ナタリー PowerPush - 水木一郎
アニソン一筋40年!「Z」のアニキが語る音楽論
バラエティ番組に出演する理由
──最近はアニメソングも多様化していますが、それについてはどう思いますか?
新しいものにももちろんいい曲はたくさんありますよ。ただ、厳しい言い方をするなら、今のアニソンには、スポンサーのほうばかり見ていて、これがあと30年後に歌われているかっていうと歌われてない楽曲が多いとは思います。俺たちが歌ってきたアニソンは何十年経った今も、色褪せないものが多い。そんな時代を越える王道ソングをきっちり次の世代に残さなきゃいけないんですよ。そもそも、大抵の人は多少なりともアニメソングに影響を受けて育っているはずなんです。この世に数え切れないほど存在する潜在的なアニソンファンに向けて、ほんの少しきっかけを与えてあげればいい。そのためには誰かががんばらないと。だから俺はバラエティ番組に出て「ゼット! ゼット!」って言ってるんです(笑)。
──そういう思いがあるんですね。
あるからできるんです。それがなかったら怖くてできないですよ。俺はアニソン歌手で、歌でメッセージを伝えることには責任を持てるけど、トークで人を笑わせることが本職ではないからね。
──テレビで観る水木さんのあのテンションに元気付けられる人も多いでしょうしね。
やっぱりね、社会を支えていくべきオヤジたちやこれから育ってくる若い子たちに、なにか勇気や希望を与えられないかって思ってるんです。だから今バラエティに出てるのも「弱ってないで前を向いていこうぜ!」って気持ちがあってのことで。3.11の大震災後、俺も何回も被災地に行かせていただいてますけど、本当に皆さん「アニソンが聴きたい」って言ってくれるんですよ。で、アニソンを歌うとみんな「元気になった」「勇気もらった」って。そんな被災地の子供たちの笑顔や、かつて子供だった大人たちの童心にかえったキラキラした瞳に自分も救われたりして。俺は本当は励まさなきゃいけないのに逆になんか勇気もらっちゃってね。
──歌謡曲では伝えられない、強いメッセージがアニソンにはあるのかもしれないですね。
福島原発で放射能浴びるのをわかっていながらも一生懸命働いている人たちがいて。復興に携わっている人たちもそう、ボランティアの人たちも然りね。みんな愛する人たちを守るためにやっている。みんなヒーローじゃないか!って思ったんです。俺はテレビや映画の中のヒーローの歌を歌ってるけど、そうじゃなくって、今はみんながヒーローになってるじゃないかって。誰の心の中にもヒーローの魂はある、それを強く感じて、今回のアルバムは「THE HERO」ってタイトルにしたんです。
イントロは絶対に変えたくない
──「THE HERO」はシンプルなアレンジで、歌の力強さが際立つ仕上がりですね。
うん、できあがるまでにはすっごく時間がかかりましたよ。アレンジの段階で「この音いらない」「このコーラスも変えよう」っていうやりとりを何度も重ねました。ものすごくシンプルな音でカッコよさを伝えたいなって思ったんです。いろんな音を詰め込んでいくと、楽曲によってはぶつかり合ったり、音の洪水にのまれて本当に大事な部分を見失ってしまったりする。人生も全部そうだと思うんですよ。捨てる勇気がないとね。
──特にこだわったポイントはありますか?
僕は、アニソンっていうのは、イントロダクションの印象的なフレーズは変えてほしくないんですよ。だから「バビル2世」だったら「♪カーンカンカンカンカーン」のところは絶対入れてくださいと。その前や後ろを付け加えてもいいんです。でもそれを取っちゃうのは絶対ダメ。意外と頑固なんですよ(笑)。
──確かにイントロの印象は強いですもんね。水木さんにとって「ここは譲れない」という要素はほかに何かありますか? 「アニソンがアニソンであるために必要な要素」と言ってもいいかと思うんですが。
難しいですね(笑)。まず、言えるのは、詞の中に込められたメッセージでしょうね。正義、勇気、希望、愛……、そういった、人が生きていくうえで大切なことに真っ向から向き合っているということ。それから、「子供向け」だからこそ、手を抜かず最高に贅沢な音楽であること。「三つ子の魂、百まで」というほど、子供のときの体験はその後の人格形成に影響しますからね。時代を越えるアニソンは、純粋に音楽として聴いてもよくできている曲が多いでしょ。でも、不思議なのは、アニソンのルーツがどこにあるのかということ。いろいろなジャンルの音楽的要素は含まれているけど、何かの真似かというと、そうではない。それでいて、アニソン的な音というものが確実にある。まさにオリジナルなものなんです。
──日本独自の文化なんでしょうか。
例えば誰かがどこかのハードロックの真似をしてアニソンを作っても、それじゃダメなんですよ。海外のロックミュージシャンにも知り合いがいますけど、彼らに言わせれば、そういう類のアニソンは何の魅力もない。「これ僕たちの音楽の真似だよ」って。逆に、王道のアニソンに対しては、ものすごくリスペクトしている。やっぱりアニソンには、40年もかけてここまで築き上げてきた“何か”があるんですよ。
──ハードロックもアニソンも“勢いがある”という点は共通してるんですけどね。
そう、ロックがダメなわけじゃないの。僕は大槻ケンヂ君とコラボしてるんですけど、オーケンの作品て真似がない、独特のロックなんですよ。そうするとね、ロックとアニソンってすげえ合うの、うん。テンションというか、魂が合うんだと思うんですよね。でもなんか上っ面だけ真似してカッコつけていこうとするとダメなんだよね、これが。
DISC 1
- THE HERO
- コン・バトラーV のテーマ (THE HERO ver.) from 超電磁ロボ コン・バトラーV
- 仮面ライダー・メドレー (THE HERO ver.)
- セタップ!仮面ライダーX from 仮面ライダーX
- 仮面ライダーストロンガーのうた from 仮面ライダーストロンガー
- 燃えろ!仮面ライダー from 仮面ライダー(スカイライダー)
- はるかなる愛にかけて from 仮面ライダー(スカイライダー)
- バビル2世 (THE HERO ver.) from バビル2世
- ルパン三世 愛のテーマ (THE HERO ver.) from ルパン三世
- タイガーマスク・メドレー
- タイガーマスク from タイガーマスク
- みなし児のバラード from タイガーマスク
- 海のトリトン from 海のトリトン
- 傷だらけの栄光 from あしたのジョー2
- 宇宙海賊キャプテンハーロック (THE HERO ver.) from 宇宙海賊キャプテンハーロック
- THE HERO (Instrumental ver.)
DISC 2
- プロローグ (THE HERO ver.)
- マジンガーZ (21st century ver.)
- デビルマンのうた (21st century ver.)
- Golden Rule ~君はまだ負けてない!~ Produced by 高見沢俊彦
- 見上げてごらん夜の星を
水木一郎(みずきいちろう)
1948年東京都出身。1968年に歌謡歌手としてデビュー。その後1971年に「原始少年リュウ」の主題歌をきっかけに活動の場をアニメソングへと移す。以降「マジンガーZ」「バビル2世」「仮面ライダーX」「超電磁ロボ コン・バトラーV」「宇宙海賊キャプテンハーロック」などアニメ、特撮番組の主題歌を数多く発表し「アニメソングの帝王」の異名を得る。1999年には前人未踏の「24時間1000曲ライブ」も敢行。自身の持ち歌は1200曲を越え、近年は中国、フランス、シンガポール、タイなど海外でもライブを実施。Wikipediaにおいて、もっとも多くの言語で紹介された日本人としても知られている。