ナタリー PowerPush - 堀江由衣

「堀江由衣の音楽」をめぐる考察

堀江由衣初のベストアルバムが登場した。その名も「BEST ALBUM」。ほっちゃん本人のリクエストにより、これまでにリリースされた全シングルの表題曲15曲を順に収めた、タイトルどおりの直球なベストが完成した。初回限定盤にはさらに15曲を追加したDISC 2が同梱されているが、こちらもアニメやラジオのテーマ曲など、本人の希望による「おなじみの曲」ばかりがチョイスされている。

こうしてこれまでの作品を振り返ってみると、改めて楽曲のクオリティの高さに気付かされる。しかし彼女の“ほっちゃん”というキャラクターの強さゆえか、彼女の音楽そのものが論じられる機会はあまりないように思える。そこで今回の特集では「堀江由衣の音楽」にクローズアップ。楽曲へのこだわりや制作時のエピソードを中心に話を訊いた本人インタビューと、「堀江由衣の音楽」を愛するアーティストからのアンケートコメントの2部構成で、その魅力を紐解く。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 佐藤類

 
mixiチェック

堀江由衣と“楽曲派”

──堀江さん、「楽曲派」という言葉をご存知ですか?

がっきょくは?

──ざっくり言うと、ライブや握手会などに通ってアーティストやアイドルなど本人そのものを愛でるよりも、楽曲そのものにこだわるタイプというか。サウンドやアレンジにこだわりがあって、クレジットで作家や演奏家をくまなくチェックするような感じですね。極端な場合だと、アーティスト本人にはそれほど興味はないけどいい曲だから聴く、みたいな。

はいはいはい、なんとなくわかります。

──今回のベストアルバムを聴いて、堀江さんの音楽はサウンドやアレンジについて語られるべき要素が多い「楽曲派向き」の音楽なんじゃないかと改めて感じたんですよ。でも堀江さんの場合はまず先に「ほっちゃん」という強烈な個性があるから……。

あはははは(笑)。

──堀江さん自身の個性が強いがゆえに、楽曲のみを取り出して語られる機会があまりなかった気がしたんですね。なので今回の特集では「堀江由衣の楽曲」に重点を置いて進めていきます。「BEST ALBUM」はこれまでのシングルタイトル曲を網羅した作品になっていますが、初回限定盤のDISC 2まで加えるとさらに幅広い楽曲が揃っていますよね。

インタビュー写真

DISC 2のほうは単純に、アルバムのリード曲やラジオのテーマ曲、それとシングルA面……今もA面でいいのかな(笑)。A面がアニメのオープニングテーマのシングルで、B面がエンディングになっていた曲とか。あとはボーナストラックで、これまでDVDの特典としてしか聴けなかった「HAPPY SNOW」を。

──DISC 2の収録曲は特に“楽曲派キラー”な曲が多い印象があったので、何か意図的に選曲されたのだとばかり思っていました。

いえいえ、もっと単純に。タイトルからして「BEST ALBUM」なんですけど(笑)、ベストらしいベストを作りたいと思っていて。でもDISC 2はこれまでのアルバムから代表的な曲を集めるという狙いもあって。それぞれ自分でこだわりを持って世界観を作ったアルバムの中の曲なので、そういうふうに受け取ってもらえるのはうれしいですね。

──タイトルはなぜここまでシンプルなものに?

とにかくわかりやすさですね。「堀江由衣のベストアルバムください」「ハイこれです」みたいな(笑)。

「この曲、転調が難しくないですか?」

──“楽曲派”的な音楽として具体的な例を挙げると、例えばDISC 2収録の「Romantic Flight」は、1960年代のソフトロックと呼ばれる音楽にも通じる複雑な転調があったり、ストリングスやホーンの美しい絡みがあったりして。日本でも1990年代の“渋谷系”アーティストがよくソフトロックの手法を取り入れていて、アニメソングでも一時期“アキシブ系”と言ってそういうテイストの音楽に注目が集まっていました。この曲はまさにそれなんじゃないかと。

あー。私は全然無自覚でした(笑)。この曲の頃は音に対して変なこだわりがあって、ずっと私ギターの音が苦手だと思い込んでたんですよ。だからこの曲もそうですけど、全体的にストリングスとかが前に出ているほうが自分には合ってるなーと思ってたので、なんとなくそういうふうにお願いしてましたね。でも確かに、あとでほかのアーティストさんに「この曲、転調が難しくないですか?」って言われました。

──難しいですよね。コーラスも複雑に絡んできたり。

意識しちゃうと多分歌えなくなるんですよ(笑)。仮歌のままに歌っただけなので。曲を作ってくださった岡崎(律子)さんの歌の美しさをがんばってマネるのだ、ぐらいにしか考えてなかったんですけど、今でもラジオで流れると「歌うの難しそうだな」って確かに思います(笑)。岡崎さんの曲はちょっと変わった構成が多いですね。

──もちろん岡崎律子マニアの楽曲派もいると思います。アニメのテーマソングなどのシングル曲は「わかりやすく、伝わりやすいもの」というのが前提としてあるでしょうけど、そうでない場合は作家さんやディレクターさん、そして堀江さん自身も少し実験的なものを選択しているのではないでしょうか。

そうですね。アルバムを作る場合は、そのときどきでやりたいことを結構頑固にやらせてもらっているので、そういう要素が色濃く出てしまってるかもしれないです。

──堀江さんご自身の中で、曲を作る上で一番こだわっているのはどこですか? サウンドの面でも歌詞の面でも、曲全体の中で最もこだわりのある箇所はどこでしょう。

一番はアレンジですね。楽器ができない自分とは一番遠いところにあるものですけど。ほかのアーティストさんの音楽を聴くときも、背景が気になるんですよ。歌も大事だし歌詞も気になりますけど、背景が美しいとその曲がより好きになるんですよね。

DISC 1 収録曲
  1. Love Destiny
  2. キラリ☆宝物
  3. ALL MY LOVE
  4. 心晴れて 夜も明けて
  5. スクランブル
  6. ヒカリ
  7. Days
  8. 恋する天気図
  9. バニラソルト
  10. silky heart
  11. YAHHO!!
  12. インモラリスト
  13. PRESENTER
  14. Coloring
  15. 夏の約束
DISC 2 収録曲 ※初回限定盤のみ
  1. この指とまれ
  2. お気に入りの自転車
  3. Angel 恋をした
  4. Romantic Flight
  5. It's my style
  6. A Girl in Love
  7. 笑顔の連鎖
  8. マッシュルームマーチ
  9. Say cheese!
  10. ずっと
  11. JET!!
  12. CHILDISH♡LOVE♡WORLD
DISC 2 ボーナストラック
  1. HAPPY SNOW
堀江由衣(ほりえゆい)

プロフィール画像

東京都出身の声優アーティスト。1997年に声優としてのキャリアをスタートさせた後、1998年に歌手デビュー。「ほっちゃん」の愛称で親しまれ、永遠の少女然とした自身のキャラクターと重なるオリジナル音楽作品をコンスタントに発表している。アニメやゲームのキャラクターソングも数多く手がけ、2005~2007年には声優ユニット「Aice5」としても活躍。2009年9月には声優として歴代4人目となる日本武道館公演を2日間にわたって行い、大成功に収めた。2012年2月22日には8thアルバム「秘密」を発表。オリコンウイークリーチャートで3位を獲得した。7月25日には通算15枚目となるニューシングル「夏の約束」、そして自身の誕生日でもある9月20日には初のベストアルバム「BEST ALBUM」をリリースした。