ナタリー PowerPush - 牧野由依
世の中を明るく照らすポップの魔法 牧野由依×EPOガールズトーク
たくさんの色が付いていたことを思い出させてくれる声
──ご自身の歌がCMから流れてくるというのはどういう気持ちですか?
牧野 コマーシャルって“不意打ち”ですよね。待ってても来ないし、待たなくても来るし(笑)。なので、初めは本当に小動物のようにいちいちビックリして振り向いて、首を痛めちゃったんですけど(笑)。アニメやドラマの主題歌もうれしいですけど、コマーシャルだとさらに多くの方に観ていただけるし、ずーっといろんな時間帯で流れているので、またちょっと違う気分ですね。やっぱり友達や知り合いからの反響もすごくあって。
──声優の井上麻里奈さんもTwitterで「歌声が頭の中でリピートされてる」っておっしゃってました。
牧野 そうなんです。最近、仕事の現場に行くと私を見かけて「♪思い出が輝いてー」って歌い出す子がいたり(笑)。ここ数年ずっと連絡を取ってない子からも「あの資生堂のCMって牧野さん!?」って。
EPO 今、いろんなことが日本に起きていて、悲しいニュースや複雑な気持ちになる画面がいっぱい私たちの目に焼き付いてるんだけど、あのCMが流れてくると、パーッ! と自分にたくさんの色が付いていたことを思い出すんですよね。そういう声をしてるでしょ、彼女。パッと気持ちを切り替えてくれるような。
──今回は、これまでの牧野さんとはずいぶん歌の雰囲気が違うなと感じました。フレッシュ感、というとおかしな感じですけど、これまではどこか憂いを帯びた質感が牧野さんの特徴だったと思うのですが。
牧野 はい。薄幸なイメージですよね。えへへへ(笑)。
──でも今回は少し違う印象を受けました。
牧野 違いますね。今回は割とイレギュラーなことが多くて、笑ってもいいジャケ撮りは初めてでしたね(笑)。これまでもほほ笑むぐらいはあったんですけど、こんなに笑ってもよかったのは初めて。
「恋はどうかしら?」
──2曲目の「Merry-go-round」は2010年夏のライブでも披露されていましたし、他の2曲よりも先にできていた曲ですよね。が、こちらもまた結婚ソングで。
牧野 そうなんですよ。どんだけお前結婚したいねん!っていう(笑)。
──結婚ソングが続いたのはたまたま?
牧野 そうなんですよー。ちょうど今度、5月の末に私の昔からの友達が結婚するんですよ。それで実は去年の11月ぐらいから「結婚かぁー」って考えてて。その子は私の友達の中で一番早く結婚するんですけど、やっぱり自分にとって大事な人が結婚していくときって「うれしいね」とか「おめでとう」っていう気持ちだけじゃないんですよ。なんか「取られちゃう」っていうか……。
EPO あははは(笑)。わかるわかる。
牧野 ちょっとノスタルジックな、センチメンタルな気持ちになるところもあって。女の子の場合は名字も変わっちゃうし……全部知ってるって思ってたのに、もう奥さんになるんだなって思うと、ちょっとさびしい感じがする。「おねがいジュンブライト」に「この愛を この愛を 大切に守り抜くと」って歌詞がありますけど、ぜひとも新郎さんにはその思いでいてほしい(笑)。「Merry-go-round」は私が詞を書いてるんですけど、今回はイメージをまず決めて、日記を書くように詞を書きたいって思ったんです。韻を踏むとかそういうテクニカルなことは頭から一旦追い出して。それで最初にやったのが、「ゼクシィ」を読み倒す(笑)。
──ははははは(笑)。
牧野 まあ読み倒しましたよね。私にも結婚に対する憧れはありますけど、それはきっと結婚に対する憧れではなくて「結婚式」に対する憧れなので、ちょっとリアルじゃないなと思って。それで、次にやり始めたのが友人に全部電話をかけまくるっていう(笑)。
──結婚をしそうな友人に?
牧野 色恋方面が充実してそうな友人に。「最近どう?」ってかけて「最近ねー、仕事でさー」「あっ、うん。仕事じゃなくて、恋はどうかしら?」って(笑)。膨大な資料がほしくて。調査期間が今までの中で一番長かった作品です。
──そんなに綿密なリサーチが反影された作品だったとは。
牧野 はい。網をかけにいったみたいな。結果的に大収穫で。この曲はもともとアルバムのために作ってた曲なんですよ。アルバムだと、どうしても自分で書いている歌詞がどの曲でも同じ視点になっちゃいそうで。
EPO ええ、わかります。
牧野 ですよね? “恋”っていう同じテーマで書いたとき、同じ視点からじゃつまんないな、表現の仕方が一緒だとちょっと聴いてて意見の押し売りみたいになっちゃいそうだなって。今回は幸せなことに同じタイミングで2曲タイアップをいただいたので、一緒にシングルに入れることにしたんですけど……まとめて聴いてみると「あれ、結婚したいの? 私」みたいな(笑)。まぁ、そういう年齢なのかなとも思いますけど。
──そのお友達の結婚式では、やっぱりこの曲を歌われるんですか?
牧野 ね? どうなんでしょう。歌ってって言われるのかなぁ。私はこの日、受付やるかもしれないんですけどね(笑)。
牧野由依×EPO、今後も継続?
──今日お話を聞いてみて、この「牧野由依×EPO」コンビには、ここだけで終わらず、今後も継続して新しい曲をどんどん出してほしいなと思いました。
牧野 わーおわーお!
EPO もうぜひぜひぜひ。今回の曲は彼女の声を知る前から始まってますけど、次チャレンジするときは彼女の声に合ったものをメインに作ってみたいんですよね。
──なるほど。またそれとは逆に、牧野さんの声を理解した上で、あえて意外な方向に持っていくのも面白いかもしれませんね。
牧野 「これ歌えるか?」って(笑)。
EPO でもね、彼女はもともと結構アバンギャルドなことやってますよね。前のアルバムを聴いてすごく思ったの。
──浮遊感のある打ち込みモノから、生楽器を使ったソフトロック的なアプローチまで、かなり幅広いですよね。
EPO そうそう。きっとお題を与えたらどんどん自分で作っていける方なんでしょうね。今回一緒に作ってみて、いろんな可能性がある方なんだということがわかったので。
牧野 私はこれまで体験したことなかったようなことを、EPOさんからいっぱい教わりました。先程のROGER NICHOLS & SMALL CIRCLE OF FRIENDSとか、今まで触れたことのなかった音楽もいろいろと聴くようになったし。
──音楽のインプットから声の出し方まで、大きな収穫がいっぱいですね。
牧野 もう本当に収穫だらけで。これからそれを自分のモノにできるか、がんばりどころだと思います。
牧野由依(まきのゆい)
7歳で岩井俊二(映画監督)に才能を見出され、同監督の大ヒット作品「Love Letter」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」3作品に、8歳から17歳にかけてピアニストとして参加。2005年にシンガーデビューを果たし、同年には声優としての活動もスタートさせた。 2008年春に東京音楽大学ピアノ科を卒業し、2009年には事務所およびレコード会社を移籍。アーティストとして新たな第一歩を踏み出した。2010年3月3日にEPICレコード移籍第1弾シングル「ふわふわ♪」をリリース。
EPO(えぽ)
1980年に3月にシュガー・ベイブのカバー曲「DOWN TOWN」でメジャーデビュー。テレビのテーマソングやCMソングなどを数多く手がけ、「土曜の夜はパラダイス」「う、ふ、ふ、ふ、」などのヒット曲を世に送り出した。1987年にはVirgin UKと契約し、一時ロンドンを拠点に活動。1990年代には、妊婦のための胎教ライブや高齢者対象のライブ、童話の朗読とライブの融合など、ポップスのジャンルを超えた独自のパフォーマンスに積極的に取り組み始めた。2004年にはカウンセリングスタジオ「MUSIC & DRAMA」を開業し、現在はアーティスト活動と並行してセラピストとしても活躍している。