TrySail|デビュー5周年を経て、みんなと一緒に次なる旅へ

TrySailが4枚目のフルアルバム「Re Bon Voyage」を9月15日にリリースした。

アルバムには映画「劇場版 ハイスクール・フリート」の主題歌「Free Turn」や、テレビアニメ「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 1st SEASON」のオープニングテーマ「ごまかし」を含む全12曲を収録。昨年デビュー5周年を迎えた彼女たちが改めてTrySailらしさに向き合うと同時に、その可能性を広げていくような作品となっている。

音楽ナタリーでは3人にインタビューを行い、アルバムに込めた思いやTrySailの現在地、今後について話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 塚原孝顕

デビュー5周年を記念した、みんなへのプレゼント

──3rdアルバムの「TryAgain」(2019年2月発売)はタイトル通りさまざまな曲に“Try”した挑戦的なアルバムであり、雨宮さんいわく「今まで見せたことのない表情を見せている」アルバムでした(参照:TrySail「TryAgain」インタビュー)。それに対して「Re Bon Voyage」は、TrySailらしさを突き詰めつつ更新するみたいなアルバムだと思ったのですが、皆さんはいかがですか?

雨宮天 すごく、ライブを想定したような、あるいはライブ感のあるアルバムになったなあと。今年の3月にひさびさにお客さんの前でのライブ(「LAWSON presents TrySail Live 2021 "Double the Cape”」)をやって(参照:デビュー5周年のTrySail、みんなと一緒に新たな航海へ)、それもあってか、新曲に関してはかけ声をたくさん入れられる曲だったり、みんなへのメッセージソングみたいな曲が多いんですよ。そして私たちも、あのライブがあったからこそ、よりライブの光景を思い描きながら気持ちを乗せられる。そんな曲が詰まったアルバムです。

麻倉もも 本当にカラフルなアルバムになったというか。今までもいろんな曲が入ったアルバムを作ってきて、できあがったアルバムを通して聴いて「さわやかな1枚になったな」とか「ちょっと大人っぽい1枚になったな」みたいな印象が毎回あるんですけど、今回は何にも当てはまらないんですよ。TrySailがデビュー6周年を迎えて出すアルバムということで、今までのTrySailらしさも大事にしつつ、振り幅も広がっているなと改めて感じたので、安心感と聴き応えのある1枚になっているんじゃないかな。

夏川椎菜 3rdアルバムから4thアルバムまでの間にやってきた新曲のレコーディングだったりライブだったりで、TrySailが“Try”してきたことを生かした曲が多いなと。例えば「モノラル」は、私個人としてはちょっと難しさを感じていたバラードがさらにレベルアップしたものになっていたり、「マイハートリバイバル」だったらライブで「Sunset カンフー」(アルバム「TryAgain」収録曲)とかを歌ったときに出てきたお遊び要素をスタジオ音源に落とし込めていたり。と同時に、当然このアルバムで初めて“Try”したこともあるので、これからのTrySailも感じてもらえるアルバムにもなっていると思います。

──アルバムタイトルの「Re Bon Voyage」は、フランス語で「よい旅を」を意味する“bon voyage”に、「再び」を意味する接頭辞“re”を付けたものだと思いますが、皆さんはどのように解釈されました?

麻倉 去年のデビュー5周年と、今年3月のライブを経てまたここから再スタートするという意味もありますし、みんなへのプレゼント的な意味で“Re Bon”と“リボン”をかけているんですよ。なので、私たちもそういう意識でアルバムの制作に臨むことができました。

雨宮 今まで当たり前にあるものだと思っていたライブが突然できなくなって、今言ったようにひさしぶりにみんなの前で「Double the Cape」のライブをやったら、それがいかに大事で楽しいものであるかを改めて感じたんです。

──僕は2日目の公演を観に行きましたが、いいライブでしたね。本当に。

雨宮 そこで私としては「Reborn」したというか、生まれ変わったような気がしたし、ここからまた新しくみんなとの関係もちゃんと築いていきたいと思ったんですよね。そこへ来てこのアルバムタイトルだったので、もし違ったタイトルだったら気持ちの込め方も全然変わっていたんじゃないかなって。

夏川 “bon voyage”という言葉の響き自体がすごく前向きというか、希望がある感じがするんですよね。天さんも言っているように本当にひさしぶりのライブをやって、私たちも心の底から楽しめたし、お客さんがすごく笑顔になってくれていたのがマスク越しでもわかったので、あのライブで希望が持てて。これからのTrySailにとってもすごく大事なライブになったし、そのライブを経て再出発みたいな意味合いも込められているので、6周年を迎えたTrySailを、そしてTrySailを応援し続けてくれているみんなを明るく次の旅に送り出すようなタイトルですね。

“求められているTrySail”ってなんだろう?

──麻倉さんと夏川さんがおっしゃったようにTrySailは去る5月13日にデビュー6周年を迎え、もはや中堅と言ってもいい……。

雨宮 中堅(笑)。

夏川 確かに、もう新人ではない(笑)。

──大きな舞台もたくさん経験して、別におだてるわけじゃないですが人気ユニットとしての地位を築いていると思います。にもかかわらず、アルバムの新曲の歌詞は全体としてガツガツしているというか、現状に満足していない感じがひしひしと伝わってきて。

麻倉雨宮夏川 おおー。

──それは1曲目でタイトルトラックの「Re Bon Voyage」にも言えるのですが、特にこの曲は歌声がものすごくフレッシュに聞こえたんですよね。中堅なのに。

夏川 表題曲に関しては、曲を選ぶ段階から「TrySailを応援してくれている人が求めているTrySailってなんだろうね?」という話はけっこう出ていて。何曲か候補があった中で私たちが選んだんですけど、私たち自身も気持ちを新たにまた進んでいくみたいな意識があったからこういうフレッシュな曲に決まったんだと思いますし、それに歌も引っ張られたのかな?

麻倉 このアルバムはとても面白い方向性の曲もあるんですけど、最初の「Re Bon Voyage」と最後の「君となら」は今までのTrySailの安心感みたいなものがすごくあるんです。なのでレコーディングもすんなりと、迷いなく歌えたというのがフレッシュな感じに伝わったんですかね。

雨宮 もしかすると、最近のシングルがわりと大人っぽいものが続いていたというのもあるかもしれない。「Re Bon Voyage」のようなストレートに「明るくて元気!」みたいな曲はひさしぶりだったから、そのぶん抑えていたものがあふれ出すみたいな(笑)。

麻倉 シングルの曲は、歌詞もけっこう考えさせる系のものが多かったよね。逆に「Re Bon Voyage」はいい意味であまり考えなくていい歌詞だから、自分の感性に正直に歌えるというか。

雨宮 まっすぐでいいんだよね。

“ガツガツ”っていいですね

──歌詞のガツガツ具合は2曲目の、TrySail流のポップパンクと言えそうな「Favorite Days」により顕著だと思いました。「楽しいこと全部やるよ、私たちは」みたいな。

雨宮 確かに「ガツガツしている」と言われたら、その通りかも。

夏川 かなり前のめりだよね。

麻倉 「欲張ってかなきゃ損!でしょ?」とか「この気持ちは譲れないから!」とか……。

麻倉雨宮夏川 「まだまだいけるわなめないでよ!」(笑)。

雨宮 やっぱりさ、今までのシングルで抑えていたものを全部叩きつけるような曲が多いのかもね。ああ、ガツガツっていいですね。

──そういうガツガツしたマインドって、3人にも共通するものですか?

麻倉雨宮夏川 はい(大きく頷きながら)。

雨宮 去年、めっちゃ休んだし(笑)。

夏川 2020年は思うように活動できなかったからね。

雨宮 だから元気があり余っている感じの歌詞はフィットするし、私たちも「Double the Cape」の前に「ライブってどんなんだったっけ?」みたいな話をしたりしていて。ブランクというほどではないんですけどちょっと間が空いちゃったので、このタイミングで、また気持ちを押し上げてもらうという意味でも、このぐらい曲がガツガツしてくれているというのは、すごくいいのかもしれない。

夏川 私たち自身が全然落ち着かないというか、落ち着きがないからね。今日の撮影の間もずっと遊んでたし。そんな私たちだからこそ、こういうガツガツした歌詞が似合うのかも。っていうか、本当にガツガツしてますね(笑)。

──「Favorite Days」は間違いなくライブ映えもしますね。

麻倉 お客さんの声が出せるようになったら、絶対にかけ声の「yeah」を叫んでほしい。

雨宮夏川 そう!

麻倉 私たちが「Hey boys!」って言ったら、会場のボーイズが「yeah」って。

雨宮 音源ではかけ声も全部私たちの声で録っているんですけど、ここの「yeah」はがんばって男の子っぽい、太めの声を出しているので、ぜひ本当の男の子たちの声で聞きたいです。

夏川 そのあとに「Girls!」も続くからね。

雨宮 そうね。大多数の男の子たちの「yeah」が先だから、それに負けないぐらいの女の子たちの「yeah」を聞きたいよね。さらに「All!」と続くから、そこは全員でブワーっと盛り上がってほしい。

夏川 ラスサビで「Can you? Can you? Make favorite days?」ってしつこく3回繰り返すところも、会場のボルテージがどんどん上がっていくのが目に浮かぶもんね。

麻倉 ね。

こういう女の子は嫌いじゃない

──次の新曲、5曲目の「モノラル」は弦楽四重奏をフィーチャーしたバラードです。先ほど夏川さんが「難しさを感じていた」とおっしゃいましたが、TrySailにはバラードが少ないというイメージがありました。

麻倉 アルバム1枚につき1曲ぐらい。

夏川 そうそう。

──でも、気が付けばTrySailの武器の1つであるハーモニーを生かす場として機能しているというか、バラードもTrySailの得意技として定着した感があります。

雨宮 本当ですか? それは、すごくうれしい。

麻倉 うん。自分たちじゃわからないから。

雨宮 わからないし、TrySailには元気な曲が多いぶん、セットリストを組むときにバラードをどこに入れるかで毎回すごく悩むんですよ。だからそうやって言っていただけると、ちゃんとやってきてよかったなって思いますね。しかも今回の「モノラル」は、TrySail初と言ってもいい恋愛バラードで、これも1つの挑戦でしたね。

──しかも、別れた恋人に未練たらたらな歌です。

麻倉雨宮夏川 (笑)。

雨宮 新曲の話し合いの中で「今までよりちょっと年齢設定が高めのバラードを作ろう」ということになって。それまでのバラードは学生ともとれる、10代ぐらいの女の子が「これから進んでいくよ」みたいなイメージだったんですけど、「モノラル」の主人公は大学を卒業したぐらいの、20代に入っている女性像なんですよ。

──ここはやはり、数々の恋愛ソングを歌ってこられた麻倉先生のご意見を伺いたいですね。

麻倉 ええっ!(笑) そうですね……私はけっこう、こういう女の子は嫌いじゃないので。

夏川 嫌いじゃない(笑)。

雨宮 嫌いじゃないってなんなの?(笑)

麻倉 確かに未練がかなりあるというか、まだ前に進めていない感じもするんですけど、それも愛おしいと私は思ったので、楽しくレコーディングできましたね。あとバックの音もすごくきれいなので「昔、こんなことがあったな」みたいな、付き合っていた頃の記憶が美しい思い出として映画のフィルムみたいに流れていく感じもすごく素敵だなって。

夏川 TrySailでバラードを歌うとなると、私は繊細さを表現することを意識するんですけど、「モノラル」はもう、糸の先を裂いたその先ぐらいの繊細さが必要だと思って。

──めちゃくちゃに細いですね。

夏川 物語を丁寧に伝えつつも、自分の経験してきたことを訥々と語るぐらい自然な感じを出したいと思って歌いました。この曲は「I feel you.」とか「I lost you.」というコーラスが歌の後ろに薄く流れているんですけど、それも相まって、本当にきれいめなバラードになったなあと。

雨宮 今、ナンちゃん(夏川)の話を聞いて「私の解釈と全然違う!」と思った。もち(麻倉)もわりときれいめな解釈をしていましたけど、私の中では完全に、この人は自分の失恋に酔いしれていて、悲劇のヒロインになりきっているんです。だから、私は逆にめちゃくちゃ暑苦しく歌ったんですよね。

夏川 そう、バラードってわりとそうなるよね。バラード以外の曲だと「ほかの2人と声の出し方を合わせてください」みたいなディレクションになるんですけど、バラードだと「自分の思ったように歌ってください」とか「自分が持ってきた解釈で歌ってください」と言われることが多くて。

──その話、面白いですね。

夏川 それが歌い分けのときに生きるんですよね。天さんは情熱的に歌っているから、情熱的に聴かせたいところは天さんのパートにして、繊細に聴かせたいところは私かもちのパートにするみたいな。そこで曲に緩急や起伏が生まれる感じになるので、TrySailとしてバラードを歌うときの1つの正解は、“それぞれが自由に歌う”なのかなって思います。