ナタリー PowerPush - ザ・ビートモーターズ
正統派R&Rから等身大のサウンドへ 待望フルアルバムを秋葉正志が語る
普段の言葉で歌いたいんです
──でも今作、ちょっと変化してると思いました。今まではR&Rとかブルースといった60~70年代の要素が強かったけど、今作はそこを軸にしながらも曲のバラエティは増したし、王道なロックなんだけど、そこからちょっとズレた感じがカッコいい。
前からそういうこともやってたつもりだったんですけど、今までよりちゃんと出せるようになったってことかもしれないです。
──タイトルの「The First Cut is The Sweetest」って、「The First Cut is The Deepest」からの引用ですよね。
そうです。昔の洋楽の曲で。元の意味は「最初の一撃は最も深い」ってことだけど「最も甘い」にして。
──今作、ラブソングが多いですしね。
あぁ、そうですね。
──歌詞はすごく簡潔ですよね。
簡潔だと思うんですけど、裏で別のことを伝えたいって気持ちもあって。何か1つのことを歌ってるようでいて、実はその向こう側にあるものを見せたいっていう。例えば男と女がいて、そのカップルのことを描写してるんだけど、でもその向こうの風景を実は歌っているとか。あと、すごい文句を言いたいんだけど、でもただ文句を言うだけだとつまらないから、表面的にはラブソングのスタイルをとって、そこで「クソったれ」って歌ってたり。
──いい意味で肩透かしという。ひねりがありますもんね。
説明的になったり難しい言葉を使うのは避けたいんです。普段の言葉で歌いたいんです。カッコつけないでやりたい。でもそうは言ってもカッコつけないっていうカッコのつけ方をしてるんですけどね(笑)。あと自分の歌い方や声ですよね。自分の声の感じを活かす言葉の音の置き方を試してたら、だんだん言葉が短くなって歌詞が簡潔になって。歌詞が短くなった分、その行間でどれだけ何を出せるかってことは、ちょっと考えますね。
──声、ダイナミックでいいですよね。で、サウンドも豪快なR&Rだけじゃなく、「あのこにキッス」はフリーソウルとかレアグルーヴっぽい曲で。
フリーソウルとかレアグルーヴとかもあるんですけど、自分としてはTHE CHEMICAL BROTHERS(笑)。自分なりの解釈っていうか。そういうのってディスコとつながってるんじゃないかなって。で、ディスコってもともとはソウルだったりすると思うし。
──なるほど。連想ゲームじゃないけど「この音楽はあの音楽とつながってる」ってどんどんたどっていって。頭の中で音楽の旅をするわけですね。
そうです。そういうことが好きなんです。
「どういうバンドなのか」を考えるようになった
──「恋をしている」はファルセットで歌ってますね。
ファルセットで歌ったのは初めてなんです。僕的にはもともと好きだったはっぴいえんどと、大学に入ったころに聴いた音響系の感じ、そういうのをつなげて出せてるかなって思います。
──じゃ、「スマイルをおくれよ」はどんな旅を? コレはTHE BANDで……。
そうそう、THE BAND。でも完全に古いというより、THE BANDを聴いたBECKがやってる感じ(笑)。
──うん。今までの作品はルーツ的要素が強かったけど、今作はルーツ的なサウンドでも視点が今なんですよね。今の視点でやってる感じはすごくします。
あ、それは良かったです。昔の人も好きだしホントのロックも好きなんですけど、ホントのものを聴いて影響受けて、自分たちでやり出したって人に共感するんで。オルタナカントリーのバンドとかTEENAGE FANCLUBとか。そうやってバンドが続いているっていうことがうれしいし好きなんですよね。
──今作、等身大の音が出せてますよね。
そうですね。今まではR&Rって見られてたと思うし、見た目とかバンド名とか、そういうとこのイメージに曲が負けちゃっていた気がするんです。僕はポップスも好きだし、ちゃんと曲を作ってるって自負があるんだけど、イメージがR&Rだったりして、そっちに僕ら自身も寄っていってたのかもしれないなって。そういうことも打破していこうと。たぶん、以前はいろんなことを意識しないでやってきたんだけど、今は自覚してきたってことですね。ザ・ビートモーターズはどういうバンドなのか、どういうふうにやっていくのかってことを、ちょっと考えるようになったんですね。
──今は変化している真っ最中のようですが、どんなふうに変わっていきたいか、ビジョンみたいなものはありますか?
もうちょっと、僕がフロントマンとしてドーンと引っ張っていくような人になりたいです。曲を作ってるのは僕だし、僕が曖昧だとバンドも曖昧になっちゃうと思うんですね。だからって僕1人だけがわかってればいいってことじゃないし。僕が人を引っ張っていく力をつけてガーッと行くような。もっと自分を出していきたいです(笑)。
ザ・ビートモーターズ
明治大学の音楽サークルのメンバーだった秋葉正志(Vo, G)、木村哲朗(G)、ジョニー柳川(B)が結成したロックバンド。2004年に鹿野隆広(Dr)が加入し、現在の編成となる。東京都内でのライブを中心とした活動を繰り広げ、オーディションを経て2009年4月にSMALLER RECORDINGと契約。同年7月に初の音源となるミニアルバム「気楽にやろうぜ」をライブ会場限定で発売。11月からは全国流通もスタートし、大きな話題を集める。その後「SUMMER SONIC」「COUNTDOWN JAPAN」「RADIO CRAZY」といった大型フェスやイベントにも続々と出演。2010年4月には2ndミニアルバム「素晴らしいね」をリリースし、6月に初のワンマンライブを下北沢SHELTERで開催。チケットはソールドアウトし、彼らに対する注目の高さをうかがわせた。2011年3月に初のオリジナルフルアルバム「The First Cut is The Sweetest」を発売する。