ナタリー PowerPush - 菅野よう子×AKINO

「アクエリオン」を彩る音楽の秘密

「創聖のアクエリオン」ヒットの要因

──「創聖のアクエリオン」のヒットの要因ってなんだったと思いますか?

菅野 やっぱり歌詞が良かったんですよね。

AKINO キャッチーですよね。

──ただ「創聖のアクエリオン」に限らず、アクエリオンシリーズのテーマソングの詞はどれもキャッチーな半面、バイオレントなフレーズやネガティブなフレーズも使われがちですよね。「殺戮の天使」「奈落の青」「絶望的」というように。

菅野 それは河森(正治)監督がアクエリオンシリーズ全体に込めたメッセージでもあるんですよね。「好きと嫌いは同じことなんだ」「生と死は裏返しなんだ」。逆さまのもの、愛と憎しみとか、白と黒とか、そういう表裏一体っていうのがテーマのひとつだったんです。「男と女っていうのも元は同じだ」とか。だから、バイオレントでネガティブな言葉の裏側には平和やポジティブな意味もあって。その両方の重みをわかった上で、その重さを生きていくことの尊さ……。なんか私、今、カッコいいこと言ってますね。

AKINO あはははは(笑)。

菅野 まあ、そういうものを込められればいいな、とは思いました(笑)。それとは別に、このご時世に大々的に宣言することの、身体的な意味みたいなものも。「もう大好き!」「1万年前から大好き!」「1億年あとも大好きです!」みたいなことをヌケヌケと言ってしまった私って、みたいな感じ? それを口にしたときに自分が脳に受けるフィードバックの感じってあるとは思っていて。例えば「私、がんばります」って言う場合と、言わない場合ではがんばり度は違いますよね。

──口にすると覚悟が決まりますよね。

菅野 「1万年前から好きで、今もずっと」って言ってみたら「いや、もっと好きだったかも」って自分の真剣度に驚くかもしれない。「アクエリオンEVOL」のオープニングテーマの「君の神話~アクエリオン第二章」の最初の詞なんかには、特にそんな意味も込めてますね。逆に「好き」と言ってみたら「あっ、そんな好きじゃなかった、ごめん」ってこともあるとは思うんですけど(笑)。

AKINO でも、菅野さんや岩里さんの歌詞は全部声に出しやすいし、ニュアンスがつけやすいんです。菅野さんのアクエリオンの曲は結構速いので、レコーディングしているとき、早口言葉を失敗したときみたいに全然違う言葉が出そうになっちゃうこともあるんですけど(笑)。

菅野 確かにアクエリオンシリーズの歌詞は、歌ったときに気持ち良いように工夫はしています。意味はちょっとわからなくても、その歌詞を言うことでカタルシスを得られたり、ストレスを発散できたりするよう。だから歌うと元気になるんだとは思います。ただ、「創聖のアクエリオン」って、特に中学生のダウンロードも多いらしいんですけど、みなさん、ただ曲を聴いてるだけじゃなくてカラオケで歌ってるって聞いたときはビックリしました。「こんなもんカラオケで歌えるの!?」って。この人ですら早口言葉みたいになるのに(笑)。

AKINO でも「アクエリオンEVOL」が始まってからは、エンディングテーマの「月光シンフォニア」を歌う人たちも増えてるって聞きました。

菅野 あり得ないよね!

──どちらも日本の器に収まらない規格外のボーカリストに限界に挑戦させた楽曲ですからね。

菅野 そうそうそう。自分の持っているスキルの一番上を狙って歌うAKINOちゃんの声の気持ち良さも入れたつもりだから。

AKINO だから、ちょっと聴いてみたいですよね。

菅野 で、もし普通の中学生が本当に「創聖のアクエリオン」や「月光シンフォニア」を歌えるようになってるとしたら、それはすごいことですよ。アクエリオンはすごいトレーニングになってるのかもしれない。若者のボーカルスキルの向上に貢献してるのかも(笑)。

ロックにもチャレンジすれば変われるんじゃないか

──あと、アクエリオンシリーズのテーマソング、特にAKINOさんが歌うものはドラムとベースと2本のギターと鍵盤、そしてストリングスという、いわゆるロックバンド的な編成で、アレンジもバンドらしいものになっています。なぜこういう編成とアレンジに?

菅野 河森監督が最初のシリーズのときから一貫して、キャッチーさとか、届きやすさ、わかりやすさ、ちょっと変な言葉で言うなら下世話さ、そういうものを求めていたからです。アクエリオンって神話の物語なので、だからってゴシック系の曲とかにしちゃうと、まったく立体的ではない、ただそれだけのものになってしまう。それをいかにイマドキの若者に届けるかってなったときに、オープニングテーマはドレスダウンしたほうがいいだろうなと思って。そういうバランスでアレンジしてますね。

──ところが、bless4ってヒップホップやR&Bをベースにしたダンスミュージックグループですよね。

菅野 そうですよね。あの頃歌いたかったのはヒップホップ系だし、今もダンスミュージックは好きなんだよね?

AKINO 好きですね。ただ、自分はすごくシャイで、人の前でひとりで歌ったこともあんまりないし、自分の気持ちを伝えることもできない子だったんですね。だから、ソロデビューするのは怖かったんですけど、このチャレンジを受けて、ロックにもチャレンジすれば変われるんじゃないかと思ったんです。で、本当に自分が少しずつ変わってきたし、自分の人生も大きく変わりましたね。だから、この作品と菅野さんに出会えて本当にうれしいんです。

──ロックとダンスミュージックというジャンルやスタイルの違いに戸惑いや苦労はなかった?

AKINO 実はありました(笑)。自分は黒人っぽい歌い方や、コブシを入れたりするのが結構好きなんですけど、ロックでそういうふうに優しく歌ったり、強弱をつけたりするのが難しかったですね。さっきも言いましたけど、ダンスミュージックよりテンポが速いし、自分はリズムがすごくヘタクソなので、そこもすごく難しかったですね。

菅野 リズムがヘタクソな人はブラックミュージックはできないから(笑)。ただ、日本語ではあんまり歌ってなかったよね?

AKINO 歌ってはいましたけど、4人でやってるのでパートパートでしか歌ったことがなくて。フルコーラス歌ったことはなかったです。

菅野 そうか。コーラスみたいな取り組みで日本語を歌ってはいたけど、頭から最後までっていうのは……。

AKINO 歌ってなかったですね。だから息継ぎも難しくて。菅野さんの音楽はテンポが速いし、あまり息継ぎも入れないので、日本語でフルコーラス歌いながら、息継ぎできるフレーズを探したり、「スッ!」って早く吸ったりするのは大変でした(笑)。あとは、ずっと音を伸ばしたりするのも。

菅野 母音を伸ばすのって日本語圏特有ですからね。英語の複雑な子音で声を伸ばすことに慣れていると確かに難しかったとは思います。

7年間の成長と変化

──そして「創聖のアクエリオン」の放映から7年、「アクエリオンEVOL」のテーマソングをまた2人で担当することが決まったとき、アニメ系、音楽系の媒体が「あの強力タッグが復活!」と報じました。

菅野 ぷっ!(笑)

──鼻で笑わないでください! 確かに煽りすぎのきらいはありますけど、期待が大きかったのは事実ですから。それに対するプレッシャーはありました?

AKINO 「創聖のアクエリオン」は自分が14歳のときに録って、20歳、21歳になって「君の神話」を歌ったんですけど、やっぱり14歳の声と今の声って全然違うじゃないですか。本当に14歳の声を超えられるのかな、っていう心配はありましたね。大人になったので14歳と同じ声じゃいけないので、聴いてくれたみなさんにそういう変化も伝えられたらいいな、っていうプレッシャーはちょっとありました。でも、自分が楽しまないと伝わらないので、そういう気持ちは全部こう……。なんて言うんですか? 蹴り出す?

菅野 「蹴り出す」んじゃなくて「追い出す」かな(笑)。

AKINO すみません。ちょっとテコンドーをやっていたので(笑)。

──足技主体の選手でしたか(笑)。

AKINO で、そういう気持ちを蹴り出して(笑)、前向きな気持ちで歌いました。それに「創聖のアクエリオン」の頃よりもキーの高い曲が多かったり、菅野さんが新しいチャレンジをさせてくれたのもすごくうれしかったですね。

──菅野さんから見てAKINOさんの成長ぶりはいかがでしたか?

菅野 「アクエリオンEVOL」の話があって「今、どうなってるのかな」と思って、まずスタジオに来てもらったんですよね。

AKINO はい。

菅野 で、歌ってもらったんですけど「ものすごく素晴らしく成長しているな」と。14歳の女の子なんて7年もあればものすごく変わるじゃないですか。良くも悪くも成長するっていうか、この作品に対して望ましい成長をしているかどうかは賭け。私がずっとプロデュースしていたわけではないので「アクエリオンEVOL」の楽曲を歌うにあたってAKINOちゃんがどういう成長をしているのか心配で心配で。だって、スタジオに来たときに(タバコを吸うジェスチャーをしながら)こんな感じになってたらどうしようかと思うじゃないですか!

AKINO いきなりギャルになってたり(笑)。

菅野 そう! ギャルになってて「お酒で声を枯らしちゃってさあ」ってなってたらどうしようかと思うんですよ(笑)。スポーツなんかでも14歳のときにピークを迎える選手も多いですよね。14歳ってそのくらい肉体的に素晴らしい時期なんですよ。この人も上(高音)がバンバン伸びてたし。そういう意味では「身体能力はあの頃が一番だったかもしれない」「今はもっと落ちてるかもしれない」と思ってたんです。

──男ほどじゃないものの、女の人も歳とともに声は低くなりますもんね。

菅野 でも会ってみたら、14歳のときより上が2~3音伸びてるし、テクニックも前よりもガンガン上がっていたんです。14歳のAKINOちゃんのすごく良かったところ、純粋さ真っすぐさ、みずみずしさを保ちながら、しなやかに強くなっていて、ホントビックリして。普通の人の場合、自己流で練習していると、自分の歌いやすい歌ばっかり歌っちゃうから、ある程度可能性が固まっちゃうんですよ。ところが、この人はこちらの想像を超える状態になっていた。どんな練習してたの?

AKINO bless4は先生から教わったことがなくて、自分たちだけで練習するんです。まず最初にグループで練習して、そのあと1時間半くらい個人練習して。それも普段、お互いの歌を聴き合うことはなくて。ただ、ライブやレコーディングの前は全員でチェックして。あとお父さんが、音楽をやっているわけではないんですけど、感情の表現なんかを厳しくチェックしてます。

CD収録曲
  1. 君の神話~アクエリオン第二章(「アクエリオンEVOL」前期OPテーマ)
  2. 荒野のヒース(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
  3. Go Tight!(「創聖のアクエリオン」新OPテーマ)
  4. パラドキシカルZOO(「アクエリオンEVOL」後期OPテーマ)
  5. 創聖のアクエリオン お兄さまと (「創聖のアクエリオン」OPテーマ[アルバムver.])
  6. プライド~嘆きの旅(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
  7. オムナ マグニ(「創聖のアクエリオン」EDテーマ)
  8. ニケ15歳(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
  9. a tot(「アクエリオンEVOL」より)
  10. 鳥になって(「創聖のアクエリオン」挿入歌)
  11. Unforgettable(「アクエリオンEVOL」より)
  12. 昇天唱歌(「アクエリオンEVOL」より)
  13. イヴの断片(「アクエリオンEVOL」挿入歌)
  14. 光のカデンツア(「アクエリオンEVOL」より)
  15. 月光シンフォニア(「アクエリオンEVOL」前期EDテーマ)
  16. 残響encore(「アクエリオンEVOL」より “シュレードのピアノ曲”)
  17. ZERO ゼロ(「アクエリオンEVOL」挿入歌)
  18. Genesis of LOVE~愛の起源(「創聖のアクエリオン」OPテーマ[EVOL版New Ver.])
[M01, 04, 05, 18]
歌:AKINO with bless4
[M02, 03, 06, 08, 13, 17]
歌:AKINO from bless4
[M07]
歌:牧野由依
[M10]
歌:多田葵
[M12]
歌:聖天使学園男子部有志
[M15]
歌:AKINO&AIKI from bless4

全作曲・編曲:菅野よう子

菅野よう子(かんのようこ)

プロフィール画像

作曲家 / 編曲家 / プロデューサー。早稲田大学在学中にロックバンド、てつ100%のキーボーディストとしてデビュー。バンド解散後より作曲 / 編曲 / プロデュース業を行うようになる。SMAP、今井美樹、坂本真綾、小泉今日子、T.M.Revolution、湯川潮音、元ちとせといったさまざまなアーティストを手がけるほか、CM音楽のジャンルで多数の広告音楽賞を受賞。アニメ作品のサウンドトラックも数多く手がけ、国内外で熱狂的なファンを獲得。2005年には作・編曲を手がけたアニメ「創聖のアクエリオン」のオープニングテーマ「創聖のアクエリオン」が大ヒットを記録した。2012年にはこの続編となるアニメ「アクエリオンEVOL」で再び音楽を担当。7月25日には両シリーズのテーマソングや挿入歌などを収めたアルバム「LOVE@New Dimension」がリリースされた。

AKINO(あきの)

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1989年生まれ。沖縄出身の両親を持ちながらもアメリカで生まれ育つ。1997年に帰国後、兄AKASHI、姉KANASA、弟AIKIとのユニット「bless4」として2003年5月にメジャーデビューを果たし、2005年にはアニメ「創聖のアクエリオン」のオープニングテーマ「創聖のアクエリオン」でソロデビュー。2012年1月より放送された続編アニメ「アクエリオンEVOL」では、AKINO with bless4名義によるオープニングテーマ「君の神話~アクエリオン第二章」「パラドキシカルZOO」や弟AIKIとのデュエットによるエンディングテーマ「月光シンフォニア」などでボーカルを担当した。