「オールカテゴライズ」でつながる

──昨年リリースしたデビューシングル「オールカテゴライズ」の受け入れられ方はいかがでした？ 思っていた通りに広がったという実感は持てましたか？

聴かれた方々は、自分が思っていた以上に歌詞の意図を真剣に汲み取ってくださって。あと、自分はもともと声にコンプレックスを抱いていたんですけど、それも受け入れてくださって、これからの活動の幅が広がった感じがしました。

──前回のインタビューで、かつては自分の過去を浄化するため、または痛みを和らげるために曲を書いていたけど、「オールカテゴライズ」はもっと外に働きかけて、つながりを意識しながら書いた初めての曲だったと言ってましたよね（参照：焚吐「オールカテゴライズ」インタビュー）。実際あの曲を出して、外とつながれた感覚は持てましたか？

はい。タイアップのアニメのイベントとかで、普段は自分の音楽を聴かなさそうな方たちが「オールカテゴライズ」を気に入ってくださってることがわかって。そういう方ともつながれた実感がありましたね。自分自身、今までアニメはたまに観る程度だったんですけど、最近はDVDを借りてきたりして、かなり熱心に観るようになりました。

──アニメと焚吐さんの曲や歌声って、すごく親和性が高いように思います。

自分もアニメでかかる曲を聴いていると、メロディの構成の仕方に自分のスタイルとの共通点を見つけられたりしますね。

完璧なものがなくてよかった

──「オールカテゴライズ」はアニメ「ヤング ブラック・ジャック」のエンディングテーマ曲（参照：ビーイング新人SSWがNeru編曲「ヤング ブラック・ジャック」ED曲でデビュー）、そして今回の「ふたりの秒針」は「名探偵コナン」のエンディングテーマ曲（参照：焚吐、新曲が「名探偵コナン」エンディングテーマに）ですが、それが決まったとき、どんなふうに感じました？

大きなチャンスだと思いました。「名探偵コナン」はアニメに詳しくない自分でも観ていたアニメだったので驚きもありましたし、そのテーマ曲を歌うというのは、歴代の偉大なアーティストの方々がずっとつないできたバトンでもあるので、責任を感じながら曲を作らせていただきました。

──「名探偵コナン」のストーリーをイメージしながら作っていったんですか？

はい。物語のロジックだとか、どのキャラクターにスポットを当てたらいいかすごく考えましたね。

──「ふたりの秒針」は焚吐さんにとって初となる、バラード調のラブソングだそうですね。

ラブソングをほのめかすような曲は過去にもあったんですけど、この曲のように王道のラブソングを書くのは初めてでした。「オールカテゴライズ」に準ずる形の曲でもよかったんですけど、2枚目で意欲作を出している方がたくさんいるので、自分も2枚目で挑戦しなきゃいけないなと。だからあえて、自分の中では苦手だったラブソングというジャンルに挑戦しようと思ったんです。また王道のコード進行のバラードも今まで作っていないので、それにも挑戦しようと。

──過去に書いたラブソングをほのめかす曲というのは、どんなものだったんですか？

少しスレた感じでしたね。愛を批判するようなものでした。道端を歩いているカップルへの風刺だったりとか。

──イチャイチャしてんじゃない、みたいな?

「勝手にやってろ」みたいに。

──はははは（笑）。「ふたりの秒針」は、それとはまったく違いますね。愛の重要性を肯定的に書いている。そういう気持ちに、どのように至ったんでしょうか。

去年大学に入学して、12月には「オールカテゴライズ」でデビューをして、その中でたくさんの人と出会ったわけですが、その出会いの中で芽生えた感情がたくさんあったんです。今まで自分は欠落していた部分があって、空虚な気持ちで生きてきて。でもいろんな人と出会っていくうち、すごく心が埋まった感じがしたんです。それから相手も何か欠落したところを持っていて、それを自分が補えたらいいなという気持ちも生まれました。それまで止まっていた、何かが動き出す感覚があったんです。

──かつては欠落をネガティブにだけ捉えていたけど、今は人間誰しも欠落している部分があって当たり前なんだと捉えられるようになった。だからこそ愛を必要とするんだと、肯定的に捉えることができるようになったわけですね。

はい。また、この曲を作っている最中、完璧なものがなくてよかったというような気持ちにもなりました。愛が全知全能で、この世の中、愛だけですべて解決できるものだったとしたら、たぶん自分がそこに入り込む余地はない。自分たちにも、愛そのものにも、欠落している部分があるからこそ、お互いそれを必要とするというか。