音楽ナタリー Power Push - T.M.Revolution 西川貴教×「ゴースト・イン・ザ・シェル」

神山健治監督版「S.A.C.」シリーズに傾倒 西川貴教の考える“魂の所在”

単純に作品として楽しい「S.A.C.」シリーズ

──「攻殻機動隊」は監督によってそれぞれ異なるアプローチで描かれていますが、西川さんはその中でも神山監督の「S.A.C.」シリーズのどういった部分が面白いと思われたんでしょうか?

「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」より。

「S.A.C.」シリーズはどちらかというと刑事ドラマ寄りですよね。国際情勢なども含んだ情報量の多さと、そこから少なからず見える組織の中の歪み。ここで描かれているリアリティには、アニメを観ているのにどこか現実の未来を予見するような感覚があるんです。例えば「バック・トゥ・ザ・フューチャー」なんかもそうですけど、我々はあの作品で描かれた未来の年代を今生きていて。実際あの映画で描かれた事象の中で、今、現実味を帯びているものも少なからずあるわけじゃないですか。そんなことも踏まえると、考えれば考えるほど来るべき2030年(「攻殻機動隊」シリーズの舞台となっている年代)に起きる出来事を先に見せられているような感覚になりますよね。まあ、実際どこまでA.I.や義体化の技術が進んで行くかは、まだまだ未知数な部分も多いですけれども。

──エドワード・スノーデンがアメリカ国家安全保障局(NSA)による個人情報収集を告発したことも記憶に新しいところです。そう考えると、「S.A.C.」シリーズはフィクションでありながらも現実世界ともリンクした良質なエンタテインメントですね。

「S.A.C.」シリーズは単純に作品として楽しい。謎解きもそうですし、フラグの回収の仕方とか。それこそ「笑い男」みたいにシリーズを通して描かれる話もありますが、基本的には海外ドラマのように1話完結で観切れる面白さがありますね。それは脚本家の方が何人もいらっしゃることに要因があるのかもしれませんが。これが実写だと海外と同じクオリティのものを日本で制作することは非常に難易度が高いと思いますが、アニメーションという手法を使うことで実現している、という意味でも非常に見応えのある作品ではないかと思います。

──確かに海外ドラマに近い手触りですね。1話完結の傾向も「2nd GIG」になるとさらに顕著で。情報量が多いだけに、見どころ満載で一度観始めると続きが気になって止められないという。

よくインタビューなどで「印象的なシーンや名セリフを挙げてください」と言われるんですけれども、どこかだけを切り取って抽出することが非常に難しい作品かなと思います。実際にご覧になっていただくのが一番ですね。

これだけ毎作品ごとにファンが違う作品もほかにない

──では、SF的な用語やネット関連の知識など難しいことはわからないけれども、これから「攻殻」の世界をのぞいてみたいという方にこの作品の魅力を伝えるとするなら、どういった部分でしょう?

西川貴教

いろんな観方ができるところでしょうか。例えば押井さんの「イノセンス」では、バトーと素子の恋愛にも似たノスタルジックな世界が表現されたり……あとはやはり、少佐(素子)自体が非常に魅力的です。男勝りだったり、一方では非常に女性的なところもあり、あまりにもいろんな要素を持っていて。もちろん田中敦子さんの声ありきのところもあると思いますけど。

──素子役の田中敦子さん、バトー役の大塚明夫さん、トグサ役の山寺宏一さんといったキャストの皆さんも素晴らしいですね。黄瀬監督の「ARISE」ではまたキャストも新たになって。

これだけ毎作品ごとにファンが違う作品もほかにないですよね。「攻殻」と言えば押井作品しか認めない、という方もいらっしゃると思いますし、僕みたいにむしろそこから派生した世界観、特に神山監督のアプローチの小気味よさに惹かれる人間もいたり。それは音楽にも言えるかもしれないですね。

「攻殻」音楽の魅力

──押井監督作品では川井憲次さん、神山監督作品では菅野よう子さん、黄瀬和哉監督作品ではCorneliusがそれぞれ音楽を担当していました。そういえば2006年にリリースされたT.M.Revolutionのセルフカバーアルバム「UNDER:COVER」では、菅野よう子さんが「THUNDERBIRD」の編曲を手がけてらっしゃいましたね。

あれはちょうどタイミング的に、僕が「S.A.C.」にどハマりしてた時期で、以前から好きだったこともありお願いしたものです。

──西川さんにとって、菅野さんが手がけた「攻殻」の音楽の魅力とは?

西川貴教

押井監督作品の印象的なシーンで流れる、どこの音楽ともつかない無国籍な感じ……単に聴き心地がいいというよりは、独特なものがあったかなと思います。その流れを菅野さんも引き継ぎつつ、また違ったアプローチで構築されてますよね。主題歌(Origa「inner universe」 「rise」)がロシア語だったことも、作品にまったく媚びてない感じがしていいなと思いました。

──「攻殻」の世界に音楽を付けることはなかなか大変そうですよね。

悩みどころが多いと思います。例えば、詞の中にどれだけ作品のモチーフをちりばめていいものか。この作品では概念的なものが重要な要素になってくるので、そこにこちら側の定義を押し付けすぎるのもよくないですし。ご覧になった方が作品を通して、それぞれの感想を抱けるところがだいご味だと思うので、そういう意味では難しいかもしれませんね。

──ではもし西川さんが楽曲を書くとすれば、作品のモチーフというよりは特定のキャラクターに寄せる形になる?

でも「誰が主役なのか」っていうところも、いろんな解釈ができると思うんですよ。今回のハリウッド版だとスカーレット・ヨハンソンになると思うんですけど、実は素子を取り巻く人たちのノスタルジーみたいなものを描いてるという様にも感じられたりもして。そう思うと、誰に寄せてっていうのはけっこう難しい気がしますね。

「ゴースト・イン・ザ・シェル」特集
映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」2017年4月7日全国公開
映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」
ストーリー

電脳技術が発達し、人々が義体(サイボーグ)化を選ぶようになった近未来。脳以外は全身義体の“少佐”が率いるエリート捜査部隊は、ハンカ・ロボティックス社の推し進めるサイバーテクノロジーを狙うテロ組織と対峙する。上司の荒巻大輔や片腕的存在のバトーと協力し、捜査を進めていく少佐。やがて事件は少佐の脳にわずかに残された過去の記憶へとつながり、彼女の存在を揺るがす事態に発展していく。

スタッフ / キャスト

監督:ルパート・サンダース

原作:士郎正宗「攻殻機動隊」

出演:スカーレット・ヨハンソン、ビートたけし、ジュリエット・ビノシュ、マイケル・ピット、ピルウ・アスベック、桃井かおりほか

T.M.Revolution(ティーエムレボリューション)
T.M.Revolution

1970年滋賀県生まれの西川貴教によるソロプロジェクト。1996年5月にシングル「独裁-monopolize-」でメジャーデビュー。キャッチーな楽曲と激しいライブパフォーマンスで人気を集め、「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」などのヒット曲を連発する。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から滋賀県初となる大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を毎年開催。ほかにも舞台やミュージカルなど幅広い分野にて精力的な活動を展開している。2013年には水樹奈々とのコラボシングル「Preserved Roses」「革命デュアリズム」を発表。2016年にはデビュー20周年記念のベストアルバム「2020 -T.M.Revolution ALL TIME BEST-」をリリースし、47都市で全51公演を行うツアー「T.M.R. LIVE REVOLUTION'16 -Route 20-」を実施した。また5月13日、14日には、20周年を締めくくる「T.M.R. LIVE REVOLUTION' 17-20th Anniversary FINAL」が開催される。


2017年4月6日更新