ナタリー PowerPush - LOVE LOVE LOVE

インド渡航が生んだ初フルアルバム 新作「KYOTOKYO」が示すバンドの行方

インドで考えた“生きる”目的

──インドに行って、日本だと見失いがちなものが見えてきたということですけれど、そこで見えたものってどういうものでしょう?

ライブ写真

寺井 “生きる”ってことですね。現地の人たちと自分を比べたときに、全然違うのは生きる力だった。環境的なものも関係してると思うんですけれども、インドでは毎日「生きる」という目的のもとにみんなが動いている。日本での僕はそれが希薄だった気がする。それで「生きるってどういうことなんだろう?」って思ったんです。それは毎日ごはんを食べることだし、そのために何をするかということ。そこに考えが至ったときに、自分の心の中で「音楽でメシを食べる」という自覚が高まった。と同時に、音楽が聴く人にとってどういう役割を果たせるんだろうかということを考えたんです。

──というのは?

寺井 日本だとみんな毎日朝7時に起きて夜遅くに帰って、そういうストレスに満ちた生活をしているわけじゃないですか。そういう人たちの心をほどいてくれるのは、やっぱり音楽だと思うんです。だから、もっと自分の身を削って音楽を作らないと、そういう人たちの心には入れないし、響かない。なんとなく「君のことが好きです」みたいな歌を歌っても、「そうですか」だけで終わってしまう。音楽は人と人とのコミュニケーションだから、重なる部分が多くないと届かない。そこは考えさせられました。だからインドに行ってから音楽に対する姿勢がすごく変わりましたね。すっきりしたし、シンプルに考えるようになりました。

情報に惑わされたくなかった

──インドで曲を作ったりはしました?

寺井 3、4曲作ったんですけど、メモ程度でしたね。もっとたくさん作れると思ったんですけれど、僕も毎日生きるのに必死やったんで(笑)。でも帰ってきて3日後に大阪でライブがあって、そこになんとしても新曲を持っていきたかった。そこで作ったのが「旅に出よう」という曲だったんです。その後でバンドを結成した場所に戻って、3人だけでデモ音源制作をやりたいということになって。滋賀の山奥で、友達の農作業倉庫みたいなものを改造したスタジオを借りて合宿したんです。そこで寝泊りして、お風呂は2日おきっていうくらいの勢いで生活をしてました(笑)。

──なんでわざわざ滋賀に?

浦山 インドに滞在してたときって、入ってくる情報は目で見たものと、自分の耳で聞いたものだけだったんですよね。でも東京に戻ってきたら嫌でもたくさんの情報が入ってくる。それに惑わされたくなかったんだと思います。

──その後京都でレコーディングされたそうですが、それは原点に戻ろうということだったんですか?

寺井 そうですね。京都の「studio SIMPO」というところで全曲レコーディングしました。プロデューサーは立てずに、スタジオ代表のママスタジヲの小泉大輔さんにエンジニアをやってもらって。今まで以上に3人でいる時間が多かった分、音ひとつでああだこうだ言いながらやれたんで、自分たちの身になった気がしますね。改めて「こいつ、こんなん好きやってんな」という発見もあったし。

どれだけ響く歌詞を書けるかがポイント

──アルバムを聴いて思ったんですけれど、今回のアルバムは楽曲に「人恋しさ」がある気がするんです。ポップネスを洗練させてクオリティを高める発想というよりも、生々しさがあるというか。ぬくもりもあるんだけど、力強さもあるというような。

寺井 「この曲を聴いてほしい」という気持ちは、どの曲を作ってるときにも強かったと思いますね。それが人恋しさにつながってるのかもしれないです。

──ただ「いい音楽」を届けるというよりも、誰かに聴いてもらうということや、聴いた人の生活に入り込む音楽を意識するとなると、LOVE LOVE LOVEというバンドの強みを見直すことになりますよね。そこはどこにあると思いますか?

ライブ写真

寺井 歌詞ですね。そこを極めていかないと、このバンドは潰れると思う。別に難しいことを歌わなくていいんだけど、どれだけ響く歌詞を書けるかがポイント。で、その歌詞の世界を最大限に伝えられるような歌唱力がないとダメだなって思います。

──「KYOTOKYO」はオリジナルアルバム「ヒンディー盤」とインディーズ時代のベスト盤「インディー盤」の2枚組作品ですが、どうしてこういう仕様にしたんですか?

寺井 これは昔の曲ももっといろんな人に知ってもらおうということで企画したんです。でも単純に昔の音源をまとめたんじゃ面白くないので、新録バージョンの「サイダー」を入れてみたり。実はこの曲、最近のライブでアレンジを変えて演っているんですけど、それがなかなか好評で。今回片寄明人さんをプロデューサーに迎えて、ダンサブルでアッパーな「サイダー(Dancing version)」にアップデートしました。

LOVE LOVE LOVE

LOVE LOVE LOVE(らぶらぶらぶ)

寺井孝太(Vo, B)、浦山恭介(G)、澤本康平(Dr)による3ピースバンド。2003年に滋賀県立大学の音楽サークルで出会いバンド結成。2004年より京都を中心に活動を始め、2008年から拠点を東京に移し全国的な活動を開始。2008年9月に発表したミニアルバム「ターコイズ」がインディーズシーンで話題を集める。 その後もライブハウスやフェスなどの出演を重ね、2009年5月27日にミニアルバム「ソライロノオト」でSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビュー。2010年1月にはミニアルバム「空想パドル」、2月に1stシングル「プラネタリウム」をリリースする。同年秋、新たな音楽を求めてメンバーそれぞれインドに渡航。1カ月にわたる旅を経て新曲「旅に出よう」他、数10曲を制作。同年12月に限定シングルとして発表し即完。ポップなサウンドとみずみずしい世界観、安定感のあるライブパフォーマンスが高く評価されている。