ナタリー PowerPush - やなぎなぎ
ネット発・癒しの歌姫が誕生するまで
現在放送中のテレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマとなるシングル「ビードロ模様」でメジャーソロデビューする、やなぎなぎ。2000年代中盤より、同人音楽家として自作曲を発表する傍ら、あるときは数十にも及ぶほかの同人クリエイターの楽曲やゲームミュージックのゲストボーカリストとして、またあるときはsupercellのヒット曲「君の知らない物語」のボーカリスト・nagiとして、怒濤の活躍を見せ続けてきた異色の存在だ。
そんなやなぎなぎは、いかにして誕生したのか。ネットユーザーを中心に多くの人々が待望していたメジャーデビューを前に、その胸に期するものとはなんなのか、話を訊いた。
取材・文 / 成松哲
やなぎなぎの生みの親は母、兄、新居昭乃
──ナタリー初登場ということで、まずキャリアについてお訊きします。音楽と出会ったきっかけは?
幼稚園の頃、近所の人が「捨てるつもりの電子オルガンがあるんだけど、誰かいる?」って言っていたのを聞いた母が、なぜかそれをもらってきちゃったのがきっかけです(笑)。それで、童謡とかを弾いて遊んでいるうちに楽器や音楽のことが好きになって、いつしか弾きながら適当なメロディを付けて歌うようになっていたって感じですね。あと、中学生の頃、今度は兄がDTMソフトを買ってきたんですけど、そのソフトが魔法のように見えたんです。「何これ、楽器を弾けなくても曲を作れるの!? 私もやりたい!」って。最初はマイクをパソコンに直挿しするような、本当に簡単な録り方しかしてなかったんですけど、「もっとキレイに録れる方法があるらしい」って話を聞いたらオーディオインターフェイスを買ってみて、っていうふうに機材を揃えていって、ひとり黙々と宅録してました。
──じゃあ音楽制作を始めたのは、ご家族が楽器や機材を手に入れたから? 誰かアーティストから影響を受けたりは?
曲作りについては、新居昭乃さんからの影響が大きいですね。元々坂本真綾さんのことが好きで、真綾さんや(坂本によく曲を提供する)菅野よう子さんの情報を追いかけていたら、昭乃さんのお名前を見かけて。それで、柚楽弥衣さんとのユニット・Goddess in the Morningの「Flower Crown」を聴いてみたら、これが衝撃的で。そこから「世の中には、いわゆるチャートを賑わすポップスとは絶対に混ざらなさそうなすごい音楽もあるのか」「昭乃さんみたいな曲を作ってみたい」って思うようになったんです。
初投稿曲を聴いてくれる人がいた
──そして、自作曲をネットで公開してみた、と。
いえ、最初はオリジナル曲を発表する勇気はなくて。だから2006年頃に、まずヤマハの「プレイヤーズ王国」(※現在は閉鎖)っていうサイトにカバー曲を投稿してみたんです。
──反響はいかがでした?
今、動画サイトで曲を発表している人に比べたら全然少ないんですけど、想像以上の反響はありました。私も「曲を置いておく場所」くらいの感じで使ってたんですけど、いくつか感想をいただけて。「すごい! 聴いてくれる人がいる」ってビックリしました。
──当時のリスナーのコメントはどういう内容だったんですか?
アレンジや打ち込みを褒めてくださる方もいたんですけど、声に対する反響のほうが大きかったですね。「キレイな声ですね」って言っていただけたり。その頃って私、自分の声に自信がなかったんですよ。中学時代、すごく特徴的ないい声をした声優志望の友達がいて、ずっとその声を聞いていたから「自分の声って平凡だな」っていう気がしていて。歌モノを投稿してみた理由も「がんばってオケを打ち込んだことだし、せっかくだから歌も入れてみようかな。歌うこと自体は好きだし」ってくらいのものだったから「あれっ!? 打ち込みよりも声に注目が集まってる」って感じではあったんですけど(笑)、やっぱりうれしかったですね。
やなぎなぎ(やなぎなぎ)
関西出身の女性シンガーソングライター。2006年からライブハウスやインターネット上で音楽活動を開始する。動画投稿サイトに数多くのカバー楽曲を公開して注目を集め、「君の知らない物語」をはじめとするsupercellの楽曲にnagi名義でゲスト参加したことでも話題となった。繊細かつ透明感あふれる歌声と、印象的な楽曲の世界観が幅広い層から支持される。2012年2月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」のエンディングテーマ「ビードロ模様」でメジャーデビュー。