ナタリー PowerPush - 斉藤和義

孤高の“歌うたい”が明かした楽曲制作・レコーディングの裏側

1曲が完成するまでに速いと4~5時間

──レコーディングの風景が、「情熱大陸」(TBS系/7月中旬放送済み)で紹介されましたよね。ああいった制作風景を撮影されることに抵抗はなかったですか?

歌詞を考えているところに関しては、自分の部屋でスッポンポンで作ってるみたいなもんなので無理ですと最初に言って。曲作りってオナニーしてるみたいな感じなので、あんま見られたくないですね。それで、スタジオ内でのレコーディングだったら何を撮ってもいいですと返事して。でも、下ネタが全部カットされてたんですよ。話が違うじゃないかと思って(笑)。

──あはははは。

そこだけは解せない(笑)。すごくいい人っぽく映ってるし。

──今回のアルバムを聴く上で、あの番組はいい副読本になったと思います。

レコーディングはだいたいあんな感じだけど、あの曲(番組で紹介された「映画監督」)はわりと時間がかかったほうかな。

──ひとりで音を重ねていくとき、1曲が完成するまでにどれくらいかかるんですか?

速いと4~5時間で完成しますね。

──メチャメチャ速いじゃないですか!

歌詞が付いてたらアコギと歌を一緒に録って、その後すぐにドラムを叩きます。そこで時間を置いちゃうと、ノリが変わっちゃうんで。あとはアレンジ次第ですけど、エレキギター入れてベース入れて、タンバリン入れて。「アゲハ」(2000年2月発売のシングル)はトラックダウンまで、3時間くらいでしたからね。

──3時間ですか……。気持ち的にはデモテープ感覚で作った音源が本チャンになると。

そうですね。だから曲ができると、その日にすぐ録音することもあるし。

──衝撃的ですね、そんな短期間で仕上がるとは。

あまりキッチリ作ろうという意識はなくて。やりすぎると“製品化”されすぎてつまらないんですよ。デモテープのほうがよかったり、ちゃんとレコーディングした音源がデモを超えられなかったことが過去にあって。聴きやすく整えていい音にはなったけど、そこに詰まっているエネルギーが弱まったことが何回かあったので、だったら最初からデモみたいな感じでやっちゃったほうがいいなと思うようになったんです。

ショートムービーを観たような気分になるのが一番理想

インタビュー写真

──最初にこのアルバムは1本の映画を観ているようだと話しましたが、その一因として斉藤さんの歌詞も大きいと思うんです。メロディに乗せて聴くと気持ちが高揚したり、切なくなったり、あるいはどんどん妄想が膨らんでいったりと、ストーリー性の強いものが多い気がします。歌詞を書くときはどうやってストーリーを膨らませているんですか?

メロディを作っているときに口をついて出てくる言葉があって、そこには何かしら意味があるだろうと考えて膨らませるパターンが大きいですね。逆に曲を作っているときに何も思い浮かばなくて、仮タイトルを適当に決めておいてそこから膨らんでいく場合もあるし。歌詞じゃないけど詩みたいなものをメモったノートがあって、合宿のときには昔からのノートを持っていって、開いたページにあった文字にメロディをつけてそれが曲になったりすることもあります。

──歌詞が等身大というか、非常に現実的で日常の斉藤さんのイメージに近いのかなという気がします。

歌詞だけ突出するのもイヤだし、曲だけ突出するのもイヤ。それこそ聴いたときにショートムービーを観たような気分になるのが一番理想だなと思っていて、そこは目指してますね。

清志郎さんは亡くなっても存在感がまったく変わらない

──アルバムの中に忌野清志郎さんのことについて触れた曲(「Phoenix」)が入ってますが、この曲はどういうきっかけで生まれたんですか?

もともと清志郎さんの曲を作ろうとしてたわけではなくて、偶然できちゃったんですよ。最初はネコのフィリックスのガムがスタジオに置いてあって、曲ができたときに「フィリックス」と仮タイトルを付けたんです。そのあと、フィリックスという響きからフェニックスになって、その意味はなんだと探り始めたら“不死鳥”って意味にたどり着いて清志郎さんぽいなという話になって。タイトルを「Phoenix」に決めた瞬間に清志郎さんの歌になったんですね。今回のアルバムの中では、歌詞も一番スラスラ書けたかな。

──じゃあ他の曲と一緒で、自然と湧き出てきたものがそのまま形になったと。

そうですね。

──清志郎さんとは何度か共演したことがあると思いますが、斉藤さんにとって清志郎さんはどういう人でしたか?

楽屋ではいたずらっ子というイメージが強いですよ(笑)。だけど「瀕死の双六問屋」(雑誌「TV Bros.」での連載をまとめた書籍)を読むと、すごく文才があるし。“市営グランドの駐車場”(RCサクセション「スローバラード」の一節)という歌詞のフレーズだったり、「2時間35分」というタイトルだったり、「初期のRCサクセション」というネーミングだったり、そのセンスに驚かされます。もちろんボーカリストとしても素晴らしすぎますしね。ああやって60歳近くなってもロックをやれるってことを証明してくれたし。もし今後、自分が同じようにできなかったら、それはサボってたということ。いろいろ提示してくれたから、続く僕らは楽チンなんです。本当の意味でのパイオニアですよね。

──僕たちが音楽を聴き始めた頃にはすでに清志郎さんが第一線にいて、当たり前のように聴いて育ってきたわけですが、改めて清志郎さん登場以前と以後を比べると本当にすごいんだなと。この数カ月で改めて実感しますね。

亡くなってもその存在感が生前とまったく変わらなくて、そこはすごいことですよね。だから、亡くなったことがいまいちピンと来なくて。通夜で棺の中の清志郎さんを見ても、すくっと起き上がって歌い始めそうな感じだったしね。

ニューアルバム『月が昇れば』 / 2009年9月16日発売 / SPEEDSTAR RECORDS

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  • 通常盤 [CD] 3150円(税込) / VICL-63401 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. COME ON!
  2. LOVE & PEACE
  3. 映画監督
  4. ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー
  5. 後悔シャッフル
  6. やぁ 無情
  7. 天国の月
  8. Phoenix
  9. Bitch!
  10. Summer Days
  11. ハローグッバイ
  12. アンコール

初回限定盤:ブックケース&豪華フォトブックレット付き

斉藤和義(さいとうかずよし)

アーティスト写真

1966年栃木県出身。大学の頃から曲作りを始め、1993年「僕の見たビートルズはTVの中」でデビューを果たす。シングル「歩いて帰ろう」がテレビ番組「ポンキッキーズ」で注目を集め、その後も「歌うたいのバラッド」などのナンバーで多くのファンを獲得。シングル「ウエディング・ソング」は、リクルート「ゼクシィ」CMソングとしても話題に。また、音楽以外でも映画「八月のかりゆし」に出演するなど、その素朴なキャラクターのファンも少なくない。