ナタリー PowerPush - People In The Box
3曲で紡ぎだす独自のストーリー 初シングル「Sky Mouth」完成
これも僕たちの新しい曲作りの方法なのかな
──「冷血と作法」は、今作の3曲目として新たに作った曲ですか。
波多野 そうですね。
──どこか血なまぐさい、本能的な感じのする「天使の胃袋」とは対照的なスピリチュアルな曲ですよね。
波多野 今、スピリチュアルとか言うと、何か誤解を招きそうですけどね(笑)。基本的に2曲とも通じてる部分があると思うんですけど、視点が違うというか曲のアプローチの違いだと思うんですね。これも楽しませたいというより、自分たちが楽しみたいと思う、自然な欲求と言いますか。
──「翼だけが空を飛ぶ」というフレーズがとても印象的でした。
波多野 歌詞は直感的なものなので、なかなか説明は難しいんですけど。ほんとに音楽が要求してくる言葉を拾って出そうとはしています。曲が呼ぶ、っていうのともちょっと違って、どっちが先かっていうのもないんですよ。セリフから演劇ができるか、演劇からセリフができるのか? っていうのと同じで。だからそこらへんはほんとにその場その場での化学反応だと思うんですよ。
──では山口さんと福井さんとしては、曲のイメージが明確にあったからこそ、「天使の胃袋」と「冷血と作法」は対照的な2曲になったということでしょうか。
山口 いや、イメージがないからこそこういう2曲ができた気がするんですよ、僕は。というのも「冷血と作法」は歌のレコーディングをするまで、歌がどういう風に乗ってくるかっていうのを僕たちは知らなかったんですよ。多分、知ってるとまた違った感じになってたのかなと思うんですけど。
──あまりヒントがない中でアレンジをしたということですか。
山口 そうです。でもこれも僕たちの新しい曲作りの方法なのかなってちょっと思いました。今までこういうことってなかったんですよ。仮歌だったり鼻歌みたいな感じで入ってて、それに合わせていくことはあっても。だから、今後あえて曲作りのときに「歌メロを歌いたいだろうけど歌わないで」みたいなことが、もしかしたら出てくるかもしれないですね。
波多野 うん、曲作りのバリエーションとしてね。
──ちなみに今回はなぜそういう手法をとったんですか。
波多野 ふふふっ。
山口 今回は「あえて」ではないんです(笑)。
波多野 ただ時間がなかったんです(笑)。だから僕自身、どうなるかわからなかったという。もちろん、ぼんやりとはあるんですけど……だから、ちゃんと聴いたのは自分がレコーディング終わってからですもんね。ほんとにタイトで。
3曲通して聴くと軟体動物に骨が入ったみたい
──楽器のレコーディングをしつつ、同時に歌詞を書きつつ、歌を最後に入れて完成したと。後から聴いてみてどうでした?
山口 いやあ、すげえなと思いました(笑)。1曲目から「冷血と作法」まで聴いたときに、軟体動物に骨が入ったみたいな気がしました。しっかり形になったなって。「冷血と作法」は僕のイメージしてたものとは違う仕上がりだったので、答え合わせとしては間違ってたかもしれないんですけど、でもある意味100点みたいな。イメージを完全に覆しましたね。そこで、「すげえいい!」と思えたんですよね。
波多野 音楽から生まれた歌詞だから、違和感も生まれようがないですしね。これしかないっていう状況でやってますし。だって、わざわざ誰かに説明しなきゃいけないようなものだったら、世に出しちゃダメでしょ(笑)。
福井 うん。僕らとしても新しいものが作れたなと思うし、聴いたときは感動がありましたね。
──タイトなスケジュールの中で取ったやり方だったけど、結果的に成功だったと。
山口 最終的にどんな形であれ、すごくいいと思えればなんでもいいというか。だから答え合わせとしては0点でもいいんです。
波多野 1+1が2になるよりも、マイナス2になったほうが面白いですからね。
──うん(笑)。
山口 そのマイナス2っていう答えが来るってことは、誰もわからんからね(笑)。
──自分たちでも何が起こるかわからない未知の音楽制作を楽しめてるってことですよね。今作を作り終えて、どんな手応えがありましたか。
福井 前作「Ghost Apple」では3人が近寄った作品が作れたんですが、今回は前以上に寄り添いあいながらもまた新しいことがやれたなと思います。
波多野 そんな感じですね。もともとシングルの概念っていうものがないバンドなので、そんなに覆した感もないですけど(笑)。単純に肩の力が抜けた作品が作れたなと思います。
──ほんとにこの3曲セットでこの曲順だからこそ表現できているものがあると思いました。
波多野 そうですね。僕らなりの方法論っていうのが自然に出てる作品だと思います。何をやっても僕ららしいことができるんだっていうことにも気付けましたし。「これはやりすぎだろ」みたいな感覚ももうなくて、何をやっても自分たちのスタイルになっちゃうっていうのは、ある意味、自信にも繋がってるかもしれないですね。
People In The Box
(ぴーぷるいんざぼっくす)
波多野裕文(Vo,G)、福井健太(B)、山口大吾(Dr)による、スリーピースバンド。トリオ編成を活かしたスマートなサウンドと、複合的なリズムにポップな歌メロ、そしてイノセントな声が不思議な世界観を構築している。2007年に残響レコードから1stミニアルバム「Rabbit Hole」でインディーズデビュー。2009年10月に3rdミニアルバム「Ghost Apple」をクラウンレコードからリリース。独自の音世界を追求し続けている。