ナタリー PowerPush - GENERAL HEAD MOUNTAIN
喜怒哀楽を詰め込んだ“全裸のアルバム”堂々完成
収まり切らなくてタイトルが初めて文章になった
──「深まる日々に、微笑みを。」は、いつ頃できたんですか?
ちょうど真ん中くらいです。「眩暈」「羽」「感染」「合鍵」「菫」「傘」がある状態でしたね。
──ああ、そのへんの楽曲、私としては新鮮だと思ったものばかりですね。
そう、それがあって、でも大きなテーマが見つからなかったんですよ。タイトルナンバーになるような。で、(「深まる日々に、微笑みを。」の)ライナーノーツに書いてるようなことが起こるんですけど。
──今まで書いたとしても出さなかった極私的なことを、自然とこの曲で出すに至ったという経緯が綴られてますね。
出そうとしたことが大きいのかなって。いつもは絶対出さないですからね。僕のパターンで行くと。
──じゃあ、ストックには結構こういう曲が溜まっている?
あるんですけど、その中でもこれがトップ級に強い曲です。僕の秘蔵っ子です(笑)。
──どうして出そうっていう感情に至ったんでしょうか?
出てきたんですよ。新曲をポロンポロンって作ってて、できそうだったんですけど、でも何回もこの曲が出てくるな、みたいなことがあって。いつもはそんなことないんですけど。じゃあ、出せってことかって思って。で、歌詞を書き直して、ちょっとだけ余白を作って。
──何だか運命に導かれたような感じですね。
そうですね。僕、運命は決まってる派なんで。何もかも決まってて、それに応じて動いていってるんだろうなって思って生きてるので、出すのが運命なんだろうなって。
──なんだか曲が自分のものじゃなくて、1つの人格を持ってるような捉え方ですよね。
ああ、曲とはそんな感覚で付き合ってるかもしれないですね。子供と言うと言い過ぎですけど、そんな感覚があります。だから、名前を付けてあげてるし。
──その曲名も、他の曲では単語が並ぶ中でこの曲は文章になってますよね。
生まれて初めて書きました。16歳の頃から「羽」とか、そういうタイトルしかつけてなかったんですけど、この曲は「ああ、もう収まりきらないよ」って。だから、ライナーノーツにも「僕を殺した訳ではない、こだわりを捨てた訳ではない」って書いてるんです。だって収まりきらなかったんだもんっていう(笑)。
──微笑みに辿りついたっていうところも大きいのかなって思いました。
ああ、そんな感じだったっすね、あの日は。
速いラブソングができたのはドキドキしてたから
──出そうという感情に至った決定的なきっかけって、何かあるんですか?
そのとき東京にいたっていうのも大きいかもしれないです。だからゆっくりいろいろ考えたんだろうなって。宮崎にいたら、違う曲を普通に書いてたんじゃないですかね。
──デビューして、今まで以上に地元の宮崎と東京を行き来することで、新たな創作方法が生まれたところもありますか?
ああ……、東京じゃイチからバラードは書けないなって結論は出ましたね。いいバランスですよ。
──東京のほうがささくれた楽曲になる?
……しか書けないです。景色が何も見えてこないっていうか。音も聴こえないし、空は狭いし「何だ!?」っていう。今回も大半の曲は、宮崎で元ネタを作った感じで、東京で書いたのって「眩暈」くらいじゃないですかね。ただの悪口だけど(笑)。「汚っ!」って(笑)。
──東京に来なければわからなかった汚さというか。
そうですね。でも、いい意味で、東京は刺激があるなと思います。だからこそ悪口を(笑)。その悪口に田渕(ひさこ)さんのギターが乗ってるっていうのがね、なんて思い出深いんだっていう(笑)。
──田渕さんが参加された経緯というのは?
「木漏れ日にツキル」のときも手伝ってもらって、今度は弾いてもらってっていう、わかりやすく言えばそういう流れなんですけど。田渕さんは「歌うの難しそうね。喋ってるみたい」って言ってました(笑)。「はい、ありがとうございます」って(笑)。
──あと私が特に印象に残った曲というと「菫」なんですけど、これはラブソングですよね?
そうですね。僕、アコギで曲を作って歌詞を書いて、そっから曲の心拍数とかを考えて、そんで振り分けていくんです。これは速いのとか、これは遅いのとか。で、この曲の状況はバクバクバクってしてたから、速い曲だって思って作ったんです。普通なら、バラードにしそうな曲調だと思うんですけど、別れ際は多分ドキドキしてるぜ、って思って速くしました。ドキドキするときは(曲も)ドキドキしてたほうがいいと思います。あと、今までのわかりやすいラブソングは、絶対バラードになってたんですね。穏やかな気持ちのラブソングが多くてこんな圧迫感はなかったので。だから今回こういう速いラブソングになったのはドキドキしてたからってのが理由です。シチュエーションも、男のみっともなさを表現したかったので。「もうやだよ」「嘘だと言えよ」っていう(笑)。男と女の視線の違いをきれいに切り取ったんですけど。
過去も未来も現在も全部歌った
──ラブソングあり、悪口あり、友達との会話あり……。ほんと全裸というか、見せてないものはなさそうですね。
そうっすね……。家族のことまで歌ってるから、多分ないです。過去も未来も現在も全部歌ったので。
──未来はどこに託されてる感じですか?
「深まる日々に、微笑みを。」の「続く」っていう、一言だけなんですけど。そこは未来です。アルバムも繰り返すし、毎日も繰り返すし。
──以前に松尾さんにインタビューしたとき、刹那的というか、ぱっと咲いてぱっと散るみたいな美学があるっておっしゃってましたけど、そんな中で、このアルバム全体のループ感とか「続く」って一言を書けたことからは、何らかの変化を感じずにはいられないですけど。
でも……、なんかすごい大きな感じですよ。「明日も来るだろう」っていう。それは素晴らしいことだったりするので。
──美学が変わったわけではなく?
それはないです。この作品の中だけですね。
──では「深まる日々に、微笑みを。」という曲名をアルバムタイトルにしたっていうのは?
これがテーマだって思ったから。「深まる日々に」っていう部分がテーマです。日々が深まっている、そして重ねているっていう。
──では「微笑み」の意味は?
それを受け入れたってことです。
──受け入れるキャパシティが広がったからこそ書けたテーマかもしれませんね。
まあ、年齢もあるでしょうし、この1年間の活動を通してっていうのも大きいでしょうし。インディーズの頃は目立つことしか考えてなかったので。メジャーっていう行きたかった場所に来て激動の1年でしたけど、最後にこれができて良かったなって思いますね。今年はいっぱいライブしようって思います。やっぱ人前で歌わないと見つからないこともあるし、実際まだライブでやってない曲ばっかだから、こいつはどんな表情をしてるんだっていう、そういうのも見たいなって。
──レコーディングでは見えなかった表情がある?
そうですね。きれいに作ってるし。躍動とか、CDでは表現できない瞬間ってありますからね。それが見えるのがライブだと思ってるので、じゃあそこを見なきゃって。
──より人間臭いものをこのアルバムで表現したからこそ、そう思うのかもしれないですね。
そう、“こそ”です。「さあ、どうなるんだい?」っていう。そっからまた多分、次のテーマが出てくるんだろうなって。やっぱアルバムごとにテーマはないとあれだから、(インディーズ時代のアルバム)「月かなしブルー」が出て、これが出て、次もって考えると、またしんどい作業だなって思いますね。
──刺して、それを包み込むために全部見せて、さぁ次は? って段階ですもんね。
だからもう何もないんですよ。すっからかんです。
──いやらしい話、今作はメジャー1枚目のアルバムだし、出し惜しむってことは考えなかったんですか?
何も考えなかったです。メジャー1枚目っていっても、これがダメだったら首を切られるかもしれないですからね(笑)。だからテーマが決まれば全部出します。そこからはまた次に向かって行けばいいし。
GENERAL HEAD MOUNTAIN
(じぇねらるへっどまうんてん)
2000年1月、松尾昭彦(Vo,B)を中心に宮崎で結成。2003年5月に現メンバーであるオカダコウキ(G)、海太(Dr)が加入する。2005年にインディーズレーベルより初音源「追憶の唄々」をリリース。その後もリリースを重ね、2008年に1stフルアルバム「月かなしブルー」を発表。椎名林檎「罪と罰」カバーの収録や、マンガ家の魚喃キリコがジャケットを手がけたことなどで話題を集める。その後、コロムビアミュージックエンタテインメントと契約し、2009年11月シングル「羽」でメジャーデビュー。