音楽ナタリー Power Push - さかいゆう

応援歌を“踊れない四つ打ち”に乗せた理由

さかいゆうがニューシングル「再燃SHOW」をリリースした。シングルの表題曲は、陣内孝則が監督した映画「幸福のアリバイ~Picture~」の主題歌。3曲目に収録された「But It's OK !」は、NHKのBSプレミアムドラマで今夏放送されていたドラマ「受験のシンデレラ」で主題歌として使用されていた楽曲だ。今年2月に発表したアルバム「4YU」のあと1発目のシングルとなるが、「タイアップのため制作した楽曲を2曲含むため、“新章スタート”というような感覚はない」と語るさかい。しかし「再燃SHOW」では四つ打ちのリズムを初めて導入したり、初回生産限定盤には現在開催中のツアーのリハーサルの音源を収録したりと、新たな試みが伺える作品になっている。果たして本作はさかいのキャリアの中でどんな位置付けの1枚になっているのか。制作背景をじっくり聞いた。

取材・文 / 猪又孝 撮影 / 佐藤類

自分なりの応援歌を踊れない四つ打ちで

──「再燃SHOW」は映画「幸福のアリバイ~Picture~」のために書き下ろしたそうですが、映画からどんな着想を得て書いたんですか?

映画は複数のストーリーで構成されてたんですけど、どの話も人間の恥ずかしいところとかダメなところとか失敗談を力強く、楽しく、コミカルに描いていて、統一されたテーマがあるなと思ったんです。で、僕には「自分の失敗やコンプレックスを乗り越えていこう」というメッセージを込めた曲があまりないから、自分なりの応援歌を作ろうかなと思って。「この映画の最後にどんな曲が流れてきたらいいかな」と考えていたら、ふと頭にメロディが流れてきたんです。

──曲調はどんな感じをイメージしたんですか?

極めて日本的な映画で、情けない登場人物もいたので、バラードじゃないなと思ったんです。かといってアップテンポでもないなと思ったから、なんとも言えないテンポの曲を作ろうと(笑)。

──なんてどっちつかずな(笑)。

さかいゆう

ちょうどノレないくらいのテンポなんですよ、これ(笑)。心臓の鼓動の倍くらいの、いっちばん踊れない四つ打ちを作ろうかなって。でもそういうテンポって歌は映えるんです。歌でしか表現できないテンポやメロディがいいなと思ったし、自分の声に合っていて、でも今までの自分にないメロディが思い付いたので、これでいこうと。

──四つ打ちは初めてですよね。

完全なる四つ打ちは初めてですね。まあこの曲には四つ打ちしか合わなかったっていうのもあるんですけど(笑)。僕はできるだけ四つ打ちは使いたくないんです。でも踊れる感じじゃない四つ打ちって面白いなと思って。このメロディもありそうでないと思うし、じんわり5年くらいかけて好きになってくれたらいいなって思います。いつも僕、そういう曲を作っちゃうんですよね。ど真ん中じゃなくて、ありそうでないものっていう。意識してそうしてるわけじゃないんですけど、生理的なレベルでそういうものを好んでしまうのかもしれない。

──四つ打ちと言ってもバンドアレンジですから、いわゆるクラブミュージック的な四つ打ちではないし、かと言ってバンド系の踊れる曲はもうちょっとテンポが速い。確かに独創的な四つ打ちなんですよね。

このテンポでこの歌って、よっぽど歌声が特徴的だったりしないと間が持たないと思いますしね。だから、自分にしかできないことはできたかなと思います。毎回、自分の心に向かって「自分にしかできないことをできたか?」って問いかけるんですよ。「今回の作品はお前にしか作れないものか? ほかに作れるヤツはいないか?」って。それは毎回クリアしてるし、今回もクリアできてると思います。それはカップリング曲の「Drowning」も「But It's OK !」も同じ。最終的にどれも自分が今まで接してこなかった感じの音楽になったと思うので、自分のキャリアの中では非常に重要なシングルになったなと思います。

──「再燃SHOW」というタイトルは「再燃焼」から来てるんですか?

そうです。自分の人生をショーに見立てて「SHOW」という表記にしたんです。あと、最年少とのダブルミーニングにもなっています。“今が人生の最年少なんだ”っていうことですね。年齢は変えられないけど、若さや老いは自分で決められると思うから。何かに立ち向かっていくときは自分で今が最年少って言っちゃえばいいじゃんと思うんですよ。誰かと比べて若いとか若くないっていうのはあんまり意味がないなと思っていて。特に物作りにおいてはそう。僕も後輩はいるけど、自分のほうが挑戦者というか、頭が悪いんじゃないかと常に思ってるんです。もっと頭がよくなりたいとか、もっと歌がうまくなりたいっていつも思ってる。それが探求心や向上心につながるんです。

音楽、酒……全部に溺れてますから

──2曲目「Drowning」は、ディスコ / ファンクサウンドですね。

さかいゆう

これはセクシーな感じをイメージしたんです。僕の物差しでの“ミステリアスエロス”がこれ。もしくは、ちょっとウェッティな感じというか。僕はウェットなものにすごく憧れるんです。例えばマーチン(鈴木雅之)さんみたいなR&Bとか。でも、自分の歌声のせいで、曲にちゃんとエロスがあってもうまく表現できなくて。この曲は自分なりのエロスを開拓したくて作ってみました。

──歌詞は全編英語詞ですね。

サウンドが日本語に合わないなと思ったし、英語のエロスにしたくて。自分が信頼できる人に、歌詞のコンセプトを伝えて英語詞を書いてもらったんです。

──「Drowning」は「溺れる」という意味の言葉ですが、歌詞で描きたかったことは?

溺れるくらい何かにのめり込んでる様を描いてるんです。僕、ドライになれないんですよ。音楽、酒……溺れてますから(笑)。

──そう言うとダメ人間っぽく聞こえますね(笑)。

あはは。でも溺れるのは一途ってことだから。音楽はもちろんそうだし、酒はもうホントに自分くらい溺れてるヤツは見たことがないっていうくらい溺れてます(笑)。でも、そういう自分も嫌いじゃないんですよ。自分のことが好きっていうのもあると思うんですけど、そのくらいがちょうどいいんです。

ニューシングル「再燃SHOW」 / 2016年11月16日発売 / アリオラジャパン
初回限定盤 [CD2枚組] 2000円 / AUCL-214~5
通常盤 [CD] 1300円 / AUCL-216
DISC1(初回限定盤・通常盤 共通)
  1. 再燃SHOW
  2. Drowning
  3. But It's OK !
  4. 再燃SHOW(backing track)
DISC2(初回限定盤のみ)

「“POP TO THE WORLD” ~rehearsal take~」

  1. よさこい鳴子踊り
  2. Headphone Girl
  3. ストーリー
  4. 再燃SHOW
さかいゆうTOUR "POP TO THE WORLD"
  • 2016年11月21日(月)宮城県 darwin
  • 2016年11月22日(火)新潟県 新潟LOTS 
  • 2016年11月29日(火)北海道 Sound Lab mole
  • 2016年12月6日(火)香川県 DIME
  • 2016年12月7日(水)広島県 SECOND CRUTCH
  • 2016年12月9日(金)福岡県 Gate's 7
さかいゆうLIVE "POP TO THE WORLD" SPECIAL
  • 2016年12月21日(水)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2016年12月25日(日)東京都 中野サンプラザホール
さかいゆう
さかいゆう

高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながらピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化させ、2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感ある歌声が広く支持されている。また客演も多く、これまでに日野皓正、マボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2015年1月にはそんなコラボ楽曲をまとめたアルバム「さかいゆうといっしょ」を発表。2016年2月に、蔦谷好位置をプロデューサーに迎えたバラード「ジャスミン」を含む4thアルバム「4YU」をリリース。11月16日には映画「幸福のアリバイ~Picture~」の主題歌「再燃SHOW」をシングルリリースし、11~12月に全国ツアー「POP TO THE WORLD」を実施する。