て食らい尽くそうと」してみました(笑)。タイトルも「ambivalent」(矛盾、二律背反)と「idea」(姿形)をくっつけて「矛盾した存在を視覚化する」という意味合いにして。
──ご自身も世の中に矛盾を感じたり、何か矛盾した思いを抱えていたりします?
いえ、特に大きな矛盾も感じず暮らしてます(笑)。ただ、作品を読んでいるうちに「ココたちのような矛盾した思いを抱えた生き方もあるんだろうな」「世界の常識に逆らってでも何かを成し遂げたいっていうのも、それはそれで考え方のひとつなんだろうな」って感じて。共感とまではいかないけど、自分の中にもスッと入ってくるものはあったので、ああいう歌詞になったって感じですね。
CD収録曲
- Ambivalentidea
- 白くやわらかな花
- halo effect
- Ambivalentidea (instrumental)
- 白くやわらかな花 (instrumental)
- halo effect (instrumental)
やなぎなぎ
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーソロデビュー。同曲はオリコンウィークリーチャート11位にランクインした。6月にはテレビアニメ「ヨルムンガンド」のエンディングテーマを含む2ndシングル「Ambivalentidea」をリリース。