音楽ナタリー PowerPush - KYOTO JAZZ MASSIVE

歩みを止めなかった沖野兄弟の20年

兄・沖野修也と弟・沖野好洋によるDJユニット・KYOTO JAZZ MASSIVEがデビュー20周年を迎えた。彼らはこれを記念して、「KJM WORKS~Remixes+Re-edits」「KJM PLAYS~Contemporary Classics」という2枚のコンピレーションアルバムをリリース。11月9日に東京・EX THEATER ROPPONGIで開催される「Tokyo Crossover/Jazz Festival 2014」では、豪華な盟友たちとともに20周年記念ライブセットを披露する。

ナタリーでは沖野兄弟にインタビューを行い、ユニットを20年続けた今の心境を聞いた。アシッドジャズのシーンから生まれ、時代のさまざまな変遷を経て確固たる地位を築いた、KYOTO JAZZ MASSIVEのアイデンティティとは?

取材・文 / 宇野維正 撮影 / 広川智基

ここで現在を知ってもらってオリジナルアルバムへ

──今回、自身の作品のセルフリミックスやリミックス作品を収録した「KJM WORKS~Remixes+Re-edits」、新曲と現在注目している楽曲を収録した「KJM PLAYS~Contemporary Classics」、そして11月9日に迫ったイベント「Tokyo Crossover/Jazz festival 2014」の開催を記念したコンピレーション、ドバッと3枚リリースされました。デビューアルバムから20周年を迎えて、KYOTO JAZZ MASSIVEの周囲がまた騒がしくなってきてますね。

沖野修也 実は今、KYOTO JAZZ MASSIVEとしてひさびさにオリジナルアルバムを作っているんですよ。なので、今回はその前に、ここ5年くらいの作品集と、ここ1年くらいのフェイバリットトラック集をファンに聴いてほしかったんですね。過去と現在と未来でいうと、ここで現在を知ってもらって、僕らの未来となるアルバムへの道を作りたかった。

KYOTO JAZZ MASSIVE

──KYOTO JAZZ MASSIVEの純粋なオリジナルアルバムというと、いつ以来になるんでしょう?

沖野好洋 2002年以来になりますね(笑)。

修也 僕ら、節目節目はコンピレーションなんですよ。デビューアルバムの「KYOTO JAZZ MASSIVE」もコンピレーションだったし、10周年の2004年にも「RE KJM」「FOR KJM」という2枚のコンピレーションとミックスアルバムを出したし。

──そういう意味では、今回もKYOTO JAZZ MASSIVEのこれまでの流儀に沿ったリリースなわけですね。

好洋 そうです。曲の制作活動を始めるまで、もともとKYOTO JAZZ MASSIVEというのは、僕らの周りの人間を含めた緩やかな集合体のようなもので。曲を作り始めた段階から、アーティストとして捉えられるようになっていったので。

修也 だから、厳密なオリジナルアルバムというと、まだ1枚しか出してないんですよ。

──そっか。じゃあ、今制作中のアルバムが2枚目になるんですね。

修也 もともとDJなので、僕らにとってはオリジナルアルバムもコンピレーションもあまり意識に差はないんですよ。好洋は自分のレーベルのコンピレーションを何枚も出してるし、僕もソロアルバムを2枚、ミックスアルバムを3枚出してるし。リリースの数は決して少なくはないんです。基本的な考え方として、自分たちの曲も、ほかのアーティストの曲も分け隔てなく世の中に紹介したいという気持ちがあるんです。

ユニット20年継続の理由

──20年続けてきたというのは、もちろんそれだけ音楽への情熱があったからだと思いますが、同じアシッドジャズのシーンから出てきたユニットの中でも、どうしてKYOTO JAZZ MASSIVEは、名義を変えることなく、音楽の方向性も変えることなく、ずっと続けることができたのだと思いますか?

修也 やっぱり、最初にあった緩やかな縛りというのが功を奏したんじゃないですかね。例えば、音楽ユニットとしてカチッとあって、1年に1枚オリジナルアルバムを出していたとしたら、きっとアシッドジャズのブームと共に消え去っていたかもしれない。でも、僕らってコレクティブ(集合体)であり、DJであり、バンドでありと、存在自体がファジーだったんで、時代の流れに左右されにくいというか、その流れを吸収できる懐の深さみたいなところがあったんだと思います。好洋はレコードショップのオーナーでもあるので、常に新しい音楽をキャッチしているし、僕はクラブのオーナーでもあるから、若い世代とのつながりもずっと持ってきた。アーティストでありながら、常に現場があったんですね。そういう意味では、結果として“続けてきた”んじゃなくて、“続けていく”ということを常に重要視してきたんだと思います。

──なるほど。あと、今回の作品を聴いて改めて思ったのは、もちろん制作の方法だとか、時代の取り入れ方とかは変わっていますけど、基本的にはずっと同じことをやられていると思ったんですね。それがすごいなって。例えばアシッドジャズの発火点だったロンドンにはジャイルス・ピーターソンという名物DJがいるわけですけど、彼の場合はジャズの拡大解釈というか、さまざまな音楽にジャズ的な視点を与えるという仕事をしてきたと思うんですね。でも、KYOTO JAZZ MASSIVEは音楽のスタイルとしてそこに一貫性がある。

沖野修也

修也 ジャイルスと僕らの最大の違いは、彼はDJであって、僕らは自分たちでも音楽を作るところにあるんです。監督とプレイヤーの違いというか。おのずと、その作品は音楽のフォーカスが絞られたものになっていく。KYOTO JAZZ MASSIVEらしいコード進行であったりメロディというのは確実にあるし、意識的にインプロビゼーションを曲の中に導入していくし。僕らの音楽のベースにあるのは、実は70年代の日本のフュージョンなんですよ。

──ああ、そうなんだ!

修也 あの当時は、ジャズにロックやブラジル音楽やソウルをかけ合わせていったわけですけど。それと基本的な精神は同じで、今の時代に生きている僕らは、そこにモダンなR&Bだったりハウスだったりをかけ合わせていったわけです。

KYOTO JAZZ MASSIVEというジャンルを作るつもりで

──ただ、70年代の日本のフュージョンのシーンというかカルチャーというのは、どこかで1回途切れてしまいましたよね。でも、KYOTO JAZZ MASSIVEが生まれた土壌となったアシッドジャズのシーンというのがここまで続いているのは、もちろんシーンとしての浮き沈みはありましたけど、まさに沖野さんたちが歩みを止めずにやってきたことも大きいと思うんですよね。

修也 そこは、やっぱりかなり意識的して、ポリシーとして自分たちの音楽のスタイルを絞ってきたからだと思いますね。

好洋 トレンドの取り入れ方とかも、常に話し合って、自分たちのスタイルを守りながら取り入れてきたから。アシッドジャズというジャンルというよりも、KYOTO JAZZ MASSIVEというジャンルを作るつもりでやってきたから。

沖野好洋

──なるほど。アシッドジャズに関しては、最近「渋谷系とはアシッドジャズだった」なんて主旨の書籍が出たり、椎名林檎さんの今度のアルバム「日出処」とか、もろにYoung Disciplesみたいな曲があったりして、ちょっとしたリバイバル感もありますよね。

修也 90年代に僕たちが音楽を始めた頃は、周りはみんな70年代の音楽のある種のリメイクをやっていたんですよ。“20年周期説”じゃないけど、2014年において90年代の音楽がリバイバルするというのは、すごくよくわかりますね。90年代に音楽を聴いてきた世代が、今は作り手としていい時期を迎えているってことだと思うから。

──そういう意味でも、今回の「Tokyo Crossover/Jazz festival 2014」にKYOTO JAZZ MASSIVEの仲間である大沢伸一さん、 United Future Organization(U.F.O.)のメンバーだった松浦俊夫さん、それに田中知之さん、Jazztronik、さらにはSOIL & “PIMP” SESSIONSのメンバーなどが一堂に会するというのは、とても価値があることですね。

修也 そうですね。中には大沢伸一くんのように一緒に音楽をやってきた仲間もいるし、ハウスミュージック界からはジョーイ・ネグロにもイギリスから来てもらうし、僕らの音楽を聴いてくれて今はアーティストになった人もいる。20年間やってきて、そういう今も最前線にいるアーティストたちとイベントをするということは、自分たちのやってきたことを検証することにもなると思うし、とても楽しみですね。

V.A.「Kyoto Jazz Massive 20th Anniversary KJM WORKS ~Remixes + Re-edits」2014年10月15日発売 / 2376円 / selective records / SELEC-10010
V.A.「Kyoto Jazz Massive 20th Anniversary KJM WORKS ~Remixes + Re-edits」
収録曲 / アーティスト
  1. No I Can't (Kyoto Jazz Massive Reconstruction) / Thee After Dark
  2. It Will Be (Kyoto Jazz Massive Remix) / Reel People feat. Tony Momrelle
  3. Anytime feat. Paul Randolph (Kyoto Jazz Massive Remix) / Ezel
  4. Look Ahead feat. N'Dea Davenport (Kyoto Jazz Massive Re-created) / Shuya Okino
  5. Feel It In Your Soul feat. Vanessa Freeman (KJM Works Exclusive Mix) / Kyoto Jazz Massive
  6. You Can Make It (Kyoto Jazz Massive Cosmic House Mix) / DJ KAWASAKI
  7. Destiny feat. N'Dea Davenport (KJM vs MdCL Remix) / Shuya Okino
  8. Look Around Any Corner feat. Sharlene Hector (KJM vs MdCL Remix) / Positive Flow
  9. Change My Heart (Kyoto Jazz Massive Remix) / Tasita D'Mour
  10. Ordinary Guy (Kyoto Jazz Massive Re-created) / Joe Bataan
V.A.「Kyoto Jazz Massive 20th Anniversary KJM PLAYS ~Contemporary Classics」2014年10月15日発売 / 2376円 / selective records / SELEC-10011
V.A.「Kyoto Jazz Massive 20th Anniversary KJM PLAYS ~Contemporary Classics」
収録曲 / アーティスト
  1. No Cross, No Crown / Kyoto Jazz Massive feat. Vanessa Freeman & Tasita D'Mour
  2. Mystery / Far Out Monster Disco Orchestra
  3. All Night (Extended Mix) / Katzuma
  4. Find a Way / Dego & The 2000black Family
  5. 64 Ways feat. Mayer Hawthorne (Kerri "Kaoz" Chandler Vocal Remix) / Detroit Swindle
  6. The Only Thing That Make Sense (Is You) (Opolopo Remix) / Roy Ananda feat. Pete Simpson
  7. Now Your Gonna Save Me / Soul Renegades
  8. Still In Love feat. Navasha Daya (Kyodai Remix) / Shuya Okino
  9. Work It Out (House Remix) / Blakai feat. Lady Alma
  10. Look What We've Done (Long Ver.) / Blu James
  11. Let It Be / Darkest Pumpkin
Tokyo Crossover/Jazz Festival 2014

2014年11月9日(日)
東京都 EX THEATER ROPPONGI
OPEN&START 13:00 / END 22:00

出演者
LIVE
KYOTO JAZZ MASSIVE 20th Anniversary Special Live Set feat. Navasha Daya, Vanessa Freeman, Shuya Okino & Hajime Yoshizawa, ROOT SOUL / Jazztronik / Maylee Todd
DJ
Joey Negro / Eddy Ramich / 松浦俊夫 / 沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE)+大沢伸一+田中知之(FPM)☆Back To Back JAZZ SET / 黒田大介(kickin) / Makoto / DJ KAWASAKI / 社長(SOIL & "PIMP" SESSIONS) / BREAKTHROUGH / RYUHEI THE MAN(universounds、The Man's World Productions) / DJ SARASA a.k.a. Silverboombox / 青野賢一(BEAMS RECORDS) / TSUYOSHI SATO(BLACK EDITION) / YOSUKE TOMINAGA(CHAMP、KAY-DEE RECORDS) / 大塚広子(CHAMP、KEY OF LIFE+) / OIBON(CHAMP)
KYOTO JAZZ MASSIVE(キョウトジャズマッシブ)
KYOTO JAZZ MASSIVE

1990年代初頭に結成された、兄・沖野修也と弟・沖野好洋による兄弟DJユニット。1994年、初めての作品としてコンピレーションアルバム「KYOTO JAZZ MASSIVE」を発表。2000年にはドイツのCOMPOST RECORDSと契約し、1stシングル「ECLIPSE / SILENT MESSENGER」をリリース。2002年に1stアルバム「SPIRIT OF THE SUN」を全世界でリリースする。2004年12月、ボーカルにベンベ・セグエとヴァネッサ・フリーマンを迎え、初のライブセットを恵比寿ガーデンプレイスにて披露。現在もDJとしての国内での活動はもちろん、ヨーロッパ各国、アメリカをはじめとする世界各国でツアーを敢行し、高い評価を得ている。