ナタリー PowerPush - odd

新作「biotop」で爆発する複雑&多彩なサウンドの正体

昨年12月に1stアルバム「qualia」をリリースし、メロディックパンクの高揚感とブラックミュージックのしなやかなグルーヴ、さらにラテン、ボサノバといった要素を自在に取り込んだバンドアンサンブルによって注目を集めたodd(オド)。

このたびリリースされる8曲入り新作ミニアルバム「biotop(ビオトープ)」によって、彼らはその音楽性をさらに進化させ、洗練されたアレンジと爆発的なダイナミズムを共存させることに成功している。今回のインタビューでは「biotop」の制作プロセスとoddの音楽的なスタンスについてryo(Vo, B)、tetsu(Dr)、masahiro(G)の3人にじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

曲作りからレコーディング終了まで1カ月

インタビュー写真

──1stアルバム「qualia」のレコ発ツアーの手応えはどうでした?

ryo 全国45本回ったんですけど、各地でいろんな思い出ができましたね。会場に来てくれた人はもちろん、対バン相手だったりライブハウスの人だったり、たくさんの人に支えられてるなっていう実感もあったし。いろいろと影響を受けました。

tetsu 初めて行く場所も多かったし、ものすごく刺激的でした。移動はかなり大変だったんですけどね(笑)。ツアーが始まってから15、16日くらいずっと出っ放しだったので。まあツアースケジュールを組んだのは自分たちなんですけど。

masahiro 3人で同じモチベーションを持ちながら毎日ツアーを続けるっていうのも、いい経験になりました。

ryo これだけの本数のライブをやると、曲がさらに染み込んでくるんですよね。その中で「この曲はこういうアプローチもいいな」という新たな発見だったり、自分たち自身が曲の魅力に気付くこともあって。それがバンドのアンサンブルに生かされたことも結構あったと思います。

──その影響は新作「biotop」にも反映されていると思います。ツアーが終わってすぐに制作に入ったんですよね。

ryo そうですね。曲を作るところから始めて、レコーディングが終わるまで全部で1カ月くらいかな。

tetsu うん。

ryo 「withdrawaltz」と「prayer」は元々あった曲なんですけど、「withdrawaltz」ではゲストプレイヤー(バイオリン)に入ってもらったし、「prayer」も原曲からかなり変わっていて。全曲新たに作った感じですね。そう考えるとよくできたなって思いますけど(笑)。

tetsu 6月の頭からプリプロに入って、2週間弱である程度曲の形を作って。そこから本番のレコーディングまでは個々でどれだけ形にできるか?っていう感じだったんですよね。細かいフィルだったり、フレーズだったり……。

──アレンジもかなり複雑だし、演奏の難易度も高いですからね。しかしこれだけ練られたアンサンブルを1カ月で作ってしまうとは……。ちょっとおかしいですよ、もはや。

ryo (笑)。曲の原型は僕が作ってるんですけど、パソコンは全く使ってないんですよ。自分の頭の中にあるイメージをメンバーに伝えて「ここからこういうビートになって、ギターはこういう感じで」っていうのを説明して。全部“口”なんですよね。

tetsumasahiro (無言でうなずく)

──例えば「H.G.L」の間奏っていきなりボサノバ調になりますよね。「ここからボサノバで!」と説明するってことですか?

ryo もっと具体的ですね。「ここのキックの数は何発で」とか。そこまで詳しく言えないときは大雑把なイメージで伝えることもあるんですけど、そういうスキルがかなり上がってきてるんです。メンバーも僕の言ったことをほぼ理解してくれるし、わりとスムーズなんですよ。パソコンでデモを作り始めたら、逆にうまくいかなくなるかも(笑)。

意味のないフレーズはいらない

──今回アルバム全体を通してのテーマやコンセプトはあったんですか? 

ryo 歌を大事にするっていうことですね。僕の歌とメロディがしっかり伝わるアレンジ、アプローチをしたいっていうのは最初から考えてました。あとは楽曲的な奥行きですよね。いろんな要素を取り入れて幅を出すだけではなくて、ちゃんと奥行きが感じられるような作品にしたいな、と。

──ryoさんにとって音楽的な奥行きっていうのは?

ryo アレンジにしてもフレーズにしても、ちゃんと意味があるかどうか、ですよね。意味がないなと思ったらどんどん排除していくんです。音を加えるときも「こういう雰囲気が欲しいからこの音を入れる」ということをしっかりディスカッションして。あとはスッと自然に聴ける感じにしたかったんですよね。聴きやすいんだけど、よく観察してみるとすごくいろんなことが起こってるっていう。それが楽曲の奥行きにつながると思うんですよね。

──すごく緻密な作業が求められそうですね。確認しなくちゃいけないことが無限にありそう(笑)。

インタビュー写真

tetsu 普段スタジオに入るときも「今日はこの曲を詰めよう」ってテーマを決めるんですよね。8時間とか10時間くらい1つの曲を煮詰めて、それを聴き返しながらお互いにアイデアを出し合って。それをひたすら反復するんです。

masahiro 今回の8曲に関しては、ryoの元ネタをできるだけ崩さないように生かすっていうことも意識してました。「qualia」のときはずっとライブでやってた曲が多かったんだけど、今回はツアー後に集中して作った曲ばかりなので、今のバンドの状態が自然と出てるんですよね。それもすごく楽しかったです。

歌を聴かせるために日本語詞を選んだ

──日本語の歌詞が増えているのも本作の特徴だと思うんですが、それも“歌を中心にする”という発想から来てるんですか?

ryo うん、まさにそうですね。声にも歌い回しにもクセがあるんですけど、そのニュアンスを生かせるのは英語詞よりも日本語詞だなと思って。

──メッセージを伝えたいということではなく、音楽的な観点から日本語詞を選んだ?

ryo はい。「これを伝えたい」っていうことではなくて、自分の声とかメロディがよく乗るのはどっちだろう?っていうことです。もちろん曲によっても違うんですけどね。PVを撮った「nina」という曲なんかは「このメロディだったら英語のほうがいい」って思ったし。それはもう直感で、実際に歌ってみて「これは日本語」「こっちは英語」って決めていきましたね。

──日本語の歌詞が増えると、結果的に歌の意味もダイレクトに伝わることになりますよね。例えば「route 6」にある「いつか僕もそっちに行くから / 幾千の時越えてこの想いは / この歌に託されているんだ」というフレーズは、震災以降の思いも反映されているんですか?

ryo いや、震災のことは関係ないですね。「route 6」は恋愛の歌なんです。最初は地元愛というか、自分たちが住んでいる場所から(活動の拠点にしている)柏を結んでいる6号線のことを書いているうちに恋愛要素も盛り込まれて。「波紋」も恋愛系ですね。切ない感じの恋愛を素直に書いて……。

──「qualia」の歌詞とはずいぶんテンションが違ってますよね。

ryo そうですね(笑)。「qualia」の歌詞は怒りとか社会風刺ばっかりだったんですよ。「それこそがパンクだ」みたいな気持ちもあったし、「あれはイヤだ」「あれはクソだ」っていう歌詞が自然と多くなってた。今はそんなに怒ってないし、気持ち的には穏やかですからね。むかつくことは相変わらずむかつくけど、それを歌の中で言いたい感じではなくなりました。

ツアースケジュール
odd "biotop" release tour
  • 2012年11月18日(日)千葉県 柏ALIVE
  • 2012年11月23日(金・祝)福島県 郡山CLUB #9
  • 2012年11月24日(土)宮城県 仙台K's STUDIO
  • 2012年11月25日(日)岩手県 盛岡Club Change WAVE
  • 2012年11月30日(金)滋賀県 滋賀B-FLAT
  • 2012年12月1日(土)大阪府 大阪新神楽
  • 2012年12月3日(月)愛知県 名古屋・今池HUCK FINN
  • 2012年12月7日(金)山口県 周南LIVE rise
  • 2012年12月8日(土)福岡県 小倉FUSE
  • 2012年12月9日(日)大分県 大分SPOT
final「ONE MAN SHOW !!!」

2012年12月15日(土)東京都 下北沢SHELTER

odd (おど)

ryo(Vo, B)、tetsu(Dr)、masahiro(G)によるスリーピースバンド。2007年10月に千葉県で結成し、2008年2月に初ライブを行う。その後千葉と東京を中心にライブ活動を続け、デモ音源を制作。2011年2月に自主制作アルバム「colorful seed」をリリースし、全国23カ所のツアーを実施。2011年12月に初の全国流通盤フルアルバム「qualia」を発表した後は全国45カ所におよぶロングツアーを行い、奥深い音楽性で多くのファンの支持を集めた。2012年11月にミニアルバム「biotop」をリリース。