音楽ナタリー Power Push - n-buna

新世代ボカロPが見つめる、ボカロシーンの今

ボカロPとして2012年から投稿を開始し、ギターロックを基調としたサウンドと、文学作品からの影響を色濃く感じさせる描写が印象的な詞世界で瞬く間にニコニコ動画でヒット曲を連発するようになったn-buna(ナブナ)。音楽を作り始めた頃にはVOCALOIDが当たり前に存在していた世代の彼は、これまでどのような歩みを経て、現在のシーンに何を感じているのか。そしてさまざまな童話をモチーフに統一した世界観を描き出すことに挑戦したというアルバム「月を歩いている」はどのような作品に仕上がっているのか。

前作から約1年を経て、己の音楽の長所や足りなかったことと真摯に向き合い続けたn-bunaが放つ、革新の2作目。そのパーソナルを紐解きながら、作品の本質にじっくりと迫った。

取材・文 / 風間大洋

「ボカロは多様性がありすぎどころじゃないぞ」

──まずさかのぼると、n-bunaさんと音楽との出会いはどんなものだったんでしょう。

兄がエレキギターをやっていて、祖父がアコースティックギターをやっていたんです。そこから自分もギターをやってみようと思ってエレキギターを始めたのがそもそものきっかけです。わりと音楽一家だったんですよ。姉はドラム、妹はピアノ、母はフルートをやってました。

──そうなると日常的に音楽は流れていたわけですね。

そうですね。家では姉がハープもやっていて、僕の部屋は2階だったんですけど、1階から母がフルートを吹く音と姉がハープを弾く音が流れてくる、たまに妹までピアノを弾くっていう、みんなやりたいことが別々でいろいろと耳障りな家でしたよ(笑)。

──そこからご自身がギターを始めたのは何歳くらいのときだったんですか?

中学2年生くらいですね。安い、1万2000円くらいのIbanezのエレキギターを買って弾いてました。その少し前くらいから、日本のロック系のCDを聴くようになっていたんですけど、兄や姉がそのバンドスコアも持っていたから、これならギターを買えば弾けるなと思って。

──確かBUMP OF CHICKENとかを聴いてたんですよね。

あ、そうですそうです! BUMPやRADWIMPS、People In The Boxとかをよく聴いてましたね。

──その頃聴いていた音楽って、今ご自分で曲作りをするときの引き出しの中にありますか?

例えば、RADの野田さんがよくオンコードでベース音だけ動いていくバッキングを作るんですけど、そういう動きは「こんなのあるんだな」ってインプットしてましたし、ほかにも日本のロックの定石みたいなものがそのあたりの音楽にはいろいろと詰まってるじゃないですか。だから好きだったし、学べたところは多いですね。今聴いてもすごくいいと思いますもん、「これは売れるわ!」って(笑)。

──そこからVOCALOIDで曲を作ってみようとなっていったわけですか。世代的にその頃にはボカロはもうありましたよね。

そうですね。インターネットでいろいろと検索してたときにボカロの存在に行き当たったんです。聴いてみたらいろんなジャンルの音楽が混在してるわけじゃないですか。「多様性がありすぎどころじゃないぞ」ってビックリして、そこでいろいろと聴いて僕もやってみたいと思って始めました。

ポストロック、EDM、フュージョン、メタル

──トラックを作る術というのはそれ以前からお持ちだったんですか?

ちょっとだけ。初音ミクと出会う前にDTMの存在を知って、曲を作っていた時期があったんですけど、それだと自分で曲を作って完結しているだけの自己満足だから世に出ないじゃないですか。そこから世に出す1つの手段として初音ミクと出会って、自分も音楽を発信してみたいと思うようになったのが活動の根本な気がしますね。

──ということは、わりとやり始めの段階から外への発信をする意欲が明確にあったわけですね。

アルバム「月を歩いている」イメージイラスト

最初期は別としても、自分が作った曲を聴いて「意外と聴けるもんだな」と思えたんですよ。で、「これを誰かに聴いてもらうためにはどうしたらいいんだろう?」みたいなことを考えるようになって。

──その曲って、ボカロ曲として投稿していたりするんですか?

投稿してます。第3作目くらいの「空唄」っていう曲なんですけど、アコギでジャカジャカ弾いたのをICレコーダーに録音してパソコンの中に取り込んで作りました。そのとき使ってた録音機材がけっこういい音で録れるものだったのもあって、思ってたよりモノになった感があったんですよね。まあ今聴いたら聴けたもんじゃないんですけど(笑)。でもなんだかそれがうれしくて、これを世に出したいって思ったんです。

──そこからクオリティを追求したり音楽的な幅を広げたりという習作期があったんですよね。

僕は音楽をやり始めた頃、すごくさまざまなジャンルに興味があって、いろんなものを聴いたんです。ミーハーなのでいろんなものを好きになったし、たくさん吸収した時期でした。だから音楽的な基盤はたくさんあって、まずロックもそうですし、そこからポストロックやシューゲイザーに行って、EDMも聴いたし、あとはダブステップにハマってた時期もあったり、ビッグルームハウスとかそっちのハウス系に行ったり。同時にラリー・カールトンみたいなフュージョンにもハマったり、SlipknotやNortherみたいなラウドメタル、メロデス系もよく聴きました。あとブルースだとジョニー・ウィンターやスティーヴィー・レイボーンだったり。ポップス、J-POP系はあまり通ってこなかったんですけど、J-POPのメロディ自体はすごく好きで、勉強のために聴いてた時期もあって。やっぱり一聴して感じられるポップ感というのは僕の中で大事にしてきたところではあります。

──1個のジャンルを体系に沿ってさかのぼるだけじゃなくて、ベクトルの違う音楽を同時並行的に聴いて、しかもそれぞれ深く掘っていたと。

まさにそんな感じです。YouTubeで気になるミュージックビデオを観たりとかしていると、そのバンドと関連した、似たジャンルの曲がどんどん「次の動画」に出てくるじゃないですか。そこからたどっていって、いいなと思うものがあったらCDを借りてきたりとかして。

2ndアルバム「月を歩いている」 / 2016年7月6日発売 / U&R records
n-buna「月を歩いている」
初回限定盤 [CD+ブックレット] / 2700円 / DUED-1174
通常盤 [CD+ブックレット] / 2160円 / DUED-1175
収録曲
  1. モノローグ
  2. ルラ
  3. 三月と狼少年
  4. 歌う睡蓮
  5. 花降らし
  6. 落花
  7. 泣いた振りをした
  8. 白ゆき
  9. ラプンツェル
  10. 落陽
  11. 白ゆきの独白
  12. セロ弾き群青
  13. それでもいいよ。
  14. かぐや
  15. エピローグ
  • カエルのはなし(※初回限定盤のみ収録)

n-buna 1st LIVE「月を歩いている」

2016年8月14日(日)
東京都内のライブハウス(会場はチケット当選者のみに発表)
OPEN 17:30 / START 18:00
※AL「月を歩いている」購入者対象の応募抽選による招待制ライブとなります。

n-buna「2nd AL『月を歩いている』発売記念展示会」

2016年7月5日(火)~7月10日(日)
東京都 池袋サンシャインシティアルタ内 1F プルミエアベニュー
OPEN 11:00 / CLOSE 20:00
n-buna(ナブナ)

動画共有サイトにVOCALOIDの楽曲を投稿するボカロP。2012年3月に「アリストラスト」を投稿したのを皮切りに活動を開始し、2013年2月に投稿した「透明エレジー」はニコニコ動画においてVOCALOIDのデイリー総合ランキングで自身初の1位となった。2014年2月に投稿された「ウミユリ海底譚」は2016年6月現在218万再生を突破。2015年7月に初の全国流通アルバム「花と水飴、最終電車」、翌2016年6月に2ndアルバム「月を歩いている」をリリースした。