ナタリー PowerPush - 牧野由依
世の中を明るく照らすポップの魔法 牧野由依×EPOガールズトーク
時代背景と女性のあり方
──EPOさんは2曲続けて「エリクシール」のCMソングを手がけられたわけですが、EPOさん×資生堂と言えば「う、ふ、ふ、ふ、」や「ニュアンスしましょ」(歌:香坂みゆき)、「くちびるヌード」(歌:高見知佳)と、1980年代のCM業界を代表する名コラボを連発されていますよね。そして今、新たなコラボが立て続けに生まれて、これは一体何が起きているんだろうか? と。
EPO ね。何かが起きてるんでしょうね。資生堂さんは一番自分の良いところをちゃんと要求してくれる会社というか。仕事はとっても楽しいし、曲作りも自分がメインで持ってるエッセンスそのままでいけるので、とっても楽しいです。
──僕らファンとしては「EPOさんがもう1回ノベルティソングの現場に帰ってきた!」という思いです。EPOさんはある時期から、資本主義的というか、ビジネスビジネスした業界とは意図的に距離を置かれていたように思うんですけど、またCMの現場に戻ってこられたのには、何か心境の変化みたいなのもあったりしたのかなと考えたのですが。
EPO 「う、ふ、ふ、ふ、」を歌っていた頃(1983年)、私は20代でしたけど、正直あの頃は全然この歌詞みたいな人じゃなかったんですね、私。ホンットに。全然自由じゃないし、自分の好きなものを好きって言えなかったり。歌詞の主人公よりもっと幼かったし、もっと不自由だった。
──それはちょっと意外です。
EPO だから「この歌を歌う自分」になれるよう、がんばるのがしんどかったんだと思います。でもね、今になってようやくこの歌詞の中にいる自分が見えてきた。ちょうどデビュー30周年を記念してセルフカバーアルバムを作る話が進んでるんですけど、それで私「もう1回、今の自分で『う、ふ、ふ、ふ、』をちゃんと歌ってみよう」って決めたんです。そしたらね、それを決意した翌日なんですよ、牧野さんのほうからカバーの提案があったのが。
──なんとー。
EPO 彼女が歌ったものを聴いて、素直にいい歌だなって感動できた自分がいたんですね。それは自分が「この歌に嘘がない」って思えるようになれたからだと思うんです。この歌にどういうメッセージがあったのかを、別の方の声で客観的に聴かせてもらえる、すごくいい機会になったわけ。
──今なら「♪ひとつやふたつのあやまち」も……。
EPO ねぇ? 5つや6つの間違いもあって別に屁でもないやっていう(笑)。ちゃんと相応に自分が大人になったんだなっていうことが確認できてるんでしょうね。ポップスの要素は私の原点だから、自分に嘘がなければ楽しんでできるんだっていうことがわかった。
牧野 私にとっては、この曲は「こうなりたい」っていう願望が詰まった曲なんです。私はこのあいだ25歳になったんですけど、私の母が結婚したのが25歳のときで、ちょうど「う、ふ、ふ、ふ、」がコマーシャルで流れていた頃なんです。母は27歳で私を生んだんですけど、私もそういう年齢に近づいてきてる。たぶん昔と今では女性の社会への出方も違いますし、結婚や出産に対しての考え方も違うとは思うんですけど、ただただ30歳になりました、40歳になりましたっていう、そんな残念な歳の取り方はしたくないなって。
──確かに昔と今では女性の年齢に対する捉え方がものすごく違うと思います。EPOさんの「Middle Twenties」という曲は、25~6歳で“生き遅れ感”に焦る女の子の話ですけど、今はそんなことあり得ないですよね。
牧野 ねえ。ケンカ売ってんのか! って話になっちゃいますもんね(笑)。EPOさんが「う、ふ、ふ、ふ、」を歌われてた当時の映像も観たことがあるんですけど……。
EPO ふはははっ!
牧野 観ると「すごく大人だなー」って思うんです。けど、EPOさんは当時23歳なんですよね?
EPO なんですよねぇー。
牧野 今の私のほうが年上なのに、EPOさんすごく大人! って。私ならこの曲をどういうふうに表現できるかな、と考えながら歌わせていただいたので「なんか新しいな、牧野!」って思ってくれたら、それはすごくうれしいです。
──時代背景と女性としての立場、同じ曲でその違いが見えてくるというのは面白いですね。
EPO ね。今このタイミングで彼女が歌ってくれたというのは、私にとってもすごくためになった。
アイデアの元は“ロジャニコ”
──EPOさんとしては、このコラボがご自身のこれからの曲にフィードバックするようなこともあるでしょうか。
EPO そうですね。実は私、このカバーもどういう方向がいいかなっていうのを牧野さんにプレゼンしちゃったんですよ。もし自分が歌うとしたらこういうオケでやりたいっていうアイデアがあったんですね。本当は自分がそれでやろうと思ってたんだけど、でもこれは今彼女にやってもらったほうがいいかなって。
牧野 ありがとうございます。もうホントにうれしい。
EPO 私もすごく気に入ってて、だから、さらに自分でもう1回やるとしたらどういう形になるのかなって考える楽しみもあるんですよ。
──具体的にはどういったアイデアを出したんですか?
EPO アレンジの方向性で言うと、まずROGER NICHOLS & SMALL CIRCLE OF FRIENDS。
──ああー。「Don't Take Your Time」のような、きらびやかで目まぐるしく動くアンサンブルですね。
EPO そうそう。あの雰囲気が合うだろうなと思ったの。アレンジャーの大坪稔明さんにもSMALL CIRCLE OF FRIENDSを聴いてもらったり、楽器のアンサンブルの形はこうで、ってメロディ指定で書き譜を全部渡して再現してもらったんです。
牧野 コーラスも新しくEPOさんが歌ってくださって。
EPO ねー。あと一緒にやったのもあるじゃない? ちょっと天使的な。あれも楽しかったですよね。
牧野 そうですね。EPOさんが歌ってくださったものに対して「じゃあ私はこの手でいきます」みたいな感じで、またブースの中に入ってコーラスを加えたり。ああいうの、私は初めての体験でした。
EPO 声で編み物するような感じよね。私が歌ったら、今度は彼女が「あっ、今思い浮かんだ! ちょっと入ってやっていいですか」と言って別の音程をかぶせて。それはすごく面白かったですね。
牧野 なんか「あっ! 今音楽やってる!」っていう(笑)。作業ではなかったですね。文字どおり“音を楽しむ”ような。
──アウトロのコーラスは歌詞として掲載されていませんけど、これは何と歌っているのでしょうか。
牧野&EPO 「♪たーまーにー みーせーるーの ほんとのなみだ それが ゆうき」。
牧野 「それが強さ」と「それが勇気」。ブースに入って歌ってくださっている姿を見ながら「……EPOさんだぁー!」って感じで1人でもう大興奮で(笑)。
牧野由依(まきのゆい)
7歳で岩井俊二(映画監督)に才能を見出され、同監督の大ヒット作品「Love Letter」「リリイ・シュシュのすべて」「花とアリス」3作品に、8歳から17歳にかけてピアニストとして参加。2005年にシンガーデビューを果たし、同年には声優としての活動もスタートさせた。 2008年春に東京音楽大学ピアノ科を卒業し、2009年には事務所およびレコード会社を移籍。アーティストとして新たな第一歩を踏み出した。2010年3月3日にEPICレコード移籍第1弾シングル「ふわふわ♪」をリリース。
EPO(えぽ)
1980年に3月にシュガー・ベイブのカバー曲「DOWN TOWN」でメジャーデビュー。テレビのテーマソングやCMソングなどを数多く手がけ、「土曜の夜はパラダイス」「う、ふ、ふ、ふ、」などのヒット曲を世に送り出した。1987年にはVirgin UKと契約し、一時ロンドンを拠点に活動。1990年代には、妊婦のための胎教ライブや高齢者対象のライブ、童話の朗読とライブの融合など、ポップスのジャンルを超えた独自のパフォーマンスに積極的に取り組み始めた。2004年にはカウンセリングスタジオ「MUSIC & DRAMA」を開業し、現在はアーティスト活動と並行してセラピストとしても活躍している。