ナタリー PowerPush - 泉 沙世子

悔しさを原動力に進む「カス」の歌

泉 沙世子がニューシングル「カス」をリリースした。デビュー曲「スクランブル」から4作連続での映画タイアップとなった今作は、強烈な“やるせなさ”を含んだブルージーな歌声が胸をつかんで離さない仕上がり。北乃きい主演の映画「ヨコハマ物語」を情感たっぷりに彩る1曲となっている。なお、「ヨコハマ物語」には泉自身も役者として出演。意外な経緯から生まれた「カス」の制作秘話、初挑戦のお芝居、2014年の展望などについて熱く語ってもらった。

取材・文 / 川倉由起子 インタビュー撮影 / 佐藤類

しんどくても歌を諦める気は1ミリもなかった

──新曲かと思いきや、「カス」はデビューのきっかけとなった「Dream Vocal Audition」(2012年)で歌った曲だそうですね。

泉 沙世子

はい。今25歳なんですが、オーディションは23のときで、曲を作ったのはその1~2年前になります。

──曲ができた当時の泉さんはどんな状況だったんですか?

高校を卒業して大学進学を機に上京したんですが、1年で中退して。そこで地道に実力をつける活動というか、ひたすら曲を作ったり路上ライブをしていました。オーディション活動も一旦止めていたし、とにかく自分が理想とするレベルまで到達しないと……っていう、今思うとかなり悶々としてしんどい時期でしたね。

──精神的にも不安定だったり?

そうですね。だいぶグラグラしてました。とにかく1人でいるのが嫌だったんですよ。そんなことあるはずないけど、壊れそうな感じっていうか、すごくソワソワした状態で。人と会うのにもパワーが足りないし、会って今の状況を愚痴るにしても、その話を自分の耳で聞くことに耐えられない……っていう。

──なるほど。で、そんな精神状態の中で生まれたのが「カス」。

部屋の中にいても居場所がない感じで、でもシーンとしてるとまた壊れそうになるし。そんなときにたまたまキーボードの前に座って、コードをポロポロ弾きながら愚痴ったんですよね。「カス」は、そのこぼれ出た気持ちがただ形になった感じ。曲を作るためにキーボードに向かったわけではなかったので。

──少し話は戻りますが、先ほどの「壊れそうな感じ」というのは私の感覚からすると「孤独」にも近い気がするんです。それは上京による環境の変化も大きかったんでしょうか?

さかのぼると、私、高校のときから寮に入ってて。あまり自分から交友関係を広げるタイプでもないから、学校にも寮にも知り合いがいなくて、1日中ずっと知らない人に囲まれてる状態が本当にしんどかったんです。で、そのまま実家に帰らず東京に出て、今度もなかなか学校になじめず友達も作れなくて。家族や、ごく少ない親しい友人の存在の大きさを感じる日々でした。

──とはいえ、歌を諦めて地元に戻ろうという気持ちは?

歌を諦める気は1ミリもなかったです。それに、ほかの道がまったく頭になかったからこそ泳ぎきらなアカンというか、どれだけ溺れかけてもたどり着かないと……って。妥協して他の仕事に就くことは、私には絶対できなかったですね。

絶対折れないのは怒りや悔しさの感情が強いから

──キーボードの前で自然に生まれたという曲だけに、歌詞には痛烈かつ生々しい言葉が並んでいます。メロディも、わかりやすいサビがないんですよね。

泉 沙世子

「カス」は本当に計算なく作った感じで。鍵盤の前で、ただこの流れの通りに気付いたら歌ってたんです。サビがないのも、当時の精神状態では「盛り上がって派手なサビなんか歌う気力はない」みたいな感じだったのかな? たぶん(笑)。

──ひたすら気持ちを吐き出したことで、当時、何か変われたことはありましたか?

やっぱり……というかなんというか、吐き出してもやりたいことはやりたいし、欲しいものは欲しいし。自分のすごく欲張りなところは相変わらずだなと思いました。あと私、基本的にはネガティブなんですけど、それでも絶対折れないのは人より怒りや悔しさの感情が強いからだと思うんです。

──ナタリー初登場時のインタビュー(参照:泉 沙世子「境界線 / アイリス」インタビュー)でも、怒りの感情については話してましたよね。オーディションに落ちてヘコんでも、次第にそれが怒りに変わっていくって。

はい。最初は認められなかったことに落ち込むけど、最終的には「なんでそんなこと言われなアカンの!?」って気持ちになって、その怒りや悔しさの力で前進するみたいで(笑)。オーディションは理由もわからないまま落とされることが多いので、振り返ると毎回怒ってたと思います(笑)。

──人それぞれモチベーションになるものがある中で、泉さんにとっては「怒り」や「悔しさ」が何よりの原動力になるんですかね?

自分は劣等感の塊だし、根性があるわけでもないんですけど、怒りっぽい性格はやっぱりここまで来る力に結果なってたのかも。そんな立派なもんじゃないんですけど(笑)。

ニューシングル「カス」 / 2014年1月15日発売 / 1050円 / KING RECORDS / KICM-1485
ニューシングル「カス」
収録曲
  1. カス
  2. グレーゾーン
  3. カス(instrumental)
  4. グレーゾーン(instrumental)
泉 沙世子(いずみさよこ)

1988年10月28日、大阪府豊中市生まれのシンガーソングライター。岡山県で育ち、小学生のときに歌手を志す。中学生時代よりオーディションを受け始め、高校卒業後に上京。地道な音楽活動を続け、2012年に開催されたキングレコード創業80周年記念オーディション「Dream Vocal Audition」でグランプリを受賞し、2012年11月にシングル「スクランブル」でメジャーデビューを果たした。2014年1月に4thシングル「カス」をリリース。表題曲「カス」は自身も出演する映画「ヨコハマ物語」の主題歌に採用された。