エレクトロに走ろうが民謡に走ろうが、何を作っても原点に戻る
──アルバムには「青い鳥」のような力強い曲がある一方で、「NEW AGE STRANGER」のような新しい路線もあって。
そうですね。“鬼束ちひろ節”みたいな曲もあるんですけど、アルバムの核になるのは「NEW AGE STRANGER」ですね。好きとか嫌いじゃなくて、こいつが私を次のアルバムに持ってくなって思います。
──いきなり4つ打ちのエレクトロチューンですもんね。
でも好きなんです。THE BUGGLESとかDAFT PUNKみたいなあの感じ。
──この曲がクラブで流れたら、鬼束ちひろの曲だと気が付かない人も多いと思います。
そう、でも片鱗はあったんだよね。前の「DOROTHY」から片鱗はあったんだけど、ちっちゃく出すタイプじゃないから今回ドカーン!!と出てきて。
──こういう音楽的素養は鬼束さんの中に以前からあったんですか?
あったのかもしれないし、生まれてきたのかもしれない。エレクトロもできるし演歌も歌えるし(笑)鬼束節も健在、とかいろいろできる。すごい民謡っぽい曲もあったでしょ。
──そうですね。
私、飽き性なんですね、かなりの。だから自分を飽きさせないためにいろんなことするんですよ。
──じゃあこのバリエーションの豊かさっていうのは。
別に計算したものではない。
──なるほど。じゃあ例えばこれから「NEW AGE STRANGER」の路線を推し進めていくというわけでもないんですね。
うん。たぶん私がそれを計算してやったら失敗する。
──それはなぜ?
予言でわかる。
──じゃあ鬼束さんにとっての王道っていうものはこれからも変わらない?
うん。何を作っても原点に戻ると思いますね。エレクトロに走ろうが民謡に走ろうが、結局は鬼束節だと思います。「やっぱちいちゃんの歌だよね」っていうファンがいてくれれば幸せだな、と思います。
──その話、ファンとしてはうれしいですね。
うん。このアルバム出したら「こんなのちいちゃんじゃなーい」とか絶対言われると思うんですけど。でも言わせとけばいいんですよ(笑)。
部屋がきれいじゃないと詞が書けないんです
──鬼束さんの平均的な毎日ってどんな感じなんでしょう。部屋にこもって曲を作っていることが多いんですか?
集中的に曲を作ってるときもあるけど、でも外に出ない日はないですよ。外に出て買い物ばっかしてたり。
──ご自身の精神状態や日常生活のあり方は、曲作りに影響するものですか?
うん、だからもう非日常をあえて作ってる。料理も作らないし。でもなぜか掃除はするんです。
──掃除好きなんですか?
うん。一休さんみたいに。
──鬼束さんが雑巾がけしてる姿はちょっとイメージしにくいですけど。
めっちゃ一休ですよ。部屋がきれいじゃないと詞が書けないんです。物が多くても詞が書けない。だから視界に入る世界はすごいキッチリしてる。
──じゃあ部屋はいつもきれい?
きれいだけど、動かないんだよね、物がね。
──動かない?
場所が移動できないの。いつ詞が降りてくるかわかんないから。ヘタにコーヒーカップの位置なんぞずらしたら書けなくなるって感じです。コーヒーカップは家にないんですけど。
──周囲の環境が創作活動に影響するという意味でしょうか?
うん。でもやっぱ最近思うのは、シャワー浴びてるときが一番インスピレーション沸きますね。歌詞とか次のPVの作戦が浮かんだり、服装こういうふうにしようとか。私の芸術タイムはシャワーです。
──なるほど。
ダヴで洗ってます。
──生活感があるようなないような。
ひとつだけ人と違うのは、やっぱ不眠症ですよね。不眠症はずっと続いてる。自分はできるだけ非日常を送りたいし、それがプロとしての私なりのやり方だと思ってるところはあるんですけど。
CD収録曲
- 青い鳥
- 夢かも知れない
- EVER AFTER
- IRIS
- 僕を忘れないで
- An Fhideag Airgid
- SUNNY ROSE
- NEW AGE STRANGER
- CANDY GIRL
- 罪の向こう 銀の幕
- WANNA BE A HAPPY WARRIOR
- 琥珀の雪
鬼束ちひろ(おにつかちひろ)
1980年生まれ、宮崎県出身の女性シンガーソングライター。2000年2月にシングル「シャイン」でデビューし、続く2ndシングル「月光」がテレビドラマ「TRICK」の主題歌に起用され大ヒットを記録。翌2001年リリースの1stアルバム「インソムニア」がミリオンセラーとなり、一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。以後順調にリリースを重ね、2004年にレーベルを移籍。同年10月にシングル「育つ雑草」をリリースするも、体調不良を理由にその後の活動がすべて白紙に。約2年半にわたる活動休止期間を経て、2007年に小林武史プロデュースのシングル「everyhome」とアルバム「LAS VEGAS」で復活。その後は不定期に活動を続け、2011年4月に6枚目のアルバム「剣と楓」をリリース。