「京都音楽博覧会2017 IN 梅小路公園」特集 くるりインタビュー|11年目の音博は“生歌謡ショー” 未開の領域へと足を踏み入れた理由

最初の年の打ち上げみたいなやつをやりたい

──「場を楽しむ」ということで言うと、去年の話に戻ってしまうんですけど、中止決定後にくるりとFlip Philipp and Ambassade Orchesterの皆さんでやられたLINE LIVEの生配信もとても印象深くて。

岸田繫(Vo, G)

岸田 本当に急遽でしたからね。大所帯で演奏するアクトでみんなそれなりの思いがあって音博に臨んでいたから、お客さん同様、披露できないのは我々もすごく残念で。「じゃあ、その思いをぶつけてみましょうか、マイク1本で」みたいな感じ。

──中止が決まってから配信が始まるまで3時間くらいだったと思うんですけど、それまでにあれだけの準備を整えて演奏を披露してくれることがすごいなと思いながら観ていました。

佐藤 そうですね。地元のラジオ局の皆さんやレコード会社のスタッフがチャチャッとまとめてくださったんでなんとか、っていう。

岸田 「思い付いたことはなんでもやろう」っていうのが音博のコンセプトでもありまして。どんな状況でも音楽的に何か面白いことが起こるっていうことは、1年目の時点から続いてたんですよ、実は。1年目の音博で個人的に「すごくよかったな」と思ったことがあって……と言うのは、打ち上げ会場で急に演奏が始まったんですよ。小田和正さんが還暦になられたっていう話をルーマニアのジプシーバンドのTaraf de Haidouksのおっちゃんらが聞いて、「ルーマニアのバースデーソングでお祝いしてやる」って言って楽器持って来はって、わけのわからん音楽をやったんですけど。

佐藤 呪文みたいなね(笑)。

岸田 でも小田さんがそれにいたく感動されて、そうしたらミュージシャンたちが我よ我よと演奏を始めたんですね。「音博がこうなっていったらいいな」と自分の考えていた理想形が、そこで行われてたんです。だからまだ音博って、ちゃんとできてないんです。「最初の年の打ち上げみたいなやつをやりたい」っていうのがなんとなく自分の中にあって。もちろん毎年楽しいんですけどね、今年はそういう感じになればいいなと思っていて。

──そうだったんですね。

「京都音楽博覧会2014 IN 梅小路公園」のくるりのステージ。(撮影:久保憲司)

岸田 僕らはイベンターではないので、フェスを作っているっていう感覚がないんですよ。フェスをやるならビジネスセンスが必要ですし、もっとやりやすい場所で盛り上がりそうな人たちを呼んでやったらいろいろ勘定できると思うんですけど、正直まったく儲かることをやってないから面白くないと意味がないんですよね。僕らもね、食べていかなアカンから稼がなアカンし、「こんなんやってたらラチあかんな」っていう話題は毎年のように出るんですけど、それでもやってるのはやっぱり音博が相当面白いからで。その面白さが、来てくれるお客さんには伝わり始めていると思うんですよね……10年間ずっと続いてるもんってあります?

──そうやって聞かれると、すぐには思い浮かばないですね。

岸田 そういうことってなかなかできないですよね。「音博やから」って言って、10年間も来てくれてはるお客さんがいらっしゃるんで、もうあの手この手を使おうという感じです。

“本物の歌”を音博で

──先ほど少しお話がありましたが、今回の音博はちょっと趣向が変わって、“歌謡ショー”という形式になりました。

岸田 自分たちの出番以外はステージを見守ってはいるんですけど、ボーッとしてるのももったいない話で。僕らが主催してるイベントなんで、もっと音楽的に関わっていきたいんですよね。でもただのコラボレーションだと面白くないし、「自分たちが皆さんに提示できるもんってなんやろ」って考えまして、呼んだアーティストさんたちの楽曲の編曲をして伴奏を作って当日を迎えるっていう、わりと前人未到のことを今やろうとしています。でもこれはなかなか言葉で伝わりにくいんですよ。なので、実際に今年の音博を目撃した方は「『こういうことか、これはすごいわ。ホンマお前ら来といたらよかったな』って言うに決まってる」と思いながら、いろんな作業をしております(笑)。

──そういった新しい表現に挑戦するうえで、今回お声がけされた出演者の皆さんはどういった理由で選ばれたんですか?

くるり

岸田 我々の趣味だけで声をかけると音楽以外のところで何かしないとお客さん集まってくれないなってぐらい、僕らマニアックな音楽ばっかり聴いてるんで、ブッキングはバランスをちゃんと取らないといけない。で、バランスを取るときにどうするかって言いますと、「この人とこの人の組み合わせはあり得へんな、面白いな」っていうことを考えますね。さっき言ったルーマニアのバンドと小田和正さんが一緒に出たりとかイギリスの名の知られてない人と石川さゆりさんみたいな人が一緒に出たりとか、そういうことを常にやってきました。ただ今回は、管弦楽の編曲をして箱バンが演奏してっていうところに1人で歌いに来てもらう形なので、とにかくいい歌を歌うシンガーをたくさん呼ぼうっていう感じですかね。

佐藤 “本物の歌”って言うんですかね。歌で持っていける方々……さゆりさんやミスチルの桜井さん、小田さんももちろんそうやと思うんですけど、誰もがその力を知っているけど生で観たことのない人たちが、ライブで観られるっていうすごさが音博にはあると思うんですよ。しかも今年は皆さんの楽曲に繁くんがアレンジを加えるわけで。まだどんなふうになるのかは皆さんわからないと思うんですけど、すごいフュージョン感があるんですよね。自分たちの知っている歌にくるりのエッセンスみたいなのもしっかりと加わっている感じがすると思うんで、楽しみにしていただきたいですね。あと、「こんなこと野外でやんのか!」っていうこの暴挙。

一同 あはははは(笑)。

佐藤 「がんばってるな」と思っていただけたら(笑)。

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手術の仕合い

京都音楽博覧会2017 IN 梅小路公園

2017年9月23日(土・祝)京都府 梅小路公園芝生広場
OPEN 10:30 / START 12:00

  • 出演者 くるり / アレシャンドリ・アンドレス&ハファエル・マルチニ / UA / Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION) / 田島貴男(ORIGINAL LOVE) / ディラ・ボン / トミ・レブレロ / 二階堂和美 / 布施明 / 京都音博フィルハーモニー管弦楽団
くるり「くるくる横丁」
2017年9月20日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
くるり「くるくる横丁」Blu-ray Disc

[Blu-ray Disc]
6480円 / VIZL-1248

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くるり「くるくる横丁」DVD

[DVD2枚組]
5940円 / VIZL-1249

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収録内容
  1. ワンダーフォーゲル
  2. トレイン・ロック・フェスティバル
  3. 魔法のじゅうたん
  4. 愉快なピーナッツ
  5. BIRTHDAY
  6. Bus To Finsbury
  7. Morning Paper
  8. Tonight is the night
  9. 琥珀色の街、上海蟹の朝
  10. ふたつの世界
  11. 京都の大学生
  12. 帰り道
  13. Long Tall Sally
  14. Superstar
  15. ロックンロール
  16. Ring Ring Ring!
  17. HOW TO GO
  18. The Veranda
  19. 遥かなるリスボン
  20. 春風
  21. 夜行列車と烏瓜
  22. ワールズエンド・スーパーノヴァ
  23. Liberty&Gravity
特典映像

「くるりの20 回転ワープ」from SPACE SHOWER TV

─公開練習─

  1. 尼崎の魚
  2. Jam Session
  3. 7月の夜
  4. 夜行列車と烏瓜
  5. モノノケ姫
  6. ばらの花
  7. GO BACK TO CHINA(イントロ)
  8. ARMY
  9. 東京
くるり
くるり
1996年に立命館大学の音楽サークル「ロック・コミューン」内で岸田繁(Vo, G)、佐藤征史(B, Vo)、森信行(Dr)により結成。その後メンバーチェンジを経て、2011年からは岸田、佐藤、ファンファン(Tp, Key, Vo)の3人編成で活動している。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビューを果たして以降、2016年7月にシングル「琥珀色の街、上海蟹の朝」をリリースするまで11枚のアルバムと34枚のシングルを発表した。同年9月には、結成20周年を記念したオールタイムベスト「くるりの20回転」をリリースする。なお2007年9月に主催イベント「京都音楽博覧会」をスタートさせたり、「ジョゼと虎と魚たち」「奇跡」といった映画作品の音楽を担当したりと、その活動は多岐にわたる。2017年5月には、岸田による交響曲「交響曲第一番」の初演の模様を収めたCD「岸田繫『交響曲第一番』初演」が発表となった。9月には全国ツアー「チミの名は。」の模様を収めたBlu-ray / DVD「くるくる横丁」がリリースされる。