音楽ナタリー PowerPush - 終焉ノ栞プロジェクト

150P&スズムによる終焉ノ栞プロジェクト解説

「ひさしぶり、ごめんね、待たせちゃって」

──今回のタイトルはなんで、思い出させるといった意味の「-Re:mind-」なんでしょうか?

スズム ファンの人に「ひさしぶり、ごめんね、終焉待たせちゃって」っていう意味を込めて、「-Re:mind-」なんです。それと僕たちは、このアルバムはきっと売れないだろうと思ってるんですよ。

──いや、それはないと思いますよ。2年間待たされた分、期待は高まってはいると思うんで。しかも小説もマンガも続いてるし、だったら音も聴きたいってファンの方は絶対思ってるでしょう。

「リピートラジディー」のイメージイラスト。

スズム うーん、結果的に売れてほしいとはもちろん思うんですけど、まだあまり広がってないですし。今回は「あ、出てるんじゃん。買わなきゃ」っていうようなアルバムになると思うんです。まあ、3rdアルバムのプロモーションだねって主犯の人が言ってました。

150P 主犯の人、思い切ったことを言ったな(笑)。

スズム そういう意味で「Re:mind」なんです。

──ここで「復活の狼煙だ、イエーイ!」っていうテンションにならなかったのはなんででしょう?

スズム このアルバムって僕たちが面白いと思うことも大事だけど、一番はファンの方への恩返しなんですよね。「こういうもの作ったから聴いてくれよ」っていうんじゃなくて、こういう言い方はアレですけど、「どうどう? みんなのために書いたよ、作ったよ! 好きかな……?」みたいな感じなんです。

150P そういう意味で、1stアルバムより、リスナーを意識してるところはすごいあります。同じく恩返しをしたい思いもあって。

──2年間って期間はやっぱり長かった?

スズム 長いですよ、もちろん。僕、ハタチから22歳になっちゃったんで(笑)。ただまあこのアルバム面白いところは、今まで斜め上の発想と言われる人だった僕たちが、ファンに「もうこういうの待ってたわ!」って言ってほしくて作っていたので。それは大きいですね。でも、お前らそれで満足したら次はパンチ食らわすぞ、って主犯の人が言ってました。

150P パンチって(笑)。

プロジェクトは劇団と同じ

スズム お察しかと思いますが、「終焉ノ栞」と「八日目、雨が止む前に。」ってつながってるんですよ。だって「終焉ノ栞」も、「八日目、雨が止む前に。」もその世界を僕が作ってるから。同じ人間が作ってたらつながってないワケないんですよ。

──そのプロジェクトの“またぎ感”がすごいですよね。

「終焉-Re:mind-」の場面カット。

スズム そうなんです。でも「八日目、雨が止む前に。」の参加メンバーって、「終焉ノ栞」とほとんど同じなんですよ。お話の趣向は違うけど「終焉ノ栞」と同じように楽曲1話完結で物語を書こうと思っていたので、だったらそれは同じ面子でやんないと意味がない。主役が違うってだけなんで。

──150Pさんは、スズムさんの作品と「終焉ノ栞」がミックスされていく感じには抵抗はない?

150P 話はずっと聴いていましたし、抵抗なんてまったくないですね。むしろ楽しい。

スズム ぶっちゃけ「八日目、雨が止む前に。」では「終焉ノ栞」に反逆しようっていう気持ちもあったんですよね。だから主役がとことん逆転してるんですよ。「終焉ノ栞」のイラストの“主役”ってこみねなんですよ。ただ、「八日目~」はさいねさんが主役なんで。で、「終焉ノ栞」は150Pが音楽の主役で、僕はアシスタントなんです。逆に僕は「八日目~」だと主役になってて、たまにクレジットにしれっといますが、150Pにもストリングスのお手伝いしてもらったり。だから劇団みたいなもんなんですよね。演目によって主役が変わる。

──じゃあこの劇団は、「終焉ノ栞」って演目では今後何をやりましょうかね?

スズム メンバーの中で、一応結末は決まってるんですよ。僕は小説は6巻までで終わらせたいなって思ってますし。ただ書きかけの地図のようなものだから、結論は変わらないけど、そこに至る進路を変える場合もあって。

──当然、小説やマンガだけでなく音作りも続ける?

スズム ええ。小説の刊行ペースに、音楽制作のスピードが負けてるんで、どんどん追い上げていきます。ただ僕たち終焉チームはへそ曲がりなんで、もしかしたら終焉のキャラクターの子たちみたいに映画を作り始めるかもしれない(笑)。例えばですけど、もしかしたらもうVOCALOIDさんを使わないかもしれないとかって主犯の人が言ってました。

150P あははは(笑)。

スズム 「終焉ノ栞」の主犯がスズムになるかもしれないですし、150Pが「八日目~」の主犯になってるかもしれない。そういうのがありなんですよ。さっきも言った通り、僕たち作家陣が劇団員のようなものなんで。だから本当にやれることは無限大なんですよね。

負けてもいいんです

──最後の質問ですけど、衝動みたいなものに突き動かされてやってるだけだと言ってるのに、なんでここまでプロジェクトを大きくして、リスナーを巻き込めたんだと思いますか?

「終焉-Re:mind-」の場面カット。

スズム 自分たちが面白がってるからだと思いますね。僕たちが楽しんでいるからほかの人も面白い。ただそれだけ。スポーツと同じ感じだと思ってるんです、この終焉ノ栞プロジェクトって。マーケティングとかしだしたら面白くないんで。例えば野球とかサッカーの勝負の結果って、始まったときにはわからないじゃないですか。終焉ノ栞も同じなんですよ。作る時期によってオチも曲も歌詞も絵も変わるし。

──音楽をスポーツに例えるのって面白いですね(笑)。だってスポーツって下手すると負けますよ?

スズム そうです。だから僕たちは、負けてもいいんですよ。だって同人作家なんですもん。僕たちは好きでやってる、あくまでそれだけなんです。その好きに勝ち負けってないじゃないですか。結果的にそれが、時代を作ったりするのかもしれないですし、時代のカスになるのかもしれないですし。ただ僕らがこのアルバム作ってよかった、って思ってるだけなんで。それだけだよね。

150P 本当にそう。

──景気のいい勝ちっぷりを見せるのが最上でしょうけど、負けっぷりが面白いのもいいですよね。

スズム 全然アリだと思ってます。もしこのアルバムがスベッたら、僕ら次のナタリーさんのインタビューがあったときに、前回はスベりましたのでって反省会インタビューしますよって主犯の人が言ってました。

150P ニューアルバム「終焉-Re:mind-」 / 2015年3月25日発売 / Victor Entertainment
初回限定盤 [CD+グッズ] 2700円 / VIZL-672
通常盤 [CD] 2376円 / VICL-64162
収録曲
  1. 「-反攻声明-」(instrumental)
  2. 報復リヴァイバル
  3. 欠落-Re:code-
  4. 結末ユメロディ
  5. 「-拝啓、舞台裏より-」(instrumental)
  6. ファイティングガール
  7. ノスタルジージャンクフード
  8. ゲームアンドガールズ
  9. 「-微炭酸レトロ-」(instrumental)
  10. やさしいお化け話
  11. 四丁目の秘密屋さん
  12. ぼくたちデイズ
  13. 「-笑顔サミット-」(instrumental)
  14. テレーゼの溜息
  15. ハイカラコーポパーク
  16. リピートラジディー
  17. 「-十年後より-」(instrumental)
  18. シュレディンガーの猫
  19. 「-病室1713号-」(instrumental)
終焉ノ栞プロジェクト(シュウエンノシオリプロジェクト)

VOCALOIDプロデューサーの150Pとスズムを中心に、さいね、こみね、ぎぶそんらが所属するクリエイター集団の総称。150PによるVOCALOIDオリジナル曲や、楽曲を軸にしたメディアミックス作品についても指す。2012年4月にメンバーが出会ったことをきっかけに始動し、同年夏にCD「Re:放課後-終焉ゲーム」を発売する。本作が好評を博したことを機に小説やマンガなどのメディアミックスがスタート。2013年3月にはビクターエンタテインメントより150P名義でアルバム「終焉-Re:write」が発表された。2014年3月にはメジャー2ndアルバム「終焉-Re:mind-」がリリースされた。