ナタリー PowerPush - 中田裕二

歌謡曲の輝きを俺が受け継ぐ

中田裕二が、ソロ2作目となるアルバム「MY LITTLE IMPERIAL」を完成させた。前作「ecole de romantisme」から10カ月という短いタームでリリースする新作は、徹底的に「歌謡曲」というものに向き合った1枚。デジタル全盛の今の時代に、あえて匂い立つような、こってりとした色気を宿すことを目指して作られたアルバムだ。多彩なゲストミュージシャンを迎え、ソウルやファンク、ジャズにも果敢にチャレンジした曲調を通して、昭和の時代の歌謡曲の輝きを、今によみがえらせようとしている。

椿屋四重奏の時代も含めて、キャリア史上最も彼自身のルーツや嗜好を色濃く反映した本作。これまでも度々語られていた彼の楽曲の“歌謡曲っぽさ”は、果たしてどのようにして生まれるのか。その秘訣を解き明かすべくインタビューを行った。

取材・文 / 柴那典

今回は中途半端にやりたくなかったんです

──アルバムを聴いて、バンド時代も含めて一番吹っ切れている感じを受けたんですけれども、出来上がった感触はどうでした?

確かにおっしゃるとおり、今までで一番迷いもなく、スムーズにできたと思います。

──曲調やサウンドは幅広いですよね。ソウルっぽい曲もあれば、ジャズっぽい曲もある。でも、そうやっていろんなサウンドを出している分、逆に中田裕二という人の色が濃厚に出ていて、それが芯になっている感じがあって。

インタビュー写真

ありがとうございます。自分としても、変に狙わずに、ほんとにやりたいことを素直に出すっていうことができた感じがありますね。

──アルバムが完成したときのオフィシャルブログには「人によっちゃ『だっせー』と言われることうけあいですが、その『だっせー』と言われるものに俺は本質を見てしまったので、自分では最高にかっこいい作品になったと自負しております」と書かれていますよね。これはどういう感覚だったんですか?

今の主流のサウンドとは全く違うものを作ったつもりなんです。かなりアナログだし、時代の逆を行ってるような感じがある。そういう意味で、人によっては古いっていう感想を持つ人もいるかもしれないし。あとは、より自分の歌謡感の密度を濃くしたつもりなんですよ。今回は中途半端にやりたくなかったんです。「歌謡曲っぽいけどちょっと今のサウンドも取り入れて」とかいう感じではなくて、サウンドもそっちに寄せちゃおうぐらいの感じで、振り切った感じがある。開き直ってる状態っていうか。

m7♭5の使い手だと思ってる

──歌謡曲っぽさって、このアルバムのキーポイントですよね。でも、歌謡曲というのも、言ってみればすごく意味合いの広い言葉で。そんな中、中田さんは「なんとなく歌謡曲っぽい」っていうんじゃなくて「こうやると本物の歌謡曲になる」という秘訣を知ってると思うんですよ。まずはその話をしたくて。

多分ね、僕が言ってる歌謡曲は、昭和の歌謡だと思うんですよね。昭和のすごく輝いてた頃、世の中をそれが席巻していた時代の音、質感っていうのは間違いないです。時代でいうと、やっぱり70年代の歌謡曲になるんですけれど。

──音楽理論的な追求、例えば「こういうコード進行を使うと歌謡曲らしさが生まれる」っていうことも、中田さんは意識的にやられているんじゃないかと思っていて。

そうですね。ある程度研究しているつもりなので、そういうコードは意識して出しているかもしれないですね。この感じだと中森明菜さんみたいな感じが出るとか、この感じだと山下達郎さんみたいな感じが出るとか、あくまでイメージとしてなんで、あんまり詳しく解析してたりはしないですけど。

──これは僕が知ってる範囲の知識なんですが、中田さんの曲ってm7♭5(マイナーセブンスフラットフィフス)、いわゆるハーフディミニッシュコードとそこに乗っている歌メロがキーポイントのひとつになっているんじゃないかと思うんです。

うわ、まさにそうです。自分でもあのコードの使い手だと思ってるんですよ。

──で、m7♭5のコードに乗ったメロディって、通常のスケールから半音下がりますよね。そこの半音下がっているところが、悩ましさとか狂おしさを生み出す。それが歌の色気につながる。僕は中田さんって、そういうところを感覚だけじゃなくて知識やスキルとして知っている方なんじゃないかと思っていて。

いやあ、鋭いところ突かれましたね(笑)。よく「半音が好き」みたいな感想を言われることもあるんですけれど、やっぱり僕自身、そのコードを好きだからよく使うんです。自分の色がすごく出せるんで。そこは玉置浩二さんとASKAさんの影響も大きいかな。あの2人もそのコードを結構多用してるんで。でも、あんまりほかの人は使わないですね。

──特に同世代のミュージシャンではあまり見当たらないですね。

ほとんどいないですね。下の世代にも使う人が出てくるんじゃねえかなって思ってたんですけど、ブラックミュージックをそんなに聴いてない人にとっては割と扱いづらいコードだったりもするんで。わかりやすくジャズとかマイナーブルースみたいな感じを出すにはもってこいのコードなんですよ。だから、ブラックミュージックにも多用されていて。椿屋四重奏のときから使ってたのは、そのへんを自分が好きだからかもしれないです。

──このアルバムでも、ジャズやブラックミュージックのサウンドになってる曲は多いですよね。これも、コード進行やメロディなどの曲の骨組みの部分に、そこにつながる感覚があるんですか?

そうですね。バンドのときは、そこが手探りだったんです。この歌メロにはこのサウンドがぴったりなんじゃないかなっていう。でも、今回はその答えが自分の中でハッキリ見えてました。

──「答えが見えていた」っていうのはどういう感じだったんでしょうか?

例えば「FUTEKI」とか「UNDO」みたいなソウルやファンクっぽい曲に関しては、メロディと音の親和性の高いイメージがハッキリあったんですよ。メロディが頭に鳴ってる段階で、そういうサウンドが呼ばれていたっていうか。だからパッと聴いた印象ではすごく昔の曲にも聴こえるかもしれないぐらい、古い感じの音になってるんです。

ニューアルバム「」/ 2012年月日発売 /

CD収録曲
  1. MY LITTLE IMPERIAL
  2. DANCE IN FLAMES
  3. デイジー
  4. FUTEKI
  5. 灰の夢
  6. ノスタルジア
  7. UNDO
  8. 春雷
  9. 話をしないか
  10. 女神のインテリジェンス
  11. セレナーデ
  12. 静寂のホリゾント
  13. つかずはなれず
中田裕二(なかだゆうじ)

1981年生まれ。熊本県出身。2000年に宮城県仙台にて椿屋四重奏を結成する。2003年のインディーズデビュー以降、2007年にはメジャーシーンへ進出。自身はボーカル&ギターを務め、歌謡曲をベースにした新たなロックサウンドで多くの音楽ファンを獲得したが、2011年1月に突然の解散発表。同年3月に新曲「ひかりのまち」を中田裕二名義で配信リリースし、本格的なソロ活動を開始する。11月に1stソロアルバム「ecole de romantisme」をリリース。2012年9月には2ndアルバム「MY LITTLE IMPERIAL」を発売する。