ナタリー PowerPush - カミナリグモ
新作「SCRAP SHORT SUMMER」完成 カミナリグモとthe pillowsの出会いと今
100点のものを120点にする作業は、さわおさんと一緒だからこそ
──それでは、新作「SCRAP SHORT SUMMER」についてお訊きします。このミニアルバムでは1曲目のタイトルトラック「SCRAP SHORT SUMMER」のみ山中さんのプロデュースなんですよね。プロデュースと言ってもいろんな関わり方があると思いますが、山中さんの場合は具体的にどういう関わり方を?
上野 基本はアレンジの部分ですけど、歌詞や構成についても「ここはないほうがいい」「逆にここは足したほうが」と具体的なアドバイスをもらったりします。
成瀬 今まではどっちかというと足してもらうことが多かったのかな。でも今回は逆。
上野 うん。「SCRAP SHORT SUMMER」は前回のアルバムツアーで来場者にプレゼントした宅録音源があるんですよ。そのバージョンはAメロがもっとたくさんあって、ストーリー仕立ての構成だったんです。でも、さわおさんと一緒に作業するにあたって「この構成では伝わりづらい。リード曲だったら最初のほうしか聴いてもらえない場合もあるんだから、大工事が必要だ」って。
──歌詞にまで第三者の手が加わるのって、結構デリケートな問題ではないですか。
上野 そこで僕が「よし、じゃあちょっと考え直そう」「さらに良くしてやろう」って素直に思えるのは、やっぱり自分が世の中で一番尊敬してるソングライターの方が、作品を良くしようと思って言ってくれるからなんだと思います。自分はソングライティングに自信があるし……変な話、例えば事務所の社長やレコード会社の社長には仕事としてのリスペクトはあるけども、ソングライティングに関しては、自分の方が才能があると思っているので(笑)、そういう方々に「歌詞を直したほうがいい」って言われてもピンと来なかったと思うんですよね。すごくタフな作業でしたけど、もしセルフプロデュースだったらきっとここには行き着かなかった。100点のものを120点にする作業というのは、さわおさんと一緒だからこそできるというか。
成瀬 さわおさんの伝え方もすごく的確で。こういう理由だからここにこの要素が欲しい、というのがハッキリしてるんです。
上野 そう。ちゃんと理由があるんですよ。ただ好き嫌いで言ってるわけじゃなくて、ちゃんと意図が伝わってくるプロデュースなので納得ができる。僕らはピロウズが好きだし、さわおさんも僕らのことが好きで評価してくれてるというのが伝わってくるので。
成瀬 うん。僕らもさわおさんをリスペクトしてるけど、同じようにさわおさんも「こういう意見をしたら必ず何か出してくるだろう」って信頼してくれてるところがあって。毎回の作業で、その意見交換がすごく楽しみでもあるし、それできっと曲が良くなるという確信もあるから。
「LITTLE BUSTERS」のギターを受け継ぐ
──「カスタードクリーム-SHORT SUMMER ver.-」には、ピロウズから真鍋吉明さんもギターでゲスト参加されています。ここでの真鍋さんのプレイは、ピロウズで言うと現在のスタイルよりもむしろ「LIVING FIELD」(1995年3月)辺りのテイストに近いなと思ったのですが。
上野 そうそう。曲を作ったとき、まさにそういうイメージがあって。真鍋さんにはこんなテイストでやってもらいたいとお願いしました。以前から真鍋さんは「ギターが必要だったらいつでも協力するよ」と言ってくださっていたので、今回、宅録のトラックものを収録する機会ができたときに、「ここはチャンス」とばかりにお願いしました。音源のみのスペシャルなトラックというか「SHORT SUMMER ver.」として仕上げたので、今度またライブでもできるバンドバージョンで再録しようと思ってるんです。
──「Speely Boat」「Comfortable Life」では、エレキギターのアプローチにカミナリグモとしての新しさを感じました。そういえば上野さんは、山中さんから愛用のギターを譲り受けたんですよね。
上野 2年ぐらい前までは僕、エレキギターは弾かないというこだわりがあったんですよ。アコースティックギターだけでギターサウンドを構築するのがカッコいいんじゃないかと思って。でも「ローカル線」のプリプロをやってる頃からいろいろ考えるところがあって、さわおさんに「やっぱりエレキを使おうかと思ってるんです」相談してみたんです。「どういうのがいいですかね」みたいな話をしてたら、「もう10年ぐらい使ってないギターがあるけど、いる? 全然イイ音しないけど」って。
──おお。
上野 それがね、たまたまなんですけど、もらったのがクリスマスの日だったんですよ。
成瀬 あぁ、そうだったね(笑)。
上野 ピロウズのリハスタジオまでいそいそと行って、ギターをかついで帰ったっていう。
──クリスマスの街を(笑)。ロックアーティストからギターを譲り受けるなんて、まさに闘魂伝承ですよね。
上野 僕が最初にピロウズを好きになったのは「LITTLE BUSTERS」っていうアルバム(1998年2月発売)で。「LITTLE BUSTERS」のジャケットにあるライブ写真のページを見ると、このギターが使われてるんですね。まぁね、それはうれしくないわけがないですよ。でもいまだに不思議ですけどね。自分の家にこのギターがあるというのは。
──エレキギターを入れるのは、カミナリグモとしては結構革命的なことだったのでしょうか。
上野 その頃はベースもghomaちゃんのシンセベースだったりして。変なこだわりがあったんですよ。普通にベースが入って僕がエレキギターを持つと、普通のロックバンドになってしまう、という先入観があって。何かに似てしまうことへの恐怖感が強かったんです。
──なるほど。
上野 そんなこだわりに迷いを感じているときに、さわおさんと話したんですよ。そしたら「ピロウズはずっと人のマネをしてやってきた。でも批判はされない。なぜならそれは曲がいいからだ」と。一般的なロックバンド編成でやってみても、才能があれば絶対に個性は出るし、具体的に「このアーティストのこの曲みたいなアレンジに」ってやっても、そのまま同じにはなんないんですよね。それは何があっても変わらない個性なんじゃないかって。
──サウンドそのものの変化というよりも、心の中のこだわりが晴れたことのほうが、カミナリグモにとっては大きい変化だったんですね。
成瀬 そうですね。あとは淳さんと森さんの存在もすごく大きいかな。僕らはこれまで、誰かに生のベースやドラムを頼むときはかなり綿密なデモを作って、そのとおりに演奏してもらってたんです。でもやっぱり餅は餅屋じゃないですけども、一緒に音楽をやるならイメージ的なところを共有して、みんなで作っていくほうが楽しいし、カッコいいものができあがるなっていう。
CD収録曲
- SCRAP SHORT SUMMER
- Sleepy Boat
- コールタール
- Comfortable Life
- カスタードクリーム -SHORT SUMMER Ver.-
- アイスグリーン
- 白い雨 -SHORT SUMMER Ver.-
SCRAP SHORT SUMMER
SAWAO VS. YOUNGSTER
(山中さわおソロツアー)
- 2011年6月16日(木)
大阪 CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00 - 2011年6月18日(土)
福岡 DRUM SON
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年6月19日(日)
広島 NAMIKI JUNCTION
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年6月21日(火)
名古屋 CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00 - 2011年6月24日(金)
札幌 cube garden
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年6月30日(木)
渋谷 CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
SCRAP SHORT SUMMER TOUR
- 2011年7月25日(月)
広島 Cave-Be
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年7月26日(火)
福岡 BEAT STATION
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年7月28日(木)
大阪 knave<ワンマン>
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年7月30日(土)
長野 NEONHALL<ワンマン>
OPEN 18:00 / START 18:30 - 2011年8月4日(木)
名古屋 ell.SIZE<ワンマン>
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年8月9日(火)
仙台 LIVE HOUSE enn 2nd
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年8月11日(木)
札幌 Sound Lab mole
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2011年8月19日(金)
下北沢 CLUB Que<ワンマン>
OPEN 18:30 / START 19:00
カミナリグモ
2002年、上野啓示(Vo, G)が中心となってカミナリグモを結成。翌年には上野のソロプロジェクトとなり、弾き語り、バンド、ユニットと形態を問わないスタイルとなる。2007年にはサポートとして参加していたghomaこと成瀬篤志(key)が正式メンバーに。インディーズで3作のマキシシングルと1stアルバム「ツキヒノォト」を発表。かねてよりthe pillowsを敬愛していた上野が、ライブ会場で山中さわお(the pillows)に手渡した音源が高く評価され、2010年7月に山中さわお(the pillows)プロデュースによるマキシシングル「ローカル線」でメジャーデビューを果たした。同年11月にはメジャー1stアルバム「BRAIN MAGIC SHOW」を発表。ライブツアー「BRAIN MAGIC SHOW TOUR」FINALでは初の渋谷クアトロでのワンマン公演を大成功に収め、6月8日に、およそ半年ぶりの新作となるミニアルバム「SCRAP SHORT SUMMER」をリリースする。