ナタリー PowerPush - 映画「今日、恋をはじめます」
音楽プロデューサーが語る12のテーマ曲の舞台裏
アーティストが放つポップスの力を借りたかった
──オファーするアーティストのリストアップをしたり、実際に制作依頼を始めたりしたのはいつ頃だったんですか?
台本の状態で進み出してた曲もあるんですよ。芝居の感じが大体わかってて、ここだったらこういうアーティストだよねっていう申し合わせが最初からできてたところは始動も早かったですね。
──そのオファーの一番手は誰だったんでしょう?
bomiさんです。時期で言うと今年の年明けから動いてて、彼女に発注したシーンは解釈が実に明快だったし、ガイドにしていた曲のコンセプトもハッキリしてたんですよ。
──書き下ろしにこだわったという点で、各アーティストにはどんなお願いの仕方をしましたか?
先程お話したガイドの曲をそのまま聴いていただくのはさすがに失礼ですし、基本的には僕らがシーンの説明をしたり、映像ができた後に発注した方には映像もお見せしながら要望を伝えていきました。でも特段細かい注文をしたわけじゃなくて、こちらがアーティストの魅力を理解しているということをまずわかっていただき、「だからこそこのシーンに当てたいと思っている」というのを伝えていく作業というか。
──あまり具体的な縛りなどは設けなかったんですか?
基本的には。なぜかというと、僕たちも「このシーンのこういうコンセプトを表現してもらう○○さん」という形で綿密に人選をしていたので、その方に作っていただくという時点で僕らのイメージにほぼ沿うものになってたんです。アーティストが放つポップスの力を僕らが借りたかったというのも大前提としてあるんですが、こういった音の作り方をしている映画はあまりないんじゃないかと思いますね。、
──例えばbomiさんだと、彼女のどんな魅力にフィーチャーしたのですか?
bomiさんにお願いしたのは、主につばき(武井咲)と京汰(松坂桃李)が初めてデートをする序盤のモンタージュシーン。2人が成り行き上デートをすることになっちゃって、その最中に互いが互いの魅力に気付いていくというところなんです。で、ここで欲しいものはなんだ?って考えたときに、まずはすごく開放感のあるハウスビートや、輝度が高いカラフルな感じを思い浮かべて。
──なるほど、すごくわかります。
でも、最初はつばきが京汰を嫌悪しているようなところもあるので、全くタイプの違う2人の異種格闘技というか、ただかわいいだけじゃなくどこか破れた力……いい意味で違和感を伴ったガーリーなハウスビートが欲しいっていうのがスタッフ間の総意だったんです。で、そのコンセプトを新しい感覚でやってくださるアーティストさんは、と探したときに、bomiさんだ!となって。他の方々に関しても大体そういう感じで、物語や主人公2人が繰り広げる心情に沿わせることを第一に、まず曲のキャラクターを想像するところからアーティストを決めていきました。
常に幾多の魅力的なアーティストを知っておく
──アーティストによっては、制作段階で思わぬ方向に進んでいった曲もありますか?
わかりやすいところでいうと、SEKAI NO OWARI。彼らには主人公2人が2度目のデートをするシーンをお願いしたんですが、ここはもう完全に恋人としてのデートで、bomiさんのほうの違和感やハプニング感とは逆の、ストレートすぎるくらいファンタジックなラブソングが欲しかったんです。で、彼らは結果「スターライトパレード」という既製曲のリミックスになったんですけど、それはこの曲の世界や情緒が映画にあまりにもフィットしていたから。ただ、新しくリミックスをしていただいたことで、よりウインターソングらしく、より主人公2人にアジャストするキラキラ感満載の楽曲になったのかなと思いますね。
──他にも特徴的だったアーティストはいますか?
「笑顔」を書いてくれたback numberですね。彼らには他のアーティストにしたようなシーン説明は一切せず、「編集映像を見ていただいて、back numberとしてこのシーンから想起する曲をとりあえず自由に書いてもらえませんか?」というお願いをしました。
──それはなぜでしょうか?
back numberであるというだけで、そのシーンの京汰の気持ちは代弁されるに違いないという得も言われぬ自信というか、想像が働いたんです。それだけ彼らのミディアムナンバーには魅力があるし、ストレートで素直な言葉はもちろん、直球なのにどこか哀愁を感じさせる要素もあって。理屈じゃなく本当に感覚の部分なんですけど、アーティストとしての言葉のセンス、声のキャラ、サウンドみたいなものも総合して考えて彼らにお願いさせてもらいましたね。
──ところで、溝口さんは音楽プロデューサーという職業上、普段から膨大なアーティストの情報が頭に入ってるんですか?
僕らは幾多の魅力的なアーティストをどれだけ知っておけるか?というのが仕事に大きく関わってくるので。アーティストのポテンシャル、活動内容、楽曲性といったものに常にアンテナを張っておいて、この人にこういうことをやってもらったらいいんじゃない?というような想像力は常に働かせていますね。
V.A.「『今日、恋をはじめます』オフィシャル・アルバム」/ 2012年12月5日発売 / 2500円 / EPIC RECORDS JAPAN / ESCL-3993 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
- SCANDAL / ハッピーコレクター
- Perfume / ナチュラルに恋して
- bomi / エクレア
- LGMonkees / NAGISA
- たむらぱん / ぼくの
- SEKAI NO OWARI / スターライトパレード-CAN'T SLEEP FANTASY NIGHT Version-
- MAY'S / ダイヤモンド
- さよならポニーテール / きみに、なりたい
- back number / 笑顔
- 中島美嘉 / 初恋
- ねごと / ながいまばたき
- 7!! / 弱虫さん
今日、恋をはじめます
- 出演:武井咲、松坂桃李他
- 原作:水波風南「今日、恋をはじめます」(小学館Sho-Comiフラワーコミックス刊)
- 監督:古澤健
- 企画プロデュース:平野隆、森川真行
- 脚本:浅野妙子
- 音楽:Flying Pan
- (C)2012映画『今日、恋をはじめます』製作委員会
(C)水波風南/小学館
あらすじ
真面目だけが取り柄の古風な高校1年生、日比野つばき(武井咲)は高校の入学式当日、成績優秀で学校一のイケメン・椿京汰(松坂桃李)に、クラスの皆の前でファーストキスを奪われてしまう。しかも京汰はつばきを「自分の女にする」と宣言。軽くて強引な京汰に反発しながらも、彼の優しい一面に触れたつばきは次第に京汰を好きになっていく。恋することで次第に変わっていくつばきと、そんな彼女の姿に惹かれていく京汰。しかし京汰の抱えた過去の秘密や、美しく変身したつばきの前に広がった新たな世界が、2人の恋路に大きく立ちはだかる。つばきと京汰、2人の恋の行方は……?
溝口大悟(みぞぐちだいご)
1992年、TBS系列の音楽出版社である株式会社日音に入社。テレビドラマや映画の主題歌コーディネート、劇伴制作を数多く手がける傍ら、ポップスの原盤ディレクターとしても多くの作品を制作している。過去に音楽コーディネートやプロデュースを手がけた主な映画作品は「恋空」(2007年)、「ハナミズキ」(2010年)、「アントキノイノチ」(2011年)、「ガール」(2012年)など。