ナタリー PowerPush - 砂守岳央(沙P)
異色ボカロP“沙P”の本当に異色なキャリアとサウンド
万全の筆記対策で藝大大学院進学
──そしてその後の進学先、京都大学での音楽活動は?
けっこういろんなサークルに入ってました。軽音のサークルとか、神前暁さんも在籍していた作曲のサークルとか。あと京大って学生演劇がすごい盛んで、僕も舞台の音楽担当をかなり真剣に、というかそればっかりやるようになり、卒業に6年かかり(笑)。そして「もうちょっとマジメに音楽をやりたいな」と思って東京に戻ってきた感じなんです。
──その戻ってきた先が東京藝術大学っていうのもまた驚きというか、それこそ“マルチ”だなあ、って思った理由の1つなんですよ。
当時、ストリングスのスコアなんかが思ったように書けなかったんですよね。それで音楽系の学校に入って勉強したかったんですけど、ヘンな話、私立の音大に入り直すような学費はないわけじゃないですか(笑)。しかもソルフェージュ(楽譜読み)なんかの訓練を受けてるわけでもないから楽譜をパッと見て弾けます、みたいな能力も全然なくて。「どうしようかな?」と思って藝大に行っていた友達に相談したところ、藝大の大学院の院試は研究と筆記試験がメインだ、という噂を聞きまして。
──「それオレ得意分野だ!」って?(笑)
そうそう(笑)。聴音のテストなんかもあるんですけど、大学院は研究するところなので、提出する研究テーマなどが重視されるんです。最初提出したテーマとは全然変わってしまったんですけど、最終的には「ネットで音楽を聴いている人はどういう視聴環境にあるのか」という論文を書きました。聴力検査のパソコン版というか、ボタンを押したら高低、いろんな音域のピーって音の鳴るテストを受けてもらって、どの音域が再生されているのか、どの音域は聴こえていないのか、視聴環境を調べるという内容です。ちょうどその頃、ニコニコ動画で曲を発表していたので、そこで人を募ったら、けっこうな数のアンケートが集まって、担当教授が「内容はともかく、この調査量はすごいね」って(笑)。そんな感じで研究をしながら、学部生に混じって授業に出ながら勉強してました。
才能が生かされない環境はもったいない
──ニコ動とは何がきっかけで出会ったんですか?
高校時代の同級生に田中教順っていうドラマーがいて。今はDCPRGで叩いているんですけど、そいつも藝大出身で学生時代に匿名で「叩いてみた」動画を初めて上げたんです。その動画を一緒に観ていたら、ひと晩で数百再生集めていた。まあ、その動画のコメントはすごい荒れてたんですけど(笑)、たとえば当時やっていた演劇で100人のハコを埋めるって大変じゃないですか。そういう意味で、その数字って僕にはかなり衝撃的だったんです。それで「歌ってみた」動画を上げてみたらランキングで3位になって、それでまあ調子に乗ったというか(笑)。その後、大学の後輩をそそのかしてアップしてみたりするようになりまして……。
──その後「ProjectTRI」を立ち上げてボイスドラマシリーズ「僕と少女と宇宙船」をニコ動で発表することになる、と。
そうですね。それには藝大に入ったことが大きな転機になっていて。大学院生の僕と一緒に授業を受けているのは18~19歳くらいなのに本当にものすごくデキるミュージシャンやクリエイターばっかりなんですよ。ただ当時すでに20代半ばだった僕の目には、その若い人たちのゴールが見えなくて。最近も話題になってましたけど、藝大は1学年のうち数人が就職できたら御の字の世界。みんなけっこうそれが当然だと思っているんですけど、そういう才能が生かされないのはすごくもったいないなあ、と思ってたんです。で、僕のいた学科はレコーディングとかプロデュースワークとかを扱うところなんですけど、そんなことを考えていた頃、授業の一環でボイスドラマを作ることになって。でも授業のために用意されたテキストっていうのがどうしても生真面目な内容で……面白くないわけですよ、若者的には(笑)。
──なんとなく想像はつきます(笑)。
それで一緒に授業を受けている人たちとメシを食ってるときに「本当は何をやりたいの?」って聞いてみたら「実はアニメがメッチャ好きなんですよ」っていう声がものすごく出てきたんです。例えば「僕と少女と宇宙船」の効果音を作ってくれたヤツは学生のコンクールで賞を獲るくらい能力があるんだけど「授業では柔らかい床と硬い床の違いを音で表現しましょう、みたいなことばかりやっている」と。「それはそれで面白いんだけど、ホントはオレ、すごいビームの音とか作りたいんです!」って熱弁を振るったりして(笑)。それで「これだけの才能が集まってることだし、何かみんなが楽しめて、しかもみんなの未来に繋がるような作品をアウトプットできないかな?」と思って始めたのが「ProjectTRI」なんです。アニメを作れって言われてもムリだけど、ボイスドラマだったらみんなでお小遣いを出し合えばなんとかなるだろう、って。
- ニューアルバム「覚醒ラブサバイバー」2013年12月11日発売 / FlyingDog
- 「覚醒ラブサバイバー」
- 初回限定盤 [CD+DVD] 2625円 / VTZL-70
- 通常盤 [CD] 2100円 / VTCL-60356
CD収録曲
- ハッピーエンドジェネレイタ
- 覚醒ラブサバイバー
- オトギノート
- 致死性恋愛症候群
- 初恋暴走アノマロカリス
- ジェリーフィッシュ・ネオン
- サイキックガール・ア・ゴーゴー
- 全力疾走ボーイミーツガール
- 夕闇リフレイン
初回限定盤DVD収録内容
- 覚醒ラブサバイバー(MUSIC VIDEO)
- 全力疾走ボーイミーツガール(MUSIC VIDEO)
- 初恋暴走アノマロカリス(MUSIC VIDEO)
- ハッピーエンドジェネレイタ(MUSIC VIDEO)
- サイキックガール・ア・ゴーゴー(MUSIC VIDEO)
砂守岳央(沙P)(すなもりたけてる(すなぴー))
1983年生まれの作詞家、作曲家、作家、シナリオライター、プロデューサー。私立武蔵高校から京都大学を経て進学した東京藝術大学大学院在学時となる2009年、沙P名義で同じく藝大の学生らとともに制作集団「ProjectTRI」を立ち上げ、自ら監督・脚本、イメージソングの作詞作曲を手がけたボイスドラマシリーズ「僕と少女と宇宙船」をニコニコ動画で発表。瞬く間にアクセス数を集め、2010年1月には同作の上映イベントが東京・アップルストア銀座で開催される。以降、ニコ動で人気の歌い手への楽曲提供やドラマCDの監督や脚本、アニメのキャラクターソングの制作、映画音楽など、幅広いジャンルで活躍。2013年3月には自身初となるボカロナンバー「覚醒ラブサバイバー」がボカロ再生数ランキング上位に輝く。そして以降「全力疾走ボーイミーツガール」「ハッピーエンドジェネレイタ」などさまざまな楽曲を立て続けに公開し、同12月には本名名義のメジャー1stアルバム「覚醒ラブサバイバー」をリリースした。メジャーデビューと同時に、同タイトルの電撃文庫「覚醒ラブサバイバー」にて作家デビューも果たす。