音楽ナタリー Power Push - ラスマス・フェイバー

「学戦都市アスタリスク」の世界を彩る試み

アニメ「学戦都市アスタリスク」のサウンドトラックが12月23日にリリースされる。

このサントラを手がけたのはスウェーデン出身アーティストのラスマス・フェイバー。彼はハウスミュージックのプロデューサーとして支持を集めるほか、アニメソングのジャズカバー集「プラチナ・ジャズ」シリーズのプロデューサーとしても親しまれている。彼は初のアニメの劇伴をどういった考えのもとに制作したのか。ラスマス本人に語ってもらった。

取材・文 / 鵜飼亮次 撮影 / 佐藤類 通訳 / 岩永裕史

アニメの劇伴がやりたかった

ラスマス・フェイバー

──もともとラスマスさんは「アニメの劇伴をやりたい」と考えていて、架空の作品のサウンドトラックを想定したデモ音源集まで用意していたそうですね。その熱意がスタッフの耳に届いて今回のサントラを手がけることになったと伺ったのですが、なぜそこまで劇伴の制作に興味を持っていたのでしょうか?

おそらくミュージシャンであれば、誰でも「劇伴を手がけたい」という夢を抱くと思うんだ。映画やテレビ番組で、音楽が映像にあわさった状態で流れたときに自分の感情が動かされるのを感じて、「自分も作ってみたいな」と自然に思ったんだよ。それに僕は単に曲を作るより、1つのプロジェクトの中で数々の音楽を手がけていくことにも興味があったんだ。

──その中でもアニメを選んだのはなぜでしょうか?

壮大でエモーショナルな音楽を作るのが好きだから、かな。例えばすごく怖いシーンやとてもロマンチックな場面みたいに、ダイナミックに感情を揺さぶるようなシーンにあわせた音楽を作りたかった。その点で言うと、日本のアニメはハリウッド映画みたいにキャラクターの感情の起伏やストーリー展開が激しい作品が多い。僕はそういう作品に音楽を付けてみたかったから、昔からずっと日本のアニメの劇伴がやりたかったんだよ。

──今回ラスマスさんが音楽を担当した「学戦都市アスタリスク」は、激しいバトルシーンとほのぼのとした学園生活を描いたシーンが入り乱れる、メリハリの効いた作品ですね。

うん。学園的なシーンもあり激しいバトルシーンもあるから、曲を作りながら「今後どんな展開になっていくんだろう?」って続きを想像していたよ。

目指したのはハイブリッドな音

アニメ「学戦都市アスタリスク」キービジュアル ©2015 三屋咲ゆう・株式会社KADOKAWA / アスタリスク製作委員会

──楽曲制作はどのように行ったのでしょうか?

脚本やキャラクター設定のイメージをスタッフからもらって、それを見ながらアニメの監督(小野学)や音響監督(本山哲)からオーダーされた音楽のリストに沿って楽曲を作っていった。リストには「綾斗とユリスが戦ってるシーン、ただし真剣なバトルじゃない」というようなシンプルなシーン紹介が書かれていて、それを参考に「このシーンにはこういうタイプの曲だろうな」というのを自分なりに解釈して作っていったんだ。

──実際にサントラを聴いて驚きました。オーケストラを導入したゴージャスな音は最近のアニメ作品のサントラとしては珍しいなと思ったので。

確かに自分でも「意外にシンフォニックな作品に仕上がったな」とできあがったときに思ったよ。実は最初からこういう音にしようとは考えていなくて、作っていく過程で「このサウンドの方向性がいいな」と決めたんだ。

──この方向性はどういった流れで決めていったんでしょうか?

劇伴をすべて担当するにあたって、筋が1本通っているサウンドにしたかったんだ。もともと統一感のある作品が好きだっていうのもあって、いろんなジャンルの曲を作って散りばめるより、統一感を意識したほうがいいなと思ってね。そこで自分がもともとやりたいと思っていた、生のオーケストラを導入した音をこの作品の音楽の“幹”に添えようと思ったんだよ。

──アルバムにはストリングスと打ち込みのドラム音、ピアノの音色とグリッチ音といったサウンドの組み合わせが楽しめる楽曲がたくさん入ってます。さまざまなサウンドを取り入れながら統一感を図る上で具体的にどういったことを心がけましたか?

ラスマス・フェイバー

今回はエレクトロニックなサウンドとオーケストラのサウンドとの完全な融合、ハイブリッドな音を目指した。さまざまなシーンにあわせていろいろなタイプの音楽を提供したけど、すべて全体のバランスをすごく考えながら作ったつもりだよ。

──実際にご自身の音楽が使われたアニメを観るのはどんな気持ちですか?

そうだね……初めて劇伴作家として作ったものだから、アニメを観るたびについ自分の音楽の自己批評を始めてしまうというか(笑)。「こういうふうに使われるのか」と思ったり、作った音楽の鳴り方が気になったりして、気付けばどうしても意識がアニメ自体より音楽に引っ張られてしまっているんだ。

「学戦都市アスタリスク オリジナルサウンドトラック」 / 2015年12月23日発売 / FlyingDog / 3132円 / VTCL-60416
「学戦都市アスタリスク オリジナルサウンドトラック」
「学戦都市アスタリスク オリジナルサウンドトラック」
収録曲
  1. Asterisk War Main Theme
  2. Ready Your Blade
  3. Song of the Bloody Scythe
  4. Stinger Blitz
  5. Eventide
  6. Seven Ways to Fall
  7. Bravery of Kirin
  8. Chorale
  9. Colloquy
  10. A Juvenile Memory
  11. The Power Sets Free
  12. Deadly Dance
  13. Rise of the Phoenix
  14. Claudia's Melancholy
  15. Clouds Gathering
  16. Sister, where are you
  17. Quiet Camp
  18. Jaunty Victory
  19. A Sigh of Relief
  20. Jalousie
  21. The Strain of Asterisk
  22. Julis' Theme(piano version)
  23. Hold You in the Wind
  24. Determination of Ayato
  25. Waiting for the rain(TV Edit)
ラスマス・フェイバー
ラスマス・フェイバー

1979年生まれ、スウェーデン生まれのプロデューサー。10代後半から地元ストックホルムでジャズピアニストとしてセッションを重ねながら、ハウスミュージックの制作も行い、2002年にデビューシングル「Never Felt So Fly」をリリース。翌年には自身のレーベルFarplane Recordsを立ち上げ、代表曲の1つ「Ever After」を発表した。2008年には1stアーティストアルバム「Where We Belong」をリリースし、2009年にはアニソンと自らのルーツとなるジャズを融合させた「プラチナ・ジャズ」シリーズのプロデュースをスタート。また日本では坂本真綾、中島愛といったアーティストへの楽曲提供も行っており、2015年10月からTOKYO MXほかでオンエア中のアニメ「学戦都市アスタリスク」では、劇伴と坂本が歌うエンディングテーマ「Waiting for the rain」の制作を担当した。